ばく)” の例文
俊寛もまた、ばくをうけて、洛内らくないを引きまわされ、あらゆるはずかしめと、平氏の者のつばを浴びせられて、鬼界ヶ島へ流されてしまった——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よそに心の乱れざりしは、外物をててかえりみぬほどの勇気ありしにあらず、ただ外物に恐れて自らわが手足をばくせしのみ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
姚安公ちょうあんこうが刑部に勤めている時、徳勝門外に七人組の強盗があって、その五人は逮捕されたが、王五おうご金大牙きんたいがの二人はまだばくに就かなかった。
ばくに就かれた前後の事情を聞き伝えると同時に「事敗れてのちに天下の成行なりゆきを監視する責任は、お前達少年の双肩に在るのだぞ」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「はいさようでございます。高手小手にばくされた私、矢来をお取り払いくだされたとてとうてい逃げることは出来ませぬ」
鎮江ちんこうたたかいに、とらえられてばくせらるゝや、勇躍して縛を断ち、とうを持てる者を殺して脱帰し、ただちに衆を導いて城をおとしゝことあり。勇力察すし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もうこの上は吟味無用、故なくして隠密に這入ったものは召捕り成敗勝手の掟じゃ、じたばたせずと潔ようばくに就けいッ
此棺は白木綿で包まれた上を、無造作に荒繩でばくされて、上部に棒を通して二人の男が担いだのであつた。この後には一群の送葬者が随つて居る。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
己はまだこの世の土にかじり付いていたいのだ。お前に逢うてのおそろしさに、己のばくが解けてしまった。どうやらこれからは本当に生きて見られそうな。
立派な××戦争だよ。君は義兵の参謀中将として指揮をし、僕はその義軍に参加しているのだ。事成れば、戦時の捕虜として潔くばくに就く覚悟でいる。
夕方になればばくにつこう、それまではせめて寝台の上で好き放題に起きたり寝たりしていたい、あなたが看護婦ならそれくらい解ってくれる筈だといい
「飛行機を元の飛行場へ着陸させるのだ。そして、不二子さんを大鳥家に返し、君はエベール君のばくにつくのだ」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
己はお前に縛られた奴隷であつたが、そのばくが解けて、自由を得て見れば、己は自由の為めに泣きたくなつた。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
廊下から掛った鍵をひねって三階の表部屋をあけると、緑色のドレスを着けた娘が手足をばくされて椅子にくくりつけられたまゝ、部屋の隅に小さくなっている。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
だから貧時ひんじにはひんばくせられ、富時ふじにはに縛せられ、憂時ゆうじにはゆうに縛せられ、喜時きじにはに縛せられるのさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時あらゆるばくが取れてしまって、自分は再び独立して、人を気の毒がる、いやな心持ちが無くなるだろう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
次に『犯人いまばくにつかず』『一名危篤一名重傷一名無事』と段々活字を小さくします。皆見出しですよ。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
(『維摩経ゆいまきょう』に曰く、「もし生死しょうじしょうを見れば、すなわち生死なし。ばくなくなく、ねんせずめっせず」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「何のことやら、君のいうことはサッパリわからぬ。物々しい様子は、わしにばくに就けというのか?」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
くちなはきらめきぬ、蜥蜴とかげも見えぬ、其他の湿虫しつちうぐんをなして、縦横じうわう交馳かうちし奔走せるさま一眼ひとめ見るだに胸悪きに、手足をばくされ衣服をがれ若き婦人をんな肥肉ふとりじし酒塩さかしほに味付けられて
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わが頭をもたげしを見て、われを鞍にばくせし男のいふやう。客人醒め給ひしよ。十二時間の熟睡は好き保養なるべし。こゝなるグレゴリオは羅馬より好きたよりをもて來たり。
それというのも、義務ぎむとか責任せきにんとかいうことを、まじめに正直しょうじきに考えておったらば、実際じっさい人間のはない。手足をばくして水中すいちゅうにおかれたとなんのわるところもない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
すなわち、さしも腕利きの捕方も、すでにあの小男の一撃のもとに危ない運命にまで立至らせられたものらしいが、半ば以下、形勢が急転して、難なくばくについたものらしい。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然るに今日において、未だ男子の奔逸ほんいつばくするの縄は得ずして、先ずこの良家の婦女子をいざのうて有形の文明に入らしめんとす、果たして危険なかるべきや。きょを移すという。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
爆発物は妾の所持品にせんといいたるに、いな拙者せっしゃの所持品となさん、もし発覚せばそれまでなり、いさぎよばくかんのみ、かまえて同伴者たることを看破かんぱせらるるなかれと古井氏はいう。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
伸子は、母親になるということが、既に恐ろしかったし、この、生活に疑問だらけの時、その生活に自分をばくす権利を持っているかも知れない子供を持ったら、どうなるであろう。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
薄暗い廊下灯の蔭に、猿轡さるぐつわを噛まされ手足をばくされて転っている一人の男があった。そのほかに、人影は、見えなかった。道後少尉は、倒れている男を起して、猿轡をとってやった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
陵一個のことはしばらくけ、とにかく、今数十矢もあれば一応は囲みを脱出することもできようが、一本の矢もないこの有様ありさまでは、明日の天明には全軍がしてばくを受けるばかり。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
昇降口のおおいを閉せば、その陰鬱なる事さながら地獄のごとし、しかり、ここはたしかに地獄なり、余の頭上にあたる甲板上には、今なお身を大檣たいしょうばくせるまま死せる人間もあるにあらずや。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
八月、家茂いえもち将軍となる〔昭徳公〕。一橋党ことごとく罪せらる。八月、密勅みっちょく水戸に下る。九月、間部詮勝まなべあきかつ京都に入る。梁川星巌やながわせいがん死す。梅田、頼その他の志士ばくくもの前後相接す。十一月、松下義塾血盟。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
古いテッサリアの婆あさんの怪しい、心のばくは解けました。
「もう一名のものは、なかなか手ごわく、後より加勢をやって追い詰めておりますから、程なくばくについてくることと存じます」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後に彼等がばくいたのは京都であつたが、それは二人の妾が弓太郎ゆみたろうを残しては死なれぬと云ふので、橋本が連れてさまよひ歩いた末である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いわんや、それが一箇月もの永い間、ばくかない事が一般に知れ渡ってしまった今日、結局……「虎蔵が北海道を出ないうちに捕まるか、捕まらないか」
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
偶然ゆくりなく耳に致しましたれば、鬼王丸めを即座にばくし、貴意にお任せ致したく存じここに控えさせましてござります。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
A嬢は烈しい言葉で詰問した事だけは記憶おぼえているが、その後の事は何も知らず、気がついた時は手足をばくされて此処ここに監禁されていた、という事である。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
どんな親友でもこの逃亡者を見ることは出来なかったが、いま私の犯罪者は一人の医師と二人の看護婦の眼の前でがっちりと手錠を打たればくにつくことになった。
『御覧のごとくです。さあどうぞ私をお連れ下さい』と苦笑しながら落ち付き払ってばくに付いたというのであるから、事件は今のところこれ以上に発展しそうもないが
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
生活の競争にすべての時間をささげて、云うべき機会を与えてくれぬからである。われが云いたくて云われぬ事は、世が聞きたくても聞かれぬ事は、天がわが手をばくするからである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人というものは縛せられてもおり、またある機会にはそのばくを解かれもするものじゃ。
羅馬の貴人あてびとは我をうるほす雨露に似て、實は我をばくする繩索じようさくなりき。たのむところはだ一の技藝にして、若し意を決して、これによりて身を立てんとせば、成就の望なきにしもあらず。
衣をいで之をばくし、とうを挙げて之をるに、刀刃とうじん入るあたわざりければ、むを得ずしてまた獄に下し、械枷かいかたいこうむらせ、鉄鈕てっちゅうもて足をつなぎ置きけるに、にわかにして皆おのずから解脱げだつ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるいは磯山自ら卑怯ひきょうにも逃奔とうほんせし恥辱ちじょく糊塗ことせんために、かくは姑息こそくはかりごとめぐらして我らの行をさまたげ、あわよくばばくに就かしめんとはかりしにはあらざると種々評議をこらせしかど、ついに要領を得ず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そこで大乱闘の結果、とうとうばくについたというわけだった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「神代直人! ばくにつけいっ」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「だまれ、法は峻厳しゅんげんぐべからざるもの、さような自由は相成らん。ばくにつかぬとあらば、押しくるんで召し捕る分じゃ」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
因襲に縛られるのが、窃盗をした奴が逃げ廻っていて、とうとう縛られるのなら、新人は大泥坊が堂々と名乗って出て、笑いながらばくに就くのですね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
斉泰せいたい黄子澄こうしちょう、皆とらえられ、屈せずして死す。右副都御史ゆうふくとぎょし練子寧れんしねいばくされてけつに至る。語不遜ふそんなり。帝おおいに怒って、命じてその舌をらしめ、曰く、われ周公しゅうこう成王せいおうたすくるにならわんと欲するのみと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そも/\我は誓約の良心をばくするあるにあらず、責任の云爲うんゐを妨ぐるあるにあらずして、何故に我前に湧ける愛の泉を汲まざりしぞ。かく思ひ續くれば、一種の言ふべからざる情はわが胸に溢れたり。
曹操の部下は、その峻命にこたえて、一斉におどりかかり、たちまち、董承とうじょうばくをかけて、欄階らんかいにくくりつけてしまった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)