袖口そでくち)” の例文
兎角とかく一押いちおし、と何處どこまでもついてくと、えんなのが莞爾につこりして、馭者ぎよしやにはらさず、眞白まつしろあを袖口そでくち、ひらりとまねいて莞爾につこりした。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうして御米がかすりの羽織を受取って、袖口そでくちほころびつくろっている間、小六は何にもせずにそこへすわって、御米の手先を見つめていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白い真珠色の衣服きもの袖口そでくちには、広い黒天鵞絨くろびろうどのやうなものでふちが取つてあつて、頭にはあかい絹で飾りをつけてをりました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
さうして卯平うへい菓子くわしつたみぎひだり袖口そでくちからして與吉よきちせる、與吉よきちはふら/\とやうやあるいてつては、あたさう卯平うへいつかまつてたもとさがす。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
袖口そでくちと手の甲が、涙と鼻汁とで、ぐしょぐしょに濡れた。お副食かずには小魚の煮たのをつけて貰ったが、泣きじゃくってうまくむしれなかったので、一寸箸をつけたぎりだった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
資本もとでとして是より見世の者へ云付代物しろものに色を付景物けいぶつ手拭てぬぐひ等を添てあきなひ或は金一分以上の買人かひてには袖口そでくち半襟はんえりなどをまけうりければ是より人の思ひ付よく追々おひ/\繁昌はんじやうなすに隨ひ見世を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
火鉢ひばちの傍へチョイと立てひざをしてすわる。年ごろは三十ばかり色浅黒くして鼻高く。黒ちりの羽織も少し右の袖口そでくちのきれかかりたるに。鹿しかがすりの着物えり善好みの京がのこも。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
三日四日にかへりしもあれば一にげいでしもあらん、開闢以來かいびやくいらいたづねたらばゆび内儀かみさまが袖口そでくちおもはるゝ、おもへばおみね辛棒しんぼうもの、あれにむごあたつたらば天罸てんばつたちどころに
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は素直に調子のそろった五本の指と、しなやかなかわで堅くくくられた手頸てくびと、手頸の袖口そでくちの間からかすかに現われる肉の色を夜の光で認めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
袖口そでくち八口やつくちもすそこぼれて、ちらちらと燃ゆる友染ゆうぜんの花のくれないにも、絶えず、一叢ひとむらの薄雲がかかって、つつましげに、その美を擁護するかのごとくである。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さうして御米およねかすり羽織はおり受取うけとつて、袖口そでくちほころびつくろつてゐるあひだ小六ころくなんにもせずに其所そこすわつて、御米およね手先てさき見詰みつめてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
羽織の袖口そでくち両方が、胸にぐいとあがるように両腕を組むと、身体からだいきおいを入れて、つかつかと足を運んだ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一の波はくれないたまに女の白きかいなを打つ。第二の波は観世かんぜに動いて、軽く袖口そでくちにあたる。第三の波のまさに静まらんとするとき、女はと立ち上がった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あ、」とはなすと、つめ袖口そでくちすがりながら、胸毛むなげさかさ仰向あをむきかゝつた、鸚鵡あうむつばさに、垂々たら/\鮮血からくれなゐ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手鍋てなべぐる意氣いきげきして、所帶しよたい稽古けいこ白魚しらうをめざしつくなりしかすがいぢらしとて、ぬきとむるはなるをよ。いといろも、こぼれかゝる袖口そでくちも、篝火かゞりびたるかな。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
衣服きもの白無垢しろむくに、水浅黄みづあさぎゑりかさねて、袖口そでくちつまはづれは、矢張やつぱりしろ常夏とこなつはならした長襦袢ながじゆばんらしく出来できて……それうへからせたのではない。木彫きぼり彩色さいしきたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
衣絞えもんあかるく心着こゝろづきけむ、ぎん青海波せいかいは扇子あふぎなかばほたるよりづハツとおもておほへるに、かぜさら/\とそよぎつゝ、ひかり袖口そでくちよりはらりとこぼれて、窓外さうぐわいもりなほうつくしきかげをぞきたる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひどいこと!」と柳眉りゅうび逆立さかだち、こころげきして団扇うちわに及ばず、たもとさきで、向うへ払ふと、怪しい虫の消えたあとを、姉は袖口そでくちんでいてりながら、同じ針箱の引出から、二つ折、笹色ささいろべにいた
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夫人はこれを聞くうちに、差俯向さしうつむいて、両方引合せた袖口そでくちの、襦袢じゅばんの花に見惚みとれるがごとく、打傾いて伏目ふしめでいた。しばらくして、さも身に染みたように、肩を震わすと、後毛おくれげがまたはらはら。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俯目ふしめに、睫毛まつげく、黒棚くろだなひとツの仕劃しきりた。袖口そでくちしろべて
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)