まがき)” の例文
何ぞかん、俗に混じて、しかもみづから俗ならざるには。まがきに菊有り。ことげん無し。南山なんざんきたれば常に悠々。寿陵余子じゆりようよし文を陋屋ろうをくに売る。
たとえば相愛する女と月白く花咲けるまがきに相擁して、無量の悦楽を感じたとする。このときの情緒そのものが大なる目的ではないか。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかしウェリントンは叫んだ、「起て、近衛兵、正確にねらえ!」まがきの後ろに伏していたイギリス近衛兵の赤い連隊は立ち上がった。
ささやかなまがきを作ったけれども、これを飾る所の立派やかな門は作る事が出来なかった。竹を柱にして車を入れる所を作って居た。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
庭もまがきも実際荒れていましたから、(里は荒れて人はふりにし宿なれや庭も籬も秋ののらなる)堪えがたい気持ちを覚えました。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
冬が訪れかけて、時々、しもを見る朝もあったが、忘れられた庭の隅や、往来のまがきに、まだ秋の残り香のように、菊の遅咲おそざきが匂っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衣の綻びたるは、かきまがき穿うがちし時のあやまちなり。われ。さらば女はいかなりし。渠。晝見しよりも美しかりき。美しくしてかたくなならざりき。
蝶はいくつかまがきを越え、午後の街角まちかどに海を見る……。私は壁に海を聴く……。私は本を閉ぢる。私は壁に凭れる。隣りの部屋で二時が打つ。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
仙台市の町はずれには、到るところに杉の木立と槿むくげまがきとが見られる。寺も人家も村落もすべて杉と槿とを背景にしていると云ってもいい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家の木戸から、あの道のまがきのそばに、たった一つ淋しそうにころがっているあの、すてきに大きな石のところまで行くんです。
ほんの一瞬間いっしゅんかん眼をつぶって再び見開けば、どこかその辺のまがきの内に、母が少女の群れに交って遊んでいるかも知れなかった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
路傍のまがきの向こうには、眼には見えなかったがある庭に蜜蜂みつばちの巣があって、そのかんばしい音楽を空気中にみなぎらしていた。
ねがはくはカプライアとゴルゴーナとゆるぎいでゝアルノの口にまがきをめぐらし、汝の中なる人々悉く溺れ死ぬるにいたらんことを 八二—八四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それで孫が出来れば、孫のためにおもちゃをこしらえる。引っ越しをすれば、越した先の家の破損を繕う。まがきを結い直す。
あかるきよりくらきにところくらきよりあかるきにづるところいしひ、たけひ、まがきち、たゝずみ、馬蘭ばらんなかの、古井ふるゐわきに、むらさきおもかげなきはあらず。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ある人が葡萄園ぶどうえんを造り、まがきめぐらし、酒槽さかぶねの穴を掘り、物見の番小屋をたて、すっかり仕度をして農夫どもに貸しておいて、遠くに旅立ちした。
非常に疲れて、ひどく空腹に苦しみながら、私は脇道わきみちに外れて小徑に入り、まがきの根元にうづくまつて了つた。が、暫くも經たぬ内にまた歩き出した。
それのおのづからに破れまがきかなんかにりかゝり咲きに星光日精の美をあらはしたのを賞美したことだらうと想はれて
菊 食物としての (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
模様は「山水」のほか「四君子しくんし」とか「まがき牡丹ぼたん」とか、おそらく二十種近くありましょうが、中で特に持映もてはやされましたのは山水絵でありました。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
駅を下りてからの長い桜並木は、まだつぼみが堅くて、まがきの中には盛りの過ぎた白梅が、風もないのにこぼれておりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その匍匐ほふくする有様ありさまを見てりますと、あるときはまがきの上を進む蛞蝓なめくじのように、又あるときは天狗の面の鼻が徐々に伸びて行くかのように見えるのです。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
なんだ菊がってある。小癪こしゃくにもまがきが彫ってある。汚い油垢が溜って居る。それで居て、これを見ると恋しいのはどういうわけだ。ままよ嗅いでみてやれ
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
青疊に煎茶せんちやの道具、廣々とした庭のまがきに、紅紫白黄亂れ咲く菊を眺めて、いかにも心憎き處置振り、金と時間とに飽かした、豐かさが隅々までも行き屆きます。
混凝土の泥溝どぶをもった道路が、青い雑草の中に砂利の直線で碁盤縞に膨れあがった。碁盤目の中には、十字にさわらまがきが組まれた。雑草は雨毎に蔓延はびこって行った。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そして都合よくまがきや柵や壁で区分されているが、しかるに他方は、これらの利便は何も有たないとすれば、一方の使用に対しては、他方の使用に対してよりも
菊植ゆるまがきまたはかわやの窓の竹格子たけごうしなぞの損じたるをみずから庭の竹藪より竹切来きりきたりて結びつくろふたわむれもまた家をそとなる白馬銀鞍はくばぎんあん公子こうしたちが知る所にあらざるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして遠い曾祖母の過去に於て、かれらの先祖が縁組をした如く、今も同じやうな縁組があり、のどかな村落のまがきの中では、昔のやうに、牛や鷄の聲がしてゐる。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
が、そうこうしているうちに、一人の品のいい青年が中庭からお這入りになっていらしって、目のあらまがきの前にお立ち止まりになられたのがみすごしに認められた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そこで二人は、手早くまがきから杭を二本ひき抜いて、それへ袋を一つ載せると、肩に担いで歩き出した。
まがきの菊の枯れ枯れに、うつろふ色を御覧じても、御身の上とや思しけむ、仏のおん前へ参らせ給ひて
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
構内は人影もまばらなほどの裏淋しさ、象徴樹トピアリーまがきが揺れ、枯枝が走りざわめいて、その中から、湧然ようぜんと捲き起ってくるのが、礼拝堂で行われている、御憐憫ミセリコルディアの合唱だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
庭の松がつるしたる、ほの暗き鐵燈籠かなどうろうの光に檐前のきさきを照らさせて、障子一重の内には振鈴の聲、急がず緩まず、四曼不離の夜毎の行業かうごふに慣れそめてか、まがきの蟲のおどろかん樣も見えず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
心ない身も秋の夕暮にはあわれを知るが習い、して文三は糸目の切れた奴凧やっこだこの身の上、その時々の風次第で落着先おちつくさきまがきの梅か物干の竿さおか、見極めの附かぬところが浮世とは言いながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
破れたまがきの前に座して野菊と語った陶淵明とうえんめいや、たそがれに、西湖せいこの梅花の間を逍遙しょうようしながら、暗香浮動の趣に我れを忘れた林和靖りんかせいのごとく、花の生まれ故郷に花をたずねる人々である。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
芭蕉の葉色、秋風を笑ひてまがきおほへる微かなる住家すみかより、ゆかしきの洩れきこゆるに、仇心浮きてなかうかゞひ見れば、年老いたる盲女の琵琶を弾ずる面影凛乎りんことして、俗世の物ならず。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
犬に追はれた家室さんは忽ち野干やかんとなつてまがきの上に乘つてゐる。紅染くれなゐぞめのを着て、裳裾もすそをひいて遊んでゐる妻の容姿すがたは、狐といへど窈窕ようちようとしてゐたので、夫は去りゆく妻を戀ひしたつて
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ひのきの木口数寄すきらし、犬黄楊いぬつげまがきうち、自然石の手水鉢てうづばちあり。かけひの水に苔したるとほり新しき手拭を吊したるなぞ、かゝる山中の風情とも覚えず。又、方丈の側面の小庭に古木の梅あり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかして往々まがきとなせり。土佐にて土用竹という。その根茎短きが為めにその稈は一処に叢生し、あえて遠く鞭を引くなし。その稈は火縄を製しその葉はすこぶる美なり。裏面殊に白色を帯ぶ。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
折々に夫人が摘んだばかりのまがきの小花を凝視めたり、静かに話しをしてゐるうちに、ふと深い眸を真弓の健やかな光に充ちた両の瞳にぢいつと注いだりされる時など、真弓は娘らしい直感で素早く
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
庭さきに暖い小春日の光があふれていた。おおかたは枯れたまがきの菊のなかにもう小さくしか咲けなくなった花が一輪だけ、茶色に縮れた枝葉のあいだから、あざやかに白いはなびらをつつましくのぞかせていた。
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さてこそ雪に成りぬるなれ、伯母様さぞや寒からんと炬燵こたつのもとに思ひやれば、いとど降る雪用捨ようしやなく綿をなげて、時の間に隠くれけり庭もまがきも、我がひぢかけ窓ほそく開らけば一目に見ゆる裏の耕地の
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夏菊のしろきまがきの角にして日のいちじるき光に遇ひぬ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まがきのそばに、まだ花のない萩のひとむらがある。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
喜「何うかまがきの方へおいでを願います」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
花に、まがきに、園生そのふうへに飛びかひて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
... まがきみち。』『ああ、の止利よ、 ...
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
まがきあり菊のもたるるよすがあり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
晝の間まがきを固くへど
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
まがきの陰にさける見て
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
暮るるまがき群青ぐんじやう
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)