徘徊はいくわい)” の例文
徘徊はいくわいめぐり/\て和歌山わかやまの平野村と云へる所にいたりける此平野村に當山派たうざんは修驗しゆけん感應院かんおうゐんといふ山伏やまぶしありしが此人甚だ世話好せわずきにて嘉傳次を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
藤木川ふぢきがはの岸を徘徊はいくわいすれば、孟宗まうそうは黄に、梅花ばいくわは白く、春風しゆんぷうほとんおもてを吹くが如し。たまたま路傍の大石たいせきに一匹のはへのとまれるあり。
病中雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
然るに生憎あいにく横井は腸をいためて、久しく出勤しなかつた。邸宅の辺を徘徊はいくわいしてうかゞふに、大きい文箱ふばこを持つた太政官だじやうくわんの使がしきり往反わうへんするばかりである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
巡査じゆんさ勘次かんじいへのあたりを徘徊はいくわいしたがそれでも東隣ひがしどなりもんたゝいて穿鑿せんさくするまでにはいたらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
阿弥陀あみだいただけるもの、或は椅子に掛かり、或はとこすわり、或は立つて徘徊はいくわいす、印刷出来しゆつたいを待つ徒然つれづれに、機械の音と相競うての高談放笑なかなかににぎはし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
うろ/\徘徊はいくわいしてゐる人相にんさうの悪い車夫しやふ一寸ちよつと風采みなり小綺麗こぎれいな通行人のあとうるさく付きまとつて乗車をすゝめてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まだ執念深しゆうねんぶか鐵車てつしや四邊あたり徘徊はいくわいしてるのは、二十とうばかり雄獅子をじゝと、三頭さんとう巨大きよだいなる猛狒ゴリラとのみであつた。
外観の配色は柔かい白と緑とより成り、何となく木造の感をおこさせるがすべて石造だ。その左側さそくの鐘楼もまた荘麗である。予はしば/\この門前を徘徊はいくわいして帰るに忍びなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
宗助そうすけ好奇心かうきしんから此句このくまへいてゐる論文ろんぶんんでた。しかそれまる無關係むくわんけいやうおもはれた。たゞこの雜誌ざつしいたあとでも、しきりにかれあたまなか徘徊はいくわいした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
馬鹿々々ばか/\しい。いてると、強盜がうたう徘徊はいくわいするといふので、非常線ひじやうせんつてたのであつた。
春陽の頃はつもりし雪もひるの内はやはらかなるゆゑ、夜な/\狐の徘徊はいくわいする所へむぎなど舂杵つくきねを雪中へさし入て二ツも三ツもきねだけのあなを作りおけば、夜に入りて此あなこほりて岩の穴のやうになるなり。
さればこゝむべくおそるべきを(おう)にたとへて、かりに(おう)といへる一種いつしゆ異樣いやう乞食こつじきありて、がう屋敷田畝やしきたんぼ徘徊はいくわいす。驚破すはおうきたれりとさけときは、幼童えうどう婦女子ふぢよし遁隱にげかくれ、孩兒がいじおそれて夜泣よなきとゞむ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人はさまよひ徘徊はいくわいし、羽搏く接唇くちづけ感じます
憐れむべし楼上つき徘徊はいくわい
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
配分されしかば其金を懷中して所々を徘徊はいくわいなしもつぱら賭博に身を入又大酒を呑己が有に任せて女郎藝者げいしやかひ金銀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
予は終夜眠らずして、予が書斎を徘徊はいくわいしたり。歓喜か、悲哀か、予はそを明にする能はず。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えず其邊そのへん航路かうろ徘徊はいくわいし、ときにはとほ大西洋たいせいやう沿岸えんがんまでもふね乘出のりだして、非常ひじやう貴重きちやう貨物くわぶつ搭載とうさいしたふねると、たちまこれ撃沈げきちんして、にくよくたくましうしてるとのはなし
利安は後但馬たじまと云つた母里もり太兵衞友信、後周防すはうと云つた井上九郎次郎之房等と、代わる/″\商人の姿に身をやつして、孝高の押し籠められてゐる牢屋らうやの近邊を徘徊はいくわいして主を守護した。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
衣をき、床をめぐりて狂呼す、「バーンス」詩を作りて河上に徘徊はいくわいす、或は呻吟しんぎんし、或は低唱す、忽ちにして大声放歌欷歔ききょ涙下る、西人此種の所作をなづけて、「インスピレーション」といふ
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こゑけて、たゝいて、けておくれとへば、なん造作ざうさはないのだけれども、せ、とめるのをかないで、墓原はかはら夜中よなか徘徊はいくわいするのは好心持いゝこゝろもちのものだと、ふた言爭いひあらそつてた、いまのさき
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其邊そのへん徘徊はいくわいしてつては、到底とても車外しやぐわいでゝその仕事しごとにかゝること出來できない、そこで、この爆裂彈ばくれつだんばして、該獸等かれらたを追拂おひはらひ、其間そのあひだ首尾しゆびよくやつて退けやうといふくわだてだ。
この多襄丸たじやうまるふやつは、洛中らくちう徘徊はいくわいする盜人ぬすびとなかでも、女好をんなずきのやつでございます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
徘徊はいくわいせしがフト心付き原田は播州へゆきしとの事なり今我斯樣かやうに浪々の身となり艱難するももとは兵助が事より起れりと自身の惡事には氣も付かず只管ひたすら兵助をうらみいざや播州へ赴き兵助に巡逢めぐりあひ此無念このむねん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たとひデカダンスの詩人だつたとしても、僕は決してかう云ふ町裏を徘徊はいくわいする気にはならなかつたであらう。けれども明治時代の諷刺ふうし詩人しじん斎藤緑雨さいとうりよくうは十二階に悪趣味そのものを見いだしてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さう云ふ明暗二通りの心もちの間を、その時次第で徘徊はいくわいしてゐた。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)