境遇きょうぐう)” の例文
子供はその生れる境遇きょうぐうによって、非常な損得そんとくをする。しかし父親だって、運命のもとにあえぎあえぎ生きているのだから致し方もない。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
僕の欲が探すぎるとめてはいけない。誰だって僕みたいな境遇きょうぐうにおかれるなら、きっと僕と同じ考えをおこすにちがいない。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしは、どこへちても、按摩あんまに、やすみなく使つかわれている境遇きょうぐうよりは、ましだとおもいました。」と、つえは、こたえたのです。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
同じ年に生まれ、同じ土地に育ち、同じ学校に入学した同い年の子どもが、こんなにせまい輪の中でさえ、もうその境遇きょうぐうは格段の差があるのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
とうとう二、三ばんつことにした。人間も糟谷かすやのような境遇きょうぐうつるとどっちへむいても苦痛くつうにばかり出会であうのである。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかし彼女の年齢ねんれい境遇きょうぐう等に照らしにわかに独立する必要があったろうとは考えられないこれは恐らく佐助との関係をおもんぱかったのであろうというのは
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もっともその子がかどわかされたころ、ちょうどミリガン夫人ふじんはじゅうぶんの探索たんさくをすることのできない境遇きょうぐうであった。
このような境遇きょうぐうと環境の中にあって私の親馬鹿が徐々じょじょに、そして確実な経験と径路を辿たどって完成されていったことは、もはや説明の必要もあるまい。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ゆえに職業を選ぶにはそもそも自分がある職業を志願しこころざしを立てたときの具体的境遇きょうぐう情実じょうじつをしずかに考うると、その志望がいかに根底あることか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ドクトルがまるで乞食こじきにもひとしき境遇きょうぐうと、おもわずなみだおとして、ドクトルをいだめ、こえげてくのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それに四辺あたりみょう薄暗うすくらくて滅入めいるようで、だれしもあんな境遇きょうぐうかれたら、おそらくあまりほがらかな気分きぶんにはなれそうもないかとかんがえられるのでございます。
真実、彼が織田家に異心なく、まったく村重の奸計にかかって、今日まで、さる境遇きょうぐうにいたものとすれば、誠に不愍ふびんのいたりだ。会う会わぬどころではない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ快活な喜劇の女優の代りに、悲惨ひさんな屍体があった。がその他の境遇きょうぐうは、全く同じである。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
仔細しさいを聞くと、させる境遇きょうぐうであるために、親の死目に合わなかったからであろう、と云った。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは中学からすぐ東京に出て行く友だちのうわさを聞くたびにもやした羨望せんぼうの情と、こうした貧しい生活をしている親の慈愛に対する子の境遇きょうぐうとを考えずにはいられなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
抱主がけちんぼで、食事にも塩鰯一という情けなさだったから、その頃お互い出世して抱主を見返してやろうと言い合ったものだと昔話が出ると、蝶子は今の境遇きょうぐうが恥かしかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
境遇きょうぐうのためにげきせられて他の部よりも比較的ひかくてきに発展したものであろうか。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ぼんやりとおかにのぼって子どもたちがあそんでいるのをながめていたが、そのうち、ぼくのからだ透明とうめいになって人目につかなくなったら、こんなみじめな境遇きょうぐうからぬけだし、いろいろときばつな
そこには、やはりりょう一とおなじような境遇きょうぐう少年しょうねんが、おな意志いし希望きぼうえて、熱心ねっしんふだにさらしていたのです。
僕が大きくなるまで (新字新仮名) / 小川未明(著)
いまのような境遇きょうぐうになって、だれひとりおとのうてなぐさめるものもないうちに、自分だけはたえず見舞みもうておった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
春になればだんだん境遇きょうぐうも楽になる。そこでわたしはおまえをれて、ドイツとイギリスを回るつもりだ。そのうちおまえも大きくなるし、考えも進んでくる。
ふたりの境遇きょうぐうや、心までも、幸福に健全けんぜんにして、そして、この竹生島ちくぶしまをだしてやりたいと、かれは願った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ云う場面が母を知らない少年の胸にうったえる力は、その境遇きょうぐうの人でなければおそらく想像もおよぶまい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「失敗したときは、失敗したときのことですわ。たとえ失敗しても、今のようなおもしろくない境遇きょうぐうにくらべて、この上大した苦痛が加わるわけでもありませんものね」
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしわが輩のごとき考えをもって夢をも修養の用に供する工夫くふうをし、まじめにかつ永くつとめたなら、必ず一段も二段も高き境遇きょうぐうに進入することを得るであろう。古人の歌に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
悪夢あくむのように過ぎたここ五年間は、大石先生をも人なみのいたでと苦痛のすえに、小さな息子にいたわられながら、このへんぴな村へ赴任ふにんしてこなければならぬ境遇きょうぐうに追いこんでいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ケンプ博士はくしも、さすがにかれの変わった境遇きょうぐう同情どうじょうして
ほんとうに、わたしが、わるかったのです。いま自分じぶんが、こうした境遇きょうぐうになって、空腹くうふくかんじていますと、よく、あのときのあなたに同情どうじょうができるのです。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
予は打ち消そうとこういってみたけれど、お光さんの境遇きょうぐうに同情せぬことはできない。お光さんはじっとふたりの子どもを見つめるようすであったが
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたしはいい境遇きょうぐうの中に育ったわけではないが、兄弟たちの食卓しょくたく行儀ぎょうぎがひどく悪いことは目についた。
そして、すそのほうには女でも山国のものは穿く、もんぺという盲目縞めくらじまの足ごしらえ、しりの切れた藁草履わらぞうりが、いっそうこの女の人の境遇きょうぐうを、いたいたしく感じさせていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けだしこう云う心理は、自分のような境遇きょうぐうでなくとも、誰にも幾分かひそんでいるだろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また一つには年輩ねんぱい境遇きょうぐうも同じような親友とたがいに真情をうちあけて、おれはこういうことをした、あるいはこういう悪い考えが浮かんで困ると語り合い、また友人の実験を聞いて
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
金持かねもちが、きびしくただしますと、内臓ないぞう病気びょうきがあったり、またさがしても仕事しごとがなかったり、けば、いろいろ同情どうじょうすべき境遇きょうぐうでありまして、一人ひとりあたえて
船でついた町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
普通の境遇きょうぐうの人なら、なんでもない、実父の顔をひと目見るということが、生涯最大な希望になるほど不幸ふしあわせな身には、恋にも、同じような恵まれない宿命をもっていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まあ、こうして境遇きょうぐうわるのが、つまりはおまえのために悪くはないかもしれないのだからな
人世問題じんせいもんだいになんらかの考えがあって、いまの境遇きょうぐうにありとせば、いよいよ悲惨ひさん運命うんめいである。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ああは云っても、家に落ち着いて暮らしに不自由のない若旦那わかだんなになってしまえば、自然野心もおとろえるものだから、津村もいつとなく境遇きょうぐうれ、平穏へいおんな町人生活に甘んずるようになったのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「こうも、人間にんげんは、境遇きょうぐうによって、こころかたがちがうものかしらん。」と、かんがえていられました。
奥さまと女乞食 (新字新仮名) / 小川未明(著)
草木くさきのそよぎにも心をおくという、落武者おちむしゃ境遇きょうぐうにある者が、なんでそれを気づかずにいよう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、ああしていったんかえったのだから、きまりわるがっているのかもしれない。人間にんげん運命うんめいというものは、いつまたどんな境遇きょうぐうにならないともかぎらないからな。」
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
青木あおきは、こうこたえました。かれは、小西こにし境遇きょうぐう同情どうじょうしたばかりでなく、むしろ、感心かんしん少年しょうねんだとこころたれたのです。正吉しょうきちも、小田おだかんじたことは、おなじでありました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこにまれそだった子供こどもと、あのまずしいいえんでねている子供こどもとどこに、かわいらしい子供こどもということにわりがあろうか。しかし、その境遇きょうぐうはこうもことなっているのだ。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
乞食こじきは、境遇きょうぐう貧乏びんぼうをしましたけれど、りこうで正直しょうじき人間にんげんでありましたから、四ほうから、あらゆる方面ほうめん知識ちしきがあり、勤勉きんべんはたらひとたちをあつめて、まちあたらしくつくりはじめたのであります。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それにくらべて、なんという自分じぶん不幸ふこう境遇きょうぐうであろう。このまま永久えいきゅうに、この野原のはらにいなければならないのかとかんがえました。はなはもうじっとして、それにたえていることができませんでした。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが、ぼくがたずねていって、伝記でんきった佐倉宗吾さくらそうごあるいたみちを、もし自分じぶんおな境遇きょうぐうかれたら、やはりそのみちあるいたかもしれぬ。そうすれば、おなじような悲惨ひさんなめにあったであろう。
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
不幸ふこう境遇きょうぐうは、やっと、六つか七つぐらいになった時分じぶんから、あかぼうをおぶわせられて、りをしたからです。そして、まだ、やわらかなあしほねは、からだぎたおもみをあたえたためにがったのでした。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
境遇きょうぐうというものは、しぜんにその性質せいしつまでもえてしまうのでした。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)