そう)” の例文
殊更あの家を空家にして見せたところに、何かカラクリがありそうな気がするのだ。わしはつい数時間前に、やっとそこへ気がついた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「深山君の勉強には敬服するが、少し身体からだを粗末にし過ぎるよ、君のように頭ばかり発達すると、人類が生理的に滅亡するそうだぜ」
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あの柔和なそう、明るい笑い顔、その何処にも、彼がそんな鋭利な眼と才と腕とをもって、社会のあらゆる悪と戦って来た人とは見えない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むすこは全く、このはなしの中心に身を入れ切つて其処そこから途方もなく開展して行きそうな事件に対する好奇心の眼をみはつて居るのでした。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しかし古い地図を見ると直接に温泉へ出るように道が記してある。此谷と黒部方面とを連絡することは大した困難でもなさそうだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
今現に金の指環に真珠をむる細工に掛れる、年三十二三のさ男、成るほど女にも好かれそうなる顔恰好は是れが則ち曲者生田なるべし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
こいつあとんだことをしたぞ! まさかこんなにそうまで変えようとは思わなかったが、ちえッ! 黙っていりゃあよかった……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「……兄さんは、市川兵五郎さんを御承知でしょう、あの魚獲りの名人、あの人がね、七日に死なれました。まだ三十五だったそうです……」
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
しかし顔だちから云っても、表情から見ても、どこかにけわしいそうを具えていて、むやみに近寄れないと云った風のせまった心持をひとに与えた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
魚はまぐろにやや似たもので、長さは二間以上もあろう。背ひれはつるぎのようにとがって、見るから獰悪どうあくそうをそなえた魚である。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
惟長は阿古丸あこまる大納言宗通の孫、備後前司季通びんごのさきのつかさすえみちの子だが、人相をぼくすること当時並ぶ者なしといわれ、人よんでそう少納言と敬された公卿であったが
ツヅイテ刺スヨウナ痛ミヲオボエマシタノデハット思ッテ目ヲ開クト要之助ガ悪鬼ノヨウナそうヲシテ白イ光ルモノヲモッテ私ニ馬乗リニナッテイマス。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
といって、とても薬なんかもっていないということを知りぬいているから、どういう返事をするか聞きたかった。婆さんは、少しも顔のそうを変えなかった。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
働き出し玉う御容貌ごきりょうは百三十二そうそろ御声おんこえうぐいす美音錠びおんじょう飲ましたよりまだ清く、御心ごしんもじ広大無暗むやみ拙者せっしゃ可愛かわゆがって下さる結構づくゆえ堪忍ならずと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は二三度まぶしそうに、またたきしたがすぐ顔をふせてしまった。暗い影がその赤黒い顔をさっと走り通った。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
船長はまだ例の「死」のそうから離れないが、元気は旺溢おういつしている。こう突然に愉快そうになったので、私はさきに彼が陰気であった時よりも更に面喰らった。
楕円形だえんけいの中の肖像も愚鈍ぐどんそうは帯びているにもせよ、ふだん思っていたほど俗悪ではない。裏も、——ひんい緑に茶を配した裏は表よりも一層見事である。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、過去の自分の生活のいろいろなそうを、心の中に思い出してみた。都におけるいろいろな暗闘、陥擠かんせい、戦争、権勢の争奪、それからくる嫉妬、反感、憎悪。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
踏み越えても這入はいそうに見える石垣だが、大昔交された誓いで、目に見えぬ鬼神ものから、人間に到るまで、あれが形だけでもある限り、入りこまぬ事になっている。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「その場合にはねえ」と男は真面目そうに「あなたはあの菓子をもう一度持って来なくてはいけないね」
その背景はいけいとして、社会全体が険悪けんあくそうをおびていることは、誰も知らない。そして閑父は、赤ん坊が、博文の真似まねをするであろうかどうか、別に考えもせずにいた。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
昔は「地をそうする」という術があったが明治大正の間にこの術が見失われてしまったようである。
颱風雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
けわしい眼をした残忍ざんにんそうではあるが、ともかくも若い顔になったのである。するとまたここへ、かの黒い影がおおって来て、前のごとくにかれらを暗いなかへ包み去った。
「例のボーイがいないじゃ無いか」新井君はへやを見廻わし乍ら不平そうにブツブツ呟いた。
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先程からぱっとして色と云う色をえさして居た日は、雲のまぶたの下に隠れて、眼に見る限りの物は沈欝ちんうつそうをとった。松の下の大分黄ばんだ芝生に立って、墓地の銀杏いちょうを見る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まだひげの生えない高等学校の生徒をそうして、「あなたはきっと晩年のギョオテのような爛熟らんじゅくした作をお出しになる」なんぞと云うのだが、この給仕頭のきょごとき眼光をもって見ても
如何にも不思議そうに、それから哀しそうに、無念そうに眺めて居たが、おやじに催促して、跡の騒ぎや女郎などの「どうぞまたおほほほほほ」など蓮葉はすはないやらしい笑声を聞き捨てて
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そう駿すんえんのうの間に流行し、昨年中は西は京阪より山陽、南海、西国まで蔓延まんえんし、東はぼうそうじょうしんの諸州にも伝播でんぱし、当年に至りてはおう州に漸入するを見る。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
僕は愕然がくぜんとして、泣くに泣かれぬような心持がした。自分が長い間無沙汰していた事などは忘れて、病気している事位は、あらかじめ知らせてくれてもそうなものにと、驚きもし悲しみもした。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
疑る訳じゃアねえが、萩原の地面うちに居る者は己と手前ばかりだ、よもや手前は盗みはしめえが、人の物を奪う時は必ず其のそうあらわれるものだ、伴藏一寸ちょっと手前の人相を見てやるから顔を出せ
傷は頸の両側にあり、奇怪な事には、それが三つずつ、まるで長い爪を突立つきたてたような形になっていた。——出血はひどいが生命いのちに別状はなさそうだ。新田は寛衣ガウンの裾を引裂ひきさいて手早く繃帯ほうたいをしながら
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子を四人授かるそうかなしむをわがてのひらは寂しかりけり
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
有碍うげそうかなしくもあるか何を求め何を失ひなげくかわれの
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
流転るてんそうぼうぜむと、心のかわきいとせち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そうは?」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
オヤまあ、昨夜はどうも有難う御座いました、お蔭様でお嬢様が助かりましたそうで、あとで承って、本当にびっくりいたしました。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「フン、美人という奴は、死骸になっても、何となく色っぽいものだな。あんまりやつれてもいない。これならうまく行きそうだ」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
笹の中よりは幾分か登りよさそうに思えたので、木立の中を辿って見る。それも十歩とは行かないうちに復た笹の中に追い戻されたみじめさ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「あれが八そうやま宮部みやべさと、小谷から横山まで三里のあいだを、鹿垣ししがきさくをもって遮断しゃだんすれば、敵の出ずる道はもう一方しかありません」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其痛みをこらえて我生血いきちに指を染め其上にて字を書くとは一通りの事にあらず、充分に顔を蹙め充分にそうくずさん、それのみか名を書くからには
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その出家がわたしの顔をつくづく見て、おまえも出家になるべきそうがある。いや、どうしても出家にならなければならぬ運命があらわれている。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夫人は酒をたのそうに呑みながら、こんな判らないことをジャネットに言いかけコップを大事そうにめ眼をつぶっている。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
顔を見ると、昔から慓悍ひょうかんそうがあったのだが、その慓悍が今蒙古と新しい関係がついたため、すこぶる活躍している。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鄭和ていか王景弘おうけいこうと共にいで使つかいしぬ。和のづるや、帝、袁柳荘えんりゅうそうの子の袁忠徹えんちゅうてつをしてそうせしむ、忠徹いわく可なりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三界六道さんがいろくどうの教主、十方最勝じっぽうさいしょう光明無量こうみょうむりょう三学無碍さんがくむげ億億衆生引導おくおくしゅじょういんどう能化のうげ南無大慈大悲なむだいじだいひ釈迦牟尼如来しゃかむににょらいも、三十二そう八十種好しゅこう御姿おすがたは、時代ごとにいろいろ御変りになった。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なれない百しょうだな。」とおもって、かれも、まって、そのかお見上みあげますと、赤銅色しゃくどういろけて、角張かくばったかおは、なんとなく、残忍ざんにんそうをあらわして、あちらをにらんで
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そなたの器量は秀でてはおるが、天下を治めるうつわではない。君に仕えて節を尽す、これがそなたの天賦の器量。しかしそなたの面上には剣難のそう歴々たりじゃ。恐らく刃に伏すであろう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうという字は木篇に目の字を書きますが、坐相ざそう寝相ねぞうなどゝいいまして、相の字は木へ目を附けた心だといいますが、御婦人の寝相が能くなくってはいけません、男の坐相のいのは立派なもので
この文珠屋佐吉もんじゅやさきちの足をとめる声、聞いていて、こう、身内がぞくっとすらあ!——駿すんこうそうの三国ざかい、この山また山の行きずりに、こんな、玉をころがす声を聞こうたあ、江戸を出てこの方
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と久保田検事はいまいましそうに吐き出すように言った。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)