うす)” の例文
はじめからうすいながらも変わらぬ愛を持ってくれた人のことは、あの時、その時とその人についてのいろいろの場合が思い出されて
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それでも無上の幸福感に酔った二人には、またたくと思う間に陽がうすれて来た。いつか藍暗い夕闇の中に二人は取残されていたのであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころの鼠谷は、顔色は青かったが、涼しいクリクリする大きい眼を持ち、色はうすいが可愛い小さい唇を持った美少年だった。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これは薄桃色すなわちいわゆる桜色の花がう二月頃に咲く。花色が一方の緋寒桜よりうすいから人によってはこれを白寒桜しろかんざくらといっている。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
たとへうすくあつたとは云へ、同窓であり、同信仰であり、同背信者であり、同僚であり、離れてゐても、音信を絶やさなかつた友人同志が
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
夜の闇が四辺あたりを領している。ズンズン恐れず巫女が行く。着ている白衣びゃくえが生白く見える。時々月光が木間を洩れ、肩のあたりをうすく照らす。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まだ雲のやうにうすかつたが次第に光輝を増し、半ば樹の間にかくれて、僅かな煙突えんとつから青い煙を流してゐるヘイの上を照した。
線香の煙の中へ、色をうすく分けてスッと蝋燭の香が立つと、かあかあとたまらなそうに鳴立てる。羽音もきこえて、声の若いのは、仔烏こがらすらしい。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腕の方を目立たなくするには、比較的うすい墨を使った方が無難らしいのであるが、淡くすると、今度は墨色がいかにも汚く見えて来て困った。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
時によってはこれをもっと固くもモットうすくも溶きますし、あるいは酢の分量を多くしたり減らしたりする事もあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
メイ・ハルミの手を経て横浜から買った、ヤンキイ好みの紺にうすめな荒いしまのある例の外套がいとうくるまっていたが、髪もそそけ顔もめっきりやつれていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
要約すれば、明治卅年ごろは、金の威光が今ほどでないとはいわないが、女の心が、物質や名望にうすかった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
晩秋おそあきの晴れた一日ひとひが、いつか黄昏たそがれて、ほんのりと空を染めていた夕映ゆうばえも、だんだんにうすれて行く頃だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
うすき、あるは華美はでなる羽織のちりめんのしとやかさよ、女の一人は淡青うすあをのリボンをぞ髪につけたる。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
斉彬なりあきらは、この父の子であった。だが、幼少から重豪に育てられて、洋学好みの上に、開国論者であった。そして、自然の情として、父斉興とは、親しみがうすかった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
霜日和しもびよりの晴れ渡ったその日は、午後から鳶色とびいろもやうすくこめて、風のいだ静かな天気であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
き雲もうすき雲も電光いなづまも、またかの世に屡〻處を變ふるタウマンテのむすめも現はれず 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
でもやっぱり次第々々にこみ上げてくるものがあって、目の前いっぱいに仁王立ちしている活けるがごとき黒旋風李達の、ボーッとうすれていってしまうことが仕方がなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
左近倉平の周囲に引っ切りなしに集まって来ている若い女達で、長いか短いか、こまかいかうすいか、兎も角も左近倉平に関係の無かったという人は、恐らく幾人も無かったでしょう。
そのほか極めてうすい雲のような汚染しみの形が処々に見えるが、何の痕跡だか推定出来ない。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其所らがきふにもや/\とうすもやでもかゝつたやうになツて畫架諸共もろとも「自然の力」は、すーツと其の中へき込まれるかと思はれた………かはつて眼に映ツたのが裸體になツたお房だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そのうちに、はまったくれてしまった。そして、あきらしく、うすいもやが、一めんまち屋根やねにかかりました。いま、彼女かのじょは、しょうちゃんをおぶって、さびしいみちあるいていました。
遠方の母 (新字新仮名) / 小川未明(著)
空は僅かに夕照ゆふばえの名残をとどめてゐるだけで、光のうすい星影が三つ四つ数へられた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして其夜、うすい霞のやうに僕の心を包んだ一片の哀情かなしみは年と共に濃くなつて、今はたゞ其時の僕の心持を思ひ起してさへ堪え難い、深い、靜かな、やる瀬のない悲哀かなしみを覺えるのである。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
なに度胸どきよう半紙はんし四五まい二つをりにして、すみつぎうすふみらぬかまぎらはし、わざぢて表紙へうしにもき、此趣向このしゆかううまくゆけかしとくるをちけるが、ひとしらぬこそ是非ぜひなけれ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
興津だいという甘だいとぐじといっている日本海の甘だいとは一見同じものだが、色が若狭ものはうす赤く桃色であり、興津だいと称する甘だいは通常のたいと同じくらい赤色を呈している。
甘鯛の姿焼き (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
彼女は物詣でのためにきょうは殊更に清らかにつくっていた。紅や白粉おしろいもわざとうすくしていた。しかもそれが却って彼女の艶色を増して、玉のようなおもてはいよいよその光りを添えて見られた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
皮を引いたらあまり微塵みじんにせずに、葛もごくうすくねがいます。さて、……ちょうど、わらさの季節だから、削切けずりきりにして、前盛まえもりには針魚さより博多はかたづくりか烏賊いか霜降しもふり。つまみは花おろしでも……
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
我越後の雪蛆せつじよはちひさき事ごとし。此虫は二しゆあり、一ツははねありて飛行とびあるき、一ツははねあれどもおさめ蚑行はひありく。共に足六ツあり、色ははへうすく(一は黒し)其る所は市中原野しちゆうげんやにおなじ。
毛色のあまりうすくもなければ濃くもない頬髯を生やし、かなり頬ぺたの丸々した、風采のいい警察官で、それは、この物語のはじめに、イサーキエフスキイ橋のたもとに立っていた巡査である。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
お葉は、うすい巻紙にやさしくうるはしくかゝれた手紙をいく度も繰り返して、すべて自分の存在を想像のなかにうづめてしまった。彼女はうれしかった。それから二人は、その日の事を書いては送った。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
どこにも平野へいやらしいところはなく、見渡みわたすかぎりやままたやまたかいのもひくいのも、またいろいのもうすいのも、いろいろありますが、どれもみな樹木じゅもくしげったやまばかり、とがった岩山いわやまなどはただのひとつもえません。
ありやなしやの幻の髭と、濃くもうすくもいろいろに生分はえわかる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かゝる夜の歌に消ぬべき秋人あきびととおもふにうすもふさふかな
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
その最もうす生涯しょうがいうちに、淡い喜びがあった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のちなる酒はうすくとも
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かみの御用が多いのか、自身の愛がうすいのか、そうそう見舞ってくれません。お話しになりたいとおっしゃるのはどんなことでしょう。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
やや残光がうすれると、陽は落ちて、山ふところは紫の夕闇をこめて来た。ぽつり、ぽつりと物見の者が、北条家の内へ帰って来た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新しく来た彼らは、体の色がすこしうすかった。そしてどこかおとなしいところがあった。ココミミ君は帆村にいった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
怪しき臭気においならぬものをおおうた、わらむしろも、早や路傍みちばた露骨あらわながら、そこにはすみれの濃いのが咲いて、うすいのが草まじりに、はらはらと数に乱れる。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上の彼岸ザクラの正品に対して一体東京方面の学者の認識のうすいのは東京にこのサクラが割合にすくなく、ツマリお馴染みになっていないからであろう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
頬が寒い風にって来たので紅味あかみを差して、湿うるみを持った目が美しく輝いた。が、どことなく恐怖を帯びている。唇の色もうすく、ほつれ毛もそそけていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
霧頂は見渡すかぎり、一面の薄青い透明な鼠色である。名墨をうすめたような色をしている。羽田を出て五時間くらいで、もう全く別の世界に入ったのである。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
其処そこへ野菜を入れて味をつけてちょこちょこと実を投げ込んで客へ出すからそのうすいこと塩湯同様です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さきに枝のさびれしこの木、薔薇ばらよりうすく菫より濃き色をいだして新たになりぬ 五八—六〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そうして急いで寝室に引っ返して、の半分に裂けた岩形氏の名刺を鼻に当てて嗅いでみると果して……果して極めてうすいながら、疑いもないヘリオトロープの香気がほのめいて来た。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女の「野崎村」はつやにとぼしかったといえるかも知れなかったが、野梅やばいのようなお光と、白梅のような久松と、うす紅梅のお染とがよく語りわけられて、そのうちにもお染はともすると
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「この八景が融川の作か。……見事ではあるが砂子がうすいの」
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのやまは、くものように、うすひがしそらにかかってられました。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
刈しほの濃きはうすきは大麥と小麥にかあらむ裸麥もあらむ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)