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湛
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たた
ふりがな文庫
“
湛
(
たた
)” の例文
彼が死に到るまで、その父母に対しては
固
(
もと
)
より、その兄妹に対して、
掬
(
きく
)
すべき友愛の深情を
湛
(
たた
)
えたるは、
単
(
ひと
)
りその
天稟
(
てんぴん
)
のみにあらず。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
と答へたが、其顔に言ふ許りなき感謝の
意
(
こころ
)
を
湛
(
たた
)
へて、『一寸。』と智恵子に会釈して立つ。
急
(
いそが
)
しく涙を拭つて、隔ての障子を開けた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
冬子の瞳はうるんで涙を
湛
(
たた
)
えていた。彼は首を垂れて沈黙した。冬子も黙ってしまった。静けさが二人には恐ろしく感じられて来た。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
「いいえ違います。あなたは何にも御存知ないのです」と太子は静かに、しかし
諦
(
あきら
)
め切ったように淋しい微笑を
湛
(
たた
)
えて頭を振られた。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
天幕の隙間から春の陽が、黄金の
征矢
(
そや
)
を投げかけた。紅巾は
燦然
(
さんぜん
)
と輝いた。底に一抹の黒味を
湛
(
たた
)
え、表面は紅玉のように光っていた。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
ものいう目にも、見えぬ目にも、二人
斉
(
ひと
)
しく涙を
湛
(
たた
)
えて、
差俯向
(
さしうつむ
)
いて黙然とした。人はかかる時、世に我あることを忘るるのである。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
雪が少く、空気が乾いて、空に透明に過ぎるほどの碧さを
湛
(
たた
)
へる。皮膚に響くが如き寒さを感ずるのは、空気が乾いてゐるためである。
諏訪湖畔冬の生活
(新字旧仮名)
/
島木赤彦
(著)
西の屋根
瓦
(
がわら
)
の並びの上に、ひと幅日没後の青みを置き残しただけで、満天は、
紗
(
しゃ
)
のやうな黒味の奥に浅い
紺碧
(
こんぺき
)
のいろを
湛
(
たた
)
へ、夏の星が
蝙蝠
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
二十日の後、いっぱいに水を
湛
(
たた
)
えた
盃
(
さかずき
)
を右
肱
(
ひじ
)
の上に
載
(
の
)
せて
剛弓
(
ごうきゅう
)
を引くに、
狙
(
ねら
)
いに
狂
(
くる
)
いの無いのはもとより、杯中の水も微動だにしない。
名人伝
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
暗道
(
ポテルン
)
の光沢のある橄欖石の側壁が、そこだけ花の
萼
(
うてな
)
のようなかたちに
穿
(
ほ
)
れ、その中にあふれるばかりの水をひっそりと
湛
(
たた
)
えていた。水。
地底獣国
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
実際、康子は下腹の方が出張って、顔はいつのまにか二十代の
艶
(
つや
)
を
湛
(
たた
)
えていた。だが、週に一度位は五日市町の方から嫂が戻って来た。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
彼の瞳は、まるで
斥候
(
せっこう
)
に出された兵のように、冷たい光を
湛
(
たた
)
えて周囲を見廻し、癖のある例の肩をひいて油断のない身構えをしている。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
婆やは腰を
屈
(
かが
)
めながら入ってきた。その手には、
白樺
(
しらかば
)
の皮を握っていた。二人の目は驚異の表情を
湛
(
たた
)
えて、その自樺の皮の上に走った。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
声のない
哀
(
かなし
)
みを
湛
(
たた
)
えた君のこの頃に心を引かれないものが有ろうか。君の周囲にあるものは
何事
(
なんに
)
も知らないものばかりだと君は思うか。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
さる人はかしこくとも、さる
事
(
わざ
)
は賢からじ。
金
(
こがね
)
は
六三
七
(
なな
)
のたからの
最
(
つかさ
)
なり。土に
瘞
(
うも
)
れては
霊泉
(
れいせん
)
を
湛
(
たた
)
へ、不浄を除き、
妙
(
たへ
)
なる
音
(
こゑ
)
を
蔵
(
かく
)
せり。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
古い掘割りは
浚
(
さら
)
えられ、新しい川になっていた。透明な水をたっぷり
湛
(
たた
)
えて、高い秋の空をまッ蒼に、底なしの深さに映していた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
マーメイド・タバンだなどと
称
(
よ
)
び慣れて、
現
(
うつつ
)
を抜かしていた詩人のお目出たさにはあきれたものだ——と僕は苦笑を
湛
(
たた
)
えながら
吊籠と月光と
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
大人か
小児
(
こども
)
に物を言うような
口吻
(
こうふん
)
である。美しい目は軽侮、
憐憫
(
れんみん
)
、
嘲罵
(
ちょうば
)
、
翻弄
(
ほんろう
)
と云うような、あらゆる感情を
湛
(
たた
)
えて、異様に
赫
(
かがや
)
いている。
余興
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
ニコニコ
遜
(
へりくだ
)
った微笑を
湛
(
たた
)
えながら、そっと小屋の横から、施米の忙しさや、手摺の外の群衆などを満ち足りた様子で眺めているのでした。
銭形平次捕物控:029 江戸阿呆宮
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
山西はまた逃げられてはならないとおもったので、
後
(
あと
)
から
跟
(
つ
)
いて往った。石垣の下にはもう満ちきった
河水
(
かわみず
)
が満満と
湛
(
たた
)
えていた。
水魔
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
彼の眼は子供のように、純粋な感情を
湛
(
たた
)
えていた、若者は彼と眼を合わすと、
慌
(
あわ
)
ててその視線を避けながら、
故
(
ことさら
)
に馬の
足掻
(
あが
)
くのを叱って
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
卯平
(
うへい
)
は
固
(
もと
)
より
親方
(
おやかた
)
から
家
(
うち
)
の
容子
(
ようす
)
やおつぎの
成人
(
せいじん
)
したことや、
隣近所
(
となりきんじよ
)
のことも
逐
(
ちく
)
一
聞
(
き
)
かされた。
卯平
(
うへい
)
は
窪
(
くぼ
)
んだ
茶色
(
ちやいろ
)
の
眼
(
め
)
に
暖
(
あたゝ
)
かな
光
(
ひかり
)
を
湛
(
たた
)
へた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
「
剣大刀
(
つるぎたち
)
いよよ
研
(
と
)
ぐべし」や、「
丈夫
(
ますらを
)
は名をし立つべし」の方が、同じく発奮でも内省的なところがあり、従って慈味が
湛
(
たた
)
えられている。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
そのときの上野介は
宗匠頭巾
(
そうしょうずきん
)
をかぶった
好々爺
(
こうこうや
)
で彼は道で、すれちがう誰彼の差別もなく、和やかな微笑を
湛
(
たた
)
えて話しかけた。
本所松坂町
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
しかるをなお強いて「戯れに」と題せざるべからざるもの、その裏面には実に
万斛
(
ばんこく
)
の
涕涙
(
ているい
)
を
湛
(
たた
)
うるを見るなり。
吁
(
ああ
)
この不遇の人、不遇の歌。
曙覧の歌
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
藤尾と呼ばれる娘は十七八でもあろうか、眉のきわだって美しい、陶器のような冷たい白さの肌をした、どこか憂いを
湛
(
たた
)
えた顔つきである。
新潮記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
目の前に湖水が濃い
藍色
(
あいいろ
)
に
湛
(
たた
)
えられている。そこにあったベンチに腰を掛けて、
好
(
い
)
い心持ちになって、鏡のように平かな水の
面
(
おもて
)
を見渡した。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
よほど
深
(
ふか
)
いものと
見
(
み
)
えまして、
湛
(
たた
)
えた
水
(
みず
)
は
藍
(
あい
)
を
流
(
なが
)
したように
蒼味
(
あおみ
)
を
帯
(
お
)
び、
水面
(
すいめん
)
には
対岸
(
たいがん
)
の
鬱蒼
(
うっそう
)
たる
森林
(
しんりん
)
の
影
(
かげ
)
が、くろぐろと
映
(
うつ
)
って
居
(
い
)
ました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
「あら、いらっしゃい!」たちまち、美和子は何事もなかったような朗らかさに返って、明るい
双眸
(
そうぼう
)
に一杯の微笑みを
湛
(
たた
)
えて
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
濃紺
(
のうこん
)
濃紫
(
のうし
)
の神秘な色を
湛
(
たた
)
えて梢を
距
(
さ
)
る五尺の空に唯一つ明星を
煌
(
きら
)
めかしたり、彼の杉の森は彼に尽きざる趣味を与えてくれる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
何か、わけも分らぬ
頷
(
うなず
)
きをくり返した。勝家のひとみは、文字を
辿
(
たど
)
り出すと、なおさら心理の変化を、露骨にまで、顔じゅうに
湛
(
たた
)
え出した。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
山岸の一方が
淵
(
ふち
)
になって
蒼々
(
あおあお
)
と
湛
(
たた
)
え、こちらは浅く瀬になっていますから、私どもはその瀬に立って糸を淵に投げ込んで釣るのでございます。
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
伯爵は其箱を見、この答えを聴くより、
忽
(
たちま
)
ち露子の腕を取って、其腕に
玉村
(
たまむら
)
侯爵から贈って来た
腕環
(
うでわ
)
を
嵌
(
は
)
め満面に
溢
(
あふ
)
るるばかりの
笑
(
えみ
)
を
湛
(
たた
)
えて
黄金の腕環:流星奇談
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
憂愁を
湛
(
たた
)
えた清らかな
眼差
(
まなざし
)
は、細く
耀
(
かがや
)
きを帯びて空中を見ていたが、栖方を見ると、つと美しい視線をさけて
外方
(
そっぽ
)
を向いたまま動かなかった。
微笑
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
カークは、いつもとちがって底気味悪さを
湛
(
たた
)
えている座間を景気づけるように言った。すると、座間はいきなりふり向いて
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
悠々たる態度の裡に無限の愁いを含ませ、怒気満面の中に
万斛
(
ばんこく
)
の涙を
湛
(
たた
)
え、ニコニコイソイソとしているうちに腹一パイの不平をほのめかす。
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ミチミは寝棺のなかに入って、これから旅立つ華やかなお嫁入りを悦ぶものの如く、口辺に
薄笑
(
うすえみ
)
さえ
湛
(
たた
)
えているのであった。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
自分の前に寒さと一種の畏敬の念に
戦
(
ふる
)
えて立っている子供を見下した——その眼には涙が
湛
(
たた
)
えられて、顔には
神々
(
こうごう
)
しい柔和な光りが輝いていた。
点
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
農夫は、ここに至って始めて氏の妙計を覚り、
小躍
(
こおど
)
りして出て行ったが、やがて満面に笑を
湛
(
たた
)
えて、ポケットも重げに二百磅の金を携え帰った。
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
方二間位のプウルには、青々と水が
湛
(
たた
)
えられ、船の
動揺
(
どうよう
)
にしたがって、
揺
(
ゆ
)
れています。周囲にベンチが二つ、置かれてあるだけの
狭
(
せま
)
い甲板です。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
そして其れは氏の根強い安住の場所であつた。其処では氏は何物も恐れなかつた。其処に氏の情熱は
湛
(
たた
)
えられてあつた。
平塚明子論
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
ゆえに戦い敗れて彼の同僚が絶望に圧せられてその故国に帰り
来
(
きた
)
りしときに、ダルガス一人はその
面
(
おも
)
に
微笑
(
えみ
)
を
湛
(
たた
)
えその
首
(
こうべ
)
に希望の春を
戴
(
いただ
)
きました。
デンマルク国の話:信仰と樹木とをもって国を救いし話
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
絶えず美しい水を
湛
(
たた
)
えているのも、また信飛地方の峡谷の水が、純美であるのも、雪から無尽蔵に供給するからである。
高山の雪
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
その時セエラは、眼にいつもの輝きを
湛
(
たた
)
えながら、辛かった一日のあとに、ふいにこんな愉快なことが起ったのを、不思議に思い返していました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
「溜り江」という言葉はいささか耳慣れぬようであるが、水のあまり動かぬ、じっと
湛
(
たた
)
えている場所らしく想像される。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
こう云った時、お延は出来得る限りの
愛嬌
(
あいきょう
)
をその細い眼に
湛
(
たた
)
えて、お秀を見た。しかし異性に対する場合の効果を予想したこの
所作
(
しょさ
)
は全く
外
(
はず
)
れた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
永遠なるものの希求に殆んど無意識に悩んでいる彼の意志は限りない闇と
憂鬱
(
ゆううつ
)
との海を彼の性格の奥底に
湛
(
たた
)
えておる。
語られざる哲学
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
大水は久しく
湛
(
たた
)
えて終に落ちた。万作夫婦も仮小屋を出て、
水余
(
すいよ
)
の家に帰った。併しお光は帰って来ない。帰らぬ、帰らぬ、今日までもまだ帰らぬ。
漁師の娘
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
唇
(
くちびる
)
と、眼とに、無限の
愛敬
(
あいきょう
)
を
湛
(
たた
)
えて、黒いろ
絽
(
ろ
)
の、無地の夏コートを着て、ゆかしい印象を残してその女は去った。
一世お鯉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
その古い物語を読んだのは、深く基督教の匂いを
湛
(
たた
)
えた或る中学校を終える頃であったが、その頃でもまだ/\東京のこがらしは烈しいものであった。
こがらし:――南駅余情――
(新字新仮名)
/
岩本素白
(著)
湛
漢検準1級
部首:⽔
12画
“湛”を含む語句
湛然
湛増
湛空
宗湛
湛慶
湛念
黯湛
仏師湛慶
鄒湛
聖信房湛空
神谷宗湛
独湛
熊野別当湛増
湛積
湛流
湛水
湛慶滝
湛左衛門
湛寂無味
湛寂
...