希有けう)” の例文
「もし、あなた様、希有けうでござります。確かたった今、わたくしが、こちらへお客人をお取次申しましてござりましてござりまするな。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひそかに郵便に附しても善からむに、かく気をかねて希有けうなる振舞したまふを見れば、この姫こころ狂ひたるにはあらずやとおもはれぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夜半から朝へかけて希有けうの大暴風雨、深川本所は大出水でつぶれ家は到る所、まことに物凄い大荒れで祭礼はさんざんの始末。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
日本でも大安寺の勝業しょうごう上人が水観をじょうじた時同じく石を投げ入れられて、これはむねが痛んだという談があって、何も希有けうな談でも何でもない。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また時節柄、放火が流行するとか、しめりなくして乾きおるとかにて、火の心配たえず心にかかりおれば、かかる夢は希有けうのことにもあらざるべし。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
村川は、すぐ出るのが、本当だと思っていたが、かくれんぼをしているのを口実に、一秒でも二秒でも、長くこうした希有けうの境遇に、身を置きたい気もした。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
守苑人美女を見て希有けうの思いをなし速やかに王に告げ、今美貌成就せる少女ありて現に苑内にありという。
戸棚とだな押入おしいれほか捜さざる処もあらざりしに、つひあるじ見出みいださざる老婢は希有けうなるかほして又子亭はなれ入来いりきたれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
(本年五十六歳ノ夫ガ四十五歳ノ妻ノ裸体ニカクモあこがレルトイウヿハ希有けうノヿダ。ソレヲ考エテミルガヨイ)第四ノ目的ハ、ソウスルヿニヨッテ彼女ヲ極度ニはずカシメ
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
荘主あるじかたりていふ。さきに二三下等しづらが御僧を見て、鬼来りしとおそれしも二四さるいはれの侍るなり。ここに二五希有けうの物がたりの侍る。二六妖言およづれごとながら人にもつたへ給へかし。
もっともそういう連中の中には、修道院でも非常に名の通った、有力な人物も幾人かあった。たとえばその中の一人は、古参の僧で、偉大な無言の行者でかつ希有けうの禁欲家であった。
この話が伝わると、誰が発起ほっきともなく、養生所の新築披露目ひろめをかねて、一つ、希有けう大与力だいよりきの隠退を記念する捕縄供養とりなわくようをやろうではないか——イヤ、やらせようではないか、とはたから騒ぎだした。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとなの知らない希有けうの言葉で
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
妙齡としごろいたらせたまひなば、あはれ才徳さいとくかねそなはり、希有けう夫人ふじんとならせたまはん。すなはち、ちかごろの流行りうかう良妻賢母りやうさいけんぼにましますべし。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひそかに郵便に附してもよからんに、かく気をかねて希有けうなる振舞いしたまうを見れば、この姫こころ狂いたるにはあらずやとおもわれぬ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わざわざ誰とも知れぬ人の何時の夢とも知れぬ夢などを死後の消息として書いてあるのは希有けうなことである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
支那では余り希有けうな事でないらしく、おどけ半分に異史氏が評して馬万宝善く人を用ゆる者というべし。児童かにを面白がるがはさみおそろしい。因って鉗を断ちて飼う。
その故は、かかる場合に夢の感通ありしは極めて希有けうのことにて、人の夢の数と死亡の数とに比較するときは、億万の中にわずかに一度もあるかないかくらいのことにすぎぬ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼の青年の一人は不幸にも Scabies impetiginosum におかされている。それは、わが国において希有けうな皮膚病である。ことに艦内の衛生にとっては一つの脅威メナスである。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
村方一同寄るとさわると、立膝に腕組するやら、平胡坐ひらあぐら頬杖ほおづえつくやら、変じゃ、希有けうじゃ、何でもただ事であるまい、と薄気味を悪がります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天晴あっぱれ立派に建ったるかな、あら快よき細工振りかな、希有けうじゃ未曽有みぞうじゃまたあるまじと為右衛門より門番までも、初手のっそりをかろしめたることは忘れて讃歎すれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さてアントニウス尊者の伝を究めて吾輩のもっとも希有けうに感じた一事は、この尊者壮歳父母に死に別れた時、人間栄華一睡の夢と悟って、遺産をことごとく知友貧人に頒与はんよ
や、二人の羅が、もとの通り、もとの処にかかっている、もっとも女中が来て、掛け直したと思えば、それまでなんですが、まだ希有けうな気がしたのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴人の頭上に宝冠を戴くごとく希有けうの動物の頭にかかる貴重物を授くと信じたからで、後世その出処がほぼ分ってもなお極めて高価な物は竜蛇の頭より出ると信じたのであろう。
死に近づいている人の口臭は他の何物にも比べ難い希有けうの香のするもので、俗に仏様くさいと云って怖れ忌むものであるが、まして死んでから幾日か経ったものの口を吸ったのでは
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こゝに希有けうことがあつた。宿やどにかへりがけに、きやくせたくるまると、二臺三臺にだいさんだい俥夫くるまやそろつて鐵棒かなぼう一條ひとすぢづゝげて、片手かたてかぢすのであつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
アララット山に神智広大能く未来を言いつる大仙ありと聞き、自ら訪れて「汝に希有けうの神智ありと聞くが、どんな死様しにざまで終るか話して見よ」と問うと、「われは汝に殺されるべし」と答えたので
……たか/″\人間にんげん仕事しごとだけに、はね船頭せんどう使つかふても、みづうへいてくだよ。なに希有けうがらつしやるにはあたらぬ。あのふねは、わし慰楽なぐさみつくるでがす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
希有けうぢやと申して、邸内ていない多人数たにんず立出たちいでまして、力を合せて、曳声えいごえでぐいときますとな……殿様。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
却説さて大雷たいらいあと希有けうなる悲鳴ひめいいたよるきやくしとみけようとしたとき人々ひと/″\かほは……年月としつきながても眼前まのあたりるやうな、いづれもいしもつきざみなしたごときものであつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何とも希有けうな通りものでござりまして、あの蛍がまたむらむらと、蠅がなぶるように御病人の寝姿にたかりますと、おなじ煩うても、美しい人の心かして、夢中で、こう小児こどものように
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以前いぜん持主もちぬし二度目にどめのはお取次とりつぎ一人ひとり仕込しこんだおぼえはないから、ひとたちは無論むろんことみなと出入ではひる、國々くに/″\島々しま/″\のものにたづねても、まるつきしつうじない、希有けう文句もんくうたふんですがね
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二度目のはお取次とりつぎ、一人も仕込んだ覚えはないから、其の人たちは無論の事、港へ出入る、国々島々のものに尋ねても、まるつきし通じない、希有けうな文句を歌ふんですがね、しらべて見ると
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
般若の面の男 (希有けうなる顔して)禰宜様や、わしらが事をおっしゃるずらか。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
居合せましたもの総立そうだちになって、床下までのぞきましたが、どれも札をつけて預りました穿物ばかり、それらしいのもござりませぬで、希有けうじゃと申出しますと、いや案内に立った唯今の女は
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷きんごう隣国りんごくただ炎の中にもだえまする時、希有けう大魚たいぎょおどりましたは、甘露かんろ法雨ほううやがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表ぜんぴょうかとも存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
渠は例の美しき姿と妙なるわざとをもって、希有けうの人気を取りたりしかば、即座に越前福井なるなにがしという金主きて、金沢を打ち揚げしだい、二箇月間三百円にて雇わんとの相談は調ととのいき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
案山子かゝしどもはわらみだれたけむりごとく、前後あとさきにふら/\附添つきそふ。……してほこら樹立こだち出離ではなれる時分じぶんから、希有けう一行いつかうあひだに、ふたあかりいたが、ひかりりともえず、ものをうつさぬでもい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なおかくの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷隣国、ただ炎の中にもだえまする時、希有けうの大魚の躍りましたは、甘露、法雨やがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表かとも存じまする。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
希有けうことくものぢや、理由いはれは、とたづねると、老人らうじん返事へんじには
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
希有けうな侵入者を見ると、一斉に伝吾に瞳を向けた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美人も希有けうなる面色おももちにて反問せり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんは希有けうな顔して
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仔細しさい希有けうな、……
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仔細は希有けうな、……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)