)” の例文
又、今年の春は、みだりに人間の耳をじりましたので、あぶなく殺されようとしました。実にかたじけないおさとしでございます。
鳥箱先生とフウねずみ (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その頃、崖邸のおじょうさんと呼ばれていた真佐子は、あまり目立たない少女だった。無口で俯向うつむがちで、くせにはよく片唇かたくちびるんでいた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから指をんでいた子供に「さあ、坊ちゃん、お時宜じぎなさい」と声をかけた。男の子は勿論もちろん玄鶴がお芳に生ませた文太郎だった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何故と申しますに、十四年前の古い思い出がよみがえまむしまれた昔の傷がちょうどズキズキ痛むように痛んで参ったからでござります。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女は彼の顔を見詰めながら、唇をみ締めるようにしてぶるぶると身体をふるわした。彼は目を瞑るようにしてもう一度繰り返した。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
私は自分が全身すきだらけであることを感じた。いま若しあいつが飛びかかってくるならば、私はのど笛をみきられることだろう。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
と、息切れのするまぶたさっと、気を込めた手に力が入つて、鸚鵡の胸をしたと思ふ、くちばしもがいてけて、カツキとんだ小指の一節ひとふし
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
叔父は娘達に吩咐いいつけて、「もうすこし上」とか、「もうすこし下」とか言いながら、骨をまれるような身体の底の痛みを打たせた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こういう場合のみ合いの特長は、きまった相手というものがなく、最も手近なところにあるありあわせの頭がその相手であります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さかしまに天国を辞して奈落の暗きに落つるセータンの耳を切る地獄の風はプライド! プライド! と叫ぶ。——藤尾は俯向うつむきながら下唇をんだ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何どうなったのだろう? 烏山の天狗犬てんぐいぬまれたのかも知れぬ。三毛みけは美しい小猫だったから、或は人にいて往かれたかも知れぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
餓鬼がきめが、うるさいぞ」揚物を一つほうってやると、黒は、尾を振ってぶりつく。山伏もまた、がつがつと、飯を掻っ込み初める。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、波浪はろうは、なんとなしに、怒った表情に見える。船のへさきむ白いしぶきが、いまにも檣のうえまでとびあがりそうに見える。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「焼死者ではない焼け出されだ、おまえには焼け死ぬのと焼け出されの、ええ面倒くさい舌をんでしまう、いったい幾ら欲しいんだ」
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
柔らかくみ合っている。前肢でお互いに突張り合いをしている。見ているうちに私はだんだん彼らの所作にき入れられていた。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ごはん粒が納豆なっとうのように糸をひいて、口に入れてんでもにちゃにちゃして、とてもみ込む事が出来ない有様になって来ました。
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
小三郎は唇をみました。正直者らしいようですが、典型的な多血質で、カーッとなったら、ずいぶん人も殺し兼ねないでしょう。
ジ……と歯をむようなミシンの音がしている。「六十円もあれば、二人で結構暮せると思うんです。貴女の冷たい心が淋しすぎる。」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ちっとでもおれに近づいてみろ、どいつこいつの容赦はない、片っぱしからみ殺してやるぞ。喉笛に噛みついて息の根をとめてやるぞ
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さながら矢のごとくに流れる眼眩めまぐるしさ! しかも波の色の毒々しいまでのドス黒さ! 黒泡のたてがみを逆立たせつつみ合いつかみ合い
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夜通しがかりで白泡しらあわみながら昇ったり降ったり、シーソーを繰り返してあくる朝の薄明りになってみると、不思議な事に船体ふね
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
邦夷の吐く柔かな呼吸が、うすくもやがかっていた。陽を受けて、ふっくらと金色に変るのである。その靄をむようにして彼は云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
古木こぼくやうみにくうでのばして、鐵車てつしやおり引握ひきつかみ、力任ちからまかせにくるま引倒ひきたほさんとするのである。猛犬稻妻まうけんいなづま猛然まうぜんとしてそのいた。
これはアイヌの白樺細工にも見られるやり方である。互に歯紋はもんをなしてみ合うのである。これが一種の模様になって装飾の役を務める。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
再起の綾之助の語り口も、以前の浮気な人気ではなく、まったく価値あるものとして価値ねうち附けられ、真にみわけた人生の味を、期待された。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さような人物になると座席など決して贅沢ぜいたくはいわない。いつも鯛でいえばおかしら尖端せんたんか、尻尾しっぽの後端へじりついて眺めている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
身を断念あきらめてはあきらめざりしを口惜くちおしとはわるれど、笑い顔してあきらめる者世にあるまじく、大抵たいていは奥歯みしめて思い切る事ぞかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
電気は、——暗くするとどこからともなく現われて来て私にみつく無法な虫の襲撃を防ぐためだったが、一度そいつらに腹一杯私の血を
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
導者曰ふ。これ怪物があま皮を食ひたる也。怪物は又篠竹しのたけを好みて食ふといへり。糞の中には一寸ばかりにみ砕ける篠竹あり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お客は可笑をかしさが一杯なのを、奥歯でじつとこらへながら、ともかくも英語で返事をした。すると、女史の機嫌が急によくなつて来た。
夫婦ふうふあひだうまれたもの幾人いくにん彼等かれらあひだ介在かいざいしてた。有繋さすが幾人いくにん自分じぶん父母ふぼばれるのでにがわらひんでひかへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なににしても馬にまれてはたいへんであるから、噛まれないようにと用心しながら歩いたが、そのあたりに牧場のあるのはおかしかった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
キャラコさんは、にがにがしい顔をして長い間ペン軸をんでいたが、とうとう、思い切ったように、そのあとに、こんな風に書き足した。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
若君は歯茎から出始めてむずがゆい気のする歯で物がみたいころで、竹の子をかかえ込んでしずくをたらしながらどこもかもみ試みている。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
粥二碗、汁二椀、芋二皿、鮭の乾肉ことごとく喰ひつくして膳の上また一物なし。クレオソート三袋。自ら梨一個をいで喰ふ。しんみ皮を吸ふ。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
弥吉は、唇をみしだきながらも、手向いをしなかった。そして正面から児太郎の顔をゆっくり凝視みつめ、冷えわたるような笑みをらした。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あとでどんな醜聞が起こるか、二人はどんな苦しい目に会うか、それを説き聞かした。ジャックリーヌは怒ってくちびるみしめながら言った。
憲兵として立派な働きをするような人間には、必ずまたいろんな悪癖があるものだが、打明けたところ、ばったは煙草たばこをやるのである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
わたしが立ち止まると、左右のひづめでかわるがわる土をったり、けたたましい声を立てて、わたしの痩せ馬の首ったまにみついたりした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
が、それと同時に、にらむような嫉妬しっとが、ホンのわずかではあるが、心の裡にきざして来るのを、うすることも出来なかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もしみつかれて狂犬病になり、四ツんいでワンワンなんていう病気にでもなっては大変だということからの恐怖ですが
泉鏡花先生のこと (新字新仮名) / 小村雪岱(著)
... 奥の方に坐っていなければ食物たべものむ事が出来なかろうにねー」腸蔵「それがまったく外見みえだからだよ。外見にお金さんを前の方へ置くのだ。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
俺は腹が減り切っていたが、マントウには手が出なかった、熱い湯を呑んで、大根の生まをじった。そして房子に入った。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
また私のむねやはらぎの芽をゑそめたものは、一頻ひとしきり私のはらわたきざんでゐたところの苦惱くなうんだ、ある犧牲的ぎせいてきな心でした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
おときも、初茸のあわい香、なめらかなようでしゃきしゃきする歯ざわり、みしめるとどこかに土のつめたさを含む味をほめた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
『しかしとにかく、自分の舌をみ切っても、おまえがそんなに尊敬している長老に対して、不敬なことはけっしてしない』
そして彼の指にみ着いたり、つめで引っいたり、よだれを垂らしたりしたが、それは彼女が興奮した時のしぐさなのであった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
盃形さかづきがた薔薇ばらの花、口をつけて飮みにかかると、齒の根が浮出す盃形さかづきがた薔薇ばらの花、まれて莞爾につこり、吸はれて泣きだす、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
猛犬にみ付かる 猛犬に取り巻かれたけれども私は眼が痛いものですからどうも常のように犬をよくあしらうことが出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
良い研究は苦虫をつぶしたような顔をしているか、妙に深刻な表情をしていなければ出来ぬと思う人があったら、それは大変な間違いである。
「霜柱の研究」について (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)