空蝉うつせみ)” の例文
今はましてがらでない気がする空蝉うつせみであったが、久しぶりで得た源氏の文字に思わずほんとうの心が引き出されたか返事を書いた。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さんざん、楽しんだあげく、空蝉うつせみみたいな女のぬけ殻を、持って行くにちがいない。忠平に、そのあとを贈呈するのはおもしろい。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老探偵は甥と肩を並べて、その近くまでを動く道路ベルト・ロードに乗って行き、空蝉うつせみ広場から先を、歩道にそってゆっくり歩いていった。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しょうの肌身はそこで藻抜けて、ここに空蝉うつせみの立つようなお澄は、呼吸いきも黒くなる、相撲取ほど肥った紳士の、臘虎襟らっこえり大外套おおがいとうの厚い煙に包まれた。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
をかしかるべき空蝉うつせみのとものにして今歳ことし十九ねんてんのなせる麗質れいしつ、をしや埋木うもれぎはるまたぬに、青柳あをやぎいとのみきゝても姿すがたしのばるゝやさしの人品ひとがら
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一方空蝉うつせみや夕顔との恋は、源氏がいかに言い寄り女がいかに答えたかをきわめて詳細に描いているにかかわらず、この重大な御息所との恋は、右のごとくただ
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
先方にも貴樣きさまは傳吉ならずやと云ふに久々ひさ/″\にて御目にかゝりたり何の御用にてとたづねければ源次郎は大いに急込せきこみたる樣子にて然ば貴樣が三浦やのいとまを取し後空蝉うつせみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
武骨者と人の笑ふを心に誇りし齋藤時頼に、あはれ今無念の涙は一滴も殘らずや。そもや瀧口が此身は空蝉うつせみのもぬけのからにて、腐れしまでも昔の膽の一片も殘らぬか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
だけど、そんな知識を振翳ふりかざしたって何になるでしょう。そんな学問はただの装飾です。いくらくれないあや単襲ひとえがさねをきらびやかに着込んだって、たましいの無い人間は空蝉うつせみ抜殻ぬけがらです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
一々いちいちの批評をして見た所で、その俳優に対する好き好きがあろうから無駄な事だが、私は過日帝国館で上場された改題「空蝉うつせみ」の女主人公に扮したクララ・キンベル・ヤング嬢などは
活動写真 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
藤野の佳人はたちまち他にとついで仕舞しまつたのです、藤野の生命は其時既に奪はれたのです、華厳滝けごんのたきへ投げたのは、空蝉うつせみの如き冷たき藤野の屍骸です、去れど姉さん、貴嬢が独身で居なさらうとも
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
世を忘れ人を離れて父子おやこただ二人名残なごりの遊びをなす今日このごろは、せめて小供の昔にかえりて、物見遊山ものみゆさんもわれから進み、やがて消ゆべき空蝉うつせみの身には要なきから織り物も、末はいもと紀念かたみの品と
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
空蝉うつせみ
沙上の夢 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
空蝉うつせみが何かのおりおりに思い出されて敬服するに似た気持ちもおこるのであった。軒端のきばおぎへは今も時々手紙が送られることと思われる。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あゝ、まぼろしのなつかしい、空蝉うつせみのかやうな風土ふうどは、かへつてうつくしいものをさんするのか、柳屋やなぎや艶麗あでやか姿すがたえる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「君の友情、丞相の芳恩、共にふかく心に銘じてはおるが、心はつねに劉皇叔の上にあって、都にはない。ここにいる関羽は、空蝉うつせみのようなものでござる」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しや其人なりとても、此世の中に心は死して、殘る體は空蝉うつせみの我れ、我れに恨みあればとて、そを言ふの要もなく、よし又人に誠あらばとて、そを聞かん願ひもなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
空蝉うつせみなかすてヽおもへば黒染すみぞめそでいろかへるまでもなく、はなもなし紅葉もみぢもなし、たけにあまる黒髮くろかみきりはらへばとてれは菩提心ぼだいしん人前ひとまへづくりの後家ごけさまが處爲しよいぞかし
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もらひ等にて成程百五十兩になりましたで御座りませうと云に又大岡殿尋問たづねらるゝ樣先年其の宅の遊女空蝉うつせみ年明後ねんあけご井戸源次郎と云者妻に致たる由其事ありしや又同人をかゝへし時の手續てつゞき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これまでは空蝉うつせみ階級の女が源氏の心を引くようなこともなかったが、あの雨夜の品定めを聞いて以来好奇心はあらゆるものに動いて行った。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
便利あり、利益ある方面に向って脱出ぬけだした跡には、この地のかかる俤が、空蝉うつせみになり脱殻ぬけがらになってしまうのである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると久しぶり、空蝉うつせみのくだりを美しいお声で読まれるのを伺い、聞いているうちに、うっとりとして
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三浦やの遊女空蝉うつせみ同人が根引ねびきいたし妻となりしゆゑに存じ居ますと言にぞ其のものつま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつぞは正気にかへりて夢のさめたる如く、父様ととさま母様かかさまといふ折の有りもやすと覚束おぼつかなくも一日ひとひ二日ふつかと待たれぬ、空蝉うつせみはからを見つつもなぐさめつ、あはれかどなる柳に秋風のおと聞えずもがな。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分の冷淡さに懲りておしまいになったのかと思って、空蝉うつせみは心苦しかったが、源氏の病気をしていることを聞いた時にはさすがになげかれた。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
便利べんりあり、利益りえきある方面はうめんむかつて脱出ぬけだしたあとには、こののかゝるおもかげが、空蝉うつせみになり脱殼ぬけがらになつてしまふのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
源氏のじょうが何冊も、かたわらに重ねてある。小机にひらかれてあるのは、その中の「空蝉うつせみの巻」で
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつぞは正氣にかへりて夢のさめたる如く、父樣母樣といふ折の有りもやすと覺束なくも一日二日と待たれぬ、空蝉うつせみはからを見つゝもなぐさめつ、あはれ門なる柳に秋風のおと聞こえずもがな。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
源氏は空蝉うつせみの極端な冷淡さをこの世の女の心とは思われないと考えると、あの女が言うままになる女であったなら、気の毒な過失をさせたということだけで
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ここらに色鳥の小鳥の空蝉うつせみ鴛鴦おしどり亡骸なきがらと言うのが有ったっけと、酒のいきおい、雪なんざ苦にならねえが、赤い鼻尖はなさきを、頬被ほおかぶりから突出して、へっぴり腰でぐ工合は
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気がついてみれば、破った筈の殻は、依然として空虚うつろの自分を包んでいる。あらゆる信念を喪失そうしつしかけて空蝉うつせみにも似た自分の影が、今宵もふわふわと暗い風の中を歩いている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつぞは正氣しやうきかへりてゆめのさめたるごとく、父樣とゝさま母樣かゝさまといふをりのありもやすると覺束おぼつかなくも一日ひとひ二日ふたひたれぬ、空蝉うつせみはからをつゝもなぐさめつ、あはれかどなるやなぎ秋風あきかぜのおとこえずもがな。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
死骸になっての、空蝉うつせみの藻脱けたはだは、人間の手を離れて牛頭ごず馬頭めずの腕に上下からつかまれる。や、そこを見せたい。その仮髪かつらぢゃ、お稲の髪には念を入れた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
灯影ほかげで見た空蝉うつせみの横顔が美しいものではなかったが、姿態の優美さは十分の魅力があった。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「よし、よし。……二年見ぬまに、また一ばい大きくなったものだ。こう見れば、そちもはや、たれにも劣らぬ一人前の男よ。それにひきかえ、口惜しいが、この貞氏は空蝉うつせみに感じる。いかにせん、この病体」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この行燈で、巣にからんだいろいろの虫は、空蝉うつせみのそのうすもの柳条目しまめに見えた。灯にひとりむしよりも鮮明あざやかである。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筑波つくばおろしに落ち着かぬ心を抱きながら消息の絶えた年月を空蝉うつせみは重ねたのである。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もすそたたみにつくばかり、細くつま引合ひきあわせた、両袖りょうそでをだらりと、もとより空蝉うつせみの殻なれば、咽喉のどもなく肩もない、えりを掛けて裏返しに下げてある、衣紋えもんうつばりの上に日の通さぬ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
空蝉うつせみの尼君の住んでいる所へ源氏は来た。そこの主人あるじらしくここは住まずに、目だたぬ一室にいて、住居すまいの大部分を仏間に取った空蝉が仏勤めに傾倒して暮らす様子も哀れに見えた。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これが空蝉うつせみになって、二人は、裏の松山へ、湯どのから消失きえうせたのではなかろうか——仰山ぎょうさんなようであるが真個まったく……勝手を知った湯殿の外までそっと様子を見に行ったくらいです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空蝉うつせみの尼君には青鈍あおにび色の織物のおもしろい上着を見つけ出したのへ、源氏の服に仕立てられてあった薄黄の服を添えて贈るのであった。同じ日に着るようにとどちらへも源氏は言い添えてやった。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
空蝉うつせみの身をかえてける、寝着ねまき衣紋えもん緩やかに、水色縮緬の扱帯しごきおび、座蒲団に褄浅う、火鉢は手許に引寄せたが、寝際に炭もがなければ、じょうになって寒そうな、銀の湯沸ゆわかしの五徳を外れて
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空蝉うつせみの身をかへてけるのもとになほ人がらのなつかしきかな
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
半ば掻巻かいまきを藻脱けた姿の、空蝉うつせみのあわれな胸を、せた手でしっかりと、浴衣にかさねた寝衣ねまきの襟の、はだかったのを切なそうにつかみながら、銀杏返しのびんの崩れを、引結ひきゆわえたかしら重げに
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
羽衣のうすきにかはる今日よりは空蝉うつせみの世ぞいとど悲しき
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおりの高い薬を噛んで口移しに含められて、膝に抱かれたから、一生懸命に緊乎しっかりすがり着くと、背中へ廻った手が空をでるようで、娘は空蝉うつせみからかと見えて、たった二晩がほどに、糸のようにせたです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言って、空蝉うつせみは泣いてしまった。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
空蝉うつせみ
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)