心得こころえ)” の例文
このごろは体がだるいと見えておなまけさんになんなすったよ。いいえ、まるでおろかなのではございません、何でもちゃんと心得こころえております。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここにおいてわがはいは日々の心得こころえ尋常じんじょう平生へいぜい自戒じかいをつづりて、自己の記憶きおくを新たにするとともに同志の人々の考えにきょうしたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「いいつけをまもって、すなおにはたらく者へは、後日ごじつ、じゅうぶんな褒美ほうびをくれるし、とやこう申すやつはってすてるからさよう心得こころえろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうくりかえしくりかえしいった、それからご飯のときの心得こころえや、挨拶あいさつの仕方までおしえた。そういうことは母は十分にくわしく知っていた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ミハイル、アウエリヤヌイチもやはり、しょっちゅう、アンドレイ、エヒミチを訪問たずねてて、気晴きばらしをさせることが自分じぶん義務ぎむ心得こころえている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
お殿様は朝寝坊あさねぼうだから、内藤さんは十時ごろまで待たされた。しかしそのあいだに富田さんから、なおいろいろとお学友の心得こころえをうけたまわった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのうえおまえをやしなっていては、自分たちがえて死ななければならないと思っているのだ。そこでおまえにひとつ心得こころえてもらいたいことがある。
たか大家たいかと云はれてたさに無暗むやみ原稿紙げんかうしきちらしては屑屋くづや忠義ちうぎつくすを手柄てがらとは心得こころえるお目出めでたき商売しやうばいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
私は金銭の事を至極しごく大切にするが、商売ははなはだ不得手である、その不得手とはあえて商売の趣意を知らぬではない、その道理は一通ひととお心得こころえて居るつもりだが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
村の人達は前日のうわさでもうよく心得こころえていますので、大根だのごぼうだのいもだのいろんな野菜をやりました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「あたしは、サービスに心得こころえがあるから、これから、毒瓦斯避難所どくガスひなんじょへ行って、老人や子供の世話をするわ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、そうであろうが、なかなか感心かんしん人間にんげんだ。ほどよいほどに、ちゃわんをつくっている。ちゃわんには、あつちゃや、しるれるということをそのものは心得こころえている。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしがなにぶん性分しょうぶんがわるいものですから、わたしも自分の性分しょうぶんがわるいことは心得こころえていますけれども、どうもその今日こんにちをおもしろくらすという気になれませんで
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
元々もともと武芸ぶげい家柄いえがらである上に、まれ弓矢ゆみや名人めいじんで、その上和歌わかみちにも心得こころえがあって、礼儀作法れいぎさほうのいやしくない、いわば文武ぶんぶ達人たつじんという評判ひょうばんたかい人だったのです。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
現世げんせ方々かたがたが、なにいてもだい一に心得こころえかねばならぬのは、産土うぶすな神様かみさまでございましょう。
その頃のは西洋の礼式というものを殆んど心得こころえなかったから、訪問時間などという観念を少しもさしはさむ気兼きがねなしに、時ならず先生を襲う不作法ぶさほうを敢てしてはばからなかった。
腸窒扶斯ちょうチフスかかりたるとき、先生、とくまげられ、枕辺まくらべにて厚く家人に看護かんご心得こころえさとされ、その上、予がみずからきたる精米せいまいあり、これは極古米ごくこまいにして味軽く滋養じようも多ければ
堪忍かんにんしとくれ! 父さんが心得こころえ違いをしたばっかりに何にも知らないお前にまで苦労をさせて、ほんとうに済まない。だけどねふみ子、お父さんはいつまでもこんなに貧乏してはいないよ。
しかるに歌よみは調はすべてなだらかなるものとのみ心得こころえ候とあい見え申候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
筆法以外医道の心得こころえもあり、またく禅を談じたが、一旦中絶して行方が知れず、どうした事かと思っていると、或る時村の者が京に上るみちで、これも大津の町で偶然にこの梅菴に行逢ゆきあうた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やはり、兵太郎君は、じょうだん半分と心得こころえてくるっているらしい。
久助君の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
湖畔の逍遥かられだって帰って来た二人は彼のへやで遅くまで話した。女は伯母おばの家で作ったと云う短歌を書いたノートを出して見せたり、短歌の心得こころえと云うようなありふれた問いを発したりした。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
習っていたこの者親の身代しんだいを鼻にかけどこへ行っても若旦那わかだんなで通るのをよい事にして威張いばくせがあり同門の子弟を店の番頭手代並みに心得こころえ見下す風があったので春琴も心中面白くなかったけれども
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おっとみなまでのたまうな。手前てまえ孫呉そんごじゅつ心得こころえりやす」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
心得こころえた」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
それを双方そうほう心得こころえちがいをして、かくべつべつに取りちがえてきた以上いじょう、この遠駆とおが試合じあいは、やりなおしか、互角ごかくとするよりほかはありますまい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正三君はこの安斉あんざい先生に主事室へ呼びつけられてお学友の心得こころえを申し渡された。それは生まれてはじめてよそにまって心細い一夜をすごした翌朝よくあさだった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一時は猫も杓子も有頂天になって、場末のカフェでさえが蓄音機のフォックストロットで夏の夕べを踊り抜き、ダンスの心得こころえのないものは文化人らしくなかった。
彼は長身の好男子だったし、それに音楽にも素養そようがあるし、タップ・ダンスはことに好きで多少の心得こころえがあったので、この思い切った就職をジュリアに頼んだわけだった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうだ。それにこれだけのことは話してもいい」と少年はつづけた。「きみももしあの人を親方に持つんだったら、心得こころえになることだからね。ぼくの名前はマチアと言うよ。 ...
じゅうぶん心得こころえている花前は、なんのもなくはね牛の乳をしぼってしまった。主人は安心あんしんすると同時どうじに、つくづく花前の容貌風采ようぼうふうさい注視ちゅうしして、一種の感じをきんじえなかった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
これは氏子うじことして是非ぜひ心得こころえかねばならぬこととぞんじられます。もっともそのお仕事しごとはただ受附うけつけてくださるだけで、直接ちょくせつ帰幽者きゆうしゃをお引受ひきうくださいますのは大国主命様おおくにぬしのみことさまでございます。
(そうだろうとも、だれが、こんなものをてやるものだ。このばかなおんなでもなければ、一目ひとめかえすにちがいない。いったい、医者いしゃというものをなんと心得こころえているのだろう。)
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
他人を踏台ふみだいとしたり甚だしきは友人までも売って位地をめんとしたら、これまた勝利にあらずして敗北はいぼくなりと心得こころえ、よし名を挙げるにしても、卑劣ひれついやしき方法によりて得たならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ずッと心得こころえつもりじゃったが、さてあがる時見ると思いのほか上までは大層高い。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ソレに和蘭オランダの学問とは何たる心得こころえ違いか、呆返あきれかえった話だとか何とか叱られたその言葉の中に、叔父が私をひやかして、貴様のようなやつ負角力まけずもう瘠錣やせしこうものじゃと苦々にがにがしくにらみ付けたのは
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「で、これは家康公の直命じきめいにひとしいのだから、鉱山へいくとちゅうで、イヤのおうのとしぶるやつは、ようしゃなくッたるからさよう心得こころえろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その医者いしゃは、音楽おんがく神経しんけい関係かんけいをば、かなりふか心得こころえていたからでありましょう。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「まあ、だいたいこういう心得こころえでご奉公をしてください。生はかたく死はやすし。むやみに命を捨てては困る。ただ精神を忘れなければよろしい。それからこの紙を持って行って座右ざゆうめいになさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まず、第一に、自分たちがまだ子供であるということをよく心得こころえて、決してあやうきにちかよらぬこと。第二に、何か変ったことを発見したら、すぐに警察へ報告し、みずからは手だしをしないこと。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の心得こころえの最善をつくせば無作法もゆるされる
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
沢は実は其段そのだん心得こころえて居た、為に口籠くちごもつた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人の先を越してバラバラと、心得こころえ顔に廊下の外へ駆け出しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、使つかわれるものの心得こころえおくべきことだ。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)