)” の例文
旧字:
美貌の源氏が紫を染め出したころの白菊をかむりして、今日は試楽の日にえて細かな手までもおろそかにしない舞振りを見せた。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そういいながら、その若い男は、ぼくを穴の中へんだ。私はこの意外な出来事に、夢かとばかりおどろき、そして胸を躍らせた。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
お作は何やら糸織りの小袖に着換えて、派手な花簪はなかんざしし、長火鉢の前に、灯影ひかげそむいて、うつむいたままぽつねんと坐っていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この間宿の客が山から取って来てへいした一輪の白さと大きさとかおりから推して、余は有るまじき広々としたを頭の中に描いた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんないたづらをして私達の間へ水をさうとするなんて、何と云ふ嫌な人だらう、誰がその手に乗つてやるもんか、と云ふことだつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
座敷の広間には長き食卓へ清らけき布をかけ、卓上の器物はいうも更なり、花瓶にしたる美しき花々はおのずから人の眼をよろこばしむ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
花瓶かびんの中の水は凍りつめているのに、買ってした南天の実は赤々と垂下って葉も青く水気を失わず、活々いきいきと変るところが無い。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蒲田はしばらく助太刀の口をつぐみて、皺嗄声しわがれごゑ如何いかに弁ずるかを聴かんと、吃余すひさしの葉巻を火入ひいれして、威長高ゐたけだかに腕組して控へたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
九日ここぬかはいつよりもはや起出おきいでて、草の屋の五八むしろをはらひ、黄菊しら菊二枝三枝小瓶こがめし、五九ふくろをかたぶけて酒飯しゆはんまうけをす。老母云ふ。
「へい、へい。関取のお弟子さんがた。その、腰に柄太鼓えだいこした若い旅商人というのは、この部屋のお客でございますがね」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御小刀おこがたなの跡におう梅桜、花弁はなびら一片ひとひらかかせじと大事にして、昼は御恩賜おんめぐみかしらしかざせば我為わがための玉の冠、かりそめの立居たちいにもつけおちるをいと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ある朝の事、軍曹は洋袴ヅボンの隠しに両手をし込んだ儘、妙に悄気しよげた顔をして入つて来た。それを見た俘虜の一にんが訊いた。
そら、狸だというので逃げ出す。大小をした奴は、刀の反りを打ってくうにらんで通る。随分悪いいたずらをしたものさね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、彼女は言い足して、わたしの短い上着のボタンに、バラの花をしてくれた。——「わたしの御寵愛のしるしよ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
『まあ見事みごと百合ゆりはな……。』わたくしおぼえずそうさけんで、巌間いわまからくびをさししていた半開はんかい姫百合ひめゆり手折たおり、小娘こむすめのように頭髪かみしたりしました。
「ありがとう。」と君は受取り、無雑作に花をして、「これは後で、竹さんにでも挿し直していただくんだな。」
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その時ツァウォツキイは二色のずぼんを穿いていた。一本の脚は黄いろで、一本の脚は赤かった。髪の毛の間にははでな色に染めた鳥の羽をしていた。
中央に地蔵尊を彫り、かたわらに一人の僧が敬礼をしており、下の方に、花瓶かびんれんしてある模様が彫りつけてある。
それを土に埋めて、中に水を入れ、上の白い花の枝を手折ってして、うずくまって、神に死児の冥福めいふくを祈った。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……こゝの此の書棚の上には、花はちょうしてなかつた、——手附てつきの大形の花籠はなかごと並べて、白木しらききりの、軸ものの箱がツばかり。其の真中のふたの上に……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかしその多くはぐらぐらで、かぎの必要はなく、ちょっと引張れば錠前ごと抜けてしまい、出てゆくときには元のようにし込んでおけばいいのであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時はちょうど五月の初めで、おきよさんという十五、六の娘が、菖蒲しょうぶ花瓶かびんしていたのを記憶している。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その枕元の茶器棚には、可愛い桃の小枝をした薬瓶が乗っかっている。妙な、トンチンカンな光景……。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
背後うしろに積重ねてある夜具へ体をもたせかけ、焦心あせっている眼で、お力が持って来て、まだ瓶にもさず、縁側に置いてある椿つばきの花を見たり、舞込んで来たちょう
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかもそのピアノの上には、季節にはまだ早すぎる薔薇ばらの花が、無造作むぞうさに手頃な青銅の壺へしてあった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
謙作はこせこせとワイシャツを着、ズボンをけ、靴もあるので靴も穿き、それから上衣うわぎに手をしながら見ると、時計も紙入かみいれもちゃんと箱の中に入れてあった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そしてお八重は、其奧樣のお好みで結はせられたと言つて、生れて初めての庇髮に結つてゐて、奧樣から拜領の、少し油染みた焦橄欖こげおりいぶのリボンを大事相にしてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
引倒そうとする糞力に幸兵衛はかないませんから、して居ります紙入留かみいれどめの短刀を引抜いて切払おうとする白刄しらはが長二の眼先へひらめいたから、長二もぎょッとしましたが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
断髪してることを忘れて速記ステノグ用の鉛筆を頭へそうとしてはよく下界へ落とすと言われている。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
している。……なあ伝兵衛、そういう櫛に日の光がクワッと当るとどういうことになると思う
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それから後にまた或夜非常に煩悶してしかたのなかった時にふと思いついて枕元にあったオダマキの花の一枝が一輪ざしにしてあったのを、今度は墨で輪廓を取って見た。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鼠蹊部そけいぶの上に膿傷のうしやうが出来て、どうにも手術をして、排膿用のゴム管をし込まなければならなくなり、非常の容態になつたが、邦子はじいつと病気に耐へて手術もしないで
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
根のない木を土にしたものは生気がない。根の深い木には生気が充実している。またこういうことを造庭師から聞いた。庭にある石は唯石を地上に置いただけでは力がない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お君はそれを銚子の間にし込んで歩みを移そうとした途端に、よろよろとよろめき
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小さな卓の花瓶かびんにコスモスの花が、あかい小さなボンボンダリアと一緒にしてあるのが眼に留ると、彼は一昨日は見なかったダリアの花に、ささやかな変化を見出みいだすのではあったが
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
母は私の髪をきつけて、それを頭にしてくれた。着物は無論不断着ふだんぎ一つしかないのだから新しいのにはえてくれなかったけれど、でも、きちんと格好よく着せなおしてくれた。
持っていった薔薇ばらを喜んで花瓶にして、その日薔薇の花弁はなびらより、もっともっと青白い顔で天井をみつめながら、あえぎ、ポツリポツリ、話していたあの時の姿が、眼に見えるような気がする。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
必要ひつようおうじて圖畫ずがのようなものもれなければならぬのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そしてこの手拭の輪の中になにか木片でもし込んで、ギリギリ廻しながら手拭の輪を締めあげるんだ。すると二本の鉄棒は、すぐに曲がって窓枠の枘から外れてしまう。……なんでもないよ。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
大きな黄楊の梳き櫛を、大家の内儀が髪にして歩くはずもありません。
多くの読者はあるいは自分の郷里ばかりの一些事さじなりと考えられるか知らぬが、小児が土筆をはかまの部分から二つに折って、そっと元の通りにして置いて、どこで続いだかをてさせる遊戯は
錠をおろしてあるのではないが、どうしてもあかないので、結局その隙間すきまのみの刃をし込んで、ようようにこじあけると、抽斗のなかには、はなはだ簡単な化学機械が順序正しくならんでいた。
常陸ひたち筑波郡今鹿島は、昔領主戦場に向うに先だちこの所に山茶一枝をし、鹿島神宮と見立て祈願すると勝利を得たからその地を明神として祀り今鹿島と号すと(『郷土研究』四巻一号五五頁)。
書棚の上のベルギイ・グラスの花立はなだてした桔梗ききやうの花のいくつかのしほれかかつてゐたのが今でもはつきり眼の前に浮んでくるが、その時こそ、私は處女作しよぢよさく「修道院の秋」の最後の一行を書き終つて
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
シカシ人足ひとあしの留まるは衣裳附いしょうづけよりはむしろその態度で、髪もいつもの束髪ながら何とか結びとかいう手のこんだ束ね方で、大形の薔薇ばら花挿頭はなかんざしし、本化粧は自然にそむくとか云ッて薄化粧の清楚せいそな作り
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ぬばたまの夜の黒髪にすヒラヒラする銀紙の花簪はなかんざし、赤いもの沢山の盛装した新調の立派な衣裳……眉鼻口まゆはなくちは人並だが、狐そっくりの釣上つりあがった細い眼付めつきは、花嫁の顔が真白いだけに一層いっそうすごく見える。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
食堂にすようにってね。(ドゥニャーシャに花束をわたす)
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
髪にせばかくやくと射る夏の日や王者わうしやの花のこがねひぐるま
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
駅夫が屋根をどし/\踏んで、上からいた洋燈らんぷし込んで行く。三四郎は思ひ出した様に前の停車場で買つた弁当を食ひ出した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こんないたづらをして私達の間へ水をさうとするなんて、何と云ふ嫌な人だらう、誰がその手に乗つてやるもんか、と云ふことだつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)