つばさ)” の例文
雪で作ったような白いつばさの鳩の群が沢山に飛んで来ると湯の町を一ぱいにおおっている若葉の光が生きたように青く輝いて来る。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こと艇尾ていび兩瑞りようたん裝置さうちされたる六枚ろくまいつばさいうする推進螺旋スクリユー不思議ふしぎなる廻轉作用くわいてんさようあづかつてちからあること記臆きおくしてもらはねばならぬ。
と幽霊女は細い股の上へ、つばさを休めた蝶の姿を、可愛いというように眺めていたが、その眼をあげて拝殿の方を見やり
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今まで死んでいるとばかり思って、いじくり廻していた鳥のつばさが急に動き出すように見えた時、彼は変な気持がして、すぐ会話を切り上げてしまった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「葦べ行く雁のつばさを見るごとに」(巻十三・三三四五)、「鴨すらもおのが妻どちあさりして」(巻十二・三〇九一)等の例があり、参考とするに足る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
銀色のつばさを閃かして飛魚の飛ぶ熱帯ねったいの海のサッファイヤ、ある時は其面に紅葉をうかべ或時は底深く日影金糸をるゝ山川の明るいふちった様な緑玉エメラルド
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
予がはじめて「若菜集」を手にしたをりの感情は言ふに言はれぬ歡喜であつた。予が胸は胡蝶のつばさの如くふるへた。
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
にんえのきもとちて、「お月樣つきさまいくつ」とさけときは、幾多いくたの(おう同音どうおんに「お十三じふさんなゝつ」として、飛禽ひきんつばさか、走獸そうじうあしか、一躍いちやく疾走しつそうしてたちまえず。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はほんの一瞬間、乾いた彼の唇の上へこの蝶のつばさの触れるのを感じた。が、彼の唇の上へいつかなすつて行つた翅の粉だけは数年後にもまだきらめいてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なるほど、石炭せきたんのいうように、このまままちへゆくとしようかと、うつくしいつばさふるわしてはちはかんがえていました。
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
早く家の中へ逃げ込まうと思ひながら俺は、バツタだ/\と叫びながらつばさを鳴して面白く飛ぶんだよ。
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
またつばさある草履と、魔法袋と冥界王ハデースのかぶとを得、これをかぶると自分全体が他人に見えなくなる。
建物がゆがんで映り、時とすると灰汁あくのような色をして飛んでいる空の雲が鳥のつばさのように映り、風のために裏葉をかえしている嫩葉わかばが銀細工の木の葉となって映った。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蜂鳥はちどりや、はちや、胡蝶こちょうつばさをあげて歌いながら、あやのような大きな金色の雲となって二人の前を走って歩きました。おかあさんは歩みも軽く海岸の方に進んで行きました。
停車場は蘆葦人長ろいじんちょうの中に立てり。車のいずるにつれて、あしまばらになりて桔梗ききょうの紫なる、女郎花おみなえしの黄なる、芒花おばなの赤き、まだ深き霧の中に見ゆ。ちょう一つ二つつばさおもげに飛べり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
星形をした大きな池には、赤はすや青蓮が咲きほこり、熱帯魚がルビイ色の魚鱗ぎょりんをきらめかせてゐる。樹間には極楽鳥のつばさがひるがへり、芝生には白孔雀くじゃくが、尻尾しっぽをひろげて歩いてゐる。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
歌ひながらに恋人は、飛ぶ蜂のつばさきらめく光のかげ、暮方の食事にと、庭の垣根の果実くだものと、白きパン、牛の乳とをととのへ置きて、いざや、より添ひて坐らんと、わが身のほとりに進み来ぬ。
が、石を積んでかしの厚板を並べた床は、東海坊の十本の指が碧血へきけつまみれる努力も空しく、ビクともする樣子はなく、四方に積んだ枯柴は、丈餘の焔を擧げて、つばさがあつても飛び越せさうもありません。
つばさのおとを聴かんとして 水鏡みづかがみする 喪心さうしんの あゆみゆく薔薇
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
たづかなき雲井にひとをぞ鳴くつばさ並べし友を恋ひつつ
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
蝶のつばさも幽かに雨を感じたらしいであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
『時』のつばさもさながらに二人の上にやすらひぬ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はなしたふむつゆのあしたならぶるつばさ胡蝶こてふうらやましく用事ようじにかこつけて折々をり/\とひおとづれに餘所よそながらはなおもてわがものながらゆるされぬ一重垣ひとへがきにしみ/″\とはもの言交いひかはすひまもなく兎角とかくうらめしき月日つきひなり隙行ひまゆこまかたちもあらば手綱たづな
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つばさ無き身の悲しきかな
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
白銀びやくぎんつばさゆるかに
しやうりの歌 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
さらに弓矢や長いほこを持ち出して追い立てると、怪鳥は青いおにびのような眼をひからせ、大きいつばさをはたはたと鳴らして飛びめぐった末に、門を破って逃げ去った。
それを無理にうれしがるのは、何だかありもしないつばさやして飛んでる人のような、金がないのにあるような顔して歩いて居る人のような気がしてならなかった。
処女作追懐談 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
埼玉さきたまの小埼の沼に鴨ぞはねきる己が尾にり置ける霜を払ふとならし」(巻九・一七四四)、「天飛ぶや雁のつばさ覆羽おほひは何処いづくもりてか霜の降りけむ」(巻十・二二三八)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼつ以來いらい數日間すうにちかんは、あをそらと、あをなみほかなに一つもながめたことのない吾等われらが、不意ふいこのしま見出みいだしたときうれしさ、つばさあらばんでもきたき心地こゝち、けれどかなしや
彼は自分の体につばさのないことを恨んだ。彼は殺されるのを待つより他にしかたがなかった。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たちまち顧みると狐がとても登り得ぬ高い壁が野中に立つ、因ってつばさを鼓してそれに飛び上り留まる。狐その下に来り上らんとしても上り得ず、種々の好辞もて挨拶すれど、鶏一向応ぜず。
レールは、また、このはちをよく見知みしっていました。なぜなら、このちいさい、敏捷びんしょうな、すきとおるようにうつくしいつばさったはちが、つねに、この近傍きんぼうはなから、はなびまわっていたからです。
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、石を積んでかしの厚板を並べた床は、東海坊の十本の指が碧血へきけつまみれる努力も空しく、ビクともする様子はなく、四方に積んだ枯柴は、丈余の焔を挙げて、つばさがあっても飛び越せそうもありません。
力をはらむ鳥のつばさのやうにささやきを起して
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
鸚鵡あうむの鳥はかなしげにつばさふるはす。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つばさやすめむ海の鳥、遠き潮路の
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
霜はつばさの花となる
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
白金しろがねつばさ気高けたか
しやうりの歌 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
女中がいつの間にかスイッチをひねって行った電灯は十五畳ばかりの座敷を明かるく照らして、むき捨てたバナナの皮にあつまってくる蝿のつばさも鮮やかにみえた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その動力どうりよくつね石油發動力せきゆうはつどうりよくにあらずば、電氣力でんきりよくさだまり、艇形ていけい葉卷烟草形はまきたばこがたて、推進螺旋スクリユーつばさ不思議ふしぎよぢれたる有樣ありさまなど、いつもシー、エヂスン氏等しら舊套きゆうとう摸傚もほうするばかりで
謙作は呼苦いきぐるしい眠りから覚めた。それは花園かえんの中を孔雀くじゃくか何かのようにして遊び狂うていた鳥のつばさが急にばらばらと落たような気もちであった。彼は二三度大きくいきをしてから眼を開けた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夢さへつばさたたみてつつましくも
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
微塵数みぢんずのかがやくつばさ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つばさちりを拂ひつゝ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
石は殺生石せっしょうせきと恐れられて、誰も近寄ろうとはせぬほどに、そのあたりには人の死屍しかばねや、けものの骨や鳥のつばさや、それがうず高く積み重なって、まるで怖ろしい墓場の有様じゃという。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おんこそつばさうるめる乙鳥つばくらめ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
黒いチユウツケちぎれたつばさ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちからなくつばさ垂れぬる。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
なやめる歌のもろつばさ
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
嗚呼塵染めぬつばさかげ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)