指環ゆびわ)” の例文
T君は勿論もちろん僕などよりもこう云う問題に通じていた。が、たくましい彼の指には余り不景気には縁のない土耳古トルコ石の指環ゆびわまっていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしいまさらどうもする事が出来ないから、それなりにして、未来の細君にはちょっとしたできあい指環ゆびわを買って結納ゆいのうにしたのです
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
指環ゆびわの台は純金であったが、環状わなりに並べた九つの小粒の真珠の真ん中に、一つの大きな真珠があり、倉持家の定紋に造られたもので
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして友達と雑談をするとき、「小説家なんぞは物を知らない、金剛石こんごうせき入の指環ゆびわめた金持の主人公に Manila を呑ませる」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
暫くすると、彼は少しの感動もなく、源三郎の死体から、白布の経帷子をはぎ取り、両手の指から三本の指環ゆびわをひきちぎりました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
眞白まつしろなのは、てのひらへ、むらさきなるは、かへして、指環ゆびわ紅玉ルビイかゞやかふへ、朱鷺色ときいろあしして、かるとまるまでにれたのであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
身体からだに附いてるものは押える事が出来ないッてから、今度はピカピカ光る指環ゆびわを三つも四つも穿めて見せびらかしてやろう、」
その間においてワグナーは畢生ひっせいの大傑作、——四部作の大楽劇「ニーベルンゲンの指環ゆびわ」のほとんど全部を完成したのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
武男は浪子の左手ゆんでをとりて、わがくちびるに当てつ。手には結婚の前、武男が贈りしダイヤモンド入りの指環ゆびわ燦然さんぜんとして輝けり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ルビー入の指環ゆびわや、金の丸打などを両の指にめ込んでゐたし、小さな婦人持の時計までも帯の間にはさめてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
指環ゆびわのはまった人差指をあげて、片方の鼻孔にあてがっては、そっちをふさいで、もう一方から烈しくふんとやって、少し空気を通そうとするからである。
指に純金の指環ゆびわ、歯に本金の入れ歯を光らせ、正二十円の金貨を帯止めに光らせ、しかも、工芸的価値や模様の美しさなどは顕微鏡でのぞいても出て来ない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「杯に五六杯だつて。さうか。次にこの方はうだな。」と某氏は太い指環ゆびわのはまつた左手の小指を見せた。
アラスカ金の大きな指環ゆびわをはめ、十連発のぴかぴかする素敵な鉄砲を持つていかにも元気さう、声もきつとよほどがらがらしてゐるにちがひないと思はれたのです。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
二ツはめているダイヤの指環ゆびわを抜いて見せて、女たちに品質の鑑定法や相場などを長々と説明するというような、万事思切って歯の浮くような事をする男であるが
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なんつていかわからぬので、あいちやんはたゞれいし、るべく嚴格げんかく容貌かほつきをして指環ゆびわ取出とりだしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ただ泣いておいで、おまへの琥珀色こはくいろの涙へ、わたしは指環ゆびわしるしを押してあげる、あとの思出のたねとして。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そこに篏めている眼玉のようにギラギラした大きな指環ゆびわも、日本人ならきっと厭味いやみになるでしょうに、かえって指を繊麗に見せ、気品の高い、豪奢ごうしゃな趣を添えています。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いや、しかし、どろぼう市にだってほんものの金の指環ゆびわがころがっていない事もない。サロンは、ほとんど比較を絶したものである。いっそ、こうとでも言おうかしら。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
重「此間こないだ貰った十円の金と指環ゆびわはあなたへお返し申しますから、お受け取りなすって下さいまし」
好男子で、スンなりとのびた白い手に指環ゆびわのよく似合う予審判事がそう云って、ベルを押した。ドアーの入口で待っていた特高が、ぐしゃちこばった恰好で入ってきた。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
と、女はひざの上に置いていた左の指に右の指をやって、さしていた黄金きん指環ゆびわを静かに抜いて
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
結婚の指環ゆびわを受け取り、愛のすべての形式(きつと彼が注意深く守るであらうが)を忍び、魂はまつたく拔けがらであることを、知ることが出來ようか、彼が與へる愛撫あいぶ
またうでには腕環うでわゆびには指環ゆびわをつけ、あしにはきんめっきしたうつくしいどうくつへてあるばかりでなく、このはかからは支那しなからわたつた銅器どうき、がらするいをはじめ、馬具ばぐ刀劍とうけん
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
まあ、バカバカしいったら、ありゃしませんわ! こんなバカゲタこと……自分の指環ゆびわ
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
どの椅子いすからっぽになる。彼の机の前に、みんなが円陣を作る。指環ゆびわの緑の石が光っている彼の美しい手が、しなやかに紙の上をする。ページの下に、即興的な署名をする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
丁度ちょうど二つの指環ゆびわを噛みあわしたような恰好に廻っているんだ。こういう風に廻ると、二つの球は互いに相手に廻転力を与えることになるから、二つの球はいつまでも廻っているんだ。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女はルージンが左の手で押えている金の柄付眼鏡えつきめがねと、それから同じ手の中指にはめている大きな、どっしりした、すばらしく立派な黄色い石入りの指環ゆびわに、視線を止めようとした。
先日も或る宝石屋へ行って宝石入の指環ゆびわを買いましたが最初の時は番頭が応対して日本製の品物でも細工が上手になっていますから決して宝石の抜け出す気支きづかいがありませんと真珠入の指環を
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その屋根の端で彼はふと彼女の手とその指環ゆびわを見たのである。そして彼女が何でもなかったのに滑りそうな真似まねをして指環が彼の指を痛くするほど、彼の手を強くつかむかも知れないと空想した。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ねえやは、たうとう赤い糸にブラ下つてゐる指環ゆびわを、右手でつかみました。と同時に、今度は甲虫かぶとむしがブラッと、お君の手から下にブラ下りました。幹にとまつてゐた甲虫をひきむしつたのです。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
彼はでっぷりとふとった男が、実印を刻んだ金指環ゆびわをでも、光らせながら、大男に連れられて、やって来るのではないかしらと思った。それとも、意外に美しい女か何かじゃないかしらと思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おれは何でもこれは福の神に違いないと思っていて行って見ると、この街の真中の四辻に来て神様は、地面じべたの上を指してそのまま消えてしまった。見るとそこには金剛石ダイヤモンドめた金の指環ゆびわが……
正夢 (新字新仮名) / 夢野久作萠円(著)
真白な小さいそれ自身が花であるやうな美しい彼女の手の紅指べにゆびにルビーの指環ゆびわは、あまりに幸福に輝いてゐた。青い空を背景に、彼女はあを向けに手を胸の上に上げて、幸福に輝く指環をぬいた。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
我が家の招待に応じて両親らとも妾の身の上を語り定めたるのち、貴重なる指環ゆびわをば親しく妾の指にめて立ち帰りしこそ、残るかたなき扱いなれとて、妾はもとより両親もすこぶる満足のていに見受けられき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
前垂でも好いのは一個三十六円位するのがある。そのはずです、チベット最上等の羊毛だんだらおりですから……。実に立派なものです。けれども指環ゆびわは貴族の婦人を除くのほかは大抵銀が多いのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
Kのしなやかなる手の指環ゆびわを忘るることあたはず。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ほのじろくあへぐ指環ゆびわのなかに
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
指環ゆびわの星の光る手で
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しばらくすると、銀子のむっちりした愛らしい指に、サハイヤやオパルの指環ゆびわが、にわかに光り出し、錦紗きんしゃの着物も幾枚かえた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「では、これをごらんなさい。あなたの息子さんが弘子さんという女給にやった指環ゆびわです。これも見覚えがないとおっしゃるつもりですか」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
見送りもせず、夫人はちょいと根の高い円髷まるまげびんに手をさわって、金蒔絵きんまきえ鼈甲べっこうくしを抜くと、指環ゆびわの宝玉きらりと動いて、後毛を掻撫かいなでた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渡す時向うの手を見ると、青玉サファイアを入れた金の指環ゆびわが、細っそりとその小指をめぐっていた。俊助はそれもまた美しいと思った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そう云う時計だとか指環ゆびわだとかが、硝子窓の裏に飾ってある店を、女はそこを通る度にのぞいて行く。わざわざその店の前に往こうとまではしない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
その年の秋ルードウィッヒ二世臨御の下に「ニーベルンゲンの指環ゆびわ」四部作の三回にわたる世紀的上演が実現された。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
今朝けさ御父さんから聞いたら、叔父さんが御歳暮おせいぼ指環ゆびわを買ってやると云っていたから、停留所で待ち伏せをして
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ヴアイオレツトのかほり嬌紅けうこう艶紫えんしの衣の色、指環ゆびわ腕環うでわの金玉の光、美人(と云はむはいつはりなるべし、余は不幸にして唯一人も美人をば夜会の席に見る能はざりければ)
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
けば聖書バイブルかてにする道徳家だうとくかが二十五銭の指環ゆびわ奮発ふんぱつしての「ヱンゲージメント」、綾羅りようら錦繍きんしゆう姫様ひいさま玄関番げんくわんばん筆助君ふですけくんにやいの/\をんだはての「ヱロープメント」
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
それからふたゝみんながあつまつたときに、ドードてうおごそかに指環ゆびわしめして、『吾輩わがはいこの優美いうびなる指環ゆびわ諸君しよくん受納じゆなふせられんことをのぞむ』このみじか演説えんぜつむと一どう拍手喝采はくしゆかつさいしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
お千代はもう逆上のぼせたように顔ばかりか眼の中までを赤くさせ、はこの中から取出す指環ゆびわや腕時計を、はめて見たり、抜いて見たりして、そのたびたびに深い吐息といきをついている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)