みまわ)” の例文
青きあわせに黒き帯してせたるわが姿つくづくとみまわしながらさみしき山に腰掛けたる、何人なにびともかかるさまは、やがて皆孤児みなしごになるべききざしなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのままには帰らないで、溝伝いにちょうど戸外おもてに向った六畳の出窓の前へ来て、背後向うしろむきりかかって、前後あとさきみまわして、ぼんやりする。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それら、花にもうてなにも、丸柱まるばしらは言うまでもない。狐格子きつねごうし唐戸からどけたうつばりみまわすものの此処ここ彼処かしこ巡拝じゅんぱいふだの貼りつけてないのは殆どない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、」と言って、きょろきょろ四辺あたりみまわしておりまするが、何か気抜のしたらしい。小宮山はずっと寄って、そのせなを叩かぬばかり
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「落すなんて、そんな間のあるわけはないんだからねえ、頼んだ人は生命いのちにもかかわる。」と、早口にいってまた四辺あたりみまわした。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、思わず釣込まれたようになって、二人とも何かそこへ落ちたように、きょろきょろと土間をみまわす。葭簀よしずの屋根に二葉三葉。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
滝太郎は左右をみまわし、今度ははばからず、袂から出して、たなそこに据えたのは、薔薇ばらかおり蝦茶えびちゃのリボン、勇美子が下髪さげがみを留めていたその飾である。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前に青竹のらち結廻ゆいまわして、その筵の上に、大形の古革鞄ただ一個ひとつ……みまわしてもながめても、雨上あまあがりの湿気しけつちへ、わらちらばったほかに何にも無い。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売薬は先へ下りたが立停たちどまってしきりに四辺あたりみまわしている様子、執念しゅうねん深く何かたくんだかと、快からず続いたが、さてよく見ると仔細しさいがあるわい。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美女 あの、捨小舟すておぶねに流されて、海のにえに取られてく、あの、(みまわす)これが、嬉しい事なのでしょうか。めでたい事なのでしょうかねえ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんはこの時、滝登たきのぼりの懸物、柱かけの生花、月並の発句を書きつけた額などをしずかみまわしたから、判事も釣込まれてなぜとはなくあたりを眺めた。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へええ、御串戯ごじょうだんを。」と道の前後をみまわして、苦笑いをしつつ、一寸ちょっと頭を掻いたは、さては、我が挙動ふるまいを、と思ったろう。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
加茂川の邸へはじめての客と見える、くだんの五ツ紋の青年わかものは、立停たちどまって前後あとさきみまわして猶予ためらっていたのであるが、今牛乳屋ちちやに教えられたので振向いて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
咽喉のどが狂って震えがあるので、えへん! としわぶいて、手巾ハンケチこすって、四辺あたりみまわしたが、湯も水も有るのでない、そこで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きりきりきり、はたり。——お沢。おもてを上げ、四辺あたりみまわし耳を澄ましつつ、やがて階段にななめに腰打掛うちかく。なお耳を傾け傾け、きりきりきり、はたり。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血もほとばしらんばかりさかんだった滝太郎のおもてを、つくづく見て、またその罪の数をみまわして、お兼はほっという息をいた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剪刀はさみを袖の下へかくして来て、四辺あたりみまわして、ずぶりと入れると、昔取った千代紙なり、めっきり裁縫しごとは上達なり、見事な手際でチョキチョキチョキ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急いで手拭を懐中ふところへ突込むと、若手代はそこいらしきりに前後あとさきみまわした、……私は書割の山の陰にひそんでいたろう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、令夫人は仲通りの前後あとさきを、芝居気の無い娘じみたみまわし方。で、くだんの番小屋の羽目を、奥の方へ誘い入れつつ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嫁御が俯向うつむけの島田からはじめて、室内を白目沢山で、あぶの飛ぶように、じろじろと飛廻しにみまわしていたのが、肥った膝で立ちざまにそうして声を掛けた。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのにおいを見附けたそうに、投出している我が手をはじめ、きょろきょろとみまわす内に、何となくほんのりと、誰だか、おんなの、冷い黒髪の香がしはじめる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「降って来たもんですから、その何なんですよ、泥でも刎上はねあげちゃあ、そのね、」と今更のように懐をみまわして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忌々いまいましいなあ、道中じゃ弥次郎兵衛やじろべえもこれに弱ったっけ、たまったものではないと、そっ四辺あたりみまわしますると、ちり一ッも目を遮らぬこの間の内に床が一つ
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうだ、螇蚸ばった蟷螂かまきり、」といいながら、お雪と島野をかわがわる、笑顔でみまわしても豪傑だからにらむがごとし。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やつは勝ほこったていで、毛筋も動かぬその硝子面ビイドロめんを、穴蔵の底に光る朽木のように、仇艶あだつやを放ってみまわしながら
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みまわすと、ずらりと車座が残らず顔を見た時、あかりの色がさっと白く、雪が降込んだように俊吉の目に映った。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と肩がすくんで、もすそわなわな、ひとみを据えて恐々こわごわ仰ぐ、天井の高い事。前後左右は、どのくらいあるか分らず、すごくてみまわすことさえならぬ、蚊帳かやに寂しき寝乱れ姿。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
威勢よく、(開けます)とやろうとする、そのひらきの見当が附かぬから、臥床ねどこに片手いたなり、じっの内をみまわしながら、耳を傾けると、それ切り物の気勢けはいがせぬ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前後あとさきみまわしながら、そっとその縄を取ってくと、等閑なおざりに土の割目に刺したらしい、竹の根はぐらぐらとして、縄がずるずると手繰たぐられた。慌てて放して、後へ退さがった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、おや。」と口のうち、女中はきまりの悪そうに顔を赤らめながら、変な顔をして座中をみまわすと、誰も居ないでしんとして、かまの湯がチンチン、途切れてはチンという。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さみしいにも、第一の家には、旅人の来て宿るものは一にんも無い、と茶店ちゃみせで聞いた——とまりがさて無いばかりか、みまわして見ても、がらんとした古家ふるいえの中に、其のおんなばかり。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(眠うなったのかい、もうお寝か。)といったがすわり直ってふと気がついたように四辺あたりみまわした。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そっと、下へかがむようにしてその御神燈をみまわすと、ほか小草おぐさの影は無い、染次、と記した一葉ひとはのみ。で、それさえ、もと居たらしい芸妓げいしゃの上へ貼紙はりがみをしたのに記してあった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(後で洗いますよ。)とまろげて落した。手巾ハンケチは草の中。何の、後で洗うまでには、蛇が来て抱くか、山𤢖やまおとこ接吻キッスをしよう、とそこいらをみまわしましたが、おっかなびっくり。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あせって、もがいて、立ったり居たり、みぎわもそちこち、場所を変えてうろついて見込んだが、ふと心づいてみまわせば、早や何がそまるでもなく、緑は緑、青は青で、樹の間は薄暮合うすくれあい
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただもうげ出したくッてね、そこいらみまわすけれど、貴下あなたの姿も見えなかったんですもの。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とふとみまわしたが、今夜はもとより降ってはいない、がさあ、幾日ぐらいの月だろうか、薄曇りに唯ぼうとして、暗くはないが月は見えない、星一つ影もささなかった、風も吹かぬ。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一、多勢の客の出入に、茶の給仕さえ鞠子はあやしい、と早瀬は四辺あたりみまわしたが——後で知れた——留守中は、実家さとかかえ車夫が夜宿とまりに来て、昼はその女房が来ていたので。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お貞は聞きつつ微笑ほほえみたりしが、ふと立ちて店にき、往来の左右をながめ、もとの座に帰りて四辺あたりみまわし、また板敷に伸上りて、裏庭より勝手などを、巨細こさいに見て座に就きつ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「強いて信じたくないとは願わんのです、紳士のために。なぜ、そんなら貴下は、その新聞包みを棄つるに際して、きょろきょろ四辺あたりみまわしたり、胡乱々々うろうろ往来ゆききをしたんじゃね。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きょろきょろ四辺あたりみまわしたが、まさか消え失せたのじゃあるまい、と直ぐに突切つッきってぐるりと廻ると、裏木戸に早や山茶花さざんかが咲いていて、そこを境に巣鴨の卯之吉が庭になりまさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仁右衛門は四辺あたりみまわし、あまたたび口籠くちごもりながら、相済みましねえ、お客様、御出家、宰八此方こなたにはなおの事、四十年来の知己ちかづきが、余り気心を知らんようで、面目もない次第じゃ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……しとやかな姉さんが、急に何だか、そわついて、あっちこっちみまわしましたが、高い処にこう立つと、風がさらって、すっと、雲の上へ持ってきそうであぶなッかしいように見えます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幾度遣ってもたかんなの皮をくに異ならずでありまするから、呆れ果ててどうと尻餅、茫然ぼんやり四辺あたりみまわしますると、神農様の画像を掛けた、さっき女が通したのと同じ部屋へ、おやおやおや。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けかけた蓋をあわてておさえて、きょろきょろと其処そこみまわしたそうでございますよ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腕も器量もすごいのが、唐桟とうざんずくめのいなせななりで、暴風雨あらしに屋根を取られたような人立ひとだちのする我家の帳場を、一渡ひとわたりみまわしながら、悠々として、長火鉢の向側、これがその座に敷いてある
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目の光の晃々きらきらえたに似ず、あんぐりと口を開けて、厚い下唇を垂れたのが、別に見るものもない茶店の世帯を、きょろきょろとみまわしていたのがあって——お百姓に、船頭殿は稼ぎ時
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「小僧さん、まあお上り、菊枝さん、きいちゃん。」と言って部屋の内をみまわすと、ぼんぼん時計、花瓶の菊、置床の上の雑誌、貸本が二三冊、それから自分の身体からだが箪笥の前にあるばかり。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実はこのおうな、お米に椅子を払って招じられると、帯のあいからぬいと青切符をわざとらしく抜出して手に持ちながら、勿体ないわたくし風情がといいいい貴夫人の一行をじろりとみまわし、にじり寄って
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはお前様、あのてあいと申しますものは、……まあ、海へ出て岸をばみまわして御覧ごろうじまし。いわの窪みはどこもかしこも、賭博ばくちつぼに、あわびふたかにの穴でない処は、皆意銭あないちのあとでござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)