すず)” の例文
こういって、母親ははおや子供こどもちいさなかたからげているかごをはずして、自分じぶんがそれを今度こんどかたにかけてすずらしたのでありました。
煙突と柳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
天皇はそのためにわざわざお宮の戸のところへ大きなすずをおかけになり、置目おきめをおめしになるときは、その鈴をお鳴らしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
お庭には、世にもめずらしい花がきみだれていました。なかでも、いちばん美しい花には、銀のすずがゆわえつけてありました。
むかし旅人がみち行暮ゆきくれて、とある小社の中に仮宿すると、夜深く馬のすずの音が聞えてきて社の前に立ちどまり、こよいは何村に産があります。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
突然とつぜん、発車のすずがひびくと痩せた紳士はあわてて太った紳士にもう一度お辞儀をしておいて、例の麦稈帽子をかぶると急いで向き直って歩き出した。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
こしすずがリリンリリンと、足をかわすごとに鳴りつづけ、やがて、リッ と鳴りやんだのが、大石先生の家の縁先えんさきである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
一味の者は誰も知らず、係りの平見なにがしは口をつぐんで殺され、その首領の柴田三郎兵衛は、すずもりで腹を切ってしまった。
すなわち荒木古童あらきこどうが『残月ざんげつ』、今井慶松いまいけいしょうが『新曲洒しんきょくさらし』、朝太夫あさたゆうが『おしゅん伝兵衛でんべえ』、紫朝しちょうが『すずもり』のたぐいこれなり。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ただ行長は桂月香のこの宝鈴も鳴らないように、いつのまにかすずの穴へ綿をつめたのを知らなかったのである。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
(その銀のすずるような声のひびきは、何かこう甘美かんびな冷たい感じをなして、わたしの背筋を走った)——「ねえ、あなたをそう呼んでもいいでしょう?」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
町中にあるすず舎大人やうし(本居宣長)の遺蹟をのぞき、城址へのぼって、宣長文庫を見て降りる。冬の旅は、寒い寒い。腹もすきごろ、和田金のこんろを囲む。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目をすずのように大きく張って、親しいびの色を浮かべながら、黙ったままで軽くうなずこうと、少し肩と顔とをそっちにひねって、心持ち上向うわむきかげんになった時
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おきあがりますと、からだのまわりがかちかちして、おまけに、ひと足歩くたびに、たくさんのすずがカランカランとなります。それをきいて、エルゼはびっくりしました。
すずおきな以来、ゆかりの色の古代紫は平田派の国学者の間にもてはやされ、先師の著書もすべてその色の糸でじられてあるくらいだが、彼半蔵もまたその色を愛して
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬車別当が、こんどはすずをがらんがらんがらんがらんとりました。音はかやの森に、がらんがらんがらんがらんとひびき、黄金きんのどんぐりどもは、すこししずかになりました。
どんぐりと山猫 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
灯にはえるその顔が、みるみる蒼白くゆがんで、やがてえず、すずをはったような双の眼から、ハラハラと涙のあふり落ちたのは、きっと亡き父のうえをしのんだのでしょう。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
するとある日さるて、すずなりになっているかき見上みあげてよだれをたらしました。そしてこんなにりっぱながなるなら、おむすびとりかえっこをするのではなかったとおもいました。
猿かに合戦 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すず早馬駅はゆまうまや堤井つつみゐみづをたまへな妹が直手ただてよ 〔巻十四・三四三九〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
細君が指輪ゆびわをなくしたので、此頃勝手元の手伝てつだいに来る隣字となりあざのおすずに頼み、きちさんに見てもらったら、母家おもやいぬい方角ほうがく高い処にのって居る、三日みっか稲荷様いなりさまを信心すると出て来る、と云うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
奥羽おううきっての勢力家で、小心で、大の野心家であった伊達政宗だてまさむねさえ、この年少気鋭な三代将軍の承職に当たって江戸に上った際、五十人の切支丹の首がすずもりではねられるのをのあたり見て
うめせいぎんすずのようなきれいなこえで、そうこたえてキョトンとしました。
親につかへて、此上無こよなう優かりしを、柏井かしわいすずとて美き娘をも見立てて、この秋にはめあはすべかりしを、又この歳暮くれにはかた有りて、新に興るべき鉄道会社に好地位を得んと頼めしを、事は皆みぬ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「らっぱはふけないからすずにするよ」とお美代はわらっていった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
すずおうの書斎もその儘に残っているそうでございますよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
東北とうほくに子の住む家を見にくれば白き仔猫がすず振りゐたり
東北の家 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
ああ、耳にすずすずしき、鳴りひびく沈黙しじま声音いろね
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
裏側の水上署でカラカラすずの鳴る音が聞える。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
水無月みなづきひめすずまうし
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かえらぬことをおもっていると、チリチリチンとすずおとがして、八百屋やおや小僧こぞうさんが、やさいをせて、自転車じてんしゃはしらせてきました。
はととりんご (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてそのとき、そりのすずの音や、むちの音が、ちょうど挨拶あいさつでもするように、雪だるまをむかえてくれました。
塩市しおいち馬市うまいちぼん草市くさいちが一しょくたにやってきたように、夜になると、御岳みたけふもとの宿しゅく提灯ちょうちんすずなり、なにがなにやら、くろい人の雑沓ざっとうとまッであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、そのおわびのしるしに、一ぴきの白いぬにぬのを着せ、すずかざりをつけて、それを身内みうちの者の一人の、腰佩こしはきという者につなで引かせて、天皇に献上けんじょういたしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
半蔵らに言わせると、あのすずおきなこそ、「ちか」の人の父とも呼ばるべき人であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兄がきょうの昼ごろには、この先のすずもりではりつけにされることになっております。……
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これを見ますと、ハンスはおおいそぎでうちにひきかえして、小さなすずのたくさんついている鳥をとるあみをもってきて、それをエルゼのからだのまわりにかけておきました。
四国の方にはススタマ・スズタマ等の清音せいおんの例があって、すずささの実のスズなどが聯想れんそうせられるが、さらに今一段と古い時代にさかのぼると、『倭名抄』その他の名彙めいいにはツシタマ
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
入れちがいに、一礼して立ちあがった愚楽老人は、人形がお風呂敷をかぶったような恰好で、御拝領羽織をだぶだぶさせながら、大奥から、おすずのお畳廊下へ出ていきました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大石先生のけががアキレスけんがきれたということも、二、三か月はよく歩けまいということも、それらはみんな、こしすずをつけて歩きまわっているチリリンヤが聞いてきたものだった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そうして、ひろい田んぼみちに出ると、よくすんだ、うつくしい声で、馬子まごうたをうたい出すので、馬もいい気持ちそうに、シャン、シャン、すずらしながら、げんきよくかけ出して行きました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
朝床に聞こえつつゐるうますずわれの心をよみがへらしむ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
すず鳴る……あはれ、今日けふもまた恐怖おそれ予報しらせ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その着物きものをおしいただいて、いまやそこをろうとしたときであります。うしろへちいさな足音あしおとがして、すずをふるような、さわやかなこえ
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
茜染あかねぞめの暖簾や、紋を染めぬいた浅黄の暖簾などもある。或るうちの暖簾には、鈴がついて、客が割って入ると、すずを聞いて、遊女たちが、窓格子まで寄って来た。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青いフウリンソウと、小さな白いマツユキソウとが、まるで、すずでも持っているように、チリンチリンと音をたてながらはいってきました。ほんとうにゆかいな音楽です。
「何をそんなにおさわぎになる。宮人みやびとのはかまのすそのひもについた小さなすず、たとえばその鈴が落ちたほどの小さなことに、宮人も村の人も、そんなに騒ぐにはおよびますまい」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
けれども、だれもかれも、カランカランというすずの音をききますと、どうしても戸をあけてくれようとはしませんでした。ですから、エルゼはどこにもとめてもらうことができなかったのです。
すず屋翁やのおきな画詠、柿本大人かきのもとのうし像、師岡正胤主もろおかまさたねぬし恵贈としたものがそこにあった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なまめかぬほど、にゑみてすずもほそぼそ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、すずったようにうつくしく、くちびるいろはとこなつのはなのようにあかく、かみくろながかたれて、まれにるようなうつくしさでありました。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
後世の水戸学者は、これを評して「彼の狡奸こうかんだ」といった。また「耳をおおってすずを盗むたぐいの芝居だ」と酷評した。しかり、どんな人間も、純一無垢じゅんいつむくな涙にはなりきれない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)