街道かいどう)” の例文
関山峠はもうそのころは立派な街道かいどうでちっとも難渋しないけれど、峠の分水嶺を越えるころから私の足は疲れて来て歩行がはかどらない。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
悪いことはないけれど、この蘆川あしかわを大まわりして、甲州街道かいどうをグルリとまわった日には、半日もよけいな道を歩かなけりゃならない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
街道かいどうのはずれがへんに白くなる。あそこを人がやって来る。いややって来ない。あすこを犬がよこぎった。いやよこぎらない。畜生ちくしょう。)
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ああ、あさのうちからとおるにちがいない。しかし、この街道かいどうでよくみんながみちをまちがえるのだ。らぬひとこまるだろう。」
石をのせた車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
将軍家ご料のお茶受け取りにただの茶つぼが街道かいどうを通っていっても、お茶つぼご通行と称して、沿道の宿役人はいうまでもないこと、代官
右に左に逃げまどっていた野獣が、ついに逃げ場を失ったように、須原たちの自動車は世田谷区の、とある街道かいどうに立ち往生をしてしまった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
主夫妻あるじふさいが東京に出ると屹度いて来る。甲州こうしゅう街道かいどうを新宿へ行くあいだには、大きな犬、強い犬、あらい犬、意地悪い犬が沢山居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
世間せけんの人達はあきれ返りました。甚兵衛じんべえ一人はましたもので、いつも謎のような鼻唄を歌って、街道かいどうき来しました。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
だから、まるで気もちのいい山の上の別荘べっそうの部屋にいるような気がし、また気もちのいい春か秋かのころ、街道かいどうを散歩しているようでもあった。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうちに、暮れやすい秋の日が、いつの間にか、トップリと暮れて、人通りのない街道かいどうは、大層淋しうございました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
シルクハットをかぶったれいの男が、ぶなの並木なみきをぬうようにして、ブランブルハースト街道かいどうをいそぎ足で歩いていた。
ちょうど千葉街道かいどうに通じたところで水の流れがあり、上潮の時は青い水が漫々と差して来た。伝馬てんまいかだ、水上警察の舟などが絶えずき来していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのわたくし幾度いくどとなくこの竜宮街道りゅうぐうかいどうとおりましたが、何度なんどとおってても心地ごこちのよいのはこの街道かいどうなのでございます。
その、大蒜にんにく屋敷の雁股かりまたへ掛かります、この街道かいどう棒鼻ぼうばなつじに、巌穴いわあなのような窪地くぼちに引っ込んで、石松という猟師が、小児がきだくさんでもっております。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でも街道かいどう一円切取り勝手だちいうし、途中取押えに出張っていた諸藩の兵にロクスッポ手に立つ奴あいなかったっていうじゃねえか。こてえられねえなあ。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「しかしお前たちが通って来たのは、今にも戦場になる街道かいどうじゃないか? 良民ならば用もないのに、——」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
海蔵かいぞうさんが人力曳じんりきひきのたまりると、井戸掘いどほりの新五郎しんごろうさんがいました。人力曳じんりきひきのたまりといっても、むら街道かいどうにそった駄菓子屋だがしやのことでありました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それはバルブレンのおっかあのばたに育ち、ヴィタリス老人ろうじんとほこりっぽい街道かいどう流浪るろうして歩いたいなか育ちの少年にとっては思いがけない美しい生活であった。
私は彼女とそんな風に子供らしく言い合いながら、無理にカンバスを引ったくると、それを自分の肩にあてがいながら、彼女とならんで村の街道かいどうを宿屋の方へと歩いて行った。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さいわいわしが家は街道かいどうを離れているので、こっそり人を留めても、誰に遠慮もいらぬ。わしは人の野宿をしそうな森の中や橋の下を尋ね廻って、これまで大勢の人を連れて帰った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この街道かいどうをうろついては人にねだってるのよ、初めは乞食こじきの子かと思ったんだけれど、そうでもないらしいのね、家や親がないのか、自分でとびだしちゃったのかわからないけれど
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして上流の左の岸に上市かみいちの町が、うしろに山を背負い、前に水をひかえたひとすじみちの街道かいどうに、屋根の低い、まだらに白壁しらかべ点綴てんてつする素朴そぼく田舎家いなかやの集団を成しているのが見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かつく沼岸には岩代上野の県道即ち会津あいづ街道かいどうありて、かたはらに一小屋あり、会津檜枝岐村と利根とね戸倉村とくらむらとの交易品を蔵する所にして、檜枝岐村より会津の名酒を此処にはこけば
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
幾台かの自動車はそのためにむなしく幾日かを立番をして暮したほどである。さあ! という時には、街道かいどうあたりの畷路なわてみちは、自動車の爆音が相続き入乱れてヘビーの出しくらをした。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
時々近くの街道かいどうを往来する旅の人が足を疲らしたり、咽喉のどをかわかしたりして、おばあさんのうちへ一ぷくさしてくれとか、水を一ぱい御馳走ごちそうになりたいとかいって、寄ることがある位のものでした。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
水流るる街道かいどうの杉並木に旅人を配置したるものなどなるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一筋の街道かいどうはこの深い森林地帯を貫いていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
法螺ほら陣鐘じんがねの音に砂けむりをあげつつ、堂々と街道かいどうをおしくだり、蒲原かんばら宿しゅく向田むこうだノ城にはいって、松平周防守まつだいらすおうのかみのむかえをうけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父親ちちおやが、街道かいどうあるいていますと、電信柱でんしんばしら付近ふきんいているつばめは、「いま、おかえりですか。」と、いうようにこえました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
甲州こうしゅう街道かいどうに獅子毛天狗顔をした意地悪い犬が居た。坊ちゃんの白を一方ひとかたならず妬み憎んで、顔さえ合わすと直ぐんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その街道かいどうくらいつづいているかとおたずねですか……さァどれくらい道程みちのりかは、ちょっと見当けんとうがつきかねますが、よほどとおいことだけたしかでございます。
何でも街道かいどう一円切取り勝手だち言うし、途中取押えに出張っていた諸藩の兵にロクスッポ手に立つ奴ぁ居なかったって言うじゃねえか。こたえられねえなあ。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
均平はしばらく玄関前で、加世子たちの出て来るのを待ってから、やがて製材所のそばを通って街道かいどうへ登った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その杉の列には、東京街道かいどうロシヤ街道それから西洋街道というようにずんずん名前がついて行きました。
虔十公園林 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
当然板橋口から奥州街道かいどうへ向けて北上すべきなのに、気がついてみると新宿を通りすぎて、いつのまにか甲州口を西へ西へとこころざしていましたものでしたから
ただあぜのような街道かいどうばたまで、福井の車夫は、笠を手にして見送りつつ、われさえ指すかたを知らぬさまながら、かたばかり日にやけた黒い手を挙げて、白雲しらくも前途ゆくてを指した。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏見が滝へ行った帰りに、ひとりで、高原を貫いた、日光街道かいどうに出る小さな路をたどって行った。
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
向うの街道かいどうから、ヘッドライトがパッとギラギラする両眼をこっちに向けて、近づいてくる様子。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうして、人通りの絶えたたそがれの街道かいどうを、とあるがけの下までやって来た時のことです。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたしたちはそのまえのばん『大がしの宿屋』で夜を明かした。それは一マイル(約一・六キロ)はなれたさびしい街道かいどうにあった。その店はなにか気のゆるせない顔つきをした夫婦ふうふがやっていた。
吉野口で乗りかえて、吉野駅まではガタガタの軽便鉄道けいべんてつどうがあったが、それから先は吉野川に沿うた街道かいどうを徒歩で出かけた。万葉集にある六田むつだよど、———やなぎわたしのあたりで道は二つに分れる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
口笛くちぶえきながら、街道かいどうはしりました。そらには、小波さざなみのようなしろくもながれていました。午後ごごになると、うみほうから、かぜきはじめます。
銀河の下の町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みるみるうちに、一まつ水蒸気すいじょうきとなって上昇じょうしょうしてゆく……そして松並木まつなみき街道かいどうは、ふたたびもとののどかな朝にかえっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其帰りにあまり路がわるいので、矢張此洋服で甲州こうしゅう街道かいどうまで車の後押しをして行くと、小供が見つけてわい/\はやし立てた。よく笑わるゝ洋服である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのとき、すうっときりがはれかかりました。どこかへ行く街道かいどうらしく小さな電燈でんとう一列いちれつについた通りがありました。それはしばらく線路せんろ沿ってすすんでいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
街道かいどう入口いりぐちあたりから前方ぜんぽうながめても、かすみが一たいにかかっていて、なにりませぬが、しばらくぎるとるかきかのように、っすりとやまかげらしいものがあらわれ
竹にすずめは仙台せんだい侯、内藤様は下がりふじ、と俗謡にまでうたわれたその内藤駿河守ないとうするがのかみの広大もないお下屋敷が、街道かいどうばたに五町ひとつづきの築地ついじべいをつらねていたところから
わたくし歩哨ほしょうに立っていたのは、この村の土塀どべいの北端、奉天ほうてんに通ずる街道かいどうであります。その支那人は二人とも、奉天の方向から歩いて来ました。すると木の上の中隊長が、——」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この街道かいどうの車夫は組合を設けて、建場建場に連絡を通ずるがゆえに、今この車夫が馬車におくれて、あえぎ喘ぎ走るを見るより、そこに客待ちせる夥間なかまの一人は、手につばしておどり出で
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この明るい東京の真ン中に、あのバーから始まってビール会社に続くこんな恐ろしい街道かいどうがあるのだ。それは死に至る街道だ。地獄へゆく街道だ。これでも君は、おれ様の探偵眼を
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)