駄目だめ)” の例文
美的生活をなそうとするには、特別な時だけでは駄目だめである。いつでも、どんなものにも、美を生み出す心掛けを忘れてはならない。
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
漏洩が本質的に測定や実験の成否を決定する場合には、ほとんどすべての点が完全でもただ一カ所に漏洩があれば万事が駄目だめになる。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「だが、おれたちも一昨年おととし、去年は駄目だめだったじゃねえか。一日、足を棒にして歩いても一両なかっただもんな。乞食こじきでも知れてるよ」
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
『ナニ、そんなことつても駄目だめだ』とねこひました、『自分達じぶんたちだつてみんうしてたつて狂人きちがひなんだ。わたし狂人きちがひ。おまへ狂人きちがひ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あさつぱらにつたらはあけたに相違さうゐねえつちんでがすから、なにわしもむしろけたところあんした、むしろわかるから駄目だめでがす
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
駄目だめ、私たちのからだは太陽の光を見たらいっぺんに駄目になってしまいます。私たちの眼はうまれつき細く弱くできているのです」
もぐらとコスモス (新字新仮名) / 原民喜(著)
同様にあなた方から腕をとり上げても駄目だめである。我々は腕も金もとり上げられてもいいが、人間をとり上げられたらそれこそ大変だ。
おはなし (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これ、駄目だめでしょ」彼女はある時、彼女の肩にかかっている流行おくれのショールを、指の先でもてあそびながら云ったものである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だけどね、清原、恋をするにはもう少し勇気を持たなくちゃ駄目だめだよ。もう少し思い切ってやらなくちゃ駄目さ。僕はそう思うな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
取るばかりにして上げなけりゃ駄目だめなんですから、構うことはございません、あたし達でどしどし進行させちまおうじゃございませんか
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分を洞見どうけんして時とすると不本意ながらも自責の念を起こさせられるその眼つきに反抗して、彼女はいくら身をもがいても駄目だめだった。
彼はKOの予科三年で続いて二度落第していると語り、「こんども駄目だめだから、まア退学は固いね」と他人言ひとごとのように笑っていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
幽明交通ゆうめいこうつうみち杜絶とだえているせいか、近頃ちかごろ人間にんげんはまるきり駄目だめじゃ……。むかし人間にんげんにはそれくらいのことがよくわかっていたものじゃが……。
「出し抜けに妙なことを持ち込んだものだね。しかし僕を引っ張り出さなくたって、ほかにまだあるだろう。僕なんぞ駄目だめだよ」
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
「われわれをわなに掛けようなどとは駄目だめなことです。こんな薄っぺらなドアなどは、わたしの足で一度蹴ればすぐにこわれます」
第二の幽霊 駄目だめ、駄目。何処どこの芝居でも御倉おくらにしてゐる。やつてゐるのは不相変あひかはらずかびの生えた旧劇ばかりさ。君の小説はどうなつたい?
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
毒をしたところだけ、きれいにさきてて、毒のない部分をさんざん食いあらしていたのです。一ぷくろうたってあいつにゃ駄目だめです。
B あゝ、あれは駄目だめだよ。葉書はがきまいぐらゐの短文たんぶんで、ちよつといた面白おもしろことやう名士めいしいくらもないからな。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
「勝手にし給え。君は人の興奮の純粋性を信じないから駄目だめだ。じゃ、まあ、ゆっくりお休み。ホレーショー、僕は不仕合せな子だね。」
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかもわずかに粗枝大葉の論を終えたるにとどまり、説のいまだ尽くさざるものなお多けれども、駄目だめを推さばひっきょう限りなからん。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
いや、張合はりあひもなくひらくうち、「あゝ、品川しながはね。」カタリとまどけて、家内かない拔出ぬけだしさうにまどのぞいた。「駄目だめだよ。」そのくせわたしのぞいた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
廃めて自分の方に来るかどうするかと向うの腹を確かめて、こっちのいうことを聴くなら、金を出してやろうという調子で行かにゃ駄目だめじゃ
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
小山「そうかね、是非ぜひ一つ僕の郷里へすすめて実施させたいと思うが素人しろうとにはとても駄目だめだね。我邦わがくにには今熟練なる技術者が沢山あるかしらん」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
はらが出来ないとお教えしても駄目だめです、そのうちに若旦那に腹が出来たなら、何時いつでもお教えします、これからちょいちょい遊びにあがります
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此処ここには、近くでは、大岸の池というのがあります。あたくし、真っ白なおおとりに乗った、あたくしの水浴みずあみの姿を描きたいのですが、駄目だめですわ——
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「もう駄目だめ。思い出さなかったらよかったのよ。もう私、忘れられない。私にはもう、プレゼントをあげる相手がいなくなってしまったんだわ」
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
母は幾度か、もっと近いところを主張したが、相手はそれでは駄目だめだと言った。そこで母はとうとう断念したらしかった。
「そんなこと云っておどそうたって駄目だめですよ。睡ってるんですよ。ぼく下りて行ってあなたと一緒いっしょに歩きましょうか。」
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
自分も大きくなったら、あんな立派な馬に乗りたいが、百円の月給取にならなければ駄目だめなのかと思うとがっかりした。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「そんな事は学者の木村君にでも聞かなくちゃあ駄目だめだ」と云って、犬塚は黙ってこの話を聞いている木村の顔を見た。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
みづかとうじ、みづかくわり、みづか其破片そのはへんをツギあはせて、しかうへ研究けんきうみづからもし、きたつて研究けんきうする材料ざいれうにもきやうするにあらざれば——駄目だめだ。
「うらやましからう。だが、これは天祐てんゆうといふもので、いくら自分じぶん君達きみたちをいれてあげやうとしたところで駄目だめなんだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
いそいそとして宗右衛門はそれを励行して五日たち、七日たつて行つた。そして十日から半月と——が、駄目だめだつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
でもただね、あなたは勉強しなくちゃ駄目だめ、卒業しなくちゃね。あなたはなんにもせずに、運命のままにふらふらしてなさるけれど、ほんとに妙だわ。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一旦いったんもう、作り話になったからには」と、彼女は言った。——「こんどはみんな、何か話をすることにしましょう。自分で考えた話でなくちゃ駄目だめよ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
駄目だめッてことよ。橘屋たちばなや若旦那わかだんなは、たとえお大名だいみょうから拝領はいりょう鎧兜よろいかぶとってッたって、かねァ貸しちゃァくれめえよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
れいまをしいたゞいておでと蒔散まきちらせば、これを此娘このこの十八ばんれたることとてのみは遠慮ゑんりよもいふてはず、旦那だんなよろしいのでございますかと駄目だめして
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やっぱり駄目だめでした。一昨日おとといひまをとって出ていったそうです。この方は本籍も姓名も怪しいと思うのです。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そんな輸血をするような感情はなんの役に立つものではないと思います。感情は前に申したように、心の底にたぎっているものでなければ駄目だめだと思います。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
読み返してみたが、やはり駄目だめだ。第一、文章も平生へいぜいと違い、言うことも珍妙不可解で、およそ其許のがらでも、また余の柄でもないと思われることばかりだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
金龍山の牡丹餅は有名であるが、ここはしょせん駄目だめであろうと、かれらも最初から諦めていたのである。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いよいよ薄っぺらになるばかりであって、今日の青年の書いたもの、言うことを聞いても一向駄目だめじゃ、イガイガでヒョッと人のことを聞きかじったことが多い。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
けれども、邪険じゃけんなクシベシは平気な顔をして、言いますには、「そんなに隠れ蓑が返してしければ、返してやらぬこともないが、その代りただでは駄目だめだよ」
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
……それに、はじめ月の五日にいくらか出して下さるはずでしたのにそれも駄目だめ、十日までにはこんどきっとということでしたのに、それもなんなんでしょう。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
いまから其樣そんなよわつては駄目だめだ、んでも今夜こんやはあの深林しんりん眞中まんなかあか覺悟かくごだ。』と元氣げんきよく言放いひはなつて立上たちあがり、つかれたる水兵すいへいかわつて鐵車てつしや運轉うんてんはじめた。
「這入らなきゃ、駄目だめじゃないか。思切ってはいっちまえよ。そんな手附じゃ引っかかりこはないよ。」
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
帰ったけれども駄目だめであった。五日ばかりしてまた省作は戻ってきた。今度はこれきりというつもりで、朝早く人顔の見えないうちに、深田の家を出たのである。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今となってはもう駄目だめです、今は……、太田さん、あなたも御覧になったでしょう、え、御覧になったでしょうね、そしてさぞ驚かれたことでしょう、眼が……
(新字新仮名) / 島木健作(著)
はなはだツかしいかおを作り、役所の方からはまだ月給が下らない、学校の方も駄目だめで、実に「愛してはいるが助けることが出来ない」と言って彼を空手で追い帰した。
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
玄竹げんちくさけからいとかんずるやうになつては、人間にんげん駄目だめだなう。いくんでも可味うまくはないぞ。』
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)