ゆわ)” の例文
俊亮は、自転車に壜詰をゆわえつけて、それを押しながら家を出たが、町はずれまで来ると、次郎をいっしょにのせてペタルをふんだ。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そう言ううちにも平次は、手っ取り早くお静の傷口を洗って、用意の焼酎しょうちゅうでしめした上、手拭を裂いてキリキリとゆわえてやりました。
羽織のひもの長きをはづし、ゆわひつけにくるくると見とむなき間に合せをして、これならばと踏試ふみこころむるに、歩きにくき事言ふばかりなく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
というがはやいか、段に片足を上げて両手をく、裾を引いて、ばったり俯向うつむけのめった綺麗な体は、ゆわえつけられたように階子に寝た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼻と、口を手拭てぬぐいでしっかとゆわえてもムーンと鼻の穴から、頭へ突きぬけるような臭気が、せるようだった。れても同じだった。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
とくに念を入れた服装みなりをしていて、フランネルの服、派手な手袋、白の半靴はんぐつ、薄青の襟飾えりかざりゆわえていた。手には小さなむちをもっていた。
その一つを拾った万平は、向うの壁に干してある、誰かの越中褌えっちゅうふんどしで包んでシッカリとひもゆわえて、大切そうに袖の間へシッカリと抱えた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「胸さわぎがする」と、奥へかくれたと思うと、覚明は、逞しい自分の腰に太刀の革紐かわひもゆわいつけながら出てきて、ありあう下駄を穿
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二、三時間で、魚籠びくは一杯になった。魚籠の中で、バタバタと跳ねる魚の響きが、腰にゆわえた紐から身体に伝わってきて、何とも快かった。
楢の若葉 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
庭は思いの外ひっそりとしていたが、その一方の隅のかえでの木の下に、後ろ手にゆわかれているのは建具屋の平吉という人らしい。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
貞時はさがしようもなく幾つかの女車をり過したなかに、薄葉うすようかごのようにふくらがし、元の方を扉にゆわえた女車があった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
前は右足だったが、今度は左脚ひだりあしゆわいつけられて、それに紐の色が赤いんだ。けれどもただひとついいことは、みんな大抵たいていてしまったんだ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と見ると、女は凄いほどのととのった顔立ちで、それが、巫女みこのような白い着物を着て、髪をおすべらかしみたいに背後うしろへ垂らして藁でゆわえている。
おじいさんが、自分のからだを梶棒にゆわいつけてくれないと知って、今度は、歯でくわえて曳いて行こうとするのでした。
私はうれしくて、「どうぞ」とたのんで安心しました。丸太を組んで縄でゆわえた手摺てすりに寄って眺めますと、曇っていてもかなり遠くまで見えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
おしのは草履をゆわいつけてはき、煎薬せんやくを詰めたびんと、綿や紙を入れた包みを持って、釣台のわきに付いて本石町をでかけた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だからいいくらしをしておいでなのだ。ほらね、あのかたあしあかいきれをゆわえつけておいでだろう。ありゃあ家鴨あひるにとっちゃあたいした名誉めいよなんだよ。
合唱隊の子供達と、頬をゆわえ髪に藁を揷した番僧がそれにつづく。その次が自分つまり補祭の番だ。つづいて紫帽をいただき十字架を捧げた役僧。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
箱からしたたるビードロのようなしずくを切り、彼女は、両手で刀箱を支え、じっと見入った。ゆかしい古代紫の絹の打ち紐で、箱はゆわえられていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
濡れた海水着をタヲルできゆつとゆわへて片手にぶら下げた英子が、雪の下の下山(光代たちの姓)の家に寄つて、毎晩三人きりで退屈してゐるから
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
最後さいごの病は腰疾ようしつ(こしの病気)であった。それにはしじゅう板にねかしておくがいいというので、板の上にからだをゆわえつけて動けないようにした。
創作家のランジェは、黙って、大きな卓机デスクから一束の手紙を取りだした。その文束ふみたば真紅まっかなリボンでゆわえてあった。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
そして、藻掻もがく手足を押込んでしまうと、袋の口を麻縄ロープで厳重にゆわいてしまった。ああ、僕は、こんどこそ海底の藻屑もくずと消え失せなければならないのか。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
ラプンツェルをれてったおな夕方ゆうがた魔女まじょはまたとううえ引返ひきかえして、った少女むすめ辮髪べんぱつを、しっかりとまど折釘おれくぎゆわえつけてき、王子おうじ
あれを還俗げんぞくさせて島田にゆわせたなら何様どんなであろう、なんかと碌でもない考えを起すものなどもござりました。
それがすむと、小山嬢は、飾椅子にゆわきつけてあった綱をほどき、宙に首吊くびつりを演じている博士の身体を下におろし、前のとおり肘懸ひじかけ椅子に腰を掛けさせた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
アブラハム・クップフェルの處からも、あの三角帽、赤絲肩章、前立まへだち色布いろぎれゆわいた辮髮の見別がつく。
石工 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
彼女はそれから、小筥こばこの中からそっと取りだした一枚の紙片を、鳩の足にゆわえつけると、庭へ出て、一度強く鳩を胸に抱きめながら、頬をつけてから手を離した。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
窓の縁にその端を固くゆわえて、自分はその美しいきんの綱を伝って、するする下へ降りて行きました。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
自転車で走って、叩き起こして買うたのはまあよかったやさ。風呂敷へ包んでサドルの後ろへゆわえつけて戻って来たら、れとりましてな、これだけほどになっとった
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
かまちに腰をかけて阿賀妻は草鞋わらじを脱いだ。取った脚絆きゃはんと手甲をそれぞれのひもゆわえてその隅に置いた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それは綿わたはいった、すそあついものでございますので、道中どうちゅうこしところひもゆわえるのでございます。
花見ごろには、お庄も学校のひまにここの店番をしながら、袋をゆわえる観世綯かんぜよりなど綯らされた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ところがその百姓が、車のながえと横木をかずらゆわいた結び目を誰がどうしてもく事が出来ない」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日は応接間の絨毯じゅうたんを台なしにして、校長に叱られた。乃公おれは猫の頚にインキ瓶をゆわい付けたばかりで、三日間の禁足になって了った。今に彼の猫を打殺たたきころしてしまうからいい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから念入りにきれいな白い紙で体裁よく包んで、解くのが少々やっかいなようにゆわえた。
その鎖は、それでゆわえて運ぶ大きな木材よりもむしろ、それでつながれたかも知れない太古の巨獣マストドンやマンモスなどを思い浮かばせた。それは牢獄のような感じだった。
之は大版二枚がけ位のタテに長い版画でしたが、下では鬼婆が乳をぶらさげて出刃をとぎ、上からは身もちの真白な女が真赤なゆもじをして、ゆわかれてさかさに吊るされています。
少年の食物 (新字新仮名) / 木村荘八(著)
「今晩、遅く皆さんが寝静まった時に、花園の中の、あの石のある処へいらして、そこの樹へなわゆわえて、その端をへいの外へ投げてくださるなら、あの方がすがってあがりますよ」
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
佃は迷惑そうであったが、伸子は膳を下げに来た女中に草履とゆわいつけの紐を頼んだ。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
去年は、あっちのユウカリの樹のそばへつないでおいたのですがね、今年はこんなところへ逃げ出して来ている……ほら、ご覧なさい。ちゃんと鎖でゆわえつけておくんですが、いつも鎖を
学校へ見にいったところで、今ごろいるはずもないと思い、赤ん坊とゆわいひもをもって、いちばん仲よしの早苗のところへのぞきにいった。てっきりそこで遊びほうけていると思ったのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
(昔の名残りの葛籠つづらの底から、成田山の疵薬を出す。薬は辛うじて残っている)少しシミるけれど、もうこれで大丈夫、今、ゆわえといてあげるよ。(小布れを探して結えてやる)さあ、もういい。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
昔から旱魃の時には村民が集まって祈雨するが、総ての方法を尽くしてもなお降らぬ際は、牛の首を切って、滝壺の柵に置き藤蔓で堅くゆわえ付け後を見ずに帰って来る秘法を行うことになっている。
くるくると巻いてその果し状を小柄こづかゆわいつけると
なれども、結んだのは生蛇なまへびではござりませぬ。この悪念でも、さすがはおんなで、つつみゆわえましたは、継合つぎあわせた蛇の脱殻ぬけがらでござりますわ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
厳重にゆわえたようでも、引窓の綱にはかなりのゆるみがあり、上からコジられるごとに、隙間は少しずつ大きくなって行きました。
腕はゆわかれ頭は欠けて雑草の波に打たれてるある像の上に、一匹の蜥蜴とかげが安らかな胸であえぎながら、じっと日光に浴して我を忘れていた。
と言って、さすがに米友があいた口がふさがらないのは、首根ッ子へゆわいつけていた風呂敷包が、いつのまにか紛失していることであります。
なにれはれたものだ、うやつてうするとひながら急遽あわたゞしう七尻端しりはしをりて、其樣そんゆわひつけなんぞよりれが夾快さつぱりだと下駄げたぐに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)