びん)” の例文
その敷物が夜分の寝床にもなりますので、隅にはその室付のかまが一つ、その上に土鍋どなべが一つ、それから水を入れる土のびんが一つある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一枚戸を開きたる土間に、卓子テエブル椅子いすを置く。ビール、サイダアのびんを並べ、こもかぶり一樽ひとたる焼酎しょうちゅうかめ見ゆ。この店のわきすぐに田圃たんぼ
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その中でも、殊にもう七八年も前に、まだ栓を拔かない麥酒のびんを縁側から庭石に叩きつけた時の事が、はつきりと思ひ出された。
病室より (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
その後いつの間にか、亜砒酸をのむことをやめたが、その残りがまだびんの中に入れられて、机の抽斗ひきだしの奥に貯えられてあったのである。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そっと船室へ戻って、また靴を穿き、手当り次第に葡萄酒のびんを一本掴むと、それを申訳の理由に持って、再び甲板に出て行った。
もう申し上げる必要はございませんでしょうが、あの酸化鉛のびんの中には、容器におさめた二グラムのラジウムが隠されてあったのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
又そこの食器だな珈琲茶碗コーヒーぢゃわんや、ビールのコップや、ワイングラスや、葡萄酒ぶどうしゅやウィスキーのびんがパチャン、パチャンと破裂する。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おい、与助じゃないか。どこへ行く。」と、倉部巡査は声をかけると、少年は急に立ち停まって、手に持っている硝子のびんを振ってみせた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「こら酒だ。」松木が答えないさきに、武石が脚もとから正宗の四合びんを出して来た。「沢山いいものを持って来とるよ。」
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
びんそこになつた醤油しやうゆは一ばん醤油粕しやうゆかすつくんだ安物やすもので、しほからあぢした刺戟しげきするばかりでなく、苦味にがみさへくははつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
支那料理をいに往ったところで、そこの主翁ていしゅが支那料理の話をしたあげく、背が緑青色をした腹の白い小さな蛇をけた酒のびんを持って来た。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのばん、俵的と女房だけを病院に残し、私は家へ帰ると台所から冷酒の入った一しょうびんを持ってきて机の上におき、コップで、ぐいぐいとあおった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そこにはびんの破片を植ゑた煉瓦塀れんぐわべいの外に何もなかつた。しかしそれは薄いこけをまだらにぼんやりとらませてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あのとおり、びんふたをしたまま暖炉だんろの上に置いたるじゃないの。感心でしょう。だけど、あたし、自慢はできないわ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
葡萄酒ぶどうしゅでも飲んでおいで」と言いながら、岸本は思いついたように部屋のすみにある茶戸棚ちゃとだなの方へ立って行った。そこからボルドオのびんを取出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
びんやら、行李こうりやら、支那鞄しなかばんやらが足のも無い程に散らばっていて、塵埃ほこりの香がおびただしく鼻をく中に、芳子は眼を泣腫なきはらして荷物の整理を為ていた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかし入口の近くのゆかの一隅にある開いた揚蓋あげぶたからは、長い一つづきの酒蔵さかぐらが見下すことができて、その底には、おりおりびんの破裂する音から考えると
横倒しにかえされた牛乳のびんの下に、鶏卵たまごからが一つ、その重みで押しつぶされているそばに、歯痕はがたのついた焼麺麭トースト食欠くいかけのまま投げ出されてあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その手は妙な形をしたひょろ長いガラスびんを窓の張り出しに置いて、再びカーテンのうしろへ消えてしまった。
あの首のくゝれたやうな独特の形をしたびんの口を塞いでゐる円い硝子玉ビーだま、それを拇指おやゆびでぐつと押すと、ポン・シユッと胸のすくやうな快音を立てて抜ける
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
北太平洋のもあるいはこの仲間でないとも限らぬからびんの写真でも撮って知らしてやったらよかろうと思う。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女は座布団ざぶとんを置き、傍にビールびんを置くと次の茶の間に引下りそこで中断された母子の夕飯を食べ続けた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ブラックの『俚薬方篇フォーク・メジシン』五九頁に、英国サセックスの俗頸れた時、蛇を頸の上にきずり、びんに封じ固く栓して埋めると、蛇腐るに随って腫れ減ずと見ゆ。
強度の石炭酸と、石灰と、他に劇薬の入ったびんを持った、医者と、警官と人夫と先に立ち、後から青ぶくれのした村長が考え顔をしながら織物会社へやって来た。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ミグレニンの小さいびんを二日であけてしまうので、その作用なのか、夜になるとトンボが沢山飛んで行っているようだと云ったり、雁が家の中へ這入って来るようだと
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
書き終った私は、もって居た一びんの薬をそのまま全部一度に呑みほしました。いとわしい此の世に最後のあいさつをしながら、木曽川の流れを葬いの歌ともききながら。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
今のお継母かあさんは、私がまだ三つか四つのころ、まだ意識がやっと牛乳のびんから離れたころから、もう、自分を見る眼つきの中に、限りない憎悪にくしみの光が宿っているって
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
兼太郎は嬉涙うれしなみだに目をぱちぱちさせていたがお照は始終頓着とんちゃくなくあたりを見廻すとこに二合びんが置いてあるのを見ると自分の言った事が当っているので急に笑いながら
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
取り出した物は大きなびん、彼はたもとからハンケチを出して罎の砂を払い、更に小な洋盃コップ様のものを出して、罎のせんぬくや、一盃いっぱい一盃、三四杯続けさまに飲んだが、罎を静かに下に置き
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「えゝさうです。何んでも気合一つで鳥獣を眠らせたり、はこの中にあるものをあてたり、又は刀で腕の上に載せた大根を切つたり、ビールびんを額に打ちつけて割つたりするんです。」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
そして、特別に、びん入りの牛乳を暖めさせて持って行ったと聞いて、捜索隊はさてこそと安堵あんどの胸を撫でおろした。これで見ると、まだチャアリイは生きて、彼らと一緒にいるのだ。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そうして片手をびんの栓へかけて、出会いがしらに毒薬をふりかけてくれようと、血眼ちまなこで駈けまわりましたが、不思議や悪魔はどこへ行ったか影も形も無く、只霜風しもかぜが身を切るように冷たくて
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
馬丁べつたうは葡萄酒のびんを引つ抱へて、鞍の上で大威張にりかへつてゐた。
そうして、穴蔵に二、三本の葡萄酒のびんがころがっているのを見つけた。
ジャガタラ芋の根塊こんかいでもありません——それは通常のビールびん一本です。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とHが、モビロイルのブリキびんを僕の目の先に誇らかに突きつけた。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
五罎の「ぶらんでー」は忽ちび出さる、二びんたちまたをる人数多き為め毎人唯一小杯をかたむけしのみ、一夜一罎をたほすとすればのこる所は三日分のみなるを以て、巳を得ずあいく、慰労の小宴ここおはれば
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
びんならぶ窻のそば、露台バルコンにダアリヤの花ただひとつ赤けれども
浅草哀歌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
びんの牛乳の腐らぬ季節
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それから本物を別のびんにうつして、浅草の山本実験所へ持っていって還元してもらい、四時に警視庁から取りにいったんです。
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と、お春が盆の上に、消毒した注射器、ベタキシンの箱、アルコールのびん、脱脂綿入れ、絆創膏ばんそうこう、等々を載せて這入はいって来た。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はまなべ、あをやぎの時節じせつでなし、鰌汁どぢやうじる可恐おそろしい、せい/″\門前もんぜんあたりの蕎麥屋そばやか、境内けいだい團子屋だんごやで、雜煮ざふにのぬきでびんごと正宗まさむねかんであらう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天下を望む大伴おおとも黒主くろぬしと来りゃあ、黒だって役がいいわ。まあ、そんなことより、これ、これ……。(びんをみせる。)又こんなものを頂いたのよ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうじっとしていてびんのようにころころさせられるのでは、胸がむかむかせずにはいられなかったからで、とりわけ、朝の、空腹の時ではそうだった。
卯平うへい幾杯いくはいたゞちやすゝつた。壯健たつしやだといつてもかれがげつそりとちてやはらかなものでなければめなくなつてた。卯平うへいまたおつぎへ醤油しやうゆびんして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
のみならずいくら本を読んでも、寝つかれないことさえまれではない。こう言う僕の枕もとにはいつも読書用の電燈だのアダリンじょうびんだのが並んでいる。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はお幸ちゃんの置いた一合びんるなり、じぶんいで飲み、また注いで飲んで、三ばい目のさかずきを下に置いた。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ヘリオトロープといてあるびんつて、好加減に、是はどうですと云ふと、美禰子が、「それにませう」とすぐ極めた。三四郎は気の毒な位であつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
阿片丁幾アヘンチンキ」というレッテルをったからのガラスびんがそのかたわらにあった。彼の呼吸は毒を飲んだことを示していた。彼はひと言もいわずに死んでしまった。
姉がまだ一緒にいた夏の頃、節子は黄色く咲いた薔薇ばらの花を流許ながしもとの棚の上にびんして置いて、勝手を手伝いながらでもひとりでながめ楽むという風の娘であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)