工場こうば)” の例文
要するに東京が日々攻め寄せる。以前聞かなかった工場こうばの汽笛なぞが、近来きんらい明け方の夢を驚かす様になった。村人もては居られぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やがてまぼろしは消えた。そして頭をひとふりしながら、アッシェンバッハは墓石工場こうばのさくにそうて、ふたたび散歩をはじめた。
機械きかいとどろき勞働者ろうどうしや鼻唄はなうた工場こうばまへ通行つうかうするたびに、何時いつも耳にする響と聲だ。けつしておどろくこともなければ、不思議ふしぎとするにもらぬ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
通って来たんだけれど、角の箔屋はくや。——うちの人じゃあない、世話になって、はんけちの工場こうばへ勤めている娘さんですとさ。ちゃんと目を
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かういふてんからますと、これらの土器どきおそらく專門せんもん土器製造人どきせいぞうにんが、その工場こうばつくつたのを各地かくちしたものにちがひありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ちょうど、みんなは、おおきな工場こうば見学けんがくして、いま、そのもんからたところで、先生せんせいのおはなしきながら、みなとのほうへ、あるいていたのでした。
心は大空を泳ぐ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それがさ。お父さんは今し方、工場こうばの方へ行ってしまったんだよ。私がまたどうしたんだか、話し忘れている内にさ。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また製粉所や工場こうばや学校が建ったというのなら、そして住民がずっと健康に、ずっと裕福に、ずっと頭が進んだというのなら、私にもうなずけますが
会社の仕事が? なーに、どうだか判ったもんじゃないよ、この不景気にゴム工場こうばだって同じ『ふ』の字さ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを少し離れて、二三げんの瓦屋根があつて、それに朝日がさした。小さい工場こうば烟筒えんとつからは、細い煙が登つてる。向ふの街道には車の通る音が絶えず聞える。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
夕方、方々の工場こうば退け時になると、彼女は街へ出て、堅気かたぎ女らしい風でそぞろ歩きをした。ときどき微かに歩調をゆるめたかと思うと、また元のように歩いて行った。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
で、根気よく一箇年かねんほど、この工場こうばの仕事を続けてみると、五週間に六銭の食費で、鼠一匹の稼ぎ高が、廿五インチの長さの糸を三千三百五十本紡いだといふ勘定になつた。
それでもこのぐわつから、月島つきじま工場こうばはうことになりまして、まあさいはひ此分このぶん勉強べんきやうさへしてつてれゝば、此末このすゑともに、さうわることからうかとおもつてるんですけれども
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かかあは内職、娘は工場こうば。なぞというような一家となったら。むご悲惨みじめさ話にならない。介抱どころか、お薬どころか。すぐにそのまま一家が揃うて。あごを天井に吊るさにゃならぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
戦争中徴用されていた工場こうばの女工から、戦後、あたり前ならば電車の車掌か、食べ物屋の給仕か、闇市の売子にでもなるべきところを、いずれも浅草に遠からぬ場末の町に成長し
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が一体うしたら食えるんだ? 東京、横浜、そして神戸——それから一昨日おとついこの町へ来たんだが、どこの工場こうばでもお断りだ。実は今人減しの最中なんでね……何処も彼処かしこも同じご托宣だ。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
向島須崎町すさきちょうと、段々品の悪い所へ移って行って、最後の須崎町などはバラック同然の、工場こうばと工場にはさまれたきたならしい一軒建ちの借家であったが、彼はそこを数ヶ月の前家賃で借り受け
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
七五 離森はなれもりの長者屋敷にはこの数年前まで燐寸マッチ軸木じくぎ工場こうばありたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
言はゞ我が良人をつとをはづかしむるやうなれど、そもそも御暇おいとまを賜はりて家に帰りし時、むこさだまりしは職工にて工場こうばがよひする人と聞きし時、勿躰もつたいなき比らべなれど、我れは殿の御地位ごちゐを思ひ合せて
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この村は谷間たにまにあって、ぐるりの山々は、けわしいけれど美しい形をしていました。一つの川が細長いたきになって、おかにそってながちていました。山のふもとには大きな工場こうばがいくつもありました。
影うつす煙草たばこ工場こうば煉瓦壁れんぐわかべ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
工場こうば汽笛きてきが、あれるよ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
工場こうばの窓を仰ぐ身も
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一体思想の工場こうば
あいづちをうつごとく、どこかの工場こうばから、正午しょうご汽笛きてきりひびきました。少年しょうねんは、これを機会きかいに、おかりたのでした。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「何、用って云った所が、ただ明日あした工場こうばへ行くんなら、箪笥たんすの上の抽斗ひきだし単衣物ひとえものがあるって云うだけなんだ。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
工場こうばの中は、油の匂いが、プンプンしていた。そして、鼻をつままれても判らぬほど、絶対暗黒ぜったいあんこくであった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お部屋方の遠縁へ引取られなさいましたのが、いま、お話のありました箔屋なのです。時節がら、箔屋さんも暮しが安易らくでないために、工場こうば通いをなさいました。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真面目な職人が工場こうばへ帰って来ると、いきなり道具を握って余念もなく仕事をはじめると同じように、彼女は機械的に髪の恰好をなおし、貧しい着物の襟をかき合せると
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
なに製造せいぞうするのか、間断かんだんなしきしむでゐる車輪しやりんひびきは、戸外こぐわいに立つひとみみろうせんばかりだ。工場こうば天井てんじよう八重やえわたした調革てうかくは、あみとおしてのたつ大蛇のはらのやうに見えた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
自分じぶん自分じぶん仕事しごとをしてたくてならない矢先やさきへ、おなくわ出身しゆつしんで、小規模せうきぼながら專有せんいう工場こうば月島邊つきじまへんてゝ、獨立どくりつ經營けいえいをやつてゐる先輩せんぱい出逢であつたのがえんとなつて、その先輩せんぱい相談さうだんうへ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鬚男は黄色い健康な歯を剥出むきだしながら、工場こうばの上の青空を凝視した。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あすこに見えるのは、あれは何だ。工場こうばか。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
工場こうばの窓で今日けふ聞くは
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
牢獄ひとやめく工場こうばの奥ゆ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
工場こうばすみ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
やがて、みんなとわかれて、かれ工場こうばの二かいの一しつへもどりました。しかし、とこについてからも、すぐにねむれませんでした。
さか立ち小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
旦那だんな工場こうばから電話です。今日きょうあちらへ御見えになりますか、伺ってくれろと申すんですが………」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分で自分の仕事をして見たくてならない矢先へ、同じ科の出身で、小規模ながら専有の工場こうばを月島へんに建てて、独立の経営をやっている先輩に出逢ったのが縁となって、その先輩と相談の上
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お母アさん工場こうばへ電話をかけたらどうです」黄一郎が云った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはどこかの工場こうばの地下室としか思えません。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
道路どうろ左側さそく工場こうばツてゐるところた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
遠い工場こうばの煙突が
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
へちまのて、銀色ぎんいろのなよなよとしたつるが、あねてたぼうにはいのぼるころには、正雄まさおは、まち工場こうばで、機械きかいのそばにって、はたらいていました。
へちまの水 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あゝ、やすさんは土曜どえうでもなんでも夕方ゆふがたまで工場こうばにゐるんださうだ」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
工場こうばに急ぐ男
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼女かのじょは、ここで、その一しょうおくりました。サフランしゅを、このまち工場こうばつくっていました。彼女かのじょは、そのさけつくるてつだいをさせられていたのでした。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
貧乏びんぼうでもこうちゃんは、つよくないよ。そして、ねえさんも、工場こうばへいっていたのが、病気びょうきになってかえってきたのだろう。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
工場こうばうらでは、秀吉ひできちが、まえにせまったふゆのしたくのため、せいして、たどんをならべてかわかしていました。
さか立ち小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)