おど)” の例文
のみならず、矢竹の墨が、ほたほたと太く、みのの毛を羽にはいだような形を見ると、古俳諧にいわゆる——狸をおど篠張しのはりの弓である。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おせっかいだっちゃありゃしない」荒木夫人は、おどしつけるようにいったけれど、あなたは、めげずにめつけて、声を張りあげ
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
貸金かしきんの催促方なぞに頼まれて掛合にきまして、長柄ながつかへ手を掛け、おどかして金を取って参りますから、調法ゆえ百姓が頼みますので
抜いてただおどすだけならまだしも、百姓を呪い、水戸を憎む一念が、つい知らず、その抜いた脇差の切先まで感電してしまったので
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ビユツフオンの飼つてゐたシンパンジイ種の猿は、主人の好いた或る女が来る度に厭がつて、主人の杖を持ち出しておどしたさうだ。
(新字旧仮名) / ジュール・クラルテ(著)
おどかして、此の室で寝ぬ様にさせ、爾して又緩々ゆるゆると来る積りです、血の落ちて居たのは必ず其の盗坊が何うかして怪我をしたのでしょう
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ソレはつまらない、君はこれもっおどすつもりだろうが、長い刀を家において今の浪人者をおどそうといっても、威嚇おどかしの道具になりはしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうして、墨をよこさなければ帰りに待伏せするとおどかされ、小刀をくれないとしでるぞ(ひどい目に合わせる)と云っては脅かされた。
鷹を貰い損なった話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おかみさんから立退きを迫られて、口から出まかせなことを云ったときにも、嘉吉としては、おかみさんをおどすつもりは少しもなかった。
早春 (新字新仮名) / 小山清(著)
二月ふたつきの後、たまたま家に帰って妻といさかいをした紀昌がこれをおどそうとて烏号うごうの弓に綦衛きえいの矢をつがえきりりと引絞ひきしぼって妻の目を射た。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
などとおどす。大学出身の高官たちは得意そうに微笑をして、源氏の教育方針のよいことに敬服したふうを見せているのであった。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昔なら、危険をおかしてでも外に出て、口笛を吹いたり、歌をうたったり、足を踏みならしたりして、さかんに相手をおどかそうとしたものだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
松井総助が喚くと、酔ったまぎれに半分はおどしで大剣を抜いた。ところがその白刃の光を見ると市田銀造が前後の分別を失って
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あそこにアイスフォオゲルのいえがある。どこかあのへんで、北極探険者アンドレエの骨がさらされている。あそこで地極ちきょくが人をおどしている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
「秘密の何のと言やあ、馬鹿野郎ばかやろう、驚くとでも思っていやがるのか? てめえらにおどかされてどうなるんだ? 馬鹿野郎め、何が秘密だ?」
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「さうだらう、おどかしに過ぎない」とは口に出さないで、するりと顏をかの女の方から遠ざけて起き上り、「なによウする!」
女を連れた野辺の帰りに日が暮れて、朧夜のほの暗い道を帰って来る、供の草履取が女たちをおどすべく化物の真似をした、というのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
... とく思量しあんして返答せよ」ト、あるいはおどしあるいはすかし、言葉を尽していひ聞かすれば。聴水は何思ひけん、両眼より溢落はふりおつる涙きあへず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
真そこから泣き、笑い、怒り、怨み、ね、甘ったれ、しなだれかかり、おどし、すかし、あやなす事が出来るのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なに、あなたの身体からだは私達がどんな事があってもまもります。あなたは誰かにおどかされているんでしょう。威かされて、手伝いをしたんでしょう」
「昔はこの木曾山の木一本ると、首一つなかったものだぞ」なぞと言って、陣屋の役人からおどされたのもあの時代だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこでそのわざわいを解く法だが、余計は要らないからお礼としてたった三十元お出しなさい、早く出さなけりゃ遅れると大変だぞと言っておどしつけた。
つのるに於ては是非に及ばず此大勢おほぜいにて半年又は一年かゝりても澤の井の出所しゆつしよ調しらべねばならぬぞ左樣さやうに心得よと威猛高ゐたけだかになりておどすにぞ村中の者きも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これまで猩々がれ出すと、鞭でおどすことにしてゐたので、今度も鞭を出した。猩々は鞭を見るや否や、直ぐに戸口から走り出て梯子を駆け下りた。
晏嬰あんえいすなは田穰苴でんじやうしよすすめていはく、『穰苴じやうしよ田氏でんし(四)庶孽しよげつなりといへども、しかれども其人そのひとぶんしうけ、てきおどす。ねがはくはきみこれこころみよ』
太刀抜きておどせどいよいよ吠え掛かる、こんな狭い処で咋い付かれてはと思うて外へ飛び出る時、その狗主人がいた洞の上方に踊り上り物に咋い付く
仮令たとい泥棒にもせよ、貴様程の奴が、姿を現してくれたのだから、一概に野暮やぼな業もせぬつもりだ。こう申したとて、貴様をおどそうとする気持ではない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
猫ちゃんが毎日のように音楽学校へ行く行くとおどかすようになってからは、発作がますます頻繁になって来た。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
で、たいていな妓は、喜楽の女将の言うことに逆らわなかった。けれども、そのおりのお鯉は、とてもそうしたおどしでは駄目だと炯眼けいがんな女将は見てとった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
燕王乃ち館陶かんとうより渡りて、東阿とうあを攻め、汶上ぶんじょうを攻め、沛県はいけんを攻めて之を略し、遂に徐州じょしゅうに進み、城兵をおどしてあえて出でざらしめて南行し、三月宿州しゅくしゅうに至り
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから私はじっと眺めて居りますと「逃げて見ろ、逃げるとこれで打ち殺してやるから」とおどし付けたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そして私の家では私達が言うことを聞かない場合には「アレ日本人ヤマトンチュードー」といって、私達をおどすのであった。
私の子供時分 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
溶かすとおどかしても、彼等は、そのままに、飛行機に分乗して、危機を脱することが出来るじゃありませんか
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
西山は軽薄という言葉を聞くとしゃくにさわったが、柿江の長談義を打ち切るつもりでおどかし気味にこういった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
とか何とか程よくおどしましたんでね、元も子もくしちゃ大変と、首をつないでおいて、下郎風情があのような別嬪べっぴんを私するとは不埓至極じゃ、分にすぎるぞ。
訳を云ひて頼めども聞かぬゆゑ、おどしのためにぬきし刀にて、誤り殺すと云ふ仕悪しにくき仕草をも、充分たっぷりにこなしたり。この役はこの人の外やつて見る人もあるまじ。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
口から出まかせにしゃべくってこっちをおどしあげ、お布施でもたんまりせしめようという魂胆こんたんでしょうが、それにしては、すこしやり方があくどすぎるようです。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
取外とりはずして言いかけて倏忽たちまちハッと心附き、周章あわてて口をつぐんで、吃驚びっくりして、狼狽ろうばいして、つい憤然やっきとなッて、「畜生」と言いざまこぶしを振挙げて我と我をおどして見たが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
蔭口かげぐちや皮肉をとばす、整調森さんの意地悪さ、面とむかって「ぶちまわすぞ」とおどかす五番松山さんのすさまじさ、そうした予感が、えがたいまでに、ちらつきます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
思ひ切つて置いては來たれど今頃は目を覺して母さん母さんと婢女をんなどもを迷惑がらせ、煎餅おせんやおこしのたらしも利かで、皆々手を引いて鬼に喰はすとおどかしてゞも居やう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うつかり帰ると待つてゐましたとばかり徴用されるぞ——そんなことを言つておどかす友人もゐた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
かれはそれでもこんよくしろ瓦斯絲ガスいと縱横じゆうわうはたけうへつてひら/\と燭奴つけぎつておどしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かつまた人をおどしてつのは、みずからずべき下劣げれつなる勝利である。また個人々々の一身上にとりても攻撃的態度をもって他人にせまる必要は、はなはだ少ないと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「君のところには、取り立て未了みりょうの罰金がすこぶる多くて責任額にも達しないじゃないか。あまり成績が悪いと気の毒だが、退職して貰わにゃならぬぞ」とおどされたのである。
一九五〇年の殺人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その晩私は寐間のかくれ家から無理やりに茶の間の白洲しらすへひきたてられておどしつすかしつすすめられたけれど心をきめてがんばつてたら兄がいきなり衿くびをつかまへ妙なことを
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
理智に強い男親には頭があがらない。その分情愛にもろい女親を附け込む。男親には一も二もない。女親は場合によっておどしつける。使い分けをして甚だ宜しくない心掛けだった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お前等三人は俺をおどかしてここへ連れて来ただろう。そしてこんな女を俺に見せただろう。お前たちは此女を玩具おもちゃにした挙句あげくだこの女からしぼろうとしてるんだと思ったんだ。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
どなっておどかしたり、泣いてすかしたり、そりゃもう大へんな騷動なんですが、なあに僕たち、びくともしませんや! それはそうとあの人はじつに飮みますねえ、あんたの前ですが
新任しんにん奉行ぶぎやうひかるので、膝元ひざもとでは綿服めんぷくしかられない不平ふへいまぎらしに、こんなところへ、黒羽二重くろはぶたへ茶宇ちやうはかまといふりゆうとした姿すがた在所ざいしよのものをおどかしにたのだとおもはれたが
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その女子の意志の自由にゆだぬといへど、そは只だ掟の上の事のみにて、まことは幼きより尼のよそほひしたる土偶にんぎやうもてあそばしめ、又寺に在る永き歳月の間世の中の罪深きを説きてはおどしすかし