露骨ろこつ)” の例文
葉子を確実に占領したという意識に裏書きされた木部は、今までおくびにも葉子に見せなかった女々めめしい弱点を露骨ろこつに現わし始めた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そうですか……では私、お伺いしたいことがあるんですが、お互いに心の中をそっくりそのまま露骨ろこつに話せるようにして下さいな」
この世をばわが世とぞ思う——と露骨ろこつに歌った藤原氏の栄華の方が、まだ夢を夢として追っている人々の稚気ちきと詩があった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は面白半分わざと軽薄な露骨ろこつを云って、看護婦を苦笑くしょうさせた。すると三沢が突然「おい氷だ」と氷嚢を持ち上げた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その場合には一見他の民主的な政党と異ならないように偽装ぎそうするが、一度政権を握ったら、右にいうような独裁党の本質を露骨ろこつ発揮はっきするのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
「大分露骨ろこつですね、あんまり教育家らしくもないビジテリアンですね。」と陳さんが大笑いをしながら申しました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あとほうは、これにくらべるといくらか露骨ろこつに、西行さいぎよう氣持きもちをしすぎてゐるが、こゝまでつっこんでうたつたひとがないものですから、一例いちれいとしてあげました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
キンチャコフは、本性を露骨ろこつにあらわして、「火の玉」少尉にしたピストルをひっこめようとはしない。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
露骨ろこつに疑惑を現はして、彼女は私を眺めた。「いやだよ、私等まだそんなことして賣つたことはないよ。」
いくつもの大牧場を通って——途中とちゅうでだいぶ自動車をめた露骨ろこつなランデェブウにもお目にかかりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
なんのためだとおもふと、しづめる妙法めうはふで——露骨ろこつに、これを説明せつめいすると、やきもちしづめ——そのしぶさ、ゆかしさ、到底たうてい女人藝術げいじゆつ同人どうじんなどの、かんがへつくところのものではない。
かみの毛はどうしたのと聞いてみたり、父親ちちおやメルキオルの露骨ろこつ常談じょうだんにおだてられて、禿はげをたたくぞとおどしたりして、いつもそのことでかれをからかってあきなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
しかしそういう御事情で出京なさったということでもあり、それにS君の御手紙にも露骨ろこつに言えという注文ですから申しあげますが、まあほとんどと言いたいですね。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
氏は家庭にあって、私憤しふん露骨ろこつらしたり、私情のために怒って家族にあたったりしません。その点から見て、氏は自分を支配することの出来る理性家であるのでしょうか。
天職てんしょく自覚じかくせず、また、それにたいする責任せきにんかんぜず、うえのものは、したのものに好悪こうお感情かんじょう露骨ろこつにあらわして平気へいきだった、いまよりは、もっとくらかった時代じだいはなしであります。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
作者の言おうとしている思想なり観念なりが露骨ろこつに陳述されて、ただ、演説されていて、読者は圧迫を感じながら、緊張をいられながら、その説を聞いて居るような感じである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これは一じょう戯談じょうだんに過ぎぬが、ともかくそういう考えが何人なんぴとにもある。もちろん今述べたごとく、露骨ろこつなる形式に現れなくとも、如何いかほど地位ある人にも起こり得る思想である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
せまいと汚穢きたなさとは我慢するとしても、ひとの寒さは猛烈もうれつに彼等に肉迫にくはくした。二百万の人いきれで寄り合うて住む東京人は、人烟じんえん稀薄きはくな武蔵野の露骨ろこつな寒さを想い見ることが出来ぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その時相手がいかにも落着いた態度で出てきたら、手にペンでも(本でもいい)持って出てきたら、その時こそ惨めな自分が面と面を突きあわすことを露骨ろこつに感ぜさせられるだろう。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
いもうと自分じぶんのしたことでございますから、あま露骨ろこつにはまうしませんですけれど、けこんでまゐりましたときの、かほいろといふのはございませんでした。いきれさうによわつてをりました。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
一人が仙骨せんこつという号をつけると、みな骨という字を用いた号をつけようじゃないかという動議が出て、破骨はこつだの、洒骨しゃこつだの、露骨ろこつだの、天骨てんこつだの、古骨ここつだのというおもしろい号ができて
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
雀斑そばかすだらけの鼻の低いその嫁と比べて、お君の美しさはあらためて男湯で問題になった。露骨ろこつに俺の嫁になれと持ちかけるものもあったが、笑っていた。金助へ話をもって行くものもあった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
卑下ひげし過ぎる物腰など、主人の清兵衞は露骨ろこつにその前身を匂はせて居りますが、人間はさすがにふて/″\しく、伜を殺した相手が知れたら、本當に何をやり出すか判つたものではありません。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ぐうすることおおよそこの類であった分けても彼が年若い女弟子に親切にしたり稽古してやったりするのをよろこばずたまたまそういう疑いがあると嫉妬しっと露骨ろこつに表わさないだけ一層意地の悪い当り方を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかも実朝は、ひと目でそれと判るように露骨ろこつに人の句をとっている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
そこで英国とロシアとが合同してチベットを取るというような事はむろん出来ない。露骨ろこつにいえば露国そのものが英国の領分を欲しいという訳ですから、とても合同の出来ない事はきまって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
孔子が公宮から帰って来ると、子路が露骨ろこつに不愉快な顔をしていた。彼は、孔子が南子風情ふぜいの要求などは黙殺もくさつすることを望んでいたのである。まさか孔子が妖婦ようふにたぶらかされるとは思いはしない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
次にルーシンは、皮肉屋で、露骨ろこつ毒舌どくぜつをふるう医者だが、彼女というものを一番よく見ており、また誰より深く彼女を愛してもいながら、そのくせ陰でも面前でも、彼女の悪口ばかり言っていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
撮影さつえい技量ぎれうでは分が露骨ろこつにうまいなとおもはせられたからである。
「ええ、とくべつ露骨ろこつなようです。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼は西洋の小説を読むたびに、そのうちにる男女の情話が、あまりに露骨ろこつで、あまりに放肆で、且つあまりに直線的に濃厚なのを平生からあやしんでゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すぐ眼にカドを立てて、かれの表面だけでなく、内部の心理までを読もうとする視線が露骨ろこつに向けられた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私、あんまり露骨ろこつでございました。御免遊ばせ。私、顏のことで訊ねられたとき、すぐさまお答へするのはやさしいことではないと御返辭する筈でございましたの。
世界最大を誇る大機械化兵団を集中中であった○○軍は最近にいたりついにわが皇軍陣地こうぐんじんちに対して、露骨ろこつなる挑戦をはじめるに至り、しかも○○鉄道は、その方面へ
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはしかし岡が葉子のあまりといえば露骨ろこつな言葉を恥じたのか、自分の心持ちをあばかれたのを恥じたのか葉子の迷いやすくなった心にはしっかりと見窮められなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人にしても、辞令じれいたくみ智識ちしき階級の狡猾ずるさはとりませんが、小供こどもや、無智むちな者などに露骨ろこつなワイルドな強欲ごうよく姦計かんけい見出みいだす時、それこそ氏の、漫画的興味は活躍かつやくする様に見えます。
どちらも今日こんにちからると、すこしおもしろみがぎました。趣向しゆこうこらしてゐるところが露骨ろこつえるが、赤人あかひとほうは、よくかへしてると、いかにもごた/\してゐるでせう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
蝶子が親の所へ戻っていると知って、近所の金持から、妾になれと露骨ろこつに言って来た。例の材木屋の主人は死んでいたが、その息子が柳吉と同じ年の四十一になっていて、そこからも話があった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ぼく自分じぶんでも、すこし感情かんじょう露骨ろこつにあらわしすぎたとづいたので
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、翌日も、またその次の日も同じような皆の悪意が露骨ろこつで、病的になったぼくの神経をずたずたに切りさいなみます。あなたに、えないまま、海の荒れる日が、桑港サンフランシスコに着くまで、続きました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
宣伝やスローガンや煽動せんどうでは、この傾向が特に露骨ろこつになる。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
新吉の問は露骨ろこつです。
そう露骨ろこつに云うと、意味もない事になるが——まあ善いさ——精神は君にもよく通じている事と思うから。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
弦三の乗りこんだ地下電車が、構内を離れて間もなく、不穏分子の振舞ふるまいは、露骨ろこつになって行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、それが群衆ぐんしゅうとなると、いっそう露骨ろこつにぶえんりょに爆発ばくはつしてくるのだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は自分がこれほどむごたらしい男だとは思わなかった。どうして残虐ざんぎゃくな気持があとからあとから湧きだして、彼に露骨ろこつな言葉を吐かしたかが怪しまれだした。俺は悪党だ。俺は悪人だ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
今更、彼女に向けて露骨ろこつに投げかけられるものでもなし、さればと云って胸に秘め籠めて置くにも置かれなくなっている。やっぱり手慣れた生きものの金魚で彼女を作るより仕方がない。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つて、折角せつかく保養ほやうつた轉地先てんちさきからいまかへつてたばかりのをつとに、かないまへよりかへつて健康けんかうわるくなつたらしいとは、どく露骨ろこつはなにくかつた。わざと活溌くわつぱつ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかも国際関係はいよいよ尖鋭化せんえいかし、その国の科学発達の程度如何によってその国の安全如何が直接露骨ろこつに判断されるという驚くべくまた恐るべき科学力時代を迎えるに至った。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
葉子の頭に描かれた夫人はの強い、情のほしいままな、野心の深い割合に手練タクト露骨ろこつな、良人おっとを軽く見てややともするとかさにかかりながら、それでいて良人から独立する事の到底できない
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)