つま)” の例文
ことしは芳之助よしのすけもはや廿歳はたちいま一兩年いちりやうねんたるうへおほやけつまとよびつまばるゝぞとおもへばうれしさにむねをどりて友達ともだちなぶりごともはづかしく
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
結納ゆいのうかはされし日も宮は富山唯継をつまと定めたる心はつゆ起らざりき。されど、己はつひにその家にくべき身たるを忘れざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つまは実直なるさがなれば家業におこたることなく、妻も日頃謹慎の質にして物多く言はぬほど糸針の道には心掛ありしとのうはさなり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「わがつまをおいて、ひとり帰るわけにもまいりませぬ。この小御所口こごしょぐちの控えまで退がって、簾の蔭から、遠く眺めておりました」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前もういなしますか? ああ恋人よ、殿御よ、わがつまよ、恋人よ! きつと毎日消息たよりして下され。これ一時も百日なれば、一分も百日ぢや。
文章その他 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「わがつま様は米穀何百俵を詐欺さぎ横領しましたという——」きまった始まりで、御詠歌のように云って歩く「バカ」のいたのを。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「吾が恋をつまは知れるを行く船の過ぎてべしやことも告げなむ」(巻十・一九九八)の「来べしや」も「行くべしや」の意
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
わしのをひの、おとうとの! おゝ、御領主とのさま! おゝ、をひよ! わがつま! おゝ、大事だいじの/\、親族うから血汐ちしほながされてゐる! 公平こうへい御領主ごりゃうしゅさま
よく——よくあの、憎い憎い戸部近江様をお斬りなすった。それでこそわがつま、園絵は、この通り悦んでおります。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
豊雄一七八やや此の事をさとり、涙を流して、おのれ一七九更に盗をなさず。かうかうの事にて、あがた何某なにがしが、さきつまびたるなりとて得させしなり。
み眼清くきれ長くます。やさしきはつまにのみかは、その子らに、その子の子らに、なべてかなしく白髮しらがづく母。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
神宝のことに関しては、「何とての盗み出すべき、さきつまよからぬ心にてこそあれ」と云った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蝶吉の母親はもと京都のしかるべき商賈しょうこの娘であったが、よくある、浄瑠璃じょうるりの文句にある、親々の思いも寄らぬつま定めで、言いかわした土佐の浪人とまだ江戸である頃遁げて来た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今又かの和泉守のために我つまをまで失はんとするが悲しく侍りとて、よゝとばかりに泣給ふ。
必ず一点の汚涜をどくもありません——貴方の為めにわざはひの種となるのです、——篠田さん、我がつま、何卒御赦おゆるし下ださいまし、貴方の博大の御心には泣いて居るのです、私はう決心致しました
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
せにしものはここ見出みだされ、求むるものはここに備はり、家兵燹へいせんに焼かるる憂なく、愛するつまを戦場に死せしめず、和楽の和雅音わげおん大空に棚引いたり。如何に人々、今こそ波羅葦増雲近づけり。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
でないと、この考えが、また散らかって行ってしまう。おれの昔が、ありありと訣って来た。だが待てよ。……其にしても一体、ここに居るおれは、だれなのだ。だれの子なのだ。だれのつまなのだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
とみに死んでけり、病める夫人は谷間へ下り立ち、糧にとて携えたる梨の実を土にうずめ、一念木となりて臨終の土に生いなむ、わがつまの御運ひらかずば、とこしえにうまを結ぶことなかるべしと
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「王よ、彼を赦せ、彼はわれのつま、彼を赦せ。」卑弥呼は王の傍へ馳け寄った。反絵は藤蔓で巻かれた訶和郎の身体を一本の蜜柑の枝へげた。卑弥呼は王の傍から訶和郎の下へ馳け寄った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
つま冥途めいどにさきだてひとあとにのこり、かそけきけふりさへ立かねたれば、これよりちかき五十嵐村いがらしむら由縁ゆかりものあるゆゑたすけをこはんとてこの橋をわたりかゝり、あやまちて水に入り溺死おぼれしゝたるもの也
「げに親子の情二人が間におこらば源叔父が行末いくすえ楽しかるべし。紀州とても人の子なり、源叔父の帰り遅しとかどに待つようなりなば涙流すものは源叔父のみかは」つまなる老人おきな取繕とりつくろいげにいうも真意なきにあらず。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わがつま十年ととせ昔のきちがひのわが恐怖おそれたる桜花はなあらぬ春
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そのときに酒代つくると、 つまはまた裾野に出でし。
文語詩稿 五十篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
クロニーオーン、君のつま、君を恐らくおどせしか?
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
その面形おもかげの、何とのう、恋しのつまに似たり。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……あくる朝、わがつまとなる人
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
つまは山伏あまの呼び声 信徳
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けたひとつまどひに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ひとあし踏みてつま思ひ
お百度詣 (旧字旧仮名) / 大塚楠緒子(著)
やまとに 往くは誰がつま
つま雉子きじ雌鳥めんどり
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
てい冥土めいどつまつく
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
つま恋う鹿の叫び鳴く
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
つま妻鳥めどりよ燕子花
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
(どうしたら戦陣にあるわがつまに、妻よ、よくやったと、よろこんでもらえるだろうか)——を生命いのちにかけて念じたにちがいない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子を生みし後も宮が色香はつゆうつろはずして、おのづか可悩なやまし風情ふぜいそはりたるに、つまが愛護の念はますます深く、ちようは人目の見苦みぐるしきばかりいよいくははるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お前もういなしますか? ああ恋人よ、殿御よ、わがつまよ、恋人よ! きつと毎日消息たよりして下され。これ、一時も百日なれば、一分も百日ぢや。
文章その他 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
なんとしてその誓約ちかひふたゝ地上ちじゃうもどらうぞ、そのつまはなれててんから取戻とりもどしてたもらずば?……なぐさめてたも、をしへてたも。
み眼清くきれ長くます。やさしきはつまにのみかは、その子らに、その子の子らに、なべてかなしく白髪しらがづく母。
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あれお夏/\と呼ぶわいの、おう/\其所にか、どこにぞ、いや/\いや待て暫し、あれは我屋わがやに父の声、我を尋ねて我を呼ぶ、親もゆかしや、つまも恋しや、父は子を
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
種々くさぐさ神宝かんだからは何とて女の盗み出すべき。さきつまの良からぬ心にてこそあれ。よくよくおぼしわけて、二四〇思ふ心の露ばかりをもうけさせ給へとて、さめざめと泣く。
「我がつまいのう、光国どの、助けてべ。」とばかりで、この武者修業の、足の遅さ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(前略)そのつまの子は不怜弥可サブシミカおもひて寐らむ(下略) (巻二。二一七)
『さびし』の伝統 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
思いは、またしても、婿ならぬ婿、つまとは名のみの源三郎のうえへ——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうして彼女の第二のつまを殺害した者は彼女の膝の上に眠っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
だれのつまなのだ。其をおれは忘れてしまつてゐるのだ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
たゞ恩人ぞ導師ぞと、 おのがつまをば拝むなり。
文語詩稿 一百篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その時鬢毛美はしきヘレネーのつま、トロイアの
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
を除て つまは無し。
つま妻鳥めどりか燕子花
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)