なら)” の例文
「若けえ男というのは駿河屋の養子の信次郎だ。年頃から人相がそれに相違ねえ。女はならび茶屋のお米だ。もう一人の男が判らねえ」
一階南側にならんでいる窓が恰も巨大な閘門こうもんのようにおびただしい濁流を奔出させているのであったが、あの小学校が彼処あそこに見えるとすると
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
生徒らは先生の方を向いてならんで坐り、一人一人の前には見台が置いてある。そしてその上には、先生のと同じ書物が開かれてある。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
二つ三つ穴の明いた古薄縁ふるうすべりを前へひろげましたが、代物しろものならべるのを見合せ、葛籠に腰をかけて煙草を呑みながら空を眺めて居ります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
白樺しらかばの皮をかべにした殖民地式の小屋だが、内は可なりひろくて、たたみを敷き、奥に箪笥たんす柳行李やなぎごうりなどならべてある。妻君かみさんい顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
門から玄関までの間に敷き詰めた御影石みかげいしの上には、一面の打水がしてあって、門の内外には人力車がもうきっしり置きならべてある。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
桟橋さんばしると、がらんとした大桟橋だいさんばし上屋うはやしたに、三つ四つ卓子テーブルならべて、税関ぜいくわん役人やくにん蝋燭らふそくひかり手荷物てにもつ検査けんさをしてる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
蒙求もうぎゅう風に類似の逸話を対聯ついれんしたので、或る日の逸話に鴎外と私と二人をならべて、堅忍不抜精力人に絶すと同じ文句で並称した後に
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その漆の木のところに行くと、童子はみんなにならぶやうに言附けた。そして自分で漆の芽を摘み取ると芽の摘口つみぐちから白い汁が出て来た。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
と夢中で饒舌しゃべる間にスープ皿は引込まされてかわりの皿が客の前にならび「兄さん鮎の御馳走が冷めてしまいます」とお登和嬢の注意。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
赤土が多くなると一寸もある霜柱が凍てた道の上にすくすくと立ちならんで、蹈む草鞋の下でサクサク骨に沁みるような音をたてる。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
S学士の講演にかぎって、その内容の論旨をならべた印刷物が皆に配布された。そこでもここでも紙を開ける音が楽しく聞えて来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何となれば酒、煙草、茶、とかうならべて見るだけで、敏感な読者は、毒なくしては人生は極めて殺風景であることを感ぜらるゝであらう。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
しかし美術館が、美しい品をならべるべき使命を帯びている限り、美的価値のことについて曖昧なのは許すべからざる怠慢だと思われます。
日本民芸館について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だから、通常の会話では必要と贅沢との間に快適とならべて有用を分類するのであるが、ここではこれらの語のニュアンスを問題としない。
鉄管は必ずしも並行にならんでいるわけではないので、幾つも幾つもくぐり抜けているあいだには、迷路の中に迷い込んだのも同然になる。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
民家がのきならべた村などで屋敷の特色をもって呼びにくい処では、戸主の平兵衛とか源蔵とかの名前を屋敷の名にしているが
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私の好む順序に、ケンプ・レコードをならべてみよう。ただしこの中の『月光ソナタ』と『ワルドシュタイン・ソナタ』は甚だしく録音が悪い。
瀬すじの優しいところにならんだ目高が二人の話声が水面に落ちるころには、驚いて神経深く乱れた。ふたりはほとんど大人のように黙り合っていた。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
控所には、級が新しくなつてならぶべき場所の解らなくなつた生徒が、ワヤワヤと騒いでゐた。秋野は其間を縫つて歩いて
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
最初は、続いて階下の薬物室を調べるような法水の口吻くちぶりだったが、彼はにわかに予定を変えて、古式具足のならんでいる拱廊そでろうかの中に入って行った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
床はといへば板をならべた上に筵を敷いただけ、それで家の中へ水が這入つて来ないやうに家の周囲に溝を作へるのです。
私有農場から共産農団へ (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
その為め構内車夫等は私の家の前にいつぱいくるまならべて客の寄り勝手を悪くしたり、他所よそから客を乗せて来る場合は他の宿屋へ送り込んだりした。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「そんなにこちらの言葉を御信用がないならば、二つの鼎をならべて御覧になったらば如何いかがです」と一方はいったが、それでも一方は信疑相半あいなかばして
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
表に待つてゐた三四郎が、気が付いて見ると、店先みせさき硝子張がらすばりたなに櫛だの花簪はなかんざしだのがならべてある。三四郎は妙に思つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それはバタの油をこしらえてラサの釈迦牟尼如来しゃかむににょらいの前にならんである黄金の燈明台に、そのバタの油をいで上げるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
見世物みせものには猿芝居さるしばい山雀やまがらの曲芸、ろくろ首、山男、地獄極楽のからくりなどという、もうこの頃ではたんと見られないものが軒をならべて出ていました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
「今年はこゝいらにならべたいと存じますが、いかがでせう。御異存が有りませんでしたら、うか御作おさくを一枚……」
品物しなものばかりならてたつてなんやくつか?』と海龜うみがめさへぎつて、『いくつても説明せつめいしないから。こんなに錯雜紛糾ごたくさしたことをいたことがない!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「いまそれぞれに役割を付けて申し渡す。——楊林ようりん薛永せつえい李雲りうん楽和がくわ、それと湯隆とうりゅう。そしてもう一名戴宗たいそうも。——ずっと揃ってここへならんでくれい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パリに遊んだ人々は誰でもセーヌ左岸にならんでいる古本屋ブキニストを決して忘れないだろう。店と云っても、家ではない。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
雨が降って外へ出られないから、乃公達おれたちはお父さんの書斎で五目ならべや挾み将棋をして音なしく遊んだ。しまいに清が財産差押ごっこをしようといい出した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
食卓テーブル對端むかふには、武村兵曹たけむらへいそうほか三名さんめい水兵すいへい行儀ぎようぎよくならび、此方こなたには、日出雄少年ひでをせうねんなかはさんで、大佐たいさわたくしとがみぎひだりかたならべて、やが晩餐ばんさんはじまつた。
松倉まつくら旧時むかしの属官ばかりがならんで居るだろう、罪人の方が余程エライ、オイ貴様はドウして居るのだと云うような調子で、私は側から見て可笑おかしかった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
改札口を出ると、一人の車夫を探し出して来てそれに荷物を運ばせて、停車場前にならんでいる、汽車の待合所を兼ねた小さな旅舎はたごの一つへと上って行った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
飛石のようにならんでいるのであるからもう島影を発見しなければならぬが、相変らず茫漠ぼうばくたる水また水である。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
一応こちらの事情を聞いた上で、ガラス戸棚からさまざまな器具を取りおろして、それを卓上にならべて、それらの器具の使用法について詳しい説明をする。
あわてて紙で押えて涙を拭き取り、自分の写真とならべて見て、また泣いた上で元のように紙に包んで傍に置いた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
かくも見事な崇高な古仏がたくさんならんでいて、しかも人間はいつまでも救われぬ存在としてつづいてきた。どちらを向いても仏像の山、万巻の経典である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
えきのどの家ももう戸をめてしまって、一面いちめんの星の下に、棟々むねむねが黒くならびました。その時童子はふと水のながれる音を聞かれました。そしてしばらく考えてから
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのときそらからくもつた人々ひと/″\りてて、地面じめんから五尺ごしやくばかりの空中くうちゆうに、ずらりとならびました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
埠頭は五階が同じ格好かくかうの屋根を揃へて一線にならんだのを遠望すると、大きな灰色の下駄はこを並べた様に醜かつたが、近づいて見ると其れ程不快な色でも無かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いずれも名前にかたどった、白虎、青竜、玄武、朱雀、の紋を付けた衣裳を着、さも業々ぎょうぎょうしく押しならんだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三歳四歳ではだ表紙の美しい絵を土用干のやうにならべて、この武士は立派だの、此娘は可愛いなんて……お待ちなさい、少し可笑をかしくなるけれど、悪く取りつこなし。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
手紙の終わりには、なおいろいろの弁解が付け加えてあって、やや辻褄つじつまの合わない点もあるが、筆者はすこぶる注意して書いたらしく、くどくどとならべ立ててあった。
ひたすら十七の首をならべるべく、復讐に余念ないのだが——その一轍心てつしんのすがたを見るにつけ、お妙は、そうして物事に精魂を打ち込む殿方のお心もちを、たのもしい
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世上の假説かせつ何ものぞ、われはたゞ窓にでゝ、よるを開き、眼にはかの一せいならびたる數字となりて
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
『読売』の芋兵衛は襖落しといひ、石田局といひ、十二分に能通をならべて留飲をさげしなるべし。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
病院の玄関で、病室附の看護婦が四五人立ちならんで一斉に送りかけた声が、長く私の耳に残つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
突当りは棚で、茶碗やら徳利やら乱雑にならんでいる、左の方は真暗で分らないが、恐らく家族の寝間であろう、ここでも飴を売るかして、小さな曲物が片隅に積んである。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)