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燒野
思ふ事
貴賤上下の
差別はなきものにて
俚諺にも
燒野の
雉子夜の
鶴といひて
鳥類さへ親子の
恩愛には
變なし
忝なくも將軍家には天一坊は
實の御
愛息と
思召ばこそ
斯御心を
手早く
取りてお
忘れ
遊ばしたかと
取すがりて
啼く
音に
知るゝ
燒野の
雉子我子ならねど
繋がる
縁とて
母は
女の
心も
弱くオヽお
高か
否お
高どのか
何として
此樣な
處へ
何う
尋ねて
知れましたとおろ/\
涙の
聲きゝ
附けてや
膝行出づる
儀右衞門はくぼみし
眼にキツと
睨みてコレ
何を
飮ねといと
信實に
看病なせども今ははや
臨終の近く見えければ
夫婦親子の別れの
悲しさ同じ涙にふし
芝の
起る日もなき
燒野の
雉子孤子になる
稚兒より
捨て
行身の
親心重き
枕を