功徳くどく)” の例文
賢明に死を予感して言うらしく他に見られるのもいかがと思いまして功徳くどくのことのほうも例年以上なことは遠慮してしませんでした。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「それにまた、この節はお湯が開けて、与八さんもいよいよ忙しいでしょうね、功徳くどくになっていいことですよ、人助けになりますよ」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上一人かみいちにんの位を望むべからずとの天戒を定め玉い、この天戒を守らばその功徳くどくに依って、DS の尊体を拝し、不退のらくを極むべし。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薯蕷じねんじやう九州きうしゆう山奥やまおくいたるまで石版画せきばんゑ赤本あかほんざるのなしとはなうごめかして文学ぶんがく功徳くどく無量広大むりやうくわうだいなるを当世男たうせいをとこほとんど門並かどなみなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
大臣だいじんたちはみんなおどろいて、太子たいしも、このこじきも、みんなただの人ではない、慈悲じひ功徳くどくの中の人たちにあまねくらせるために
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
先刻までお藤が待ちあぐんで、だいぶ冠を曲げて帰ったぞ、たまには宵の口に戻って、その傷面を見せてやれ、いい功徳くどくになるわ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
十七円もらっても十八円もらっても、祖母の家にいるほどよくないことをさとして、その上、祖母の家にいることの功徳くどくを数えたてた。
まあ泥棒さえしなければ好いとして、その他の精神器械は残らず相応に働く事ができるようにしてやるのが何よりの功徳くどくだと愚考する。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十萬世界の大地のちりは知人しるひともありなん。法華經ほけきやう供養の功徳くどくしりがたしとこそほとけはとかせ給てさふらへ、これをもて御心あるべし。
図書館に納めることが功徳くどくになるか、どうかすこぶる疑問だな、などと思いながら、彼は、渋紙を探して小包を作りにかかった。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これは何も自分たちが読むという目的よりは功徳くどくのためすなわち仏陀に供養くようすると同一の敬礼をもって供養するためであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これは十手じって捕縄とりなわ功徳くどくでした。どんな物騒な野郎も、お上の御用を勤めているとわかってる八五郎を誘う気遣いはありません。
おのれの功徳くどくによりまたは他人ひとの功徳により、かつてこの處をいでゝさいはひを享くるに至れるものありや、かれわがことばの裏をさとり 四九—五一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
湖の神の仰せがあった。老僧はかねがね放生ほうじょう功徳くどくが多い。そして、いま湖に入って、魚の如く泳ぎまわることを願っている。
四つの方便とは、布施ふせと愛語と利行りぎょうと同事ということです。布施とは、ほどこしで、一切の功徳くどくを惜しみなく与えて、他人を救うことです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「これこそ、ほんとに、爺さんの生涯の功徳くどくといふもんだ。わらも薪もから/\にてゐるから、さぞ、よう燃えさつしやるこつたらうてば。」
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
いっその事、死んだ親父の遺言通りに、この叔父の禿げた脳天をタタキ破ってやった方が功徳くどくになりはしまいか……なぞと考えた事もあった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
魔隠まかくしに逢った小児こどもが帰った喜びのために、一旦いったん本復ほんぷくをしたのだという人もありますが、私は、その娘の取ってくれた薬草の功徳くどくだと思うです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
凡そこゝに集へる人々は、その奉ずる所の教の新舊を問はず、一人として此自然の奇觀に逢ひて、天にいます神父の功徳くどくを稱へざるものなし。
おまえさんは、そのおかね開墾かいこんして、こまっているひとたちをすくってやりなさるがいい。そうするほうが功徳くどくになります。
武ちゃんと昔話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
造物主から受けた功徳くどくに、利息をつけて後代に伝える責任を、子供に期待きたいすることは愚なことかも知れないが、事実そんな期待をいだいている。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
国の臣等とともに深い哀愁をいだき、諸共に発願して、三宝に祈念し、一の釈迦如来の像——太子と等身なるを作り、その功徳くどくを以て、御病平癒へいゆ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その功徳くどくで百年ごとに一年ずつ命が増す、人寿八万四千歳に上りそれより八万歳を減ずる時賢劫の第五仏弥勒仏みろくぶつが出る。
「十万億土の夢を見て、豁然かつぜんとして大悟一番したんだ。一出家しゅっけ功徳くどくによって九族きゅうぞくてんしょうずというんだから素晴らしい。僕は甘んじて犠牲になる」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
年寄りをいたわってやって、よい功徳くどくをしたようにお峰親子は思った。しかもそれはつかで、老婆と入れ代って駕籠に乗ったお妻はたちまちに叫んだ。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この頃逍遙子が言を聞いて實を記することの功徳くどくを知り、また烏有先生が言を聞いて理を談ずることの利益をさとりぬ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
さるをおんそうしば/\こゝにきたりて回向ゑかうありつる功徳くどくによりてありがたき仏果ぶつくわをばえたれども、かしら黒髪くろかみさはりとなりて閻浮えんぶまよふあさましさよ。
これを読誦どくじゅし、書き写し、または表題の題名を唱えるだけで現実生活上にさえ功徳くどくがあるものだと信じられて来た。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
渠は考へた、呼び起して、覺めた自分と同じやうに苦痛を感じさせるよりも、いツそのこと、死ぬまで斯うしてゐさせる方がまだしも功徳くどくかも知れない。
そしてたうとう願かなってその親子をば養はれたぢゃ。その功徳くどくより、疾翔大力様は、つひに仏にあはれたぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それより此の次もう一円増してやる方が、息子の無情な仕打ちを差し引いて功徳くどくになるように思われた。彼女は台所へ戻ると又土瓶を冠って湯を飲んだ。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
仏の功徳くどくや、坊さんの説教の有難さを伯父やお雪伯母に向つて頻りに説いた。そして彼等にも寺詣りを勧めた。伯父はいつも顔をそむけては苦笑して居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
一体男に禁酒させるのは、女に有難がられる第一の功徳くどくで、世の中に仕事といふ仕事は沢山あるが、女に有難がられる仕事ほど甲斐がひのあるものは無い。
もつて功徳くどくちやうと成べきと智化ちけの上人へ桂昌院樣けいしやうゐんさま一位樣御尋おんたづね遊ばされしに僧侶そうりよこたへて申上げるはおよそ君たる人の御功徳くどくにははしなき所へ橋をかけ旅人りよじんのわづらひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さればまことに弥次郎兵衛やじろべえの一本立の旅行にて、二本の足をうごかし、三本たらぬ智恵ちえの毛を見聞を広くなすことの功徳くどくにて補わむとする、ふざけたことなり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それ貴方あなた段々だん/″\詮索あらつて見まするとわたしと少し内縁ひつかゝりやうに思はれます、仮令たとへ身寄みよりでないにもせよ功徳くどくため葬式とむらひだけはわたし引受ひきうけて出してやりたいとぞんじますが
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
事実この台風は、その日すでに功徳くどくを示して、南九州の電源地帯には、平均四十ミリの雨を降らし、ダムの水位が満水時の六割から七割にまで回復したのである。
亡び行く国土 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
と、そんな風な感想を述べて、結局「武州公は貴きおん身に地獄の苦患くげんを忍び給い、その功徳くどくに依ってわれら凡夫に菩提ぼだいの心を授けて下すった有難いお方である。 ...
事実その通りと思う者は少なく、だそうなとか、という話だとかを付け添えて、古い言い伝えのまだくり返されているのは、これも夜籠りの一つの功徳くどくであった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ればとて本塾の生徒にかぎって粗暴な者が多いでもなし、一方から見て幾分かその気品の高尚にして男らしいのは、虚礼虚飾を脱したその功徳くどくであろうと思われる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「へえさようでございますか。……ところで二品のその宝物にはどのような功徳くどくがございますので?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これに反して「もし今しょうを捨てて仏道に入りたらば、老母はたとひ餓死すとも、一子をゆるして道に入らしめたる功徳くどくあに得道の良縁にあらざらんや」(同上第三)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
京都に百万遍ひゃくまんべんという名刹めいさつがあるが、念仏百万遍から来た名である。ともかく度数多く称える念仏のことである。実際そういう多念仏に大なる功徳くどくを感じた者は多勢いた。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして、張角方師の功徳くどくを語り聞かせ、男子には金仙丹を、女子には銀仙丹を、幼児には赤神丹を与えると、神薬のききめはいちじるしく、皆、数日を出でずしてなおった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨のためいためられたに相異ないと、長雨のただ一つの功徳くどくに農夫らのいい合った昆虫こんちゅうも、すさまじい勢で発生した。甘藍キャベツのまわりにはえぞしろちょうがおびただしく飛び廻った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
功徳くどくを施したることもなくして、不幸、災難、病気等に際会するときに限り、にわかに思い立って神仏に祈願をかくるがごときは、神仏を愚弄ぐろうするものといわねばならぬ。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
甲野さんがこの世を去ってすでに十数年になりますが、私は、甲野さんとその小さなそろばんとの間に結ばれた掛け算生活の功徳くどくを、今更のように思い出さずにはいられません。
青年の思索のために (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ただし神代の神々、式内しきないの神々も時宜じぎんで院中に祭るべし。それ以下菅公、和気わけ公、楠公、新田公、織田公、豊臣公、近来の諸君子に至るまでその功徳くどく次第神牌を立つるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そうだ、ねえさん。こいつァなにも、あっしらばかりの見得みえじゃァごあんせんぜ。春信はるのぶさんのむのも、駕籠かごからのぞいてせてやるのも、いずれは世間せけんへのおんなじ功徳くどくでげさァね。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
直接の関係はなくとも、く間接の感化かんくわをうくるものなれば、尊敬の意をうしなふまじきものなりなど、花は見ずして俯向うつむきながら庭をめぐるに、花園はなぞのひらきて、人の心をたのします園主ゑんしゆ功徳くどく
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)