はず)” の例文
二、三日中に、文芸春秋社から「新ハムレット」が出るはずです。それから、すぐまた砂子屋書房から「晩年」の新版が出るそうです。
私の著作集 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もとよりまとまった話の筋を読ませる普通の小説ではないから、どこで切って一冊としても興味の上においしたる影響のあろうはずがない。
頼まれれば篠笛しのぶえを吹いたりするような心掛ですから、どんなに間違ったところで伯父おじの小田切三也が、娘の婿にするはずもありません。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それには、真に児童を知ることなくして、愛の生じようはずがない。作家は、先ずすべからく児童の実生活を認識しなければならぬのです。
もっともこの物語の後に於て判るように、このことがどんな事実であるかということを明瞭めいりょうに知っているはずの二つの関係があるのですが
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
紺屋こうやじゃあねえから明後日あさってとはわせねえよ。うち妓衆おいらんたちから三ちょうばかり来てるはずだ、もうとっくに出来てるだろう、大急ぎだ。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泉原はそこまで歩いていったが、汽車の着いた時間からいっても、グヰンの一行が海岸にいるはずはないと思ってもとの道へ引返した。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ときどき立ち停って子供の名を呼んでみたが、子供も同様にどこかで立ち停っているはずはないのだから返事はもとより聞えなかった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
初めて奈良へ旅し、多くの古寺を巡り、諸々の仏像にもふれたはずなのに、結局私の心に鮮かに残ったのは百済観音の姿だけであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
元来芸術上の客観主義は、本質に於て観照本位の文学である故に、レアリズムの立場は必然に「芸術のための芸術」であるべきはずだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
……そんな私の心のなかの動揺どうようには気づこうはずがなく、彼女は急に早足になった私のあとから、何んだか怪訝けげんそうについて来ながら
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかしそれなら尚更なおさらわたくし申上もうしあげることがよくおわかりのはずで、神社じんじゃ装置そうちもラジオとやらの装置そうちも、理窟りくつ大体だいたいたものかもれぬ……。
普通なみのものが其様な発狂者を見たつて、それほど深い同情は起らないね。起らないはずさ、別に是方こちらに心をいためることが無いのだもの。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「あの、お言葉中で恐れ入りますが、御忠告なら、御免をこうむりたいと思います。御用事丈を承わるはずであったのでございますから。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私はただ書く機械でさえあれば、想念は容易に紙上の文章となって再現されるはずなのである。が、実際はそう簡単には運んでくれない。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
御主おんあるじ耶蘇様イエスさま百合ゆりのやうにおしろかつたが、御血おんちいろ真紅しんくである。はて、何故なぜだらう。わからない。きつとなにかの巻物まきものいてあるはずだ。
しかしこう云う学問はなかなか急拵きゅうごしらえに出来るはずのものでないから、少しずつ分かって来れば来る程、困難を増すばかりであった。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あんな大きな腫物はれもののあとなんてあるはずがないし、筋肉の内部の病気にしても、これ程大きな切口を残す様なやぶ医者は何所どこにもないのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「まあ、大概たいがいのことはわかつてゐるつもりですが、貴女あなたがはからなら、大久保おほくぼ生活せいくわつがいつそくはしくわかつてゐるはずぢやないですか。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「おや/\ひどいことをしますね。そんなはずはありませんが、お前さん、わたしの言つたとほり五合の小豆を煮て喰べさせましたか?」
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「木へるせ吊るせ。なあに証拠だなんてまだ挙がってるはずはない。こいつ一人片付ければもう大丈夫だ。樺花かばはな炭釜すみがまに入れちまへ。」
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
科学はチェーホフから一切の希望を奪ったのだから、どうして彼が科学的方法論などを容認するはずがあろうか、というわけである。
今年は小学校へ入学するはずであるが、数字はやっと十一までしか数えられず、ひら仮名かなで、自分の名前を書くことがやっとこさである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
身にまと何樣どのやうなる出世もなるはずを娘に別れ孫を失ひ寄邊よるべなぎさ捨小舟すてこぶねのかゝる島さへなきぞとわつばかりに泣沈なきしづめり寶澤は默然もくねんと此長物語を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
質問してしまえばもはや用の無いはずだが、何かモジモジして交野かたのうずらを極めている。やがて差俯向いたままで鉛筆を玩弄おもちゃにしながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
又た四月の大会の為め、九州炭山坑夫の為め、経費募集のことの為めに苦心焦慮せうりよして居らるゝことは、諸君も御承知のはずでは無いか——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
見ようにっては随分不良らしくも見えるはずなので、一般の人から誤解されてもいるであろうことは、想像に難くないのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
未だお昼前だのに来る人の有ろうはずもなしと思うと昨日きのう大森の家へ行って仕舞ったK子が居て呉れたらと云う気持が一杯いっぱいになる。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わたしの滅びの最後を待ちうけてゐてくれる所は巴里よりほかに無いはずだつた。アンナとはポトマック河べりの散歩の途中で別れたのだ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
従って、このマッチは、レッテルの文案に「関東煮」としてあるだけで、充分に東京の料理店のマッチでない事はわかはずだ。——
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
覚めて考うれば口をきかれなかったはもしや流丸それだまにでもあたられて亡くなられたか、茶絶ちゃだち塩絶しおだちきっとして祈るを御存知ないはずも無かろうに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さうして二十八の女には、七十に近いあの隠居よりは、二十四五の若者の方が、よく釣合ふべきはずだつたといふのが、村の輿論よろんであつた。
月はなかったけれど、星は降るように乱れ、そのほのかな光りで、崖の上からは、眼の下の海岸を歩く白服が、見えぬはずはなかった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
自分の前方を仲間の作家が現在は獄中にいるはずのNやTや、それから去年から……………Kなどが歩いている後姿だけが見える。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
すると軍事教育と言うものは事実上ないものと言わなければならぬ。事実上ないものの利害得失は勿論問題にはならぬはずである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
臀餅しりもちをつくはずです、其の下にあったのは押切おしぎりと云う物で、土踏まずの処を深く切込みましたから、新五郎ももう是までと覚悟しました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
郷里くにを出るのに、夷人いじんの船などに乗せられて、よいことのあろうはずはない、覿面てきめんでしたのう、船は霧に包まれて坐礁しかけたり
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そんな馬鹿げた事があるものか、酒を飲みに行けば金のるのは当然あたりまえの話だ。ればかりの金のないはずはないじゃないかと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
勘次かんじ開墾かいこん手間賃てまちん比較的ひかくてき餘計よけいあたへられるかはりにはくぬぎは一つもはこばないはずであつた。彼等かれら伴侶なかまはさういふことをもつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
嘘をおっしゃるのも、いい加減になさいまし、まだ一度もお逢いしたことがないのに、こがれじにするなどとおっしゃるはずはないでしょう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
第二回目は肋膜ろくまくで、京橋の福田病院と赤十字病院に、両方で約五十日ばかりいた。この時には、今村先生は五六百円程払って下さったはずだ。
「あの岩は、どうした。早く持つて来ないか。岩には、松が生えてゐたはずだ。」と、おほせになりましたので、忠行の侍従も、困つてしまひ
岩を小くする (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
だが、入院にふゐんするとしても、誰一人たれひとり入院料にふゐんれうなどを持合もちあはしてゐるはずがないので、施療せれう患者くわんじやあつか病院びやうゐんれるより仕方しかたがなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
それにしても、ここの店の雇人である以上、主人はその身許を知っているはずでもあり、また相当の身許引受人もあるはずです。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昭和二十一年には博雄が小学校四年生であったはずだが、六年生を終るまで彼は楽しく学校生活をし、本人としては幸福こうふくを感じていたと思う。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
その話は面白いが、しかし吾輩は山登りの汗が引込むにしたがい、だんだんと寒くなって仕方がなくなった。それもそのはずである。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
一本のから一日におよそ一ポンドの採収が出来ると云ふのが真実ほんとうなら大した利益のあるはずである。人夫には馬来マレイ人と支那人を使用して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
留さんは恥ずかしそうな顔をしたが、自分こそ恥じなければならないはずだ、などと思い、浦粕へゆくのがにわかに重荷のように感じられた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何れの信仰でも雑多ざったな信者はある。世界の信者が其信仰を遺憾いかんなく実現したら、世界はとうに無事に苦んで居るはずだ。天理教徒にも色々ある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あしをいただいて買ひ食ひをしたことなど、一度だつてなかつた。まして、お母さんから、そんなことをひ出したことなどあらうはずがない。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)