トップ
>
暫
>
しば
ふりがな文庫
“
暫
(
しば
)” の例文
九月のよく晴れた日の夕方、植木の世話も一段落で、
錢形平次
(
ぜにがたへいじ
)
は
暫
(
しば
)
らくの
閑日月
(
かんじつげつ
)
を、粉煙草をせゝりながら、
享樂
(
きやうらく
)
して居る時でした。
銭形平次捕物控:267 百草園の娘
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
……
暫
(
しば
)
らくしてから「次郎! 次郎!」と呼びながら、一人の、ずっと大きな、見知らない男の子が庭へ
這入
(
はい
)
って来るのを私は見た。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
それが大きな船の多人数でなく、また
暫
(
しば
)
らく島人の中に住んでいて、やがて
還
(
かえ
)
って
往
(
い
)
ったという話も一、二ではなかったように思う。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
と
後
(
あと
)
は涙に物云わせ、
暫
(
しば
)
し文治の顔を見詰めて居りますと、文治も
堪
(
こら
)
え兼て熱い涙を流しながら、お町の手を握って引寄せますると
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
予の欧洲に赴いた目的は、日本の空気から遊離して、気楽に、
且
(
か
)
つ
真面目
(
まじめ
)
に、
暫
(
しば
)
らくでも文明人の生活に
親
(
したし
)
むことの外に何もなかつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
▼ もっと見る
「そうです、そうです。けれども
彼
(
あ
)
れが僕の
做
(
な
)
し得るかぎりの秘密なんです。」と言って
暫
(
しば
)
らく言葉を
途切
(
とぎら
)
し、気を
塞
(
つ
)
めて居たが
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
お麻さんがその妾宅で、
鬢髱
(
まわり
)
をひっつめた山の手風の大
丸髷
(
まるまげ
)
にいって、短かく着物をきていたのも
暫
(
しば
)
らくで、また柳橋へかえった。
旧聞日本橋:13 お墓のすげかえ
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
上框
(
あがりがまち
)
に腰をかけていたもう一人の男はやや
暫
(
しば
)
らく彼れの顔を見つめていたが、
浪花節
(
なにわぶし
)
語りのような妙に張りのある声で突然口を切った。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「そうだ」警部は、
暫
(
しば
)
し考えていてから、
呻
(
うな
)
るように云った。「そうだ、そう云われて思い出した。之は確にあの男の事件の時に……」
琥珀のパイプ
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
火の手は納屋から
母屋
(
おもや
)
に攻め寄せたらしく、煙が
暫
(
しば
)
し空に絶えたかと思うと、間もなく真白になって軒の間からむくむくとふき出した。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
維盛卿の前なれば心を
明
(
あか
)
さん折もなく、
暫
(
しば
)
しの
間
(
あひだ
)
ながら御邊の顏見る毎に胸を裂かるゝ思ひありし、そは他事にもあらず、横笛が事
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
渡さんと思ひしが
待
(
まて
)
暫
(
しば
)
し主人が八山へ參り町奉行の
威光
(
ゐくわう
)
を落すなと仰られしは
爰
(
こゝ
)
なりと平石は態と
聲高
(
こわだか
)
に拙者は
何方
(
いづかた
)
に參るも帶劔を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
その用事が、片付くと客は、取って付けたように、政局の話などを始めた、父は
暫
(
しば
)
らくの間、興味の乗らないような
合槌
(
あいづち
)
を打っていた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
チョコレートの削ったのなら上等ですけれども代価が高くなりますからココアを半斤に砂糖半斤へ少し水を加えて
暫
(
しば
)
らく煮詰めて
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
「そうそう、夕方から待たせてあったな。待ちくたびれたと見える。もう
暫
(
しば
)
し
怺
(
こら
)
えておれと申せ。間もなく、寝所へまいるほどに」
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
吉良の家を出て
暫
(
しば
)
らく歩くうちに、高雄は
躯
(
からだ
)
に不快な違和を感じた。発熱でもしたようで、頭がぼんやりし、
膝
(
ひざ
)
から下がひどく重かった。
つばくろ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
額は血が
上
(
のぼ
)
って熱し、眼も赤く充血したらしい?
茲
(
ここ
)
に倒れても詩の大和路だママよと
凝
(
じっ
)
と私は、目を
閉
(
つむ
)
って
暫
(
しば
)
らく土に突っ立っていた。
菜の花物語
(新字新仮名)
/
児玉花外
(著)
暫
(
しば
)
らく、道の上に立って、遠くに響く波音を聞き取ろうとした……何の音も聞えて来ない。人も来なければ、犬の
啼声
(
なきごえ
)
もしないのである。
薔薇と巫女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
もし一度で理解することができなければ、
暫
(
しば
)
らく間をおいて再び読むようにするが好い。努力して読書する習慣を作ることが大切である。
如何に読書すべきか
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
余は驚きの余り
蹌踉
(
よろめ
)
きて倒れんとし
纔
(
わずか
)
に傍らなる柱につかまり我が身体を支え得たり、支え得しまゝ
暫
(
しば
)
しが程は
殆
(
ほとん
)
ど身動きさえも得せず
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
「……」博士は無言で、
暫
(
しば
)
しは口をモゾモゾせられたが、これは
変者
(
かわりもの
)
をもって鳴る博士の
性状
(
せいじょう
)
として「
然
(
しか
)
り」を意味するものに
外
(
ほか
)
ならぬ。
キド効果
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
私の胸中は、まだ
憤懣
(
ふんまん
)
に
充
(
み
)
ちてゐた。私はそれを訴へたい為に、広小路の方まで歩くと云ふK君と
暫
(
しば
)
らく一緒に歩くことにした。
良友悪友
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
暫
(
しば
)
らくして発作の反動が来た。代助は己れを支うる力を用い尽した人の様に、又椅子に腰を卸した。そうして両手で顔を抑えた。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
暫
(
しば
)
し
浴後
(
ゆあがり
)
を涼みゐる貫一の側に、お静は
習々
(
そよそよ
)
と
団扇
(
うちは
)
の風を送りゐたりしが、
縁柱
(
えんばしら
)
に
靠
(
もた
)
れて、物をも言はず
労
(
つか
)
れたる彼の気色を
左瞻右視
(
とみかうみ
)
て
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
その
容子
(
ようす
)
では決してすれっからしの女でないことや、結婚したにしてもほんの
暫
(
しば
)
らく、半年くらいしか男にふれないようなところがあった。
三階の家
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
読者よ、今
暫
(
しば
)
らく詩人が空想の霊台に来りて彼が心に負へる無象の白翼を借り、高く吾人の民族的理想の頂上より一円の地球を
下瞰
(
かかん
)
せずや。
閑天地
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
そなたは推移の悲哀があろうと、生々と
暫
(
しば
)
しの間の若さと美くしさとを十分にたのしむことが出来るのじゃもの、何で死物が羨ましかろう。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
万葉集の長歌は
暫
(
しば
)
らく問はず、
催馬楽
(
さいばら
)
も、平家物語も、謡曲も、浄瑠璃も
韻文
(
ゐんぶん
)
である。そこには必ず幾多の詩形が眠つてゐるのに違ひない。
文芸的な、余りに文芸的な
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
(
暫
(
しば
)
しの沈黙。
梟
(
ふくろう
)
の声。やがて入口の戸をたたく音。おつやはぎょっとしたように、太吉の手をぐいと
曳
(
ひ
)
いて、
上
(
かみ
)
のかたに身を寄せる。)
影:(一幕)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
見つめらるる人は、
座客
(
ざかく
)
のなめなるを厭ひてか、
暫
(
しば
)
し
眉根
(
まゆね
)
に
皺
(
しわ
)
寄せたりしが、とばかり思ひかへししにや、
僅
(
わずか
)
に
笑
(
えみ
)
を帯びて、一座を
見度
(
みわた
)
しぬ。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
『
言海
(
げんかい
)
』を見るに邦語の「なぐさめ」はなぐより出た語であって(風がなぐ(凪)の類)、「物思いを晴らして
暫
(
しば
)
し楽む」を意味するという。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
それから
暫
(
しば
)
らくしてから『
千紫万紅
(
せんしばんこう
)
』という新らしい名で更に発行されたが、この『千紫万紅』は硯友社よりもむしろ紅葉一個の機関であって
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
暫
(
しば
)
らくする
中
(
うち
)
に、時々母がものを恵んでやつた貧乏のおばあさんが門から
這入
(
はい
)
つて来
升
(
まし
)
たが、間もなく下女の声ですげなく
黄金機会
(新字旧仮名)
/
若松賤子
(著)
傍の部屋で、小机に
凭
(
もた
)
れていたわかい番人がひょいと頭をあげた。彼は目を三角にして
暫
(
しば
)
らく見あげ見おろすのであった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
悲哀の念急に迫りて、同志の手前これまで
堪
(
こら
)
えに堪え来りたる望郷の涙は、
宛然
(
さながら
)
に
堰
(
せき
)
を破りたらんが如く、われながら
暫
(
しば
)
しは顔も得上げざりき。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
與吉
(
よきち
)
は
紙包
(
かみづゝ
)
みの
小豆飯
(
あづきめし
)
を
盡
(
つく
)
して
暫
(
しば
)
らく
庭
(
には
)
の
騷
(
さわ
)
ぎを
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たが
寮
(
れう
)
の
内
(
うち
)
に
㷀然
(
ぽつさり
)
として
居
(
ゐ
)
る
卯平
(
うへい
)
を
見出
(
みいだ
)
して
圍爐裏
(
ゐろり
)
に
近
(
ちか
)
く
迫
(
せま
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
M君は、風をくらうと、
暫
(
しば
)
らくは激しく
咳
(
せ
)
きこんだ。その
癖
(
くせ
)
、どっか家ン中か、
木蔭
(
こかげ
)
に入ろうと云っても
諾
(
き
)
かなかった。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
「こんなところに、こんな難所があるとはおもわなかった」将校も、操縦の下士も、あまりの物凄さに、
暫
(
しば
)
し
見惚
(
みと
)
れた。
怪奇人造島
(新字新仮名)
/
寺島柾史
(著)
座
(
ざ
)
が
白
(
しら
)
けて、
暫
(
しば
)
らく
言葉
(
ことば
)
が
途絶
(
とだ
)
えたうちに
所在
(
しよざい
)
がないので、
唄
(
うた
)
うたひの
太夫
(
たいふ
)
、
退屈
(
たいくつ
)
をしたと
見
(
み
)
えて
顔
(
かほ
)
の
前
(
まへ
)
の
行燈
(
あんどう
)
を
吸込
(
すひこ
)
むやうな
大欠伸
(
おほあくび
)
をしたから。
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
ト云ッて顔を
皺
(
しか
)
めたが、お勢はさらに気が附かぬ様子。
暫
(
しば
)
らく黙然として何か考えていたが、
頓
(
やが
)
てまた思出し笑をして
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
それがどの程度の確実さがあるかどうか、とにかく皆は
此処
(
ここ
)
をやめると、又
暫
(
しば
)
らくの間仕事に有りつけないので、知らずにその事を当てにしていた。
党生活者
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
靜
(
しづ
)
かなよひで、どことはなしに青
葉
(
は
)
の
香
(
か
)
をにほはせたかぐはしい
夜風
(
よかぜ
)
が
庭
(
には
)
先から
流
(
なが
)
れてくる。二人の
間
(
あひだ
)
にはそのまま
暫
(
しば
)
らく
何
(
なん
)
の詞も交されなかつた。
夢
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
庭を回って貞子の部屋のぬれ縁から上った二人は、
暫
(
しば
)
らくは互いに黙って向いあっていたが、やがて貞子はふところから白い封筒の手紙をとり出し
妻の座
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
「えゝ、猫は居なかったやうですよ。きっと居ないんです。ずゐぶん
暫
(
しば
)
らく、私はのぞいてゐたんですけれど、たうとう見えなかったのですから。」
二十六夜
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
と言ひ棄てて
起
(
た
)
ち上らんとする松本を、
暫
(
しば
)
しとばかり浦和は制しつ「失礼の様ですが私には
未
(
ま
)
だ理解が出来ません」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
語る者さも無念らしく語りぬ。これを聞きたるばかりにてわれは覚えず涙ぐみたり。
暫
(
しば
)
らくは話とぎれて一本の
蝋燭
(
ろうそく
)
は暗き室の内に気味悪き光を放ちぬ。
従軍紀事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
依
(
よ
)
ってこれを許し、さらに文化十一年に到りて、択捉以南を
我
(
わが
)
地となし、中間にウルップ島を置き、シモシリ以北を露領となし、事
暫
(
しば
)
らく
平
(
たいら
)
ぐを得たり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
やがて
暫
(
しば
)
しの後、彼女の後姿が、混合酒の触感を
撒
(
ま
)
いて廊下から消えると、私は地下室の湯殿で未来を夢みる。
恋の一杯売
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
W氏ははじめ少しく当惑したらしく見えましたが、
暫
(
しば
)
らくの間、真面目顔になって考え、それから言いました。
印象
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
「このお部屋、
大旦那
(
おおだんな
)
が母屋へお越しになってから、
暫
(
しば
)
らく木ノさんがいらしったんでしょう……」と云った。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
“暫”の解説
『暫』(しばらく)は、歌舞伎の演目で歌舞伎十八番の一つ。時代物。荒事の代表的な演目である。
(出典:Wikipedia)
暫
常用漢字
中学
部首:⽇
15画
“暫”を含む語句
暫時
暫々
天路行人喜暫留
暫定的
若暫時
人我暫時情
若暫持
翠暫
猶暫
暫留
暫有
暫時間
暫時前
暫定
女暫
伊達姿女暫
今暫