二言ふたこと)” の例文
とその中の頭分かしらぶんらしいさむらいがいいました。それから二言ふたこと三言みこといいったとおもうと、乱暴らんぼう侍共さむらいどもはいきなりかたないてってかかりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
案内の男が二言ふたこと三言みこと支那語で何か云うと、老人は手を休めて、暢気のんきな大きい声で返事をする。七十だそうですと案内が通訳してくれた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は一わたり三つの実験を眺め渡して、一言ひとこと二言ふたことちょっと示唆的しさてきな注意を与えられる。それで指導の方はもうおしまいである。
振返った途端に、右のほおげたから上下の歯をあわせて斜めに切って、左のあばらの下まで切り下げられて、二言ふたことともありません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俊助と二言ふたこと三言みこと雑談を交換した後で、野村は大理石のマントル・ピイスへ手をかけながら、冗談のような調子でこう云った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おつたも不快ふくわい容子ようすをしながら南瓜たうなすねぎとを脊負しよつてべつくちくでもなく、たゞ卯平うへい二言ふたこと三言みこといつてもうどうでもいといふ態度たいどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だが今朝は、作左衛門が出がけであるため、二言ふたこと三言みこと軽い言葉をかけられたのみで、彼は本陣を出て行く駕をなぜか知らぬ淋しい心もちで見送った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ、おにゃったがぢゃうならば、あいや。さうでなくばいなや。たった一言ひとこと二言ふたこと此身このみ生死しゃうしきまるのぢや。
艦長松島大佐かんちやうまつしまたいさむかつて、何事なにごとをか二言ふたこと三言みこと公務こうむ報告ほうこくをはつてのちわたくしほう向直むきなをつた。快活くわいくわつ調子ちようし
くど/\二言ふたこと三言みこと云うかと思うと、「それじゃまた」とお辞儀じぎをして往ってしまった。「弟が発狂した」が彼の口癖くちぐせである。弟とはけだし夫子ふうしみずからうのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここは農夫の客にめられたりしがようやくきしなり。となりひげうるわしき男あり、あたりをはばからず声高こえたかに物語するを聞くに、二言ふたこと三言みことの中に必ず県庁けんちょうという。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
葉子は久しぶりでその銀の鈴のような澄みとおった声で高調子に物をいいながら二言ふたこと目には涼しく笑った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
出世をたかぶらない、下のものにも気の軽そうな気質は、一言ひとこと二言ふたことの言葉のなかにもほのめいて見られる。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
エレーナ じゃ、あと二言ふたこと三言みこと——それでおしまいにしましょうね。あなた、何もお気づきじゃなくて?
殊に楽屋じゅうの者ともみんな顔を識り合っているので、彼はしめっぽい座蒲団の上に片膝をおろして、煙草をすいながら二言ふたこと三言つまらないことを話していた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おもひとほどはづかしくおそろしきものはなし、女同志をんなどししたしきにても此人このひとこそとうやまともに、さしむかひてはなにごともはれず、其人そのひと一言ひとこと二言ふたことに、はづかしきはくまではづかしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜の八時頃、一人で棊譜きふを開いて盤上に石を並べている父に、紅茶を運んで行ったときにも、父は二言ふたこと三言みこと瑠璃子に言葉をかけたけれど、書状のことは、何も云わなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
間違まちがつてるかもれないわ』とあいちやんはおそる/\つて、『二言ふたこと三言みことへたのよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それぞれ父親から縁談えんだんをもち出されると、我々は見る見るおたがいどうし好きになって、一足とびに結婚けっこんしてしまったというわけ。わたしの話は、ほんの二言ふたことで済んでしまいますよ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
と云つて鏡子は襟をあはせた。何時いつの間にか千枝子も伯母の膝にもたれて居た。お照が千枝子に二言ふたこと三言みこと物を云つてかうとすると榮子がわつと泣き出した。鏡子は手を放して子を立たせた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何でも、英吉利では一尾の魚が浮きあがつて、變挺な言葉で二言ふたことものを言つたのを、學者がもう三年越し一生懸命に研究してゐるさうだが、未だに何のことだかさつぱり分らないといふ話だ。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
お京とのことは、一言ひとこと二言ふたことでは話せない。一言二言話せば、かえって、誤解される。納得の行くように、いつか話そうと思っているうちに、話しはぐれると、いよいよ、むずかしくなってしまう。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
孟丙の弟仲壬は昭公の近侍きんじ某と親しくしていたが、一日友を公宮に訪ねた時、たまたま公の目にとまった。二言ふたこと三言みこと、その下問に答えている中に、気に入られたと見え、帰りには親しく玉環ぎょっかんを賜わった。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
見て太田樣の陸尺共が聲々こゑ/″\に此土百姓の大馬鹿者おほばかものめ戸の明建あけたても知らぬか知らすばをしへて遣ふ稽古けいこに來いと散々さん/″\に惡口致候ゆゑ嘉川樣の事に付此多兵衞めもこらかね進寄すゝみよりつひ一言ひとこと二言ふたこと々爭いひあらそひし中双方錆刀さびがたな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
安井やすゐ門口かどぐちぢやうおろして、かぎうらうちあづけるとかつて、けてつた。宗助そうすけ御米およねつてゐるあひだ二言ふたこと三言みこと尋常じんじやうくちいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、語尾の二言ふたことを、たかくさけんだ。それは、郁次郎に向って、百日の別れを告げることばでもあり、また、その間の忍苦に耐えよと励ますようにもひびいた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、濱島はまじま此時このとき最早もはやこのふねらんとてわたくしにぎりて袂別わかれ言葉ことばあつく、夫人ふじんにも二言ふたこと三言みことつたのち、その愛兒あいじをば右手めていだせて、その房々ふさ/″\とした頭髮かみのけでながら
木村さんの親友親友と二言ふたこと目には鼻にかけたような事をいわるるが、わしもわしで木村さんから頼まれとるんだから、一人ひとりよがりの事はいうてもらわんでもがいいのだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
野村のむらもその窓から首を出して、外に立っている俊助しゅんすけと、二言ふたこと三言みこと落着かない言葉を交換した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女は何か二言ふたこと三言みこと言葉を換すと乗るべき自動車に片手をかけて、華やかな微笑を四人の中の、誰に投げるともなく投げて、そのしなやかな身をひるがえしてたちまち車上の人となったが
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
質樸しつぼくなれば言葉すくなきに、二言ふたこと三言みことめには、「われ一個人にとりては」とことわるくせあり。にわかにメエルハイムのかたへ向きて、「君がいひなづけの妻の待ちてやあるらむ、」といひぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そののちも何かの会のおり、写真を写すおり、御一緒になって一言ひとこと二言ふたことおはなししたこともありましたが、私の思出は何時いつも一番お若いときの、袖をなでておはなしをなさっていた面影が先立ちます。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「君のことは堀越からも聞いたよ。まあ勉強して見たまえ。なかなかむずかしい仕事だからね。」そんなことを二言ふたこと、三言いっているうちに他の来客があったので、わたしは早々にそこを引退がって
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
忠左衛門と内蔵助と、何方どちらも、ことば数の少い者同士が、二言ふたこと三言に、万感ばんかんを語りあっていると、九郎兵衛は用ありげに、その間に広間の方へ立ち去っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしKの室の前に立ち留まって、二言ふたこと三言みこと内と外とで話をしていました。それは先刻さっきの続きらしかったのですが、前を聞かない私にはまるで解りませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武村兵曹たけむらへいそう彼等かれら仲間なかまでも羽振はぶりよきをとこなに一言ひとこと二言ふたこといふと、いさましき水兵すいへい一團いちだんは、ひとしくぼうたかとばして、萬歳ばんざいさけんだ、彼等かれらその敬愛けいあいする櫻木大佐さくらぎたいさ知己ちきたる吾等われら
今も外から帰って来たこんがらの重兵衛は、待ち兼ねていたせいたかと一言ひとこと二言ふたこと云い交わしながらそのの中へ上がり、さて歩き疲れにがっかりしたさまで、むかいに腕こまぬく。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はやがて自分のわきを顧みて、そこにこごんでいる日本人に、一言ひとこと二言ふたことなにかいった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何か一言ひとこと二言ふたこと小声に口を動かしたが、それは今のお米の心をく何ものの力もない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)