ことわり)” の例文
未だ浮世うきよれぬ御身なれば、思ひ煩らひ給ふもことわりなれども、六十路むそぢに近き此の老婆、いかでためしき事を申すべき、聞分け給ひしかや
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
母もこのことわりに折れて承諾の言葉を述べたけれども袖に余る悲しみの涙が我が小児の黒髪をうるおした。その悲しみの思いを歌って
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
手軽くあきらめをつけねばならぬことはどう考えてもわからないことわりだった、——力を出そう、なんかしらの武器をとって、長所をつくろう。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
邦俗いわゆる天狗が多少仏経の有翅飛鬼より生ぜるは馬琴の『烹雑記にまぜのき』に説く所、ことわりあり。されば天狗は系図上コルゴの孫だ。
さてまたこのことわりよりさらに推し及ぼして汝は汝等の更生よみがへりを知ることをえむ、もし第一の父母ちゝはゝともに造られし時 一四五—一四七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すると、家康は「幸村が申条ことわり也、正純心得違也」と、早速判決を下して、幸村に、自分の手で勝手に取壊すことを許した。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ことわりせめて哀れであるが、見てしまった以上は仕方がないとして、さて父の鼻を捜し出すなどゝ云ったところで、それも出来ない相談であった。
料理はもともとことわりはかると書く通り、美味うま不味まずいを云々うんぬんするなら、美味の理について、もっと深く心致さねばなるまい。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「これほど、ことわりをわけて父が申すのに、なお得心がつかぬとは、そなたもほどの知れたやつ、頼もしからぬ子ではある」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一二一鬼畜きちくのくらきまなこをもて、一二二活仏くわつぶつ一二三来迎らいがうを見んとするとも、一二四見ゆべからぬことわりなるかな。あなたふとと、かうべれてもだしける。
われらあきれてしばしは物も言わず眼をみはりて貴嬢を打ち守りたる、こはことわりあることと貴嬢もうなずきたまわん
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「その猜疑うたがいことわりなれど、やつがれすでに罪を悔い、心を翻へせしからは、などて卑怯ひきょうなる挙動ふるまいをせんや。さるにても黄金ぬしは、怎麼いかにしてかくつつがなきぞ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
勿論このことわりを極端に説けば、啓発されない人心までも心であるから、その心に従い、それ以外のものに反くというたなら、社会の成立は出来なくなる。
自由の真髄 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かくては如何なることばをもて夫はこれに答へんとすらん、我はこのことわり覿面てきめん当然なるに口を開かんやうも無きにと、心あわてつつ夫の気色をひそかうかがひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人死にて神魂たま亡骸なきがらと二つにわかりたる上にては、なきがら汚穢きたなきものの限りとなり、さては夜見よみの国の物にことわりなれば、その骸に触れたる火にけがれのできるなり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
今年は必ず約をまむとなり。道遠ければ、祭の前日にいで立たむとす。かしまだちの前の夕には、喜ばしさの餘に、我眠のおだやかならざりしも、ことわりなるべし。
昔はこのきょうにして此ありと評判は八坂やさかの塔より高くその名は音羽おとわの滝より響きし室香むろかえる芸子げいこありしが、さる程に地主権現じしゅごんげんの花の色盛者しょうじゃ必衰のことわりをのがれず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
続いて貧道座に上り、くわしく縁起の因果を弁証し、六道りくどう流転るてん輪廻転生りんねてんしょうことわりを明らめて、一念弥陀仏みだぶつ即滅無量罪障そくめつむりょうざいしょう真諦しんたいを授け、終つて一句のを連らぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御年紀おんとし十五の若君わかぎみ御戒おんいましめことわりに、一統いつとう感歎かんたんひたひげ、たかしはぶきするものく、さしもの廣室ひろま蕭條せうでうたり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
尤も多く人世の秘奥を究むるといふ詩人なる怪物の尤も多く恋愛に罪業を作るは、如何いかなることわりぞ。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その方式をつくりたる精神を考ふれば皆相当のことわりある事なれどただその方式にかかわるために伝授とか許しとかいふ事まで出来て遂に茶の活趣味は人に知られぬ事となりたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
元来その国柄と見えて、物のことわりを考へきわむることはなはだ賢く、よっては発明の説も少なからず。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
愛の炎に染めたる文字の、土水どすいの因果を受くることわりなしと思えば。まつげに宿る露のたまに、写ると見れば砕けたる、君の面影のもろくもあるかな。わが命もしかく脆きを、涙あらばそそげ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、人間は奇跡を否定すると同時に、ただちに神をも否定する。なぜならば、人間は神よりもむしろ奇跡を求めているのだから、——このことわりをおまえは知らなかったのだ。
よって、貸した借りたとは申しても、普通なみの借銭とは、おのずからことわりをべつにしておる
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その故は、われ、昔、南蛮寺なんばんじに住せし時、悪魔「るしへる」をのあたりに見し事ありしが、彼自らその然らざることわりを述べ、人間の「じゃぼ」を知らざる事、おびただしきを歎きしを如何いかん
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それもことわりや方様の父御は、世をはやふしたまひて、今は母御のお手一ツに、方様の仕送りなさるるなりとか、されば学資の来る時もあり来ぬ時もあり、いつまで続くものともしれねば
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
一 女子は我家に有てはわが父母に専ら孝を行ふことわり也。されども夫の家にゆきては専らしゅうとしゅうとめを我親よりも重んじて厚くいつくしみ敬ひ孝行をつくすべし。親のかたを重んじ舅の方を軽ずる事なかれ。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声、諸行無常のひびきあり。娑羅双樹しゃらそうじゅの花の色、盛者しょうじゃ必衰のことわりをあらわす。おごれる人も久しからず、唯、春の夜の夢のごとし。たけきものもついにはほろびぬ、ひとえに風の前のちりに同じ。
家どころももとむるによしなく、途に逢ふ人々の怪しむさまはしるきに、はじめておのが姿をみとめつつ、白髪の地に曳くばかりなるを撫し、かばかり老いさびたりしをおどろくに堪へざりしも、ことわりなり
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
成程山又山と友の言つたのもことわりと思はるゝばかりで、渓流はその重り合つた山の根を根気よく曲り曲つて流れて居るが、或ところには風情ある柴の組橋くみはし、或るところにはたつの住みさうな深い青淵あをふち
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
しかし段々日がたつにつれてやっとあることわりを感得しました。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
してみると、世にはこういうことわりがあると思われる。
天使の中で誰一人そのことわりを知ってはいぬが
その御靈に報いむと思ほすは、誠にことわりなり。
「それ程のことわりわきまえぬ齢でもあるまい」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これもっとも知りやすきのことわりなり。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
複滑車のことわりを説明せよ
ことわり示すぞや。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あなた一つの身体からだであって一人のものではありません……と女房がこうことわりをわけて、拙者の死を、金剛力でおさえたものです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
汝等世の人、ことわりきわむるにあたりて同一おなじひとつの路を歩まず、これ外見みえを飾るの慾と思ひとに迷はさるゝによりてなり 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
畢竟ひっきょうするに武州公は、因果のことわり輪廻りんねの姿を一身に具現して衆生の惑いを覚まさんがために、暫く此の世に仮形けぎょうし給うた佛菩薩ぶつぼさつではないであろうか。
上る兵士は月を背にし自己おのれが影を追うて急ぎ、下る少女おとめは月さやかに顔を照らすが面恥おもはゆく、かの青年わかものが林に次ぎてこの町をずるもことわりなきにあらず。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あれは横笛よこぶえとて近き頃御室おむろさとより曹司そうししに見えし者なれば、知る人なきもことわりにこそ、御身おんみは名を聞いて何にし給ふ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
バートン言う、この説ことわりあり、驢は寒地で衰う、ただしアフガニスタンやバーバリーのごとく、夏長く乾き暑くさえあれば、冬いかに寒い地でも衰えずと。
嚢中不足は同じ事なれど、仙台せんだいにはその人無くばまむ在らば我が金を得べきことわりある筋あり、かつはいささかにても見聞を広くし経験を得んには陸行にしくなし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
されば富貴のみちは仏家にのみそのことわりをつくして、儒門の教は八九荒唐くわうたうなりとやせん。九〇かみも仏の教にこそ九一らせ給ふらめ。九二いなならばつばらにのべさせ給へ。
職業の性質既に不法なればこれを営むの非道なるは必然のことわりにて、おのれすところはすべての同業者の為すところにて、己一人おのれいちにんの残刻なるにあらず、高利貸なる者は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
われ。海を愛する心は、ヱネチアの人殊に深かるべきことわりあり。海は己れが母なるヱネチアの母にして、己れを愛撫し己れを游嬉せしむる祖母なればなり。ホツジヨ。
「なんで、それがしが不忠者か、不とどき者か。よし捕われの身であろうと、いわれなきはずかしめをうけてはこのまま死ねぬ。ことわりを明らかにせい。せねばただはかんぞ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)