奔走ほんそう)” の例文
悪罵あくば奔走ほんそう駈引かけひきは、そののち永く、ごたついて尾を引き、人の心を、生涯とりかえしつかぬ程に歪曲わいきょくさせてしまうものであります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼はすぐその朝から、奔走ほんそうを始めようと決心した。パリーにはただ二人の知人があるばかりだった。二人とも同国の青年だった。
そこは余が奔走ほんそうして、見事にまとめて見せるから、その代り、園絵を神保へつかわすことは、そちの働き一つじゃ。よろしく頼む
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
で、あっちこっちと奔走ほんそうしましたが相当の金を費やせばまた道の明くもので、ようやくネパールへ入る手続きだけは出来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そこには、お三輪みわ乙吉おときちが、預けられていた。そして常木鴻山つねきこうざんは、居所もさだめず、何かの画策かくさくのため、奔走ほんそうしているという。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの「半七塚」を造ったのは私であるが、いま「銭形平次塚」を神田明神に造ろうという話があって、守田勘弥君などが奔走ほんそうしてくれている。
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「おお、先生はよく覚えていて下さいました。実は、私もあの事件に関係がある人間なので捜査に奔走ほんそうしましたが……」
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのころ町々は町会議員の選挙でかなえのわくがごとく混乱こんらんした、あらゆる商店の主人はほとんど店をからにして奔走ほんそうした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
が、残念なことには京阪の間を奔走ほんそうすること三ヵ月、未だ慶喜よしのぶ公にまみえざるに、藩の有力者の手にとらえられてそのまま国元へ送り返されてしまったのだ。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
正作は五郎のために、所々しょしょ奔走ほんそうしてあるいは商店に入れ、あるいは学僕がくぼくとしたけれど、五郎はいたるところで失敗し、いたるところを逃げだしてしまう。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一別いちべつ以来の挨拶振あいさつぶりも、前年の悪感情を抱きたる様子なく、今度浅草鳥越あさくさとりごえにおいて興業することに決し、御覧の如く一座の者と共に広告に奔走ほんそうせるなり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
休憩時間きふけいじかんには控所ひかえじよ大勢おほぜいの中を奔走ほんそうして売付うりつけるのです、其頃そのころ学習院がくしうゐん類焼るいしやうして当分たうぶん高等中学こうとうちうがく合併がつぺいしてましたから、こゝへも持つて行つて推売おしうるのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
仙台で生まれて、維新の時には国事に奔走ほんそうして、明治になってからここに来て、病院を建てて、土地の者に慈父のように思われたという人の石碑せきひもあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
安値あんちよく報酬はうしう學科がくくわ教授けうじゆするとか、筆耕ひつかうをするとかと、奔走ほんそうをしたが、れでもふやはずのはかなき境涯きやうがい
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そんな状況じょうきょうであるから、営業えいぎょうどころのさわぎでない。自分が熱心ねっしん奔走ほんそうしてようやく営業えいぎょうは人にゆずりわたした。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この、韓国民の教育をはかるといる大目的のために、また一つには、私は本国の義兵参謀中将ですから、こうしてこの三年間、国事に奔走ほんそうしているのであります。
口数の少ないかつての彼を見馴みなれてゐるわれわれは、それだけで十分満足した。やがて、交際ずきなHの細君さいくん奔走ほんそうで、知合ひの夫人や令嬢を招いての夜会になつた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
時光寺は本来小さい寺である上に、住職が本山反対運動に奔走ほんそうしているので、その内証は余程苦しい。まして寺社奉行へでも持ち出すとすれば、また相当の費用もかかる。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宿のあるじの奔走ほんそうで交趾へ行く船が見つかった。古ぼけた漳州(シンガポール)の二櫓船で、故郷へ帰る安南人が百人ほど広くもない胴ノ間に押せ押せに詰めあっている。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は勝見の家を出ると定めてから、二三日間といふものは殆ど是が爲に奔走ほんそうして暮した。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ところが帰るや否や私は衣食のために奔走ほんそうする義務がさっそく起りました。私は高等学校へも出ました。大学へも出ました。後では金が足りないので、私立学校も一けんかせぎました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其後そののち數年間すうねんかん春夏しゆんかさい折々をり/\おこなふにぎざりしが、二十五六さいころもつつるにおよび、日夜にちや奔走ほんそうさい頭痛づつうはなはだしきとき臥床ふしどきしことしば/\なりしが、そのさいには頭部とうぶ冷水れいすゐもつ冷却れいきやく
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
どうかして勤め口を見つけようと、人にも頼み自分でも奔走ほんそうしているのだけれど、折柄の不景気で、学歴もなく、手にこれという職があるでもない彼の様な男を、やとってれる店はなかった。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
サンドウィッチや弁当を食べたのち谷川の水で口をすすぎさえすれば一日奔走ほんそうしておっても決して水を飲むに及びません。夏の炎天に山を登るのでも今の通りにしておれば水を飲まずに済みます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼はしきり無しに負け、その追償おいじき奔走ほんそうにミチは疲れ、若い二人は転落する二つの石の様に堕ちて行く先が知れなかった。ミチは勇の転落に引きずられ、ぎりぎりの処まで追い詰められて居た。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
はゞやと奔走ほんそうせしかどそれすらも調とゝのはずして新田につた首尾しゆびよくかち
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
時勢じせいしからしむるところとは申しながら、そもそも勝氏が一身を以て東西の間に奔走ほんそう周旋しゅうせんし、内外の困難こんなんあた円滑えんかつに事をまとめたるがためにして、その苦心くしん尋常じんじょうならざると、その功徳こうとくだいなるとは
幸いにして何のこともなく一命は助かり、引き続き国事に奔走ほんそうしたが、世には随分念の入った讒言ざんげん悪口がある。しかしこれがために軽々しく一命を捨て、ヤケとなり、あるいは他をうらむことを要せぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
安値あんちょく報酬ほうしゅう学科がっか教授きょうじゅするとか、筆耕ひっこうをするとかと、奔走ほんそうをしたが、それでもうやわずのはかなき境涯きょうがい
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それを大いに天和堂テンホータンの主人も心配し、またその妻君も非常に奔走ほんそうしてくれまして、ちょうどよい人を見付けてくれた。それは還俗僧げんぞくそうでテンバという人なんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ドレゴは、話のわからない船主の間を辛抱強く訪ねて廻って、くりかえし砕氷船の売込みに奔走ほんそうした。その結果、夕刻までにやっと一隻だけ、仮約束が成立した。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
この時などは実に日夜にちやねむらぬほどの経営けいえいで、また石橋いしばし奔走ほんそう目覚めざましいものでした、出版の事は一切いつさい山田やまだ担任たんにんで、神田かんだ今川小路いまがはかうぢ金玉出版会社きんぎよくしゆつぱんくわいしやふのに掛合かけあひました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
信長の着用する蜀江しょっこうの小袖の袖口につかう金縒モールを捜すため、京都中を奔走ほんそうしてようやく適当な品を見出したというほど、金力と人力がそれまでにはかかっていたものである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがうまくいったら、筆屋の油御用のほうも、奔走ほんそうしてまとめてやろう——そうは言わないが、いわなくても解っている。山城守と長庵のあいだの、言外げんがいの交換条件であった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ワグナーのために斡旋あっせん奔走ほんそうして、ワグナーの真価を認めさせるために骨を折ったりした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
雑誌なんかで法螺ほらばかり吹き立てていたって始まらない、これから性根しょうねれかえて、もっと着実な世間に害のないような職業をやれ、教師になる気なら心当りを奔走ほんそうしてやろう
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先年板垣伯いたがきはくの内務大臣たりし時、多年国事に奔走ほんそうせし功をでられてか内務省の高等官となり、爾来じらい内閣の幾変遷いくへんせんつつも、専門技術の素養ある甲斐かいには、他の無能の豪傑ごうけつ連とそのせんことにし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
永い間姿を隠していたのは、その間に何か真相をあば手掛てがかりつかんだのか、あるいは証拠がための為めに奔走ほんそうしていたに違いないと思ったので、私は橘の探偵談を聞きくて、話をその方に向けてみたのだ。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一身いつしんつかれてせにせし姿すがた兄君あにきみこヽろやみにりて、醫藥いやく手當てあてづからの奔走ほんそういよいよかなしく、はて物言ものいはずなみだのみりしが、八月やつき壽命じゆみやう此子このこにあれば、月足つきたらずの、こゑいさましくげて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ただ金これ万事を処するといったようなところに眼を着けて、金を貯える事に非常に奔走ほんそう尽力じんりょくして居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おそらく、黒田官兵衛が、奔走ほんそうして、買入れて来たものであろう。旧式な石火矢いしびや大筒おおづつを捨てて、陣前の井楼せいろうに、南蛮製なんばんせいの大砲を城へ向けてすえつけたのも、秀吉がいちばん早かった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
烏啼天駆うていてんくといえば、近頃有名になった奇賊であるが、いつも彼を刑務所へ送り込もうと全身汗をかいて奔走ほんそうしている名探偵の袋猫々ふくろびょうびょうとの何時果てるともなき一騎討ちは、今もなおたけなわであった。
もししてやらないと自分じぶん信用しんようかゝわるつて奔走ほんそうしてゐるんですからね。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まさか兵家常習へいかじょうしゅうの策略とは思わず、もしこれが成功すれば、北陸の商権は、両家の縁によって、自分の一手にめられる——と、かれはかれの野心のもとに、両家のあいだを、奔走ほんそうした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)