いさゝか)” の例文
びっくりしたというは、拙者がまだ平太郎と申し部屋住のおりの孝藏といさゝかの口論がもとゝなり、切捨てたるはかく云う飯島平左衞門であるぞ
いさゝか平常ふだん化粧けしやうたがふことなかりしとぞ。いま庇髮ひさしがみ、あのおびたゞしくかほみだれたるびんのほつれは如何いかにはたしてこれなんてうをなすものぞ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
尼は雨戸を締めて三藏がいさゝかの志を紙に包んで渡すのを受取つて臺所の方へ行く。軈て『あんもが焦げてまつせ』と言ふ聲がする。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
我眼豆の如く、葡萄ぶだうの如くにして未だこれを發見せず。さいはひに今人が文を論じたる文數篇をたれば、一日千朶山房せんださんばう兀坐こつざして、いさゝか又これを論ず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
得ず名乘出しなり因て下死人は此三五郎めにいさゝかも違ひ御座らぬと白洲に鰭伏ひれふし少しも動かねば役人は勿論もちろん村役人共持餘し叱りつなだめつ漸々に白洲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もちたる木鋤こすきにて和尚をほりいだしければ、和尚大にわらうちを見るにいさゝかきずうけず、みゝかけたる眼鏡めかねさへつゝがなく不思議ふしぎの命をたすかり給ひぬ。
カピ長 いや、なう、パリスどの、むすめあへけんじまする。れめは何事なにごとたりとも吾等われら意志こゝろざしにはそむくまいでござる、いや、其儀そのぎいさゝかうたがまうさぬ。
ものして婦女童幼ふじょどうようこびんとする世の浅劣せんれつなる操觚者流そうこしゃりゅうは此の灯籠の文をよみて圓朝おじはじざらめやはいさゝか感ぜし所をのべて序をわるゝまゝ記して与えつ
怪談牡丹灯籠:01 序 (新字新仮名) / 坪内逍遥(著)
水を差すべくその愛は傍目はためにも余り純情で、殊更ことさららしい誠実を要せず、献身を要せず、しかいさゝかの動揺もなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
かやうの人々を其使におぼし寄給はんや、各御反逆之事いさゝか以不存旨申上度思ひ侍れ共、長盛三成が威に恐れて取次人もなく、奉行人指図に任せて、配所におもむきにけり
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「サルタレルロ」の事をばいさゝか注すべし。こは單調なる曲につれて踊り舞ふ羅馬の民の技藝なり。一人にて踊ることあり。又二人にても舞へど、その身の相觸るゝことはなし。
紅葉は「伽羅枕」を、露伴は「辻浄瑠璃つじじやうるり」を、時を同うして作り出たり。此二書に就き世評既に定まれるにもかゝはらず、余はいさゝか余が読来り読去るに念頭に浮びし感を記する事となしぬ。
彼者かのもの迷惑めいわくして、「つひに獻立こんだてつかまつりたるおぼえござなく、其道そのみちいさゝか心得候こゝろえさふらはねば、不調法ぶてうはふさふらふ此儀このぎ何卒なにとぞ餘人よじん御申下おんまをしくださるべし」とこうじたるさまなりけり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私はかう信ずると共に、いさゝか自ら慰めた。然しながら其反面に於いて、私は父が時勢を洞察することの出来ぬ昧者まいしやであつた、おろかであつたと云ふことをも認めずにはゐられない。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
番等の寛急しらんがため、持参せし折などこれは御ゆるし候へ、さゝげ奉り、いさゝかなぐさめ申たく候、ひとへに御芳志たるべきと赤手をすってとをし、其身はむなしく帰にけり
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
びっくりし、指折り数うれば十八年以前いさゝかの間違いから手に掛けたは此の孝助の実父で有ったか、おれを実父のあだと知らず奉公に来たかと思えばなんとやら心悪く思いましたが、素知らぬ顔して
風姿はいさゝか毀損きそんするところなけれど、おのづから痩弱にして顔色も光沢を欠けり。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
おぼかたはいけ粗雜ぞんざいだが、料理れうりはいづれも念入ねんいりで、分量ぶんりやう鷹揚おうやうで、いさゝかもあたじけなくないところうれしい。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
然るに貴殿の樣子は格別凡人と異なるやうにも見えぬ。いさゝか案外に存ずると云つたのである。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
是又忝これまたかたじけなき御事共に候、急沙汰し奉らんと、侍従卜部兼治を召して神下ろしをし、身の毛もよだつばかりに神々を請じ奉り、いさゝか以不野心もつてやしんをぞんぜざる之旨を誓紙に書いた。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其の方は武士道が立難いに依って身体のひしびしおになり骨が砕けても云わんと申したが娘が親を助けいと云う孝心から此の事を申したのじゃから其の方において武士道の立たんと申す事はいさゝかもない、筆
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
容姿端麗ようしたんれいとほ藤原氏時代ふぢはらしじだい木彫きぼりだとくが、ほそゆびさきまでいさゝかそんじたところがない、すらりとした立像りつざうの、法衣ほふえいろが、いまひとみうつつた萌黄もえぎなのである。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今樗園が碧山の父の師たるを言ふに当つて、いさゝか前記の及ばざる所を補つて置く。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
晩唐ばんたう一代いちだい名家めいか韓昌黎かんしやうれいに、一人いちにん猶子いうし韓湘かんしやうあり。江淮かうくわいよりむかへて昌黎しやうれいやかたやしなひぬ。猶子いうしとしわかうして白皙はくせき容姿ようしあたか婦人ふじんごとし。しかおこな放逸はういつにして、いさゝかまなぶことをせず。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こゝには唯逍遙子が對絶對地位の説明を擧げて、いさゝか又これを評せむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
よめ先手せんてゆ。いはく、ひがしの五からはじめてみなみの九のいしと、しうと言下げんかおうじて、ひがしの五とみなみの十二と、やゝありてよめこゑ西にしの八ツからみなみの十へ、しうといさゝか猶豫ためらはず、西にしの九とみなみの十へ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
利章は只此度このたびの事はいさゝか存ずるむねがあつて申し上げた、先年自分が諫書にしたゝめて出した件々、又其後に生じた似寄の件々を、しかと調べて貰ひたい、さうなつたら此度の事の萌芽が知れやうと云つたきり
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ついては、それあだか黄道吉辰くわうだうきつしんなれば、そろつて方々かた/″\婿君むこぎみにおむかまをすとふ。あせつめたくしてひとりづゝゆめさむ。くるをちて、相見あひみくちはするに、三人さんにんおなじうしていさゝかことなることなし。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いさゝか我草紙を讀むらむ人の戒とす。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
恐怖おそれいだいたりするやうなねんいさゝかかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)