老爺おやぢ)” の例文
うだか。分りやしませんよ。老爺おやぢめ、なるべく遅く帰つて来ればいゝのに。かう思つてゐるのぢやありませんか。はゝゝゝゝ。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
これで病附やみついた東皐子とうくわうしは、翌日よくじつ徒弟とていおよ穴掘あなほり老爺おやぢ同行どうかうして、さかんに發掘はつくつし、朝貌形完全土器あさがほがたくわんぜんどきしたなどは、茶氣ちやき滿々まん/\である。
然し、そのもとに店を出して、いい臭ひをさせた燒きもろこしの老爺おやぢの見馴れた顏は、どこへ行つたか、影さへも見えない。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「オヽイ、馬丁さん、早くしてお呉れよ、からだがちぎれて飛んで仕舞しまひさうだ——戯譃じやうだんぢやねえよ」と、車のうちなる老爺おやぢ鼻汁はなすゝりつゝ呼ぶ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
咄嗟とつさの間に見極めると、年の頃五十六七、實體らしい老爺おやぢさんで、どう間違つても身投などをするがらとは見られません。
不安な眼付をした老爺おやぢと其娘だといふ二十四五の、旅疲労たびづかれせゐか張合のない淋しい顔の、其癖何処か小意気に見える女。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
中に厚紙の台に木のを附けて蝋燭を立てた手燭てしよくを売る老爺おやぢが一人まじつて居る。見物人は皆其れを争つて買ふのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ちやうど先頭の第一人が、三段を一足飛いツそくとびに躍上ツて、入口のドアーに手を掛けた時であツた。扉を反對のうちからぎいとけて、のツそり入口に突ツ立ツた老爺おやぢ
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
でございますから、あの娘が大殿樣の御聲がゝりで小女房に上りました時も、老爺おやぢの方は大不服で、當座の間は御前へ出ても、苦り切つてばかり居りました。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それもどうものぞみはないらしいですがね、それよりもかねことですよ。先刻さつきぼく此處ここはひらうとすると、れいのあの牧師ぼくしあがりの會計くわいけい老爺おやぢめるのです。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
こいつ老爺おやぢぬすんだときふおつかけて行くと老人悠々いう/\としてあるいて居るので追着おひつくことが出來た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それ、徒労力むだぼねことよ! えうもない仕事三昧しごとざんまい打棄うつちやつて、わかひとつま思切おもひきつて立帰たちかへれえ。老爺おやぢらぬ尻押しりおしせず、柔順すなほつまさゝげるやうに、わかいものを説得せつとくせい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
朴訥ぼくとつな人のささうな老爺おやぢが、大きな鍵を持つてわたしの前に立つた。わたしは線香と花とを買つた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
勘次かんじには卯平うへいおそろしいよりもそのときではむしいや老爺おやぢつてた。二人ふたり滅多めつたくちかぬ。それをなければらぬおしな苦心くしん容易よういなものではなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一人淋しき老爺おやぢの破れ三味線かゝへて行くもあり、六つ五つなる女の子に赤襷させて、あれは紀の國おどらするも見ゆ、お顧客とくいは廓内に居つゞけ客のなぐさみ、女郎の憂さ晴らし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
胡麻鹽ごましほ腮鬚あごひげの長い受付の老爺おやぢの顏を、半圓形の硝子窓の中に、覗きカラクリのやうに見て、右へ曲つて行くと、白い壁の長い廊下が續いて、其の片側には、下駄箱を横にしたやうに
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「とつちやん」とちさすゑ娘に呼ばれて、門先かどさきの井戸のもと鎌磨かまと老爺おやぢもあり。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
蒼い顔を日にさらして、帽子も被らぬ湯村はうなづいた。車夫は又梶棒を握つた。そして、又駈出した。むきみやの老爺おやぢで、店はお喋りなかみさんに任せてある、定七と云ふ、今年五十六になる。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
あの娘はまたどうでも厭だと言つて、姉に代れとまでねてるんだけど、……姉はまたどうでもいゝツて言つてるんけど……どうしても千代でなくては聽かんと言つてる相だ。因業いんごふ老爺おやぢさねえ。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
死の老爺おやぢはこんな風にして、ぐるりぐるりと世界のなかをめぐつてゐる。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
雨戸あまどを引いて外の格子かうしをがらがらツと明けまして燈明あかり差出さしだして見ると、見る影もない汚穢きたな乞食こじき老爺おやぢが、ひざしたからダラ/″\血の出る所をおさへてると、わづ五歳いつゝ六歳むツつぐらゐの乞食こじき
老爺おやぢさんこりやなんて花だい」と、一本摘んで訊いて見た。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
老爺おやぢは日本服を着けた晶子の来たのを喜んで、早速さつそくギタルの調子を合せてヹルレエヌの短詩を三つ続けざまに歌つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
海の模様を見るために出てゐた、別荘番の老爺おやぢは、漆のやうに暗い戸外から帰つて来ると、不安らしく呟いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
五十前後の大きな老爺おやぢで、顏の道具の荒い、生涯江戸の水を呑ませても、なまりあかも拔けさうもない仁體です。
でございますから、あの娘が大殿様の御声がゝりで、小女房に上りました時も、老爺おやぢの方は大不服で、当座の間は御前へ出ても、苦り切つてばかり居りました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それを見ると、馬車曳の定老爺おやぢが馬を止めて、『どうしただ?』と聲をかけた。私共は皆馬車から跳下とびおりた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
あのイタヤ樹下じゆかのもろこし老爺おやぢ——きのふは氣づかなかつたが——は、まだゐるか知らん? もう一度、あの、札幌を代表する百姓馬子等の呼び賣り姿を見たい。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
年の頃四十五六、頬の思切つて出張でばツた、眼の飛出した、鼻の先の赭い、顏の大きな老爺おやぢだ。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一人淋しき老爺おやぢ三味線ざみせんかかへて行くもあり、六つ五つなる女の子に赤襷あかだすきさせて、あれは紀の国おどらするも見ゆ、お顧客とくい廓内かくないに居つづけ客のなぐさみ、女郎の憂さ晴らし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一行いつかうは、かれと、老爺おやぢと、べつ一人ひとりたかい、いろあを坊主ばうずであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しな卯平うへいをもいた落膽らくたんせしめた。卯平うへいは七十一の老爺おやぢであつた。一昨年をととしあきから卯平うへい野田のだ醤油藏しやうゆぐらばんやとはれた。卯平うへいはおしなが三つのときに、んだおふくろところ入夫にふふになつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一歩毎ひとあしごと老爺おやぢの持つた鍵がぢやらぢやらと鳴る。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
老爺おやぢは寄つて、三人さんにん
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
自分達の汽車で同じく着いたらしい三人の西班牙スペイン人がはひつて来て喫茶店カフエエ老爺おやぢ西班牙スペイン語で話して居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もし強ひて申上げると致しましたら、それはあの強情な老爺おやぢが、何故なぜか妙に涙脆くなつて、人のゐない所では時々獨りで泣いてゐたと云ふ御話位なものでございませう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうちに虚無僧は逃げてしまつたし、掛り合ひが怖いと思つたか、一人も進んでその時の樣子を話してくれる者は無い。——これは皆んな、茶店の老爺おやぢの口から出たことだ
うだす。そして今夜こんにやのうちに、衣服きものだのなに包んで、權作老爺おやぢさ頼まねばならねえす。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
よきをんなもありをとこもあり、五にんにんにんくみおほたむろもあれば、一にんさびしき老爺おやぢ三味線ざみせんかゝへてくもあり、六つ五つなるをんな赤襻あかだすきさせて、あれはくにおどらするも
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わかいものをそゝのかしてらぬほねらせるな、娑婆しやば老爺おやぢめが、』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一緒に探してれた老爺おやぢわたしそばつて来た。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
老爺おやぢはやをら中央まんなか
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
もし強ひて申し上げると致しましたら、それはあの強情な老爺おやぢが、何故なぜか妙に涙もろくなつて、人のゐない所では時々独りで泣いてゐたと云ふ御話位なものでございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うだす。そして今夜こんにやのうちに、衣服きものだの何包んで、権作老爺おやぢさ頼まねばならねえす。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さういへば、いつぞや平次が錢を飛ばして、身投を救つてやつた老爺おやぢです。
源助の家へ帰ると、お八重はまだ帰つてゐなかつたが、腰までしか無い短い羽織を着た、布袋の様に肥つた忠太老爺おやぢが、長火鉢に源助と向合つてゐて、お定を見るや否や、突然
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
が、船頭は一向平気なもので、無愛想な老爺おやぢの、竹の子笠をかぶつたのが、器用に右左へさをを使ふ。おまけにその棹のしづくが、時々乗合の袖にかかるが、船頭はこれにも頓着する容子がない。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この老爺おやぢは小田原在の百姓で水右衞門といふのださうですが、村から御領主大久保加賀守樣上小川町の御屋敷にお屆けする、公用金百兩を、月當番二人で江戸まで持つて來ることになつたところ
立つ前にこつそ衣服きものなどを取纒めて、幸ひ此村ここから盛岡の停車場に行つて駅夫をしてる千太郎といふ人があるから、馬車追の権作老爺おやぢに頼んで、予じめ其千太郎の宅まで届けて置く。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次は念入りに松の木を調べた上、裏門の門番の老爺おやぢに會つて見ました。彌市と言つて六十近い仁體ですが、赤銅色の巨大な身體と、怒鳴り馴れた大きい聲が、相當門番的威力を持つてゐさうです。