)” の例文
またも雲の御幕で折角の展望もめちぁめちぁ、ただ僅かの幕のを歩いた模様で、概略の山勢を察し得られたのは、不幸中の幸。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
帰りはもう自由だからみんなで手をつながなくてもいいんだ。気の合った友達と二人三人ずつ向うのき次第出掛でかけるだろう。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
女の子達の部屋のガタピシの雨戸は、ちよいとかしても家中に響きまさア。お葉の部屋は格子窓一つで、外へは出られない
後でよく考えて見ますと、その光というのは、鈴野どのの部屋の窓がいていたので、夜明けの光が射し込んでいただけのことだったのです。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その猪口がからになると、客はかさず露柴の猪口へ客自身の罎の酒をついだ。それから側目はためには可笑おかしいほど、露柴の機嫌きげんうかがい出した。………
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてせっかく御所ごしょつかえながらひくくらいうずもれていて、人にもしられずにいる山守やまもりがたかい山の上の月をわずかにからするように
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
足の裏と珠との間がほんのわづかいてゐる。あの足の裏は、いまだいちども、ものを踏んだ事が無いのかも知れぬ。
お伽草紙 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
氷はと見ると一つの氷のコップは空になって、もう一つの方は一口ぐらいんだようにちょっと上の方がいていた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この問題の本人たるお登和嬢は最前より台所にありて何かコトコト御馳走ごちそう支度したく余念よねんなかりしがようやく手のきけん座敷にきたりて来客に挨拶あいさつしぬ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
呟いたとたんに若い女はひしと葉之助へ縋り付いた。衣裳も髪も乱れてはいたが、薄月の光にかして見ると、並々ならぬ美しさをその女は持っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
えゝ、ですから試みに卓一と呼んで見ると、ぎょっとしたようでしたから、かさず指紋を取るぞと威かすと、奴は背後うしろめたい事があるので、たちまち顔色を
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
小野さんは詩のために愛のためにそのくらいの犠牲をあえてする。道義は弱いもののかしら耀かがやかず、糸子は心細い気がした。藤尾の方はようやく胸がく。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と飛びこんだ帆村がサッと足を払って、また転がるところをかさず逆手を取って上からドンと抑えつけた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
またいはには、青紫あをむらさきのちしまぎきょう、いはぎきょう、はな白梅はくばいて、まめのようにあつぼつたいいはうめ、鋸齒のこぎりばのある腎臟形じんぞうがた根元ねもとして
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
あわてゝ居りますから戸がいて居りますのも夢中でね、ヘイうも初めて参りましたが、とまりで聞き/\参りました者で、勝手を知りませんから難儀致しまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
堅く両脇につける。くものは常に小石を挟んで慣らす、足並よく進んで額を関取の右肩へ持つて行く。
相撲の稽古 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
やつと自分の身体になつたと思はれるまでに、手のいて来たお文は、銀場を空にして母の側に立つた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
とおさかな兼帯——怪しげなぜんよりは、と云って紫の風呂敷を開いた上へ、蒔絵のふたかしてあった。そのお持たせのあゆすしを、銀の振出しのはしで取ってつまんだでしょう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呉一郎があやまって狂女の作った落し穴に片足を踏み込んだ拍子に肩をかされて同体に倒れると、身をかわす暇もなく本館軒下の敷石に肋骨を打ち付けて人事不省に陥った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それでもとなりではその始末しまつをつけるときにそこらへらばつた小枝こえだその屑物くづものはおしないへあたへたのでおもけないたきゞ出來できたのと、もひとつはいくらでもひがしいたのとで
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
暗いなかに、垂れたような軒の下には、建附の悪そうなぼろ格子が半分ほどいて見える。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かくも犬と云う一個ひとつの捕え所を見出したれば之をもとにして此後の相談を固めんものと余等二人は近辺の料理屋に入たるが二人とも朝からの奔走に随分腹もきし事なれば肉刺
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日影ひかげうらうらとかすみてあさつゆはなびらにおもく、かぜもがな蝴蝶こてふねむましたきほど、しづかなるあした景色けしき甚之助じんのすけ子供こどもごヽろにもたちて、何時いつよりはやにはにかけりれば、若樣わかさま、とかさずびて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
空の気味の悪いほど、奥までいて光っているだけに、富士山は繻子しゅすでもたように、厚ぼったくふやけている、いつもの、洗われたように浄い姿ではない、重々しい、鼠ッぽい色といったらない。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
電車の内はいてゐた。皆んな其処に腰掛けてゐるのは疲れたやうな顔をしてゐる男ばかりであつた。なかにはいびきをかきながら眠つてゐる者もあつた。とし子はその片隅に、そつと腰を下ろした。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
いつのまにか、襖の境が、一寸ほどいて、外の星明りが針金のようにいている。そこの蔭から、どかどかッと、廊下へ向って、誰か逃げた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足の裏と珠との間がほんのわづかいてゐる。あの足の裏は、いまだいちども、ものを踏んだ事が無いのかも知れぬ。
お伽草紙 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
床下から出た瓶の蓋が少しいて居たので、フト文錢を一枚投り込んだ——あの邊は徳三郎の惡賢こいところだ。瓶に手をかけたのはあの男より外に無い。
そこで彼はソロソロと、南側の廊下を西にとり、お艶の部屋まで行って見た。そうしてそこから見渡される、西側の廊下をかして見た。しかし誰もいなかった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
看護婦の手がかなかったためか、いつまでも兄の枕元に取り散らかされている朝食あさめし残骸なきがらは、掃除の行き届いた自分のうちを今出かけて来たばかりの彼女にとって
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひる洞穴ほらあないはなどにひそんでゐますが、よるになるとして、おほきな目玉めだまをぎょろ/\させてねずみなどをさらつてあるき、薄氣味うすきみわるこゑで「ほう、ほう」と、きます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それをとりまいて見物している神々が笑いどよめいた声に誘われて、好奇心を動かされた女酋長がちょいと岩戸をかしたところを、手力男命たじからおのみことが岩を取り除けて連れ出したという物語である。
私たちの建設 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その雨戸を翁に手伝って北と東と橋がかりを各一枚宛開いて、あとを平均五六寸宛かす。それから翁はワキ座と地謡座のちょうど中間の位置に在る張盤の前に敷いた薄い茶木綿の古座布団上に座る。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
狡猾こうかつな医者の女房は、かさず口を入れました。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
裏のほうへ廻ると、水口の雨戸が五寸ほどいていた。ひょいと見ると、その下に、履物はきものが二足ならんでいる。蛇の目が一本、その上に渡してあった。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袖で打ち払い打ち払いじっと門内をかして見たが、松の前栽に隠されて玄関さえも見えなかった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
湯気がこもるのを防ぐためか、座敷で云えば欄間らんまと云ったような部分にも、やはり硝子戸の設けがあって、半分ほどかされたその二枚の間から、冷たい一道の夜気が
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この寒空に格子の中では雨戸を少しかせて、主人の求女は酒呑しゆてん童子のやうになつて居りました。
障子を細目にかしてまぶしい西日をのぞかせた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見ると年頃は十七八、雪江さんとっつ、っつの書生である。大きな頭をいて見えるほど刈り込んで団子だんごぱなを顔の真中にかためて、座敷の隅の方にひかえている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かして見れば所々に、幾個いくつおりが立っていた。「はてな?」と葉之助は不思議に思った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
南の方、障子を少しかせると、春の夜の香わしい風が、ほの暖かく物の芽の匂いを吹き送って、わざと灯心を小さくした行灯あんどんの灯を、消してはならないほどに明滅させて居りました。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
客間の窓の掛布がいている。ひょいと、如海がそれへ気がついて。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾輩はかさず立上って怒鳴った。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして迷っているから自分で自分が分らなくなってしまったので、私に公平な批評を求めるよりほかに仕方がないといいました。私はかさず迷うという意味を聞きただしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「む、こいつは可笑おかしいぞ」小一郎はスッと後へ退き、ジ——ッと藪をかして見た。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
床下から出た瓶の蓋が少しいていたので、フト文銭を一枚ほうり込んだ——あの辺は徳三郎の悪賢いところだ。瓶に手をかけたのはあの男より外に無い。封印をする前、ほんの一寸ちょっとの隙にやったんだ。
『主税、そこが少しいておるらしい。ぴたとめてくれ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ようやく手のいた頃を見計みはからって、読み落した諸家の短篇物を読んで行くうちに、無名の人の筆に成ったもので、名声のある大家の作と比べて遜色そんしょくのないもの、あるいはある意味から云って
長塚節氏の小説「土」 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お浦はその顔をかして見たが、「まあ」と感嘆の声を上げた。「ご縹緻きりょうよしな! ……お前髪立ちで! 歌舞伎若衆といおうか、お寺お小姓と云おうか! 何んとまアお美しい!」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)