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痕
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あと
ふりがな文庫
“
痕
(
あと
)” の例文
「それにしても、今日は風當りが強すぎやしませんか。額の八の字に、吸口の
痕
(
あと
)
を付けて、一體何がそんなに親分を困らせるんで?」
銭形平次捕物控:186 御宰籠
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
海にはこの数日来、
俄
(
にわか
)
に水母が
殖
(
ふ
)
えたらしかった。現に僕もおとといの朝、左の肩から
上膊
(
じょうはく
)
へかけてずっと針の
痕
(
あと
)
をつけられていた。
海のほとり
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ところが、手燭のあった辺の着衣を調べると、焦痕は愚かやや水平から突出している鉄芯の
痕
(
あと
)
らしいものさえ見出されないのである。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
背筋の虫に螫された
痕
(
あと
)
、その痒さを
留
(
と
)
める役目なので、蚊帳の中に入っても直ぐと後へ廻った為、顔を見られずに済んだのであった。
怪異黒姫おろし
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
双
(
そう
)
の
掌
(
て
)
と、外套の袖口と、膝の処が泥だらけになりおれども、顔面には何等苦悶の
痕
(
あと
)
なく、明け放ちたる入り
来
(
きた
)
る冷風に吹かれおり。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
広びろしたコンクリートの床は掃除がきれいに行きとどいてゐて、血の
痕
(
あと
)
はおろか、足跡ひとつ
塵
(
ちり
)
つぱ一本落ちてはゐませんでした。
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
「先頃の傷はどんなか」と、肌を脱がせて、その
痕
(
あと
)
を見た。周泰は、大勢の中なのではばかったが、主命のままに肌を脱いで示した。
三国志:09 図南の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「またやんちゃんが始まるな、」と哲学者は両手で
頤
(
おとがい
)
を支えて、柔和な顔を
仰向
(
あおむ
)
けながら、若吉を
瞶
(
みつ
)
めて
剃立
(
そりたて
)
の
髯
(
ひげ
)
の
痕
(
あと
)
を
撫
(
な
)
で廻す。
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ソフアの傍には、
八
(
や
)
つ
手
(
で
)
の鉢植、むかしのままに、ばさと葉をひろげて、乙彦が無心に爪で
千切
(
ちぎ
)
りとつた
痕
(
あと
)
まで、その葉に残つてゐる。
火の鳥
(新字旧仮名)
/
太宰治
(著)
ちょっと沖縄の唐手にも似ています。孫の右頬には一筋大きな切り傷の
痕
(
あと
)
がありますが、やはり喧嘩か何かで受けた創傷なのでしょう。
ボロ家の春秋
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
鼻を
劈
(
つんざ
)
く石炭酸の臭いは、室の中に込み上った。障子に浸みた消毒水の
痕
(
あと
)
は、外の暗くなりかかった灰色の空の色を
染
(
にじ
)
ませていた。
悪魔
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
しんとしてさびしい磯の
退潮
(
ひきしお
)
の
痕
(
あと
)
が日に
輝
(
ひか
)
って、小さな波が
水際
(
みぎわ
)
をもてあそんでいるらしく長い
線
(
すじ
)
が
白刃
(
しらは
)
のように光っては消えている。
忘れえぬ人々
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
まばゆいほど白く、きめのこまかな女の肌に、鞭の
痕
(
あと
)
が赤く幾筋となく印され、中には皮膚が裂けて、血の
滲
(
にじ
)
んでいるのが見えた。
ちくしょう谷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
あまりそうでもなかっただろう(後団扇を検したところ八個所の
痕
(
あと
)
があったというからよほど何回かうちおろしているわけである)
川中島合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
そしてこのことから、『茂みと河とのあいだには、柵の横木は打ちこわされ、地面にはなにか重い荷物を引きずって行った
痕
(
あと
)
があった』
マリー・ロジェエの怪事件
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
「さあ、
御
(
お
)
あたり。さぞ御寒かろ」と云う。
軒端
(
のきば
)
を見ると青い煙りが、突き当って
崩
(
くず
)
れながらに、
微
(
かす
)
かな
痕
(
あと
)
をまだ
板庇
(
いたびさし
)
にからんでいる。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一面に麥畑の眞青な中を白くうね/\として行く平な國道を、圓顏に
頬髷
(
ほゝひげ
)
を
剃
(
そ
)
つた
痕
(
あと
)
の青々とした
車夫
(
くるまや
)
は、風を切つて駈け出した。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
食堂のとなりの
客間
(
サロン
)
へはいって見ると、楽譜を取り散らした隅のほうの床の上に、ピアノが置かれてあった
痕
(
あと
)
がはっきりと残っていた。
キャラコさん:05 鴎
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
心臓を一
抉
(
えぐ
)
りにやられたということであったが、顔には
苦悶
(
くもん
)
の
痕
(
あと
)
もなく、微笑しているのかと思われる程、なごやかな表情をしていた。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
しかし
生
(
は
)
え
際
(
ぎわ
)
と云っても額の真中か耳のうしろかどこかにちょっぴり
痕
(
あと
)
が附いたぐらいを根に持って一生
相好
(
そうごう
)
が変るほどの
凄
(
すさま
)
じい危害を
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
見渡すかぎり
蒼茫
(
そうぼう
)
たる青山の共同墓地に
入
(
い
)
りて、わか
葉
(
ば
)
の
扇骨木籬
(
かなめがき
)
まだ新らしく、墓標の墨の
痕
(
あと
)
乾きもあえぬ父の墓前に
跪
(
ひざまず
)
きぬ。
父の墓
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
少なくも、真黒な指の
痕
(
あと
)
をつけている人は、名札の汚れなどという事には全然無関心な人であるというくらいのことは云われそうである。
雑記帳より(Ⅱ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
条痕
(
すじあと
)
の左側には、杖を突いていたと見えて、杖の先の
雪輪
(
リング
)
で雪を蹴散らした
痕
(
あと
)
が二、三間毎についているが、右側には全然ない。
寒の夜晴れ
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
第二には燐寸の
赤燐
(
せきりん
)
の表面は新しくて一度も
擦
(
す
)
った
痕
(
あと
)
がないのに、その中身を見ると燐寸の数は半分ぐらいになっているのです。
流線間諜
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
細君は
燥
(
はしゃ
)
いだ唇に、ヒステレックな淋しい
笑
(
え
)
みを浮べた。筋の通った鼻などの上に、
斑
(
まだら
)
になった白粉の
痕
(
あと
)
が、浅井の目に物悲しく映った。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
兄どんの云うのにも、火傷しても火の中へ
坐燻
(
つっくば
)
ったではねえ、湯気だから段々
癒
(
なお
)
るとよ、少しぐれえ薄く
痕
(
あと
)
が付くべえけれども
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
漢文で、「
慷慨
(
こうがい
)
憂憤の士を
以
(
も
)
って狂人と為す、悲しからずや」としてある。墨の
痕
(
あと
)
も
淋漓
(
りんり
)
として、
死際
(
しにぎわ
)
に震えた手で書いたとは見えない。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
仮名書きの美しかりし手跡は
痕
(
あと
)
もなく、その人の筆かと疑うまで字はふるい墨はにじみて、涙のあと
斑々
(
はんはん
)
として残れるを見ずや。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
またその死体を検査した医師は、営養欠乏のために死亡したのだといい、しかもその全身にはなまなましい
紫斑
(
しはん
)
の
痕
(
あと
)
が残っていたと言った。
世界怪談名作集:02 貸家
(新字新仮名)
/
エドワード・ジョージ・アール・ブルワー・リットン
(著)
その後、この廊下には雛僧のこぼした油の
痕
(
あと
)
が、拭うても拭うても生々しく、その油に
辷
(
すべ
)
って倒れたほどの人が、やがて死ぬ。
大菩薩峠:21 無明の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
私は
鋸屑
(
おがくず
)
を
膠
(
にかわ
)
で練っていたのだ。万豊の桐畑から仕入れた材料は、ズイドウ虫や
瘤穴
(
こぶあな
)
の
痕
(
あと
)
が
夥
(
おびただ
)
しくて、下彫の
穴埋
(
あなうめ
)
によほどの手間がかかった。
鬼涙村
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
顏
(
かほ
)
をあげし
時
(
とき
)
は
頬
(
ほう
)
に
涙
(
なみだ
)
の
痕
(
あと
)
はみゆれども
淋
(
さび
)
しげの
笑
(
ゑ
)
みをさへ
寄
(
よ
)
せて、
私
(
わたし
)
は
其樣
(
そのやう
)
な
貧乏人
(
びんぼうにん
)
の
娘
(
むすめ
)
、
氣違
(
きちが
)
ひは
親
(
おや
)
ゆづりで
折
(
おり
)
ふし
起
(
おこ
)
るのでござります
にごりえ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
この池の出来損いの異様な金魚を見ることは、失敗の
痕
(
あと
)
を再び見るようなので、復一はほとんどこの古池に近寄らなかった。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
しかし新しい社会の意識はこの伝統に昔ながらの権威を認めることを拒む。道元の言葉にもこの伝統に対する反抗の
痕
(
あと
)
は明らかに認められる。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
しかして時々の串または矢は朽廃して
湮滅
(
いんめつ
)
しやすいから特に土壇を築きその
痕
(
あと
)
を明らかにし兼ねて境上の祭を営んだことは
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
また山の近くには細かい砂利のあること、殊に北上山地のヘりには所々この泥岩層の間に砂丘の
痕
(
あと
)
らしいものがはさまってゐることなどでした。
イギリス海岸
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
太平洋が月のとび出した
痕
(
あと
)
であるかないかを論じているのを孫悟空がきいたならば、われわれが『西遊記』に驚くように、きっと驚くであろう。
『西遊記』の夢
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
友人伊波普猷氏は、「おもろ双紙」の中に、短歌様式から琉歌様式に展開した
痕
(
あと
)
を示すものの見えることを教えてくれた。
歌の円寂する時
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
ロミオ
此
(
この
)
賤
(
いや
)
しい
手
(
て
)
で
尊
(
たふと
)
い
御堂
(
みだう
)
を
汚
(
けが
)
したを
罪
(
つみ
)
とあらば、
面
(
かほ
)
を
赧
(
あか
)
うした
二人
(
ふたり
)
の
巡禮
(
じゅんれい
)
、
此
(
この
)
唇
(
くちびる
)
めの
接觸
(
キッス
)
を
以
(
もっ
)
て、
粗
(
あら
)
い
手
(
て
)
の
穢
(
よご
)
した
痕
(
あと
)
を
滑
(
なめら
)
かに
淨
(
きよ
)
めませう。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
その句の巧妙にして
斧鑿
(
ふさく
)
の
痕
(
あと
)
を留めず、かつ和歌もしくは檀林、支麦のごとき没趣味の作をなさざるところ、またもってその技倆を
窺
(
うかが
)
うに足る。
俳人蕪村
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
茲
(
こゝ
)
に至りて難波の理想と江戸の理想と、其文学上に現はれたるところを以て断ずれば、各自特種の気禀を備へて、容易に
踪跡
(
そうせき
)
し得べき
痕
(
あと
)
を印せり。
徳川氏時代の平民的理想
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
窓の下はコールタの
剥
(
は
)
げたトタン
葺
(
ぶき
)
の平屋根で、二階から捨てる
白粉
(
おしろい
)
や
歯磨
(
はみがき
)
の水の
痕
(
あと
)
ばかりか、毎日
掃出
(
はきだ
)
す
塵
(
ちり
)
ほこりに
糸屑
(
いとくず
)
や紙屑もまざっている。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
濃
(
こ
)
いみどりいろの顔面、
相貌
(
そうぼう
)
夜叉
(
やしゃ
)
のごとき櫛まきお藤が、左膳の
笞
(
しもと
)
の
痕
(
あと
)
をむらさきの
斑点
(
ぶち
)
に見せて、
変化
(
へんげ
)
のようににっこり笑って立っているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
落書がある、身をすり寄せた
痕
(
あと
)
もみえる、子供達は手をつないで鬼ごっこをしている。また遠慮なくお
呪
(
まじな
)
いの札がはりつけてあるのも円柱である。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
イヤ広海さん、この家もなかなか沢山の蠅で、御覧なさい、天井にはあの通り蠅の
痕
(
あと
)
が胡麻塩のようになっています。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
現に石鏃の入りたる儘の土器、小砂利の入りたる儘の土器、
繪具
(
ゑのぐ
)
を入れたる
痕
(
あと
)
有る土器等の發見されたる事有るなり。
コロボックル風俗考
(旧字旧仮名)
/
坪井正五郎
(著)
無論一体に
疵
(
きず
)
だらけで
処々
(
ところどころ
)
鉛筆の落書の
痕
(
あと
)
を
留
(
とど
)
めて、腰張の新聞紙の
剥
(
めく
)
れた蔭から隠した
大疵
(
おおきず
)
が
窃
(
そっ
)
と
面
(
かお
)
を出している。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
も待ず進み出御
道理
(
だうり
)
の御尋問
悴
(
せがれ
)
惣内は
幼少
(
えうせう
)
の頃私しが毎度
灸
(
きう
)
を
据
(
す
)
ゑしによりて灸
痕
(
あと
)
これ有又子供同士の口論に
鎌
(
かま
)
で
疵
(
きず
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
鼻の上に爪痕があるとか、掻き
痕
(
きず
)
とか、頸を絞めつけた
痕
(
あと
)
とか、とにかく、そうした痕跡がなければならんわけです
見開いた眼
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
だが、夜が明けると狐どもは立去り、樹を降りると幹には鋸の
痕
(
あと
)
もなく、そこらに牛の
肋骨
(
あばらぼね
)
が五、六枚おちてゐた。
春宵戯語
(旧字旧仮名)
/
長谷川時雨
(著)
痕
常用漢字
中学
部首:⽧
11画
“痕”を含む語句
痕跡
痘痕
瘢痕
傷痕
墨痕
刀痕
条痕
痘痕面
爪痕
斑痕
焼痕
血痕
痕迹
創痕
疵痕
薄痘痕
弾痕
瘡痕
一痕
剃痕
...