ねぶ)” の例文
湯から出たら「公先づねぶれ」と云ふ。若い坊さんが厚い蒲團を十二疊の部屋に擔ぎ込む。「郡内か」と聞いたら「太織だ」と答へた。
京に着ける夕 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昨夜ゆふべは夜もすがら静にねぶりて、今朝は誰れより一はな懸けに目を覚し、顔を洗ひ髪をでつけて着物もみづから気に入りしを取出とりいだ
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
月は出でしかど、三四しげきがもとは影をもらさねば、三五あやなきやみにうらぶれて、ねぶるともなきに、まさしく三六円位ゑんゐ々々とよぶ声す。
うすれば此のうちみんな己のもんだ、貴方が私の女房に成ってくれゝば、誠に嬉しいだが、今夜同志に此の座敷でねぶってもかんべえ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ヂュリ れぢゃぶは? かゝさまからぬ。おそうまでねぶらいでか、はやうからさましてか? 何事なにごとがあって、えたやら?
最初充分に食物を与えずにおくと、囚徒らは疲労を感じてねぶたがる。何か注文があるかと聞くと、ひもじいからもっと食べさしてほしいと言う。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
早く、手遅れにならんうちに、お勢のねぶった本心を覚まさなければならん、が、しかし誰がお勢のためにこの事に当ろう?
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
或日黄金丸は、用事ありて里に出でし帰途かえるさ、独り畠径はたみち辿たどくに、見れば彼方かなたの山岸の、野菊あまた咲き乱れたるもとに、黄なるけものねぶりをれり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
せんじてありしが夫と見るより言葉ことばあらため是は/\御深切ごしんせつ毎々いつも/\御尋おたづね今日は何よりも心よき樣子にてすや/\ねぶり居候と云を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あわぬ詮索せんさくに日を消すより極楽はまぶたの合うた一時とその能とするところは呑むなり酔うなりねぶるなり自堕落は馴れるに早くいつまでも血気さかんとわれから信用を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
り候ては又気分変り、胸の内にはか冱々さえざえ相成あひなり、なかなかねぶり居り候空は無之これなく、かかる折に人は如何やうの事を考へ候ものと思召被成おぼしめしなされ候や、又其人私に候はば何と可有之候これあるべくさふらふ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かすみのごとくに思われたので、どうかすると悲しくなッて来て、時々泣き出したこともあッたが,なに、それだとて暫時ざんじの間で、すぐまた飛んだりねたりして、夜も相変らずよくねぶッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
咽喉のどぼとけ母に剃らせてうつうつとねぶりましたり父は口あけて (二六七頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わたくし衣服ゐふくあらためて寢臺ねだいよこたわつたが、何故なぜすこしもねぶられなかつた。
深きを比べ難からむ、彼はねぶりておびれて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
歸りてねぶりしは十時過なりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
ねぶりたる巨人きよじんならずや
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
昨夜ゆうべもすがらしづかねぶりて、今朝けされよりいちはなけにさまし、かほあらかみでつけて着物きものもみづからりしを取出とりいだ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
早「ねぶったかね/\、お客さん眠ったかえ……居ねえか……約束だから来ただ、かやの中へひえってもいかえひえるよ、入っても宜いかえ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二本の足を硬くそろえて、胴と直線に伸ばしていた。自分は籠のわきに立って、じっと文鳥を見守った。黒い眼をねぶっている。まぶたの色は薄蒼うすあおく変った。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
橋の下にねぶっている乞食こじきの方がかえって幸福だ、というような説も出るのであるが、私だって金持ちになるほど幸福なものだと一概に言うのでは決してない。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ねぶりて居られたりと昔し足利家の御世みよ名奉行めいぶぎやうと世にたゝへたる青砥あをと左衞門尉藤綱も訴訟うつたへきく時は必らず目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「こはておけぬ事どもかな、かれもし朱目が薬によりて、その痍全く愈えたらんには、再び怎麼なる憂苦うきめをや見ん。とかく彼奴きゃつを亡きものにせでは、まくらを高くねぶられじ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
むなしくそっと引き退け酔うでもなくねぶるでもなくただじゃらくらとけるも知らぬ夜々の長坐敷つい出そびれて帰りしが山村の若旦那わかだんなと言えば温和おとなしい方よと小春が顔に花散る容子ようす
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
和気かき香風のうちに、臥榻がとうを据えてその上にそべり、次第にとおざかり往くあぶの声を聞きながら、ねぶるでもなく眠らぬでもなく、唯ウトウトとしているが如く、何ともかとも言様なく愉快こころよかッたが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そのなつかしい名を刻んだ苔蒸こけむす石は依然として、寂寞せきばくたるところに立ッているが、その下にねぶるかの人の声は、またこの世では聞かれない,しかしかくいう白頭のおきなが同じく石の下に眠るのも
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
足下きみ昨夜ゆうべはマブひめ(夢妖精)とおやったな! 彼奴あいつ妄想もうざうまする産婆さんばぢゃ、町年寄まちどしより指輪ゆびわひか瑪瑙玉めなうだまよりもちひさい姿すがたで、芥子粒けしつぶの一ぐんくるまひかせて、ねぶってゐる人間にんげん鼻柱はなばしら横切よこぎりをる。
咽喉のどぼとけ母に剃らせてうつうつとねぶりましたりこれや吾が父
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
搖られながらにねぶりゆく、その車なる紋章は
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ねぶりたる巨人きよじんらず
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
久「あはー……ねぶったいに、まどうもアハー(あくび)むにゃ/\/\、や、こりゃア甲州屋の早四郎か、大層ていそう遅く来たなア」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何だやかましい贅言たはごと云ずと此おれを叔父だとぬかせばすむ事だとのゝしる聲の耳にいり九郎兵衞は不※目をさまし猶も樣子を打聞うちきくわびる一人の女の聲扨は我今ねぶりし中惡物わるもの共がお里を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
娘は先刻さきの涙に身をみしかば、さらでもの疲れ甚しく、なよなよと母の膝へ寄添ひしままねぶれば
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夢に文鳥を背負しょんだ心持は、少し寒かったがねぶってみれば不断ふだんよるのごとく穏かである。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天つ日の光に馴れて世人よびとみなねぶたごころの未だ飽かなく
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
序詞役 さていにたる情慾じゃうよくまさ最期いまはとこねぶりて
靜かにねぶりて、寢魂ねるたまよるの宮にも事あらで
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
むすめ先刻さきなみだみしかば、さらでものつかはなはだしく、なよ/\とはゝひざ寄添よりそひしまゝねぶれば
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
湯にって顫えたものは古往今来こおうこんらいたくさんあるまいと思う。湯から出たら「公まずねぶれ」と云う。若い坊さんが厚い蒲団ふとんを十二畳の部屋にかつむ。「郡内ぐんないか」と聞いたら「太織ふとおりだ」と答えた。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのさあらめ、あたかねぶまろ
氣分すぐれて良き時は三歳兒みつごのやうに父母の膝にねぶるか、白紙を切つて姉樣の製造おつくりに餘念なく、物を問へばにこ/\と打笑みて唯はい/\と意味もなき返事をする温順おとなしさも
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分はねぶくなったから、窓の所へ頭を持たしてうとうとした。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
氣分きぶんすぐれてよきとき三歳兒みつごのやうに父母ちゝはゝひざねぶるか、白紙はくしつて姉樣あねさまのおつくり餘念よねんなく、ものへばにこ/\と打笑うちゑみてたゞはい/\と意味いみもなき返事へんじをする温順おとなしさも
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
気分すぐれて良き時は三歳児みつごのやうに父母のひざねぶるか、白紙を切つて姉様の製造おつくりに余念なく、物を問へばにこにこと打笑うちゑみて唯はいはいと意味もなき返事をする温順をとなしさも
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)