取次とりつぎ)” の例文
私が新銭座に一寸ちょいと住居すまいの時(新銭座塾にあらず)、誰方どなたか知らないが御目に掛りたいといっておさむらいが参りましたと下女が取次とりつぎするから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大伴の表へは水を打って掃除も届き、奥には稽古を仕舞って大伴蟠龍軒兄弟が酒宴さかもりをしている。しばらくして「玄関に取次とりつぎがあるよ、安兵衞やすべえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どんな容子の人だとくと、かばんを持ってる若い人だというので、(取次とりつぎがその頃わたしが始終げていたかわ合切袋がっさいぶくろを鞄と間違えたと見える。)
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
鼻緒の二本が右左みぎひだりで色が違ふ。それで能く覚えてゐる。いま仕事中しごとちうだが、ければあがれと云ふ小女こをんな取次とりつぎいて、画室へ這入はいつた。ひろい部屋である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「但馬守涼朝すけともの老職、曾根権太夫がお迎えに参ったと御前体ごぜんていよしなにお取次とりつぎいたしてくれ。わしはここに控えておる」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、足まめにして親切で売ることにしよう。しかし、いかに俗にちればとて、世間医のやる幇間ほうかん骨董こっとう取次とりつぎと、金や嫁の仲人なこうど口だけは利くまい
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
まくにてかへらんとせしに守る者木戸をいださず、便所べんじよは寺のうしろにあり、空腹くうふくならば弁当べんたうかひ玉へ、取次とりつぎ申さんといふ。我のみにあらず、人も又いださず。
ときあたかも、きやくくわいしたところ入口いりくち突伏つツぷして下男げなん取次とりつぎを、きやく頭越あたまごしに、はな仰向あふむけて、フンと
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
召れ天下の一大事に付將軍へ御逢おんあひため登城に及べり此段このだん取次とりつぎ申せとの仰なれば主計頭其趣きを言上におよばれける將軍家聞し食させ大におどろかせ給ひ早速御裝束ごしやうぞく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それも政府が地方の役所に命令を伝える時に限って行いますので、平生普通の手紙の往復は取次とりつぎがない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
にとりつあさからぬおこゝろかたじけなしとて三らうよろこびしとたへたまほかならぬひと取次とりつぎことさらうれしければ此文このふみたまはりて歸宅きたくすべしとて懷中ふところおしいれつゝまたこそと
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大目附近藤相模守こんどうさがみのかみをはじめ、久世大和守くぜやまとのかみ、牧野備中守、岩城播磨守いわきはりまのかみ、お側御用そばごよう取次とりつぎ水野出羽守、それに、若年寄の加納遠江守とおとうみのかみ、米倉丹後守、安藤対馬守あんどうつしまのかみ太田若狭守おおたわかさのかみ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
当時或る洋学者の家などにはこの種の外国人がしきりに来訪らいほうして、前記のごとき計画けいかくを説き政府に取次とりつぎを求めたるもの一にしてらざりしかども、ただこれを聞流ききながして取合とりあわざりしという。
次いで首領はせがれと渡辺とを見舞によこした。筆者は病中やう/\の事で訴状を書いた。それを支配を受けてゐる東町奉行に出さうには、取次とりつぎを頼むべき人が無い。そこで隔所かくしよ見計みはからつて托訴たくそをする。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし私の手蹟じゃ不味まずいから長州の松岡勇記まつおかゆうきと云う男が御家流おいえりゅうで女の手にまぎらわしく書いて、ソレカラ玄関の取次とりつぎをする書生に云含いいふくめて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まくにてかへらんとせしに守る者木戸をいださず、便所べんじよは寺のうしろにあり、空腹くうふくならば弁当べんたうかひ玉へ、取次とりつぎ申さんといふ。我のみにあらず、人も又いださず。
「いや、おおやけ書態しょていでは、老中どもが見まいとも限らぬ。小姓組松平源次郎あて取次とりつぎをもって、よこしてくれい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乞ひければおくより竹具足たけぐそくつけいまめん小手こてを取たるばかりにてせい/\といききりながら一人の門弟もんてい取次とりつぎに出を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
玄関で、取次とりつぎの婆さんをつらまへて、宿やど蟇口がまぐちを忘れてたから、一寸ちよつと二十銭借してくれと云つた所などは、どうしても学校時代の平岡を思ひ出さずにはゐられない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
このやう取次とりつぎするなとさへおつしやりし無情つれなさ、これほどはぢをとこの、をめをめおやしきられねば、いとまたまはりて歸國きこくすべけれど、たま田舍ゐなかには兩親りやうしんもなく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
以前いぜん持主もちぬし二度目にどめのはお取次とりつぎ一人ひとり仕込しこんだおぼえはないから、ひとたちは無論むろんことみなと出入ではひる、國々くに/″\島々しま/″\のものにたづねても、まるつきしつうじない、希有けう文句もんくうたふんですがね
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其盤そのまゝ取次とりつぎいたすだけの事でござります。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
取次とりつぎに袴を着けた例の書生が現われた時は、少しきまりが悪かったが、まさかせんだっては失礼しましたとも云えないので、素知らぬ顔をして叮嚀ていねいに来意を告げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のべ加納大隅守殿の長屋を聞合きゝあはせ直樣宿所へ趣き案内をこひ大隅守殿へ御目通り仕つり度儀御座候に付町奉行越前守推參すゐさんつかまつり候御取次下さるべしと云に取次とりつぎの者此由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それも其筈そのはずむかしをくれば系圖けいづまきのことながけれど、徳川とくがはながすゑつかたなみまだたぬ江戸時代えどじだいに、御用ごようそば取次とりつぎ長銘ながめいうつて、せきを八まん上坐じやうざめし青柳右京あをやぎうきやう三世さんぜまご
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
所が珍らしい/\とばかりで、宝をもらったとかんがえ一寸ちょいとも顔色かおいろに見えない。昨日は誠に有難うといってその翌朝よくあさ内儀かみさんが花をもって来てれた。私はその取次とりつぎをしてひとひそかに感服した。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二度目のはお取次とりつぎ、一人も仕込んだ覚えはないから、其の人たちは無論の事、港へ出入る、国々島々のものに尋ねても、まるつきし通じない、希有けうな文句を歌ふんですがね、しらべて見ると
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
格子こうしを開ける時にベルが鳴ってますます驚いたとか、頼むと案内を乞うておきながら取次とりつぎに出て来た下女が不在るすだと言ってくれればよかったと沓脱くつぬぎの前で感じたとか
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其時、待ち設けてゐる御客がた。取次とりつぎ門野かどのは意外な顔をして這入つてた。さうして、其顔を代助のそば迄持つてて、先生、奥さんですとさゝやく様に云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が其他の点に於ては、尋常以上に情しよの支配を受けるべく余儀なくされてゐた。取次とりつぎ門野かどの足音あしおとてゝ、書斎の入口いりぐちにあらはれた時、血色けつしよくのいゝ代助のほゝかすかに光沢つやうしなつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
田舎いなかへ来て九円五拾銭払えばこんな家へはいれるなら、おれも一つ奮発ふんぱつして、東京から清を呼び寄せて喜ばしてやろうと思ったくらいな玄関だ。頼むと云ったら、赤シャツの弟が取次とりつぎに出て来た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)