辞儀じぎ)” の例文
旧字:辭儀
顔も手も墨だらけな、八つと七つとの重蔵しげぞう松三郎が重なりあってお辞儀じぎをする。二人はちさまに同じように帽子をほうりつけて
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その時みんなの頭の上をまっ黒な大きな大きなものがゴーゴーゴーとえて通りかかりました。ひとではあわててみんなお辞儀じぎをしました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それでも風俗ふうのかわった方がいらっしゃいますと、大事にしてお辞儀じぎをすることだけは知ってでございますが、まだご挨拶あいさつをいたしませんね。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤帽のあとから来た紳士は貧相なせた人であるが、この人は腰をかけないで太った紳士の前に立ったままつづけさまにいくつもお辞儀じぎをしていた。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
車掌さん曰く「銭形の親分ともあろうものがスリにやられちゃ、みっともないですよ」——私はなんとも言葉が出なくてペコペコお辞儀じぎしていた。
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
帰る時にはもう猿は米をといでしまって、それをなべに移してたき火で煮ていました。そして若者の方へ、真面目まじめくさった顔付かおつきでお辞儀じぎをしました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
猩々は木もれの月光を受けて、雪のかたまりでもあるかのように、黒い地面に浮き出ていたが、桂子の視線が向けられたと知るや、うやうやしく辞儀じぎをした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
嫁は真白に塗って、掻巻かいまきほどの紋付のすそを赤い太い手で持って、後見こうけんばあさんかかみさんに連れられてお辞儀じぎをして廻れば、所謂顔見せの義理は済む。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お春は最初に顔が合った時、挨拶したものかどうかと思って躊躇ちゅうちょしていると、奥畑の方からニッコリして帽子を取ったので、此方もついお辞儀じぎをした。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると次の間からほどき物を持って出て来たおきんさんという女が津田にお辞儀じぎをしたので、彼はすぐ言葉をかけた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その容子ようすといったら見るからが嫌な風采ふうさいで、私が法王の秘密用を帯びて居るといい出すとたちまちひしげて見悪みにくいほどお辞儀じぎばかりして居りましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
女子ハアドルの内田さんが、先に進みでて、「おおきに」とましたお辞儀じぎをしたので、あなた達は笑いくずれる。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「一時間の余!」と、思わずわたしは鸚鵡返おうむがえしに言って、客間へ引返すと、お辞儀じぎしたり足ずりしたりし始めた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
二人の猟師はうちへ帰って行く。その途中でどこかの百姓に会うと、その百姓はお辞儀じぎをしてこういいかける——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
婆やはそれをしおにあきらめて、おぬいさんにやさしくかばわれながら三隅さんのお袋の所にいっしょになって、相対あいたいよりも少し自分を卑下ひげしたお辞儀じぎをした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
散々御辞儀じぎをして、う/\けですから暫時ざんじ百五十両けの御振替おふりかえを願いますとごく手軽に話をすると、家老は逸見志摩へんみしまと云う誠に正しい気のい人で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
サヨサヨ、ヘエ、サヨサヨとつづけざまに上眼うわめをしてお辞儀じぎをしていたが、子供と三人の中へはさまれて
あわてて彼女はお辞儀じぎをしたが、それッきりうつむいてしまった。いつもの勝気にも似ず、今夜は圓太郎の言葉も耳に入らないほどワクワクしている様子だった。
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
白い前垂の女は島田しまだうていた。彼女はその盆をテーブルの隅へ置いてからお辞儀じぎをして出て往った。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
相手の人にお世辞せじを述べるか、あるいはみだりに自分を卑下ひげして、なさずともよいお辞儀じぎをなし、みずから五しゃくすん体躯からだを四尺三尺にちぢめ、それでも不足すれば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「………」書生の神経質は今度は微笑しながら、お辞儀じぎをして、「それなら、わたくしにも分ります」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
○「わかれの挨拶あいさつのお辞儀じぎをしてしまってから、また立話をする。あんなことあたし達にはないわ。」
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
田圃たんぼ道でスレ違いさまにお辞儀じぎをして行く村の娘の髪毛かみのけの臭気をいでも、彼は烈しいインスピレーションみたようなものに打たれて眼がクラクラとする位であった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
静粛なもので、三尺ほどの入口から順々に上人の前へ出て名号をおしいただいて、一廻りしてもとの席へ戻って来るのに、みんな一応お先へお先へと言って辞儀じぎをしました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、源十郎が、ぴょこりと辞儀じぎをしたその耳もとへ、おさよはすばやく口を持っていって
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さあみんな、あしをつけて。それで、行儀ぎょうぎただしくやるんだよ。ほら、あっちにえるとしとった家鴨あひるさんに上手じょうずにお辞儀じぎおし。あのかたたれよりもうまれがよくてスペインしゅなのさ。
露地ろぢ打水うちみづなにかしてらう、先方せんぱう茶人ちやじんだから客はほかになければおまへ一人だから広間ひろまとほすかも知れねえが、おまへ辞儀じぎ下手へたで誠に困る、両手をちごはごにいてはいけねえよ
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
人に遇つても自分の方から先へお辞儀じぎをした例しがないとか、向うの子供が遊びに来れば、まあお菓子だけはおいしさうなのをと思つてやつてゐるのに、こつちの子供が向うへ行くと
犬は鎖に繋ぐべからず (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
帽子も二重廻にじゅうまわし背恰好せかっこうも後から見るとまるで同じなんだけれど、違った人なのさ。わたし、あんまり気まりがわるいんで、失礼とも何とも言えないで、真赤まっかになってただ辞儀じぎをしたわ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
毎日のように汚ないふうをして、古いつくろった網をかついで、川やら掘切ほっきりやらに出かけて行った。途中で学校の先生や村役場の人などにでっくわすと、いつもていねいに辞儀じぎをした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
また、続けさまにお辞儀じぎをする処を見ると非常に丁寧であるらしいが、婦人に対する礼譲に至っては、我々はいまだ一度も見ていない。一例として、若い婦人が井戸の水を汲むのを見た。
と、司令官は、うれしそうに、スクリーンの中から、ぴょこんとお辞儀じぎをして
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家の玄関げんかんへつくと、車夫がとても威勢いせいい大きな声で、『オ帰リイ』とさけぶ。すると家中の者がぞろぞろ出て来る。妻や女中たちが、玄関の畳にならび坐って、『お帰り遊ばせ』とお辞儀じぎをする。
見知みししの人なので、ミハイロが丁寧に辞儀じぎをすると
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
みんながお辞儀じぎをするんだ! いいぞイ! 綺麗だぞイ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
小僧こぞうさんは、丁寧ていねいにお辞儀じぎをしてかえってゆきました。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ペコペコお辞儀じぎをしはじめたものだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と何遍も何遍もお辞儀じぎをした。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
獅子が並んでお辞儀じぎをすると、すたすたと駈け出した。後白浪あとしらなみに海のかたくれない母衣ほろ翩翻へんぽんとして、青麦の根にかすく。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう言って平助は、正覚坊の頭をでながら、沖の方へ放してやりました。正覚坊は何度もお辞儀じぎをして、後ろをふり返りふり返り泳いで行きました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
媒妁は滅多に公会祝儀の席なぞに出た事のない本当の野人やじんである。酒がはじまった。手をついたり、お辞儀じぎをしたり、小むつかしい献酬けんしゅうの礼が盛に行われる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やり丹智タンチさんが女にしては、堂々たる声で、「槍の丹智で御座ございます」とお辞儀じぎをすると、TAをCHIとちがやすいものですから、男達は、どっと笑い出しました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
なみだもろい西田にしだは、もう目をうるおした。礼子れいこもでてきてだまってお辞儀じぎをする。西田はたちながら
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
男は先刻からの阿呆笑いをちょっと片付け椅子から立ち上って看護婦に近づくと、今度は前とは違った得意な笑顔になり幾つも立て続けに看護婦にお辞儀じぎをするのであった。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
切符売下所うりさげじょの前に話している三人へ慇懃いんぎんにお辞儀じぎをして、何か二こと、三こと、云ったと思ったら、急にこっちへ向いて、例のごとく猫足ねこあしにあるいて来て、や君も湯ですか
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうその時は、はじめの縁に、遠州で仲人になった旗本——藤木さき朝散ちょうさん太夫だいぶの子か孫かが婿で、その若い二人組だった。お客がくると、湯川氏の奥方がお辞儀じぎをしているうちに
そしてひばりの親子は二、三べん辞儀じぎをして、あわててんで行ってしまいました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と、めそやすのでした。それでとしおおきい白鳥達はくちょうたちまで、このあたらしい仲間なかままえでお辞儀じぎをしました。わか白鳥はくちょうはもうまったくまりがわるくなって、つばさしたあたまかくしてしまいました。
なん其様そん尾籠びろうなことをつちやアなりませんよ、結構けつこう御軸おぢくでございますとふんだ、出して見せるかけて見せるか知らんけれどもけてつたら辞儀じぎをして、一おう拝見はいけんして
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
馳走ちそうになれば御酒ごしゅくだされなんと云て、気の毒にも思わずただ難有ありがたいと御辞儀じぎをするばかりで、その実は人間相互あいたがいの附合つきあいと思わぬから、金銭の事についてもまたその通りでなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)