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いっそう
ふりがな文庫
“
一層
(
いっそう
)” の例文
そは戦敗の黒幕に
蔽
(
おお
)
われ、
手向
(
たむけ
)
の花束にかざられたストラスブルグの石像あるがために、
一層
(
いっそう
)
偉大に、一層
幽婉
(
ゆうえん
)
になったではないか。
曇天
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
いや、むしろ窮民よりも鋭い神経を持っている彼は
一層
(
いっそう
)
の苦痛をなめなければならぬ。窮民は、——必ずしも窮民と言わずとも
好
(
い
)
い。
十円札
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
午後三時
頃
(
ごろ
)
の夏の熱い太陽が、一団の灰色雲の間からこの入江を
一層
(
いっそう
)
暑苦しく照らしていました。鳶が
悠々
(
ゆうゆう
)
と低い空を
翅
(
かけ
)
っていました。
少年と海
(新字新仮名)
/
加能作次郎
(著)
その日の夕飯はさびしかった、酒を飲んで
喧嘩
(
けんか
)
をするのは困るが、さてその人が
牢獄
(
ろうごく
)
にあると思えばさびしさが
一層
(
いっそう
)
しみじみと身に
迫
(
せま
)
る。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
ジュリアは西の声を聞くと、
一層
(
いっそう
)
帰りたがった。そこで西の
外
(
ほか
)
に検事が附添って帰ることになり、大江山課長と蝋山教授は残ることになった。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
男が煙草を喫いながら言うと、女は何か言おうとしながら口を
噤
(
つぐ
)
んだ。表情はすぐ
瞼
(
まぶた
)
の顫えたのをきっかけに、
一層
(
いっそう
)
の冷たさと蒼白さを加えた。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
あだかも
春
(
はる
)
の
雪
(
ゆき
)
に
濡
(
ぬ
)
れて
反
(
かえ
)
って
伸
(
の
)
びる
力
(
ちから
)
を
増
(
ま
)
す
若草
(
わかくさ
)
のように、
生長
(
しとなり
)
ざかりの
袖子
(
そでこ
)
は
一層
(
いっそう
)
いきいきとした
健康
(
けんこう
)
を
恢復
(
かいふく
)
した。
伸び支度
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
が多くは、細かい花びらが
頬
(
ほお
)
を
掠
(
かす
)
めて胸に入っても、
一向
(
いっこう
)
無関心でありました。無関心が
一層
(
いっそう
)
あわれを誘いました。
病房にたわむ花
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
見馴れた
半纏
(
はんてん
)
を着ていません。
鎧
(
よろい
)
のようなおぶい半纏を脱いだ姿は、羽衣を棄てた天女に似て、
一層
(
いっそう
)
なよなよと、
雪身
(
せっしん
)
に、絹糸の影が
絡
(
まつわ
)
ったばかりの姿。
菊あわせ
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私
(
わたくし
)
は
斯
(
こ
)
ういうものでございますが、
現世
(
げんせ
)
に
居
(
お
)
りました
時
(
とき
)
から
深
(
ふか
)
くあなた
様
(
さま
)
をお
慕
(
した
)
い
申
(
もう
)
し、
殊
(
こと
)
に
先日
(
せんじつ
)
乙姫
(
おとひめ
)
さまから
委細
(
いさい
)
を
承
(
うけたまわ
)
りましてから、
一層
(
いっそう
)
お
懐
(
なつ
)
かしく
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
しかもその苦しさ
切無
(
せつな
)
さといったら、
昨夜
(
ゆうべ
)
にも増して
一層
(
いっそう
)
に
甚
(
はなはだ
)
しい、その間も前夜より長く
圧
(
おさ
)
え付けられて苦しんだがそれもやがて何事もなく
終
(
おわ
)
ったのだ
女の膝
(新字新仮名)
/
小山内薫
(著)
そこへひょっこり
顔
(
かお
)
を
出
(
だ
)
した
弟子
(
でし
)
の
藤吉
(
とうきち
)
は、
団栗眼
(
どんぐりまなこ
)
を
一層
(
いっそう
)
まるくしながら、二三
度
(
ど
)
続
(
つづ
)
けさまに
顎
(
あご
)
をしゃくった。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
聞いて見てもわざわざ中へ入って見るようなものは一人もないとのことに、私の好奇心は
一層
(
いっそう
)
そそられた。
雲仙岳
(新字新仮名)
/
菊池幽芳
(著)
これらの苦痛や煩悶がもとで前よりあった肺病が
一層
(
いっそう
)
悪くなって
終
(
つい
)
に娘はどっと床についた、
妻
(
かない
)
がこんな病気になったからとて、夫は別に医師にかけるではなし
二面の箏
(新字新仮名)
/
鈴木鼓村
(著)
「よう、ご健康を祝します。いい酒です。
貧乏
(
びんぼう
)
な
僕
(
ぼく
)
のお酒はまた
一層
(
いっそう
)
に光っておまけに
軽
(
かる
)
いのだ。」
チュウリップの幻術
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
私は、家へはいると、外で見たよりも、
一層
(
いっそう
)
陰気を感じた。そして、急な狭い、暗い梯子段を上った。つきあたりの六畳を、これかと思って覗いた。壁は
処々
(
ところどころ
)
壊れていた。
貸間を探がしたとき
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
備えておられたのでござりましょうなかなか
凡人
(
ぼんじん
)
には
真似
(
まね
)
られぬことでござりますただ盲目になられてからは
外
(
ほか
)
に楽しみがござりませぬので
一層
(
いっそう
)
深くこの道へお
這入
(
はい
)
りなされ
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
当家
(
こちら
)
のお弟子さんが危篤ゆえ
知
(
しら
)
せると
云
(
いわ
)
れ、妻女は
偖
(
さて
)
はそれ
故
(
ゆえ
)
姿を
現
(
あらわ
)
したかと
一層
(
いっそう
)
不便
(
ふびん
)
に思い、その
使
(
つかい
)
と
倶
(
とも
)
に病院へ車を
飛
(
とば
)
したが
最
(
も
)
う間に
合
(
あわ
)
ず、彼は死んで
横倒
(
よこたわ
)
っていたのである
枯尾花
(新字新仮名)
/
関根黙庵
(著)
新ポン教の教理は仏教に似て、そうしてまた
神道
(
しんとう
)
の
気味合
(
きみあい
)
を持って居る教えである。ちょうど日本の
両部神道
(
りょうぶしんとう
)
というたようなものであるが、しかし
其教
(
それ
)
よりもなお
一層
(
いっそう
)
進んで居ります。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
それに私のは作り話でなく、身を
以
(
もっ
)
て経験した事柄なのだから、
一層
(
いっそう
)
書き
易
(
やす
)
いと云うものだ、などと、たかを
括
(
くく
)
って、さて書き出して見た所が、
仲々
(
なかなか
)
そんな楽なものでないことが分って来た。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
ぬばたまの夜の黒髪に
挿
(
さ
)
すヒラヒラする銀紙の
花簪
(
はなかんざし
)
、赤いもの沢山の盛装した新調の立派な衣裳……
眉鼻口
(
まゆはなくち
)
は人並だが、狐そっくりの
釣上
(
つりあが
)
った細い
眼付
(
めつき
)
は、花嫁の顔が真白いだけに
一層
(
いっそう
)
に
悽
(
すご
)
く見える。
菜の花物語
(新字新仮名)
/
児玉花外
(著)
その為めななめに
陰
(
かげ
)
られて、ベンチの上の悲しげな蒼白い相貌をなお
一層
(
いっそう
)
憂鬱に、かつ懶げに映し出しているのであった。
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
わたしはある批評家の云ったように、わたしの「作家的完成を棒にふるほど
懐疑的
(
かいぎてき
)
」である。
就中
(
なかんずく
)
わたし自身の愚には誰よりも
一層
(
いっそう
)
懐疑的である。
文放古
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
わたしにもおでん屋よりか、やるなら
一層
(
いっそう
)
の事、あの方の店をやれって云うのよ。店も玉も照ちゃんが檀那にそう言って、いいのを紹介するって云うのよ。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
美女が
化粧
(
よそお
)
えば
一層
(
いっそう
)
の
匂
(
にお
)
いを
増
(
ま
)
し醜女がとりつくろえば、女性らしい苦労が見えて、その醜なのが許される。
女性の不平とよろこび
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
……蚊帳のこの古いのも、穴だらけなのも、
一層
(
いっそう
)
お由紀さんの万事
最惜
(
いとし
)
さを思わせるのですけれども、それにしても凄まじい、——
先刻
(
さっき
)
も申した
酷
(
ひど
)
い
継
(
つぎ
)
です。
甲乙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
何
(
なん
)
となく
袖子
(
そでこ
)
にむかってすねているような
無邪気
(
むじゃき
)
さは、
一層
(
いっそう
)
その
子供
(
こども
)
らしい
様子
(
ようす
)
を
愛
(
あい
)
らしく
見
(
み
)
せた。こんないじらしさは、あの
生命
(
せいめい
)
のない
人形
(
にんぎょう
)
にはなかったものだ。
伸び支度
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
是等
(
これら
)
の笛の音も、歌の声も、寒い、澄み渡った空気に透通って、
一層
(
いっそう
)
木精
(
こだま
)
に冴える思いがした。
越後の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
このさわぎのうちに人々は
一層
(
いっそう
)
不安の念を起こしたのは三年生の全部が見えないことであった。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
ダリアはこの事を
勿論
(
もちろん
)
感づいた。しかしだネ、彼女は悪魔だけに賢明だった。事を
荒立
(
あらだ
)
てる代りに、
一層
(
いっそう
)
深山の弱点を抑えて、徹底的にこれを
牛耳
(
ぎゅうじ
)
ってしまう考えだった。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
ところがいつか
竜宮界
(
りゅうぐうかい
)
を
訪
(
おとず
)
れた
時
(
とき
)
に、この
弟橘姫様
(
おとたちばなひめさま
)
が
玉依姫様
(
たまよりひめさま
)
の
末裔
(
みすえ
)
——
御分霊
(
ごぶんれい
)
を
受
(
う
)
けた
御方
(
おかた
)
であると
伺
(
うかが
)
いましたので、
私
(
わたくし
)
の
姫
(
ひめ
)
をお
慕
(
した
)
い
申
(
もう
)
す
心
(
こころ
)
は
一層
(
いっそう
)
強
(
つよ
)
まってまいりました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
そうだとすればおれは
一層
(
いっそう
)
おもしろいのだ、まあそんな下らない話はやめろ、そんなことは昔の
坊主
(
ぼうず
)
どもの言うこった、見ろ、向うを
雁
(
かり
)
が行くだろう、おれは
仕止
(
しと
)
めて見せる。
雁の童子
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
吾々が初めて通る難路のことであるから、
一層
(
いっそう
)
に吾々の好奇心を
喚起
(
よびおこ
)
したのであった。
雪の透く袖
(新字新仮名)
/
鈴木鼓村
(著)
見ぬようにしてと意識が
恢復
(
かいふく
)
するにつれて
一層
(
いっそう
)
云い
募
(
つの
)
り
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
その山の前に、
戸室
(
とむろ
)
というのが一つ聳えていましたが、それよりも
一層
(
いっそう
)
紫いろをして、一層静かになって見えました。
不思議な国の話
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
害毒の一つは能動的に、他人をも通人に変らせてしまう。害毒の二つは反動的に、
一層
(
いっそう
)
他人を俗にする事だ。
一夕話
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
逸作とかの女の愛の足ぶみを正直に跡付ける息子の性格、そしてかの女の愛も一緒に
其処
(
そこ
)
を歩めるのが、息子が逸作にとって
一層
(
いっそう
)
うってつけの愛の領土であるわけなのだ。
かの女の朝
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
後に
遺
(
のこ
)
った一軒の、柿村屋という男は、にがみ走った、
極
(
ご
)
く黙った四十五六の男であったが、腹は
一層
(
いっそう
)
黒くて落付いた、見ただけでは分らない人物である。村の人々はこういった。
凍える女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
何
(
いず
)
れも当時の惨状を想像されない
処
(
ところ
)
はなかった、
且
(
か
)
つその山麓の諸温泉には、例の
雪女郎
(
ゆきじょろう
)
の
談
(
はなし
)
だの、同山の一部である
猫魔山
(
ねこまやま
)
の古い伝説等は、吾々をして、
一層
(
いっそう
)
凄い感を
起
(
おこ
)
さしたのである。
雪の透く袖
(新字新仮名)
/
鈴木鼓村
(著)
町の方の
子供
(
こども
)
らが出て来るのは日曜日に
限
(
かぎ
)
っていましたから私どもはどんな日でも
初蕈
(
はつたけ
)
や
栗
(
くり
)
をたくさんとりました。ずいぶん遠くまでも行ったのでしたが日曜には
一層
(
いっそう
)
遠くまで出掛けました。
二人の役人
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
このために生徒は
一層
(
いっそう
)
学課にはげまざるを得なかった。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
そして、
一層
(
いっそう
)
早口
(
はやくち
)
になって、ハンスを呪いだした。
人造人間の秘密
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
真暗な口を開いている階段の下から抜ける、雨戸漏れの空気のゆらぎが
一層
(
いっそう
)
冷たく脇の下を通りすぎた。
三階の家
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
この十円札を保存するためには、——保吉は薄暗い二等客車の隅に発車の笛を待ちながら、
今朝
(
けさ
)
よりも
一層
(
いっそう
)
痛切に六十何銭かのばら
銭
(
せん
)
に
交
(
まじ
)
った一枚の十円札を考えつづけた。
十円札
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ランプは、
一層
(
いっそう
)
声を高く、ジ、ジーといって油の尽きるのを急ぐようだ。そうなれば、夜が明ける。今まで、変りのなかった家に、今夜、始めて変りのないようにと火影が、幾度か
瞬
(
またた
)
いた。
森の暗き夜
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
深
(
ふか
)
いところが
一層
(
いっそう
)
深くなるはずです。もっと大きなのもあります。〕
台川
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
殊
(
こと
)
にこれは横にしたよりも縦にすると
一層
(
いっそう
)
凄く見える。
二面の箏
(新字新仮名)
/
鈴木鼓村
(著)
眠元朗は、ふりかえってなお岩壁をも
一層
(
いっそう
)
高みへ上ろうとしたときに、かれはそれにのみある清澄な水溜りのふちに
佇
(
たたず
)
んでいる女の姿を見た。——全くそれは女の姿であった。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
昔よりも
一層
(
いっそう
)
丈夫そうな、頼もしい
御姿
(
おすがた
)
だったのです。
俊寛
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それを見ていた父親はまるで身体中がしびれるような恐ろしい悪寒を感じました。娘がそういう恐ろしいことをしようなんて、一度も考えなかっただけに、その驚きようも
一層
(
いっそう
)
強かったのでした。
不思議な国の話
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
“一層”の意味
《名詞》
一層(いっそう)
一つの層。
《形容動詞1》
一 層(いっそう)
ひときわ。さらに。ますます。
《形容動詞2》
一 層(いっそ、いっそう)
むしろ。思い切って。
(出典:Wiktionary)
一
常用漢字
小1
部首:⼀
1画
層
常用漢字
小6
部首:⼫
14画
“一”で始まる語句
一
一人
一寸
一言
一時
一昨日
一日
一度
一所
一瞥