悠々いう/\)” の例文
れいしたいて悠々いう/\小取廻ことりまはし通抜とほりぬける旅僧たびそうは、たれそでかなかつたから、さいはひ其後そのあといてまちはいつて、ほツといふいきいた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
芋蟲いもむしうでんで其頂そのいたゞきにすわり、悠々いう/\なが水煙草みづたばこ煙管きせるふかしてゐて、あいちやんや其他そのたものにも一切いつさいをくれませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
終夜しうやあめ湿うるほひし為め、水中をあゆむもべつに意となさず、二十七名の一隊粛々しゆく/\としてぬまわたり、蕭疎しようそたる藺草いくさの間をぎ、悠々いう/\たる鳧鴨ふわうの群をおどろかす
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
こいつ老爺おやぢぬすんだときふおつかけて行くと老人悠々いう/\としてあるいて居るので追着おひつくことが出來た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
二台の馬車に、客はマバラに乗り込みぬ、去れど御者も馬丁ばてい悠々いう/\寛々くわん/\と、炉辺に饒舌ぜうぜつしつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
夜中にいきなり店番をしてゐた手代の甚三郎を叩き起し、雨戸を開けさせて悠々いう/\と出て行つたさうだ。
吉兵衞にわたされたり吉兵衞は悠々いう/\と金子を改め一れいのべ懷中くわいちう歸宅きたくの上主人利兵衞へは四十七兩二歩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
瑠璃るり色なる不二の翅脈しみやくなだらかに、じよの如き積雪をはだへの衣にけて、悠々いう/\と天空にぶるを仰ぐに、絶高にして一朶いちだ芙蓉ふよう、人間の光学的分析を許さゞる天色を
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
晴耕雨読……印章の註文に応じながら、一方では悠々いう/\本来の創作の仕事に没頭する……そこには揺ぎのない生活の安定がある——とこれが私の空想だつたのである——。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
と、ひ、あしところらぬ有樣ありさま濱島武文はまじまたけぶみ艦尾かんび巨砲きよほうもたれて悠々いう/\美髯びぜんひねりつゝ。
死地に引かれて行く種牛はむし冷静おちつき澄ましたもので、他の二頭のやうに悪踠わるあがきるでも無く、悲しい鳴声をらすでも無く、僅かに白い鼻息を見せて、悠々いう/\と獣医の前へ進んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その最中に自分ひとり悠々いう/\緩々くわん/\と寢そべつてゐる奴があるものか。あんまりお長屋の義理を知らねえ狸野郎の横着野郎わうちやくやろうだ。ぬす人のひる寢も好加減にしろと云って、早く引摺ひきずり起して來い。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
嗟吁あゝ人生の短期なる、昨日きのふの紅顔今日けふの白頭。忙々促々として眼前の事に営々たるもの、悠々いう/\綽々しやく/\として千載の事をはかるもの、同じく之れ大暮の同寝どうしん。霜は香菊をいとはず、風は幽蘭をゆるさず。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
雲や大洋の動くやうに悠々いう/\と動いてゐる。その癖細かいところはちやんと見逃みのがしてゐません。一番上の葉が一寸ねぢれて、ひら/\舞つてゐるでせう。あれがいかにも繊細です。清々すが/\しい。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
小説にける男女の主客が婚礼はいとめでたし。なんとなれば渠等の行路難は皆合卺がふきんの事ある以前既に経過し去りて、自来無事悠々いう/\あひだに平和なる歳月を送ればなり。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎のガラツ八は、伊丹屋の駒次郎をうながして、一と足先に出て行きました。後には平次、悠々いう/\と朝飯にして、お靜と無駄を言ひ乍ら、陽のけるのを待つて居ります。
折から矢部やべと云ふ発送係の男、頓驚とんきやうなる声を振り立てて、新聞出来しゆつたいを報ぜしにぞ「其れツ」と一同先きを争うてせ出だせり、村井のみ悠々いう/\として最後にしついでて行けり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そも/\燧山は岩代国にぞく巍峩ぎがとして天にひいで、其麓凹陥おうかんして尾瀬沼をなし、沼の三方は低き山脈を以て囲繞ゐげうせり、翻々たる鳧鴨ふわう捕猟ほりやうの至るなき為め悠々いう/\として水上に飛しやう
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
恭々敷うや/\しく正面しやうめんとこかざ悠々いう/\としてひかへたり大膳左京の兩人はかゝこととはいかで知るべき盃の數もかさなりて早十分にゑひを發し今はよき時分じぶんなりいざ醉醒ゑひざめの仕事に掛らんと兩人は剛刀だんびら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくし口籠くちごもりながらひかけると、大佐たいさ悠々いう/\として
道灌山へ平次と八五郎が向つたのは、悠々いう/\と晝飯を濟ましてから、火伏せの行が始まるといふ申刻なゝつ時分には、二人は無駄を言ひ乍ら若葉の下の谷中道を歩いて居りました。
淺葱あさぎくらい、クツシヨンもまた細長ほそながい。しつ悠々いう/\とすいてた。が、なんとなく落着おちつかない。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殘らず取出し盜賊の前に差出せば次郎は莞爾につこと打笑ひ夫れで能い心持こゝろもちだらうドリヤ路用ははずんでくれようと額銀がくぎん一ツ投出なげだしサア是で何處へなりとゆきをれへ言捨道玄次郎は悠々いう/\と金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
馬車は夕陽を浴びつゝ迂廻うくわいして、やがて悠々いう/\華族会館の門を入りぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
小豆澤小六郎は梯子の下に結構な證人を飼つて置いて悠々いう/\とどんなことでも出來るわけだよ。
畜生ちくしやう、……がさ/\といてもげることか、がさりとばかり悠々いう/\つてる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼岸詣りの善男善女にまぎれて前日から入り込み、一と晩本堂にでも隱れて、翌る日早朝戸の開くのを見濟して、悠々いう/\と出て行く分には、誰も見とがめる者もなかつたことでせう。
悠々いう/\迷兒まひごのうしろへいつて、ふるへてるものを、かたところぺろりとなめた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『あツ、』とさけんで、背後うしろから飛蒐とびかゝつたが、一足ひとあしところとゞきさうにつても、うしてもおよばぬ……うしいそぐともなく、うごかない朧夜おぼろよ自然おのづからときうつるやうに悠々いう/\とのさばりく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
百二十兩ほどせしめて悠々いう/\と立ち去つたのです。
思へば好事よきことには泣くとぞふなる密閉室あかずのまの一件が、今宵誕辰たんしんの祝宴に悠々いう/\くわんつくすをねたみ、不快なる声を発してその快楽を乱せるならむか、あはれむべしと夜着よぎかぶりぬ。眼は眠れどもしんは覚めたり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)