卑怯ひけふ)” の例文
暗殺は卑怯ひけふなりとしていやしめられ、決闘は快事として重んぜらる、而して復讐なるものは尤も多く人に称せらる。人間何ぞ斯の如く奇怪なる。
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「まア、そらとぼけるなんて卑怯ひけふだわ。そ、そんな贅澤ぜいたく壁掛かべかけなんかをまぐれにおひになる餘裕よゆうがあるんならつてふのよ」
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「殿樣、卑怯ひけふ千番。敵に後ろを見せるといふ法は御座いません。グツと、グツとお乾し遊ばして。お流れは、へツ、この私が頂戴仕ります」
きつねごときは実に世の害悪だ。たゞ一言もまことはなく卑怯ひけふ臆病おくびゃうでそれに非常にねたみ深いのだ。うぬ、畜生の分際として。」
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
いくら拷問がうもんにかけられても、らないことまをされますまい。そのうへわたしもかうなれば、卑怯ひけふかくてはしないつもりです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
匹夫ひつぷ野人やじんの如く飽くまで纏綿つきまとつて貴嬢を苦め申す如き卑怯ひけふ挙動ふるまひは、誓つて致しませぬ、——何卒、梅子さん、只だ一言判然はつきりおつしやつて下ださい
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その學生がくせいころから、閣下かくか學問がくもんはら出來できて、わたしのやうに卑怯ひけふでないから、およぎにたつしてはないけれども、北海ほくかい荒浪あらなみ百噸ひやくとん以下いかおそれない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大好きな魂をやるといふのに、出てこないとは、よほど卑怯ひけふな悪魔にちがひない。もし悪魔でなかつたとしたら……。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
ずんと切落きりおとせば掃部はたまらず尻居しりゐどうたふれつゝヤア殘念ざんねんうらめしやだまし討とは卑怯ひけふ未練みれん是重四郎殿何者か我があし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
き、き、君の態度は卑怯ひけふだ。はなは信義すんぎを欠く。た、た、誰にも言はぬなんて、づつーに言語道断であるんで、ある。わすはソノ方を五日間の停学懲戒ちようけいに処する。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ゆき子を傷つけた加野は、ゆき子にびてゐたと聞いたが、富岡は、考へてみると、自分の卑怯ひけふさには、一種のかさぶたが出来てゐるやうなものだと感じた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
吉田の子巳熊みくま仇討あだうちに出て、豊後国鶴崎で刺客の一人を討ち取つた。横井は呉服町での挙動が、いかにも卑怯ひけふであつたと云ふので、熊本に帰つてから禄をうばはれた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
危險な打明け話をする前にあなたを自分のものにして了ひ度かつたのです。これは卑怯ひけふなことだつた。
何故なぜ被言おッしゃりませ、ひいさまはまだとしがゆかッしゃらぬによって、だまさッしゃるやうであれば、ほんにそれはわるいこっちゃ、御婦人ごふじんだまさッしゃるは卑怯ひけふぢゃ、非道ひだうぢゃ。
而も人生の真相は半ば此夢中にあつて隠約たるものなり、此自己の真相を発揮するは即ち名誉を得るの捷径せふけいにして、此捷径に従ふは卑怯ひけふなる人類にとりて無上の難関なり
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
むねのなやみにのおそろしく、おもへば卑怯ひけふ振舞ふるまひなりし、おこなひはきよくもあれこゝろくさりの棄難すてがたくばおな不貞ふていなりけるを、いざさらば心試こゝろだめしにはいまゐらせん、殿との我心わがこゝろ見給みたま
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
武器はピストルで、互に百歩はなれて介添人が上げてゐる手を下すのを合図に、双方一度に発射するのだ。発射が早いと卑怯ひけふといはれるし、遅いと、敵の弾にやられてしまふ危険がある。
風変りな決闘 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
此故に小説は決して事実の研究、科学的の穿索せんさくなくして書き得べきものに非ず。然るに之に命ずるに純文学てふ空名を以てし、不研究なる想像の城中に立籠らんとするは卑怯ひけふなりと云ふに在りき。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
卑怯ひけふ利口者りこうものであつた私
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
え、卑怯ひけふな野郎で、鐵砲玉のやうに飛出すと、油斷をして居る大寺源十郎の後ろから身體ごと叩き付けて來たんださうです。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
しかしをとこころすにしても、卑怯ひけふころかたはしたくありません。わたしはをとこなはいたうへ太刀打たちうちをしろとひました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
心細こゝろぼそさはもをすまでもなかつたが、卑怯ひけふやうでも修業しゆげふまぬには、恁云かういくらところはうかへつて観念くわんねん便たよりい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さし大膽無敵だいたんふてき惡賊あくぞくにして大岡殿勤役きんやく中四五の裁許さいきよなりと世に云つたふると雖も長庵が白状はくじやうときに至り證據人忠兵衞をうらむこと卑怯ひけふ未練みれん小賊せうぞくなり古語こごに人の知ることなき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれども毒もみは卑怯ひけふだから、ぼくはいやだと答へたら、しゅっこは少し顔いろを変へて、卑怯でないよ、みみずなんかで、だまして取るよりいゝと云って、あとはあんまり
さいかち淵 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その癖、この間まで、女を荷厄介にやくかいに考へてゐた、あの卑怯ひけふな感情はもうすつかり消えてしまつて、富岡はむしろ逃げてゆく魚に対してのすさまじい食慾すら感じてゐるのだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「大きいうへに、のんきで、そしてまたとても智恵ちゑがあります。むかし、鳥と獣との戦争の時、うらぎりをして、どちらからも仲間はづれにされたといふ、あんな卑怯ひけふなのぢやありません」
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
亦此病にかかることあり、大丈夫と威張るものの最後の場に臆したる、卑怯ひけふの名を博したるものが、急に猛烈の勢を示せる、皆是れ自ら解釈せんと欲して能はざるの現象なり、いはんや他人をや
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其れは貴嬢の持論に似合はぬ甚だ卑怯ひけふなことだと思ふのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「平八郎卑怯ひけふだ。これへ出い。」
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一人ひとり卑怯ひけふ者も無い
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「お前は卑怯ひけふだぞ——何んにも知らないお北に生命まで達引たてひかせる氣か——あの綺麗な首をさらし臺に載せて眺めるつもりか」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
……雨風あめかぜ猶豫ためらつて、いざと間際まぎはにも、卑怯ひけふに、さて發程たたうか、めようかで、七時しちじ急行きふかう時期じきごし、九時くじにもふか、ふまいか。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はづし給ふとは卑怯ひけふなりと手引袖引萬八樓の棧橋さんばしより家根船に乘込のりこませしが折節揚汐あげしほといひ南風なれば忽ち吾妻橋をも打越え眞乳まつちしづんでこずゑ乘込のりこむ彼端唄かのはうたうたはれたる山谷堀より一同船を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それは考へられない事はないが、後ろから突くのはあんまり卑怯ひけふだ。それに、自分の持つて居た人相書を土竈へつつひの穴へ入れるのは變ぢやないか」
ぐら/\とるか、おツとさけんで、銅貨どうくわ財布さいふ食麺麭しよくパン魔法壜まはふびんれたバスケツトを追取刀おつとりがたなで、一々いち/\かまちまですやうな卑怯ひけふうする。……わたしおほい勇氣ゆうきた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人知れずはうむる工夫はないものかと、卑怯ひけふなやうだが折を狙つてゐるうちに、氣の早いのが、あの女を殺してしまつたのぢや
それだから追分おひわけ何時いつでもあはれにかんじらるゝ。つまるところ卑怯ひけふな、臆病おくびやう老人らうじん念佛ねんぶつとなへるのと大差たいさはないので、へてへば、不殘のこらずふしをつけた不平ふへい獨言つぶやきである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「何を言ふんだ。何處へ行つたか、それを言へツ。四人まで人を殺し、ほかに若い女多勢に怪我をさして、逃れようといふのは、卑怯ひけふすぎるぜ」
はゞかりなく直言すれば、婚姻はけだし愛を拷問して我に従はしめむとする、卑怯ひけふなる手段のみ。それ然り、然れどもこはただ婚姻の裏面をいふもの、其表面に至りては吾人が国家を造るべき分子なり。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「大丈夫だ、心配するな。こんな毒蟲は、人助けの爲に命を取つても仔細しさいはないが、俺は卑怯ひけふな人殺しはしねえ」
「でも、この通りですよ、仕掛けのあるのは構はないが、釘でとめるのは卑怯ひけふですね、この通り釘を拔くと——」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
我儘な坊ちやんの言ひつのる言葉に屈從くつじうする人達の姿であり、自分ほど立派な男はあるまいと信じさせたのは、おべつかを忠義と心得た、卑怯ひけふな人達のお世辭を
「あわてるな、八。富山七之助も浪人だが武家には違ひあるまい。泥棒のやうに忍び込んで下男一人を斬るといふやうな——それ程卑怯ひけふなこともしないだらうよ」
卑怯ひけふと思はれ度くないで一ぱいの八五郎は、瀧三郎の後から又穴倉の入口に引返しました。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「後ろから刺すのは卑怯ひけふだが——正面から向つては討つ見込みがなかつたのかな」
その卑怯ひけふにさへ見える諦めの姿を、貧乏人の平次は、胸を惡く眺めてをります。
一度は命が惜しくなつて、お北が縛られて行くのまで默つて見て居たが、俺に卑怯ひけふ呼ばはりをされて名乘つて出る氣になつたのだ——どうせない命ならと、その時清五郎殺しの罪まで背負しよつて出たのだ
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
そんなことを根に持てば隨分卑怯ひけふなこともするであらうな、平次
「手前のする事は卑怯ひけふだ。二本差の癖に、何と言ふ野郎だらう」
「手前のすることは一々卑怯ひけふだ、我慢のならねえ野郎だ」