かたじけ)” の例文
「ああ……イヤイヤ。その御配慮は御無用御無用。実は主命を帯びて帰国を急ぎまするもの……お志は千万かたじけのうは御座るが……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「これはかたじけない」伊右衛門は貼りかけていた提燈を投げ棄てるようにして、長兵衛から小風呂敷の包みをもらい「して、小平めは」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
次第を云えば私らより一倍深く親方をありがたいかたじけないと思っていなけりゃならぬはず、親方、姉御、私は悲しくなって来ました
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「……御師範の御好志も、御家中皆々の寛仁なお扱いも、胆に銘じてかたじけない、千万ありがたく存ずるが、おれは三春へは帰らぬつもりだ」
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お聞き済みがなければむを得ざれど、お聞届きゝとゞけ下さればかたじけない、清次殿どうして貴殿きでんは僕が助右衞門殿を殺したことを御存じでござるな
「心得ておる。早速参ってくれて、かたじけない。ちと、密談があるので、ずっと、これへ進んでくれい。伝次、襖を閉めて——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
渡すを、にいやり受取りて『さすがは女房だ、有難てえ。そこまでお気が注かれふとは、思はなんだにかたじけねえ。じやあ行つて来るぞ。待つぞえ』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
奉行所へ召連めしつれ奉らんなどうへへ對し容易よういならざる過言くわごん無禮ぶれいとや言ん緩怠くわんたいとや言ん言語に絶せし口上かなかたじけなくも天一坊樣には
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
竜子は母が養育の恩を今更いまさらのように有難くかたじけなく思うと共に、また母に対して何とも知れず気の毒のような済まないような気もして自然と涙ぐんだ。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かたじけない。忝ない。今まではつれないと思つてゐたが、もう向後かうごは御仏よりも、お前に身命を捧げるつもりだ。」
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その間に牧羊人大願成就かたじけないと、全然そっくりその金をぬすみ得た(ハーンの『アルバニッシュ・スチュジエン』巻一)。
うね。』と云つて、智恵子は睫毛の長い眼をしばたたいてゐたが、『かたじけないわ、私なんかに御相談して下すつて。 ...
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この上は源兵衛に続いてわが身も一しお、老いの山坂いといなく、衆生済度しゅじょうさいどに馳せ向わん。有難し、かたじけなし、源右衛門。源兵衛。(合掌しつつ和歌を口ずさむ)
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
先君の御名が立たぬ、お志の段はかたじけないが、お城へ、お訣別わかれを告げて引きとられい。岡野、井関、大岡の諸氏へも、昨日そう申して御得心していただいた事であった
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぜひとも会ってみたい心持になって、あの手紙をつかわしたのじゃ、早速、出向いて来てくれてかたじけない
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此度の件に就ては色々御心尽しをかたじけのうし、何と御礼申してよきやら、御礼の申上げようも無之これなき次第、主は必ず小生に成代なりかわり、御先生の御心尽しの万分の一たりとも
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「ナニ荏原屋敷? 荏原屋敷? ……ふうん左様か、荏原屋敷——いや、これはかたじけのうござった」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(皆々代る/″\長者に近づきて、小聲に挨拶して歸りゆく)……でござるか? はて、しからば、いづれもかたじけなうござった。かたじけなうござる。御機嫌ごきげんようござりませ。
国家の為に自重せい、と僕の如き者にでもさう言うてくるるのはかたじけないが、同じ筆法を以つて、君も社会の公益の為にその不正の業をめてくれい、と僕は又頼むのじや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
たべる物は麺麭パンの附焼、うなぎ天窓あたまさ、串戯口じょうだんぐちでも利こうてえ奴あ子守児こもりッこかお三どんだ、愛ちゃんなんてふざけやあがって、よかよかの飴屋あめやが尻と間違えてやあがる、へ、おかたじけ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おやともあにともなく大切たいせつおもふものをと、無心むしんへばかたじけなしと一こと語尾ごびふるへてえぬ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうってわたくしかお微笑ほほえまれました。わたくしはこんな立派りっぱ神様かみさま時々ときどき姿すがたあらわして親切しんせつおしえてくださるかとおもうと、かたじけないやら、心強こころつよいやら、おのずとなみだがにじみました。——
梅子はジツと瞑目めいもくしてありしが「婆や、其れ程迄に思つてお呉れのお前の親切は、私、嬉しいともかたじけないとも言葉には尽くされないの、けれど私、何も今日しにに行くと云ふぢやなし」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「おそなわって相すみませぬ。いずれも様の御見みみに入りかたじけのう存じまする」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「なに! 御力となって下さるか。かたじけけない、忝けない。ほッと致して急に年が寄ったようじゃ。みなの衆もさぞかし躍り上がって悦びましょうゆえ、早速事の仔細を知らせてやりましょうわい」
人夫中の一人喜作なるもの両三日前より屡々しば/\病の為めにくるしみ、一行も大に憂慮いうりよせしが、文珠岩を発見はつけんするやいなただちに再拝してめし一椀、鰹節一本とを捧呈ほうていし、祈祷きとうときうつおはりてかたじけく其飯をきつ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
いや、それは重々のお心添え、かたじけなく申し受けまする。と辰弥は重ねて笑み作りて、うむ、あなたの力にかなうことなら、私の望みに応じてとは、三好さん、きっとですぜ。と冗談らしく念押す。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
幸子はそれを受け取ったと云う挨拶あいさつを兼ねて、直ぐ礼状を出したことは出したけれども、去年井谷に責められてりているので、今度は安請合やすうけあいをしないことにして、御親切は身にみてかたじけないが
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「有難う、思召しはかたじけないが、お前に逢うとろくなことがない」
「素晴しい出来だ、千ぱんかたじけない。」
ソーリン それはかたじけない。
楼主そなたの心入れは重々かたじけないが、さればというてこのまま手を引いてしもうてはこっちの心が一つも届かぬ。商売は商売。人情は人情じゃ。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それはそれは、遠路のところわざわざお届け下すってかたじけのうござった、源之丞は拙者のせがれでござる、若年者のうろたえた思慮でかような御迷惑を
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
主人の娘が貸してくれと云うものを出来ぬとは義理ずくでかんし、親切に世話をしてくれかたじけない、多分に礼をしたいが、帰りがけであるからのう
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「益満は、すぐ戻るが、長々と、乱暴者をあずかってもろうて、かたじけない。都合にて、明日中に、引払うことになったが、今後とも、よろしく頼む」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「これはお心づけかたじけのう存ずる、それでは早速」と云って伴助を見て、「これ、てめえ、白湯さゆをしかけろ」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
思ふ事貴賤きせん上下の差別さべつはなきものにて俚諺ことわざにも燒野やけの雉子きゞすよるつるといひて鳥類てうるゐさへ親子の恩愛おんあいにはかはりなしかたじけなくも將軍家には天一坊はじつの御愛息あいそく思召おぼしめさばこそかく御心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
同棲慇懃いんぎんし、その家の亭主は御婿入りかたじけなや、所においての面目たり、帰国までゆるゆるおわしませと快く暇乞いとまごいして他の在所へ行って年月を送ると(『北条五代記』五)。
かたじけないわ、私なんかに御相談して下すつて。……あの小母さん、兎も角今のお家の事情を
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのさいみことには、火焔かえんなかちながらも、しきりにひめうえあんじわびられたそうで、そのかたじけない御情意おこころざしはよほどふかひめむねにしみんでるらしく、こちらの世界せかい引移ひきうつって
ああ、宮は生前においわづかに一刻のさきなる生前に於て、このなさけの熱き一滴を幾許いかばかりかはかたじけなみけん。今や千行垂せんこうたるといへども効無かひなき涙は、いたづらに無心の死顔にそそぎて宮のこんは知らざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かたじけのうぞんじまする。顧みれば、兄上には、御苦労をかけたのみでした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こひ一方いつはうつよよく一方いつはうはきものとくはいつはり何方いづれすてられぬ花紅葉はなもみぢいろはなけれど松野まつのこゝあはれなり、りとて竹村たけむらきみさしき姿すがたおもえもしたれ、あさからぬ御志みこゝろざしかたじけなさよ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「御教訓かたじけのう存じます」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それはかたじけのうござる」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かたじけないと申上げるよりもかえって心苦しいのです、はなはだ申兼ねたことではございますが、御教授料としてではなくわたくし共の寸志と致しまして
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その志はかたじけないが、日本の前途はまだ暗澹たるものがある。万一吾々が失敗したならば貴公あんた達が、吾々の後跟あとを継いでこの皇国廓清かくせいの任に当らねばならぬ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人の女房を手込めに殺すなどと云うことは他人には出来る訳のものでない、く殺して下すった、かたじけない、宜しい手前是れから女房おあさが母に食を与えず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かたじけない。然し、私は天引三割の三月縛みつきしばりと云ふ躍利をどりを貸して、あらかせぎを為てゐるのだから、何も人に恩などを被せて、それを種に銭儲かねまうけを為るやうな、廻りくどい事を為る必要は、まあ無いのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かたじけのうござる。主人は、至ってすこやかなたちでござる故、その辺はわれ等も心づよく、働けますし、式事は、吉良殿が御親切におさしず下さります故、お蔭をもって、万端、整いましてござりまする』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)