太刀たち)” の例文
太刀たちは、加納、今村両先生の調べで割合正確なものになりましたけれども、それも楠公佩用はいようの太刀が分ったのではありませんでした。
男は、樺桜かばざくら直垂ひたたれ梨打なしうち烏帽子えぼしをかけて、打ち出しの太刀たち濶達かったついた、三十ばかりの年配で、どうやら酒に酔っているらしい。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
老野武士は短銃を持ったまま、駕籠の屋根から向こうがわへぶったおれ、龍太郎のすがたは、太刀たちを走らせたまま煙の下へよろめいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、両名が握りしめている太刀たち——。つづいて両人の位置。互いに顔を向き合わせるようにして、うち倒れているその位置です。
と云うから小僧が戸を明けると這入って来た男は、半合羽はんがっぱに千草の股引に草鞋がけで、一本お太刀たちを差して、手には小包を提げたまゝ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
京都の黒谷くろだに参詣人さんけいにん蓮生坊れんしょうぼう太刀たちいただくようなかたで、苦沙弥先生しばらく持っていたが「なるほど」と云ったまま老人に返却した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
基経は何時かは茅原かやはら猟夫さつお太刀たちを合わすようなことになりはしないかと、二人がねらい合っている呼吸いきづかいを感じずにいられなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
違うのは、パッと睡眼をさますと共に、白雲は枕許の太刀たちを引寄せたけれども、駒井は蒲団ふとんの下の短銃ピストルへ右の手が触っただけのことでした。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その出会いがしらに、思いもかけぬ経蔵の裏の闇から、僧形そうぎょうの人の姿が現われて、妙に鷹揚おうよう太刀たちづかいで先登の者をっててました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
女は年頃十八あまり、頭には黄金の烏帽子えぼしを冠ぶり腰に細身の太刀たちき、萌黄色もえぎいろ直垂ひたたれを着流した白拍子しらびょうしろうたけた姿である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「巳之さん、そういっちゃ何だが、とてもランプで太刀たちうちはできないよ。ちょっと外へくびを出して町通りを見てごらんよ」
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
と、最後の突撃とつげき。さアッと太刀たちを横にうちふると、その太刀さきは、敵の左頬ひだりほおから右眼うがんにかけ、ほねをくだいて切りわったので
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
「佛樣はまだ母屋にあるから、あとで見てくれ。前から三太刀たちも斬り付けて、喉笛を刺したのがとゞめになつて居る。いやもうひどいやり方で」
神職 (魔を切るが如く、太刀たちふりひらめかしつつ後退あとずさる)したたかな邪気じゃ、古今の悪気あくきじゃ、はげしい汚濁じゃ、わざわいじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おめみえは黒書院でおこなわれ、先導役は、老中阿部豊後守ぶんごのかみ、披露役は酒井雅楽頭うたのかみであった。献上品は友成の太刀たち、白銀三百枚、時服二十領。
目弱王まよわのみこはそこをねらってそっと御殿ごてんへおあがりになり、おまくらもとにあった太刀たちき放して、いきなり天皇のお首をお切りになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
引揚けれども御大切の御太刀たちは一かうに知れず是は正しく水勢すゐせいはやき大河なれば川下へながれしならんとて川下の方をもなほ又人數を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
骨組のたくましい大男で、頭に烏帽子ゑぼしを戴き、身に直垂ひたゝれを著、奴袴ぬばかま穿いて、太刀たちつてゐる。能呂は隊の行進を停めて、其男を呼び寄せさせた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
貴重品として将来は故人の姫君に与えようと考えていた高級な斑犀はんさい石帯せきたいとすぐれた太刀たちなどを袋に入れ、車へ使いが乗る時いっしょに積ませた。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
太刀たち二当ふたあて三当みあてもしないうちに彼の黒い横ほおが赤く笑つた。彼は剣を投げ出して『感謝に堪へませぬ。』と云つた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
左の手をその親指が太刀たちさやに触れる程に大きく開いたまゝひざの上に伏せ、毛沓けぐつ穿いた両足を前方に組み合わせて虎の皮の敷皮の上に端坐している。
とおっしゃって、弓矢ゆみや太刀たちをおりになり、身方みかた軍勢ぐんぜいのまっさきっていさましくたたかって、ほとけさまのてきのこらずほろぼしておしまいになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
体重三十貫近くもあろうかと思われる太刀たち山さながらの偉大な体格だ。頭の上に美事なターバンを巻付けているので一層物々しく、素晴らしく見える。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だが、君たちは、とてもあの怪物とは太刀たちうちができないだろう。いや、君たち少年ばかりではない。どんなかしこい大人でも、あれには手こずるだろう。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むこ十川そごう(十川一存かずまさの一系だろうか)を見放つまいとして、搢紳しんしんの身ながらにしゃくや筆をいて弓箭ゆみややり太刀たちを取って武勇の沙汰にも及んだということである。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
太刀たち持つわらべ、馬の口取り、仕丁しちょうどもを召連れ、馬上そでをからんで「時知らぬ山は富士の根」と詠じた情熱の詩人在原業平ありわらのなりひらも、流竄りゅうざんの途中に富士を見たのであった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
が、新店はもとがまわるとみえて、諸式を安く仕入れて売るものだから、とても太刀たち打ちはできない。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たとえば「くれ縁に銀土器かわらけを打ちくだき」に付けて「身ほそき太刀たちのそるかたを見よ」とする。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼は講釈でも有名な男だが、北国無双の大力である。その使っている太刀たちは有名な太郎太刀だ。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
エグムンド朝以来伝わる、黄金こがね作りの太刀たちや、たてほこといったものも、取り出して御覧に入れた。殿下もまた特に頸飾りだけに、眼をお留めになっていられたとは、思われぬ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
太郎は一二九網子あごととのふるとて、一三〇つとめて起き出でて、豊雄が閨房ねやの戸のひまをふと見入れたるに、え残りたる灯火ともしびの影に、輝々きらきらしき太刀たちを枕に置きて臥したり。あやし。
「武芸の師と、自ら言われる方々が、それだけ押し並んで、子供ばかりを挨拶に出されるとは何ごと? 折角せっかくのお招き、雪之丞、お太刀たちすじが賞翫しょうがんいたしとうござります。いざ!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
若い武士たちは烏帽子えぼし狩衣かりぎぬをつけ、毛抜形のそりをうった太刀たちを傍に置いて、おそらくはじめて見るのだろう禁裏の、それも裏庭からの眺めに、ものめずらしげな目を散らしていた。
(新字新仮名) / 山川方夫(著)
(春彦は出てゆく。楓は門にたちて見送る。修禪寺の僧一人、燈籠を持ちて先に立ち、つゞいてみなもとの頼家卿、廿三歳。あとより下田五郎景安、十七八歳、頼家の太刀たちをさゝげて出づ。)
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
烏帽子えぼしを冠り、古風な太刀たちを帯びて、芝居の「しばらく」にでも出て来そうな男が、神官、祭事掛、子供などと一緒に、いずれも浅黄の直垂ひたたれを着けて、小雨の降る町中の〆飾を切りに歩いた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
敵の虚に乗じてその太刀たちを木刀とすりかえ、遂にこれを斬り殺されたとか、また尊の熊襲御征伐の時にも、少女の装いをなして酒宴の席に交り、熊襲の酔いに乗じてこれを殺されたとか
所が武道一偏、攘夷の世の中であるから、張子の太刀たちとかかぶととかうようなものを吊すようになって、全体の人気にんきがすっかり昔の武士風になって仕舞しまった。とてれでは寄付よりつきようがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ぎん黄金こがね太刀たちをひらひらとひらめかす幻想の太陽のやうなあなたのこゑも
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
練衣ねりぞを下に着て、柔かそうな直衣のうしをふんわりと掛け、太刀たちいたまま、紅色の扇のすこし乱れたのを手にもてあそんでいらしったが、丁度風が立って、その冠のえいが心もち吹き上げられたのを
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
すると、秋蘭は彼と太刀たちを合すように、急に笑顔を消して彼に向った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
とても、太刀たち打ちはできやしないぜ。それじゃ、文代さんによろしく。あばよ。おっと、まってくれ。きみがあわててしらべないでもいいように、おしえておくが、この電話は渋谷の公衆電話だよ。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
勝ちは畢竟ひっきょうせん太刀たち、思い切って武男が母は山木が吉報をもたらし帰りしその日、善は急げとよめ箪笥たんす諸道具一切を片岡家に送り戻し、ちと殺生ではあったれど、どうせそのままには置かれぬ腫物はれもの
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かく道元の説く慈悲の前には、「悪は必ずしも呵嘖かしゃくすべきものでない」。このことを証するものとして道元の次の言葉をあげることができる。あるとき故持明院じみょういんの中納言入道が秘蔵の太刀たちを盗まれた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
足引あしびきの山中治左じさける太刀たち神代かみよもきかずあはれ長太刀
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
青雲おをぐもただにひびかふつるぎ太刀たちいにしへありきいまもこの道
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
結局、アマンドさんが、太刀たちうちを引き受ける。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
太刀たちを 浴びては いっぷかぷ
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
はきも習はぬ太刀たちひきはだ 翁
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
菖蒲あやめ太刀たちのぼりとで
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
下人はそこで、腰にさげた聖柄ひじりづか太刀たち鞘走さやばしらないように気をつけながら、藁草履わらぞうりをはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)