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曳
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ひ
ふりがな文庫
“
曳
(
ひ
)” の例文
その車を
曳
(
ひ
)
いている車夫の一人で、女房に死なれて、
手足纏
(
てあしまと
)
いになる男の子を隣家へ頼んで置いて、稼ぎに出かけて往く者があった。
車屋の小供
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
朦朧
(
もうろう
)
と見えなくなって、国中、町中にただ
一条
(
ひとすじ
)
、その桃の古小路ばかりが、漫々として波の
静
(
しずか
)
な
蒼海
(
そうかい
)
に、船脚を
曳
(
ひ
)
いたように見える。
絵本の春
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それは、
牽
(
ひ
)
かれているというより、
曳
(
ひ
)
き
摺
(
ず
)
られている形だった。青は、二歩歩いては立ち
停
(
ど
)
まり、三歩歩いては立ち停まるのだった。
狂馬
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
夕日は物の影をすべて長く
曳
(
ひ
)
くようになった。高粱の高い影は二間幅の広い路を
蔽
(
おお
)
って、さらに向こう側の高粱の上に蔽い重なった。
一兵卒
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
だがこの自動車はエンジンがかからなかった。仕方がないから綱で箱自動車のうしろへつなぎ、箱自動車でそのまま
曳
(
ひ
)
いて出発した。
火星探険
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
街
(
まち
)
は人出で賑やかに
雑鬧
(
ざっとう
)
していた。そのくせ少しも物音がなく、閑雅にひっそりと静まりかえって、深い眠りのような影を
曳
(
ひ
)
いてた。
猫町:散文詩風な小説
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
霧の中から
唄声
(
うたごえ
)
が近づいて来た。馬を
曳
(
ひ
)
いた五郎吉である。彼はちらと侍たちのほうへ
嘲
(
あざけ
)
りの微笑をくれ、つんと鼻を突上げながら
峠の手毬唄
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「まずその女を、
曳
(
ひ
)
いたらよろしかろう。眼
障
(
ざわ
)
りだ! その騒々しい女を、曳く所へ曳きたまえ、ゴンザレツ、そこの扉をあけえ!」
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
かく嘲弄して後、兵卒どもは紫色の衣をはぎ、もとの衣を着せ、官邸の中庭からイエスを
曳
(
ひ
)
き出して、郊外の処刑場に向かいました。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
「その辺の原っぱにでも参らば、どこぞに、野良犬かどら猫がいるであろう。御馳走してつかわす品があるゆえ、早速
曳
(
ひ
)
いて参れ」
旗本退屈男:02 第二話 続旗本退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
空気の乾いているせいか、ひどく星が美しい。黒々とした山影とすれすれに、夜ごと、
狼星
(
ろうせい
)
が、青白い
光芒
(
こうぼう
)
を斜めに
曳
(
ひ
)
いて輝いていた。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
高くもないけど道のない所をゆくのであるから、笹原を押分け樹の根につかまり、崖を
攀
(
よ
)
ずる。しばしば民子の手を採って
曳
(
ひ
)
いてやる。
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
その男のいふのでは、牛程人間の役に立つものは
鮮
(
すくな
)
い。田を
耕
(
たが
)
へし、荷車を
曳
(
ひ
)
き、頭から
尻尾
(
しつぽ
)
の
尖
(
さき
)
まで何一つ捨てるところも無い。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
取残された兼太郎は
呆気
(
あっけ
)
に取られて、寒月の光に若い男女が
互
(
たがい
)
に手を取り肩を摺れ
合
(
あわ
)
して行くその
後姿
(
うしろすがた
)
と地に
曳
(
ひ
)
くその影とを見送った。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
強
(
し
)
いて笑ったといえないこともない。そして彼の手は陣後をさし招いた。馬を
曳
(
ひ
)
け、馬をと、にわかに、
焦心
(
いら
)
って呼ぶのであった。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
裏庭の暗がりを、肉体のしなやかさにくらべて、驚くべき
膂力
(
りょりょく
)
を持った不思議な人間は、ぐいぐいと、お初を塀の方へ
曳
(
ひ
)
いてゆく。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
「あゝ
善
(
え
)
え
處
(
とこ
)
だ、よう、おつぎ、
少
(
ちつ
)
と
此處
(
ここ
)
まで
來
(
き
)
てくんねえか」といつた。
彼
(
かれ
)
は
百姓
(
ひやくしやう
)
の
間
(
あひだ
)
には
馬
(
うま
)
を
曳
(
ひ
)
いて
歩
(
ある
)
く
村落
(
むら
)
の
博勞
(
ばくらう
)
であつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
それを見ると、この手箱の持主がこんな
僅
(
わずか
)
な色彩に女らしい心を慰めていたかと思われるだけで、別に岸本は心も
曳
(
ひ
)
かれなかった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
武士が来て柳をつかまえ
曳
(
ひ
)
き立てていこうとした。高い所には冠服をした王者が南に面して坐っていた。柳は曳き立てられながらいった。
織成
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
続いて笹付の青竹に
旗幟
(
はたのぼり
)
の幾流が続々と繰り出されて来る、村から停車場へと行くこの道は、早くも
蜿蜒
(
えんえん
)
たる行列が
曳
(
ひ
)
き栄えられて来た。
百姓弥之助の話:01 第一冊 植民地の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「おや/\どうしたのだらう、
曳
(
ひ
)
いてゐる牛が疲れたからとまつたのか知ら。」と、おぢいさんは不思議におもつてをりました。
拾うた冠
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
彼は我が児以上に春琴の身を案じたまたま
微恙
(
びよう
)
で欠席する等のことがあれば直ちに
使
(
つかい
)
を道修町に走らせあるいは自ら
杖
(
つえ
)
を
曳
(
ひ
)
いて
見舞
(
みま
)
った。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
地上へ細っこい影を
曳
(
ひ
)
いて、だんだんこちらへ近寄って来る。足もと定まらず歩いて来る。どうやら酒にでも酔っているらしい。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それを
惨酷
(
ざんこく
)
な話だが、繩をつけて京の町まで
曳
(
ひ
)
いてくると途中多くの石に当ったけれども、皮膚強くして少しも破れずとまで書いてある。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
是故に彼に路を示さんため我は
曳
(
ひ
)
かれて地獄の
闊
(
ひろ
)
き喉を出づ、またわが
教
(
をし
)
への彼を導くをうる間は我彼に路を示さむ 三一—三三
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
ずっと前、日本に帰って死んだお
祖母
(
ばあ
)
さんが夢に出てきて、
妾
(
わたし
)
の手を
曳
(
ひ
)
いてくれ、「これから坂本さんのお宅に行くんだよ」と言います。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
彼はこの時
扶
(
たす
)
けし手を放たんとせしに、
釘付
(
くぎつけ
)
などにしたらんやうに
曳
(
ひ
)
けども振れども得離れざるを、怪しと女の
面
(
おもて
)
を
窺
(
うかが
)
へるなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
私が今日の目的に就いて水車小屋の
主
(
あるじ
)
に語った後に、杖を
棄
(
す
)
て、ゼーロンを
曳
(
ひ
)
き出そうとすると彼は、その杖を
鞭
(
むち
)
にする要があるだろう——
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
一枚の小切手が一かたまりの紙幣となって出納口からでてくると、銀行を背負ったような女は、ふたたび銀座方面へガソリンの尾を
曳
(
ひ
)
いた。
女百貨店
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
「
青山
(
せいざん
)
愛執
(
あいしゅう
)
の色に塗られ、」「
緑水
(
りょくすい
)
、
非怨
(
ひえん
)
の糸を永く
曳
(
ひ
)
く」などという古人の詩を見ても人間現象の姿を、むしろ現象界で確捕出来ず
所詮
(
しょせん
)
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
東京も昔は、周辺の百姓が野菜を積んだ車を牛に
曳
(
ひ
)
かせているのを、たえず街で見かけたもので、その牛のわらじが道によく捨ててあった。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
(
暫
(
しば
)
しの沈黙。
梟
(
ふくろう
)
の声。やがて入口の戸をたたく音。おつやはぎょっとしたように、太吉の手をぐいと
曳
(
ひ
)
いて、
上
(
かみ
)
のかたに身を寄せる。)
影:(一幕)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
幼年、少年、青年の各時代を通じて免かれなかつた色の黒いひけ目が思ひがけぬ流転の後の現在にまで尾を
曳
(
ひ
)
くかと淡い驚嘆が感じられた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
で、日の暮までの
僅
(
わずか
)
な時間を屋形船はモーター・ボートのぼッぼッぼッぼッに
曳
(
ひ
)
かせて、大急ぎで恵那峡一帯を乗り廻ろうというのである。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
お
城
(
しろ
)
の
松
(
まつ
)
も
影
(
かげ
)
を
曳
(
ひ
)
きそうな、
日本橋
(
にほんばし
)
から
北
(
きた
)
へ
僅
(
わずか
)
に十
丁
(
ちょう
)
の
江戸
(
えど
)
のまん
中
(
なか
)
に、かくも
鄙
(
ひな
)
びた
住居
(
すまい
)
があろうかと、
道往
(
みちゆ
)
く
人
(
ひと
)
のささやき
交
(
かわ
)
す
白壁町
(
しろかべちょう
)
。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
失恋が、失恋のまゝで尾を
曳
(
ひ
)
いてゐる
中
(
うち
)
は、悲しくても、苦しくても、
口惜
(
くや
)
しくつても、心に張りがあるからまだよかつた。
良友悪友
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
我邦
(
わがくに
)
の昔の「
歌垣
(
うたがき
)
」の習俗の真相は伝わっていないが、もしかすると、これと
一縷
(
いちる
)
の縁を
曳
(
ひ
)
いているのではないかという空想も起し得られる。
映画雑感(Ⅵ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
その長く
曳
(
ひ
)
く音が谷々を渡って遠く消えてゆくのを聞きましたら、急に母が恋しくなって、なぜ一しょに帰らなかったろう
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
飛びながらも明滅する光は、きれぎれに青い線を空に
曳
(
ひ
)
いて上った。それは、消えたり
点
(
とも
)
れたりするものの美しさであった。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
そうして、其処から、
頻
(
しき
)
りに人が繋っては出て来て、石を
曳
(
ひ
)
く。木を
搬
(
も
)
つ。土を
搬
(
はこ
)
び入れる。重苦しい
石城
(
しき
)
。懐しい昔構え。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
神馬は白馬で、堂に向って左の角に
厩
(
うまや
)
があった。氏子のものは何か願い事があると、信者はその神馬を
曳
(
ひ
)
き出し、境内の諸堂をお
詣
(
まい
)
りさせ、豆を
幕末維新懐古談:31 神仏混淆廃止改革されたはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
彼は
埃
(
ほこり
)
と床油の臭気が立て籠めていることに思いあたり廻転窓の綱をがちゃりと
曳
(
ひ
)
いた。夕映えの反射がそこで折れて塗板の上をあかるくした。
白い壁
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
猴
曳
(
ひ
)
きが寺の鐘を聴いて如法に身を浄めに行くとて、平生教えある狗頭猴に煮掛けた肉の世話を委ね置くと、初めは火を
弄
(
もてあそ
)
びながら番したれど
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
そうそう
私
(
わたくし
)
が
現世
(
げんせ
)
の
見納
(
みおさ
)
めに
若月
(
わかつき
)
を
庭前
(
にわさき
)
へ
曳
(
ひ
)
かせた
時
(
とき
)
、その
手綱
(
たづな
)
を
執
(
と
)
っていたのも、
矢張
(
やは
)
りこの
老人
(
ろうじん
)
なのでございました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
サイダアの空瓶を一ぱい積んで
曳
(
ひ
)
いて歩いている四十くらいの男のひとに、最後に、おたずねしたら、そのひとは淋しそうに笑って、立ちどまり
千代女
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
梶にはそれらの話よりも犬に向って発した友人の日本語の怒声の方が
遙
(
はる
)
かに興味深く尾を
曳
(
ひ
)
いて感じられるのであった。
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
の
類
(
たぐい
)
であります。すなわちその始まっている場所を指定している上に、それはそのものを
曳
(
ひ
)
くための道だということを説明しているのであります。
俳句の作りよう
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
背負い袋をしょった人たちと、その
曳
(
ひ
)
く影が、ごろりごろりと横になって、ぐっすり眠りこむ。それを見ていると、ワーリカはたまらなく眠くなる。
ねむい
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
朝起きて
啜
(
すす
)
る渋茶に立つ煙りの
寝足
(
ねた
)
らぬ夢の尾を
曳
(
ひ
)
くように感ぜらるる。しばらくすると向う岸から長い手を出して余を
引張
(
ひっぱ
)
るかと
怪
(
あや
)
しまれて来た。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
先
(
ま
)
づギルフォオドが
曳
(
ひ
)
かれて行つた。彼が妻の獄窓の下を通りかかつた時、二人は七ヶ月振りの、そして最後の眸を無言のまま見交すことが出来た。
ジェイン・グレイ遺文
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
曳
漢検準1級
部首:⽈
6画
“曳”を含む語句
揺曳
綱曳
媾曳
逢曳
曳舟通
搖曳
曳出
曳舟
手曳
車曳
網曳
棚曳
金棒曳
曳船
曳々
曳張
猿曳
地曳
石曳
根曳
...