金色こんじき)” の例文
世間せけん人々ひとびとは、このうわさをみみにするとおおさわぎでありました。そこにもここにも、あつまって金色こんじきうおはなしをしたのであります。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
金色こんじきに光る般若のひとみは、あらゆる魑魅魍魎ちみもうりょうをにらみすえて、青い星光と冷ややかな風とのなかを、静かに、道を拾って行きます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出船はその島を廻つて隱れ、入船はその島の角に現れ、夕立はその島の方から雨脚あまあしを急がせ、落日はよくその島を金色こんじきけぶらせた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
死顔しにがほ」も「くろわらひも」なみだにとけて、カンテラのひかりのなかへぎらぎらときえていつた、舞台ぶたい桟敷さじき金色こんじきなみのなかにたヾよふた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
百姓ひゃくしょうばかりの村には、ほんとうに平和な、金色こんじきの夕ぐれをめぐまれることがありますが、それは、そんな春の夕ぐれでありました。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もや金色こんじきの残照に包まれ、薔薇ばら色した黄、明るいねずみ、そのすそは黒い陰の青、うるおいのある清らかさ、ほれぼれとする美しさだ。
で、更に念の為に蝋燭を揚げて、高い岩の上を其処そここことてらしてると、遠い岩蔭に何か知らず、星のように閃く金色こんじきの光をた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
西の空は金色こんじきの光に被われ、地球の上に金のうしおを流しているようでした。その光の中に、飛ぶ鳥の姿が黒々と浮んで見えました。
白道の上を復、立籠める魂の塵屑は蟻集して衝天の勢を示し、清淨無垢の「きう」に照る清く澄みわたつた金色こんじきを威嚇してゐる。
さしあげた腕 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
召使めしつかいの女官じょかんたちはおおさわぎをして、あかさんの皇子おうじいて御産屋おうぶやへおれしますと、御殿ごてんの中はきゅう金色こんじきひかりでかっとあかるくなりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
じっさい、このいかめしい活字や金色こんじきの紋章は、今までのじぶんの生活とは、いかにも縁の遠いもので、どうしても心がなじまないのである。
太陽の寂しい光線で金色こんじきに染められながら、うつくしく輝いて聳えてゐる——実際は一里半も離れてゐるのであるが、其割には近く見える。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
その時、水平線がみるみるふくれ上がって、うるわしいあけぼのの息吹が始まった。波は金色こんじきのうねりを立てて散光を彼女の顔に反射した。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
皆が飛出すと、一足違いに、ドッとはりが落ちて、金色こんじきの火の子が、パッと花火のように散った。火勢はいよいよ猛烈だった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
見れば、それは廣介の云う通り、丁度雲に映った幻燈の感じで、一匹の金色こんじきに光った大蜘蛛おおぐもが、空一杯に拡っているのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この巨人は表広間の壁から金色こんじきの片腕を突き出していて、——あたかも、自分は自分をこのように高価な金属に打ち換えてしまったのだが
親方がそう言って指さしをしたとき、ちょうど日がかっとさして、ちらりと金色こんじきにかがやく光が目にはいったように思った。
それは、ガードナーという人の書いた「希臘ギリシャ彫刻手記」という本であった。金色こんじきの唐草模様か何かの表紙の付いた六、七百ページの本であった。
出世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
僕は、金色こんじきの背景の前に、悠長な動作を繰返している、藍の素袍すおうと茶の半上下はんがみしもとを見て、はからず、この一節を思い出した。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
金色こんじきに秋の日射の斜なし澄みとほる中、かなかなは啼きしきるなり、きて啼き刻むなり、二つ啼き、一つ啼き、また、こもごもに啼きはやむなり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
太陽の光は金色こんじきの霧雨のやうにあたりに降り注いでゐた。詩人は誰から聞いたともない、「太陽は草の葉の匂がする」といふ言葉を想ひ出した。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ああ、かすみに見ゆる観世音の額の金色こんじきと、中をしきって、霞の畳まる、横広い一面の額の隙間から、一条ひとすじたらりと下っていた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
疾翔大力、微笑して、金色こんじきの円光をもっかうべかぶれるに、その光、あまねく一座を照し、諸鳥歓喜充満せり。則ち説いていは
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
柳の間をもれる日の光が金色こんじきの線を水のうちに射て、澄み渡った水底みなぞこ小砂利じゃりが銀のように碧玉たまのように沈んでいる。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
金色こんじきの、聖者の最期さいごを彩る荘厳そうごんに沈んだ山と、空との境目が、その金色の荘厳を失って、だいだいの黄なるに変りました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つい下のえのき離れて唖々ああと飛び行くからすの声までも金色こんじきに聞こゆる時、雲二片ふたつ蓬々然ふらふらと赤城のうしろより浮かびでたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
実は王子にも、自分が金色こんじきの鳥に乗って飛び廻ったのが、夢だったのか本当だったのかよくわかりませんでした。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あのおだやかな春の海を、いっぱい日光を浴びて、金色こんじきに輝いて帆走ほばしって来る船を! あの姿すがたがあなたをおどりあがらせないのは不思議というほかはない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかし何よりも周囲と調和した堂の外観がすばらしかった。開いた扉の間から金色こんじきの仏の見えるのもよかった。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
は『御藥草』と書いた御用の唐櫃からびつ、力任せにふたをハネると、中からさんとして金色こんじき無垢むく處女をとめの姿が現はれます。
羅衣吹く潮風金色こんじきの髪を乱して、叫ばむにも声絶えぬ——あゝ逆巻く波の中へ、夜の海の底へ誇りの花を沈めむか? 月もなく星もなく、引波の静けさに……。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
しいて特徴と云えば栓の頭が多面体ためんていに刻まれて、中ほどくらいまで金色こんじきに色を付けてあるくらいのもので、いくら見ても珍重するほどのものとは思われなかった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
西に傾いた夕日は、汚れた窓硝子を透して、そのぎらぎらする金色こんじきの光りを屍体の上に投げかけていた。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
本尊の阿弥陀様の御顔おかほは暗くて拝め無い、たヾ招喚せうくわんかたち為給したまふ右の御手おてのみが金色こんじきうすひかりしめし給うて居る。貢さんは内陣を出て四畳半の自分の部屋にはいつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
リボンの紫はおいおいにせてゆくが、海神ネプチュヌの金色こんじき燦爛さんらんたる名は、日光にもめげないでいる。
そして日の暮れるころには、笭箵びくの中に金色こんじきをしたふなこいをゴチャゴチャ入れて帰って来る。店子たなこはおりおりばちにみごとな鮒を入れてもらうことなどもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ふぢ山吹やまぶきの花早くも散りて、新樹のかげ忽ち小暗をぐらく、さかり久しき躑躅つゝじの花の色も稍うつろひ行く時、松のみどりの長くのびて、金色こんじきの花粉風きたれば烟の如く飛びまがふ。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そしてこの金色こんじきのさゞ波にくるまつて、それは上手に踊るのでした。すると夕暮れの風は、急にはしやぎ出しますし、沼の周囲まはりの草木もさかんに拍手をいたします。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
貧乏寺でもさすがにこればかりは金色こんじき燦爛さんらんとした天蓋が、大藤の花の垂るるがごとく咲き垂れていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
粕谷田圃に出る頃、大きな夕日ゆうひが富士の方に入りかゝって、武蔵野一円金色こんじきの光明をびた。都落ちの一行三人は、長いかげいて新しい住家すみかの方へ田圃を歩いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やがて、金色こんじきの気は、次第に凝り成して、照り充ちたしき身——うつし世の人とも見えぬ尊い姿が顕れた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
昼間からとりのこされた万象は、夕映の化粧として、この広場のはてまで、それから「健康の谷」と呼ばれている、ハムステッド公園の端まで、金色こんじきに満たされていた。
葉といふ葉は皆黄金の色、暁の光の中で微動こゆるぎもなく、碧々としてうつす光沢つやを流した大天蓋おほぞらに鮮かな輪廓をとつて居て、仰げば宛然さながら金色こんじきの雲をて立つ巨人の姿である。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただの論文ではならぬ、かならず博士論文でなくてはならぬ。博士は学者のうちで色のもっとも見事なるものである。未来の管を覗くたびに博士の二字が金色こんじきに燃えている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水面から反射する光線が、無心に眠る娘の顔や、障子の紙に金色こんじきの波紋を描いてふるえて居た。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その頃の和泉河内の野を一様の金色こんじきにして居る菜の花の香にひたらうとするのにはい場所です。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
電燈はふさになったり大きなたばになったりして、空中いたるところから萌え出ながら、昼よりもずっと明るい、稀薄な、金色こんじきの神々しい光を広間いっぱいにふるわせている。
神童 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
東の空の低い棚雲たなぐものふちが、だいだい色を帯びた金色こんじきに光り、その反映で、大仏岳の頂上の岩肌がほの明るく浮き彫りになった。頂上の北側に、如来にょらいノ峰というのがそびえている。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
独房を見てから、わたしは講堂のようなところをみせて貰いましたが、ここは広い畳敷きの部屋で、オルガンが置いてあり、教壇の後には金色こんじきまぶしい仏壇が安置してありました。
反絵はんえは鹿狩りの疲労と酒とのために、計画していた卑弥呼の傍へ行くべき時を寝過した。そうして、彼が眼醒めざめたときは、耶馬台やまとの宮は、朝日を含んだ金色こんじきの霧の底に沈んでいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)