辛棒しんぼう)” の例文
「よく、ご主人しゅじんのいいつけをまもって、辛棒しんぼうするのだよ。」と、おかあさんは、いざゆくというときに、なみだをふいて、いいきかせました。
子供はばかでなかった (新字新仮名) / 小川未明(著)
「どうしてというわけもないが、君なら三日と辛棒しんぼうができないだろうと思う。第一僕は銀行業からして僕の目的じゃないのだもの」
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「どうだね、一燻ひとくべあたつたらようがせう、いますぐくから」と傭人やとひにんがいつてくれてもおしなしりからえるのを我慢がまんして凝然ぢつ辛棒しんぼうしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かなり食い辛棒しんぼうで、なんでもないことに顔を赤らめ、あるいは幾時間も黙り込み、あるいは快活にしゃべりたて、すぐに笑ったり泣いたりし
「じゃ、毛布をあげますから、もう十五分辛棒しんぼうしていたまえ、いいわね」と、いい捨てたまま、ドアは閉ざされて、如原もとのごとし
叔父さんにあ済まないけれどどこへでも出て、どんなつらい思いをしても辛棒しんぼうをして、すこしでもいいから出世したいや。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私たちはこの一つの字にも人間の協力を見ることができ、そうして長い年月の経過を見、辛棒しんぼう強き労力を読むのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私は照れくさく小田君など長い辛棒しんぼうの精進に報いるのも悪くないと思ったので、一応おことわりして置いたが、お前ほしいか、というお話であった。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今宵限こよひかぎせきはなくなつてたましゐ一つがまもるのとおもひますれば良人おつとのつらくあたくらゐねん辛棒しんぼう出來できさうなこと、よく御言葉おことば合點がてんきました
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
辛棒しんぼうしたのはつらかったよ! ……南蛮屋から迎えが来て、出て行ったのでサアしめた、はいって来たというものさ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見得の張りたいところを裏長屋で辛棒しんぼうしているのだから、察してやらなければならないのを、チンコッきりにきはてた父親は、一緒に住まわせなければ
先生の絵具を溶かせてもらうまでに至る事は随分の辛棒しんぼうが必要だった事である。勿論昔は絵具の練り方作り方が一つの修業でもあり、画家の職責でもあった。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
どうしてこんなところに一週間しゅうかんといられよう、まして一ねん、二ねんなど到底とうてい辛棒しんぼうをされるものでないとおもいた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
およそ研究というものは、辛棒しんぼうくらべみたいなものだ。忍耐心がないと成功はおぼつかない。……とにかく、装置の再建ができたら、また来て、見てあげよう。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
辻斬が嫌になったら、その時こそ、この幽霊も消えてなくなるだろう、まあ、それまでは辛棒しんぼうしていてくれ
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「士族のむすめ健気けなげにも商売を始めたものがあるといううわさを聞いて、わたしはわざわざ買いに来ました。どうぞ中途でめないで、辛棒しんぼうをしとおして、人の手本になって下さい」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「女道樂が過ぎて勘當になり、親類の者が口をきいて、此家へ預けられました。三年辛棒しんぼうして下男を勤めたら、親父に詫をして、家へ歸してやる約束で——へエ、家は百姓で」
「じゃ、あたしん所へいらっしゃいな。もうすぐ夜が明けるから、しばらくの辛棒しんぼうよ。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
しかしせっかく主人が熱心に筆をっているのを動いては気の毒だと思って、じっと辛棒しんぼうしておった。彼は今吾輩の輪廓をかき上げて顔のあたりを色彩いろどっている。吾輩は自白する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は不様な格好で、這いつくばい、壁に鼻の頭をすりつけて、辛棒しんぼう強く、小さな穴を覗き込むのだが、その向う側には、凡そ奇怪で絢爛けんらんな、地獄の覗き絵がくりひろげられていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その友人は、つい辛棒しんぼう仕切れなくなって、夜になると、友人の下宿へ行って寝た。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
随分窮屈でつらいでしょうけれども、暫くの間と思いますから辛棒しんぼうしてくれませんか
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
戯談じやうだんいふな。三千メートルのまつたゞなかだぞ。辛棒しんぼうしろ、よわいやつだ。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
☆私はその女を雇っていたため、食い辛棒しんぼうの切ない気持にされてしまった。
曲者 (新字新仮名) / 原民喜(著)
然れども地底の岩を音なしに流るゝ水こそ地面を膏腴かうゆにする者なり、彼れ数学者が人知らず辛棒しんぼうせし結果は我人民の推理力を養うて第十九世紀科学跋扈ばつこの潮流に合することをくせしめたりき。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
という烈しい誘惑を押えながら、敦夫は辛棒しんぼう強く男の通過ぎるのを待った。——そして黒い外套の頭巾が、全く蘆の彼方かなたへ見えなくなるのを見定めて、沼のへりを例の裸岩の方へと進んで行った。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とじ込められて辛棒しんぼうしているなんてことが、考えられるかい。
「いや、そんな事はありません。もう二三日の辛棒しんぼうです。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
でも来月までは辛棒しんぼうしていただかねばなりません。
なにさ、この辛棒しんぼう肝心かんじん
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
信吉しんきちや、からだ大事だいじにして、よく辛棒しんぼうをするのだよ。」と、なみだかべていった母親ははおや言葉ことばおもし、また、同時どうじ
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
この旅は私たちに辛棒しんぼう強い努力を要した。それは砂中に黄金を捜す倦怠けんたいな仕事とさしたる変りはない。それほど地方の民藝は深くかくれて姿を現さない。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
うそまことか九十九辛棒しんぼうをなさりませ、きくのおりき鑄型いがたはいつたおんなでござんせぬ、またなりのかはることもありまするといふ、旦那だんなかへりときい朋輩ほうばいをんな
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
奈何どうして這麼處こんなところに一週間しうかんとゐられやう、して一ねん、二ねんなど到底たうてい辛棒しんぼうをされるものでないとおもいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ねえ国枝君、松竹を出るのは考えものだよ、松竹は今でも大したものだが、将来はもっと大したものになるのだから、わがままを起こさずに辛棒しんぼうしたらどうかね」
今昔茶話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これなら下宿屋に居るも同じことだと思ふくらゐなら辛棒しんぼうも出来るが銀之助の腹の底には或物あるものがある。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「奥さま、もうすこしのご辛棒しんぼうですよ。」と大声で叱咤しったすることがある。
満願 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は自分の貪食どんしょくに腹がたった。きびしくみずから責めた。腹のことばかり考えてる食い辛棒しんぼうだとみずから見なした。が実は彼には腹はほとんどなかった。せ犬よりもなおほっそりした腹だった。
「はははは。もうすこしの辛棒しんぼうだ」
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よく辛棒しんぼうした。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「よく、ご主人しゅじんのいいつけをまもって、辛棒しんぼうするのだよ。そして、平常ふだんは、られないが、お正月しょうがつにでもなったら、ゆっくりあそびにおいでよ。」
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
片親かたおやるかとおもひますると意地いぢもなく我慢がまんもなく、わび機嫌きげんつて、なんでもことおそつて、今日けふまでも物言ものいはず辛棒しんぼうしてりました、御父樣おとつさん御母樣おつかさん
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此處こゝ發見みつけときぼくおもつた此處こゝるなられないでも半日位はんにちぐらゐ辛棒しんぼう出來できるとおもつた。ところぼく釣初つりはじめるともなく後背うしろから『れますか』と唐突だしぬけこゑけたものがある。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それが彼らに仕事をさせているのであります。のみならず彼らの多くは辛棒しんぼう強く年期奉公を経て、腕を磨いてきた工人たちであります。その腕前には並ならぬ修行が控えています。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
でその言葉もわかってはいたが、言葉で軽蔑されるのと、手でピチャピチャたたかれるのと、この二つを比較してみると、まだまだ前者の方が辛棒しんぼうができた。で、やっぱり捉えない。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きんさんは、その遺言ゆいごんまもって、本屋ほんや小僧こぞうさんとなり、よく辛棒しんぼうをしました。そして、一にんまえになってから、ちいさなみせったのであります。
春風の吹く町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
れはまだ/\辛棒しんぼうもしませうけれど、二ことには教育けういくのない教育けういくのない御蔑おさげすみなさる、それはもとより華族くわぞく女學校ぢよがくかう椅子いすにかゝつてそだつたものではないに相違さうゐなく
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しばらくはそのまゝでたがつひ辛棒しんぼうしきれなくなり、少年こども眄目ながしめちゝを見て、にぶこゑ
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「こまったものだの。出来たら辛棒しんぼうおし。もうじきだから」
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もうすこし辛棒しんぼうしておいで、じきにはるになる。そうすれば、みずうえあかるくなって、みずもあたたまりますよ。そうなったら、自由じゆうおよぐことをゆるしてあげよう。」
魚と白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)