)” の例文
伊豆屋の若旦那が土左衛門になったと聴いて、橋場まで行って見ましたが、三輪の親分がめ廻しているから、諦めて返りましたよ。
「おせっかいだっちゃありゃしない」荒木夫人は、おどしつけるようにいったけれど、あなたは、めげずにめつけて、声を張りあげ
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
め廻した時は、さしも戦い下手べたの同勢も、非をさとって形を変え、五弁の花がしんをつつむように、この敵ひとりを囲み込んでいた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唄と囃が一時にやみ、風が落ちて海がいだような広間の上座から、播磨守がかんを立てた蒼白あおじろんだ顔で次の間のほうをめつけながら
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は、奥歯をじっと噛んで、ますます殺気のみなぎる瞳で、門倉平馬のめ下ろす視線を、何のくそと、はじき返そうと足掻あがくのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
何を愚頭々々ぐずぐずしていると云わぬばかりに、此方こちらめつけ、時には気をいらッて、聞えよがしに舌鼓したつづみなど鳴らして聞かせる事も有る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
橋の袂や横町にあった番太郎、火の番かたわら駄菓子など売る家へ夢中で駆け付けて、さあなにから食おうと菓子箱をめ回す。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
戦争中の日本商人は仏頂面に客をめまわしてその言葉を云い、終戦後の今日はモミ手をしてニコヤカにそれを言うであろう。
敬語論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いかつい顔が、近くにいる兵士たちをめまわしながらいった。ついでに彼は、孔子の門人たちの顔を、一人一人、穴のあくほど見つめた。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
黄金丸がつけし、まなこの光に恐れけん、その矢もはなたで、あわただしく枝に走り昇り、こずえ伝ひに木隠こがくれて、忽ち姿は見えずなりぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
英国生れの貴婦人は真赤になつて上院議員をめつけた。そして嫌ひな亜米利加でも、一番嫌ひな男とでも思つたらしかつた。
そして執拗しつようにじろじろめまわしている。私はぞっとした。私は眩暈めまいを感じて倒れかかり、危く近所の土人の家に辿たどりつき、休ませて貰った。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
而も河内介は、何となく気違いじみた、血走った眼をかゞやかして、並んでいる腰元共を、一人々々検査するようにめ廻しているのである。
「こう、みんなも聴けよ」彼は、周囲まわり南瓜面かぼちゃづらを、ずーッとめまわした。「ありゃナ、クレーンが、動いている音さ!」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
炉のすみに転げて居る白鳥はくちょう徳利どくりの寐姿忌〻いまいましそうにめたるをジロリと注ぎ、裁縫しごとに急がしき手をとめさして無理な吩附いいつけ、跡引き上戸の言葉は針
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
相手はせた体躯からだを持ち上げたひじを二段にのばして、手の平に胴をささえたまま、自分で自分の腰のあたりをめ廻していたが
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたは今すぐお二階へお帰りになって頂戴」と彼女は鋭く繰り返して、憎しみをこめて私をまともにめつけた。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
また始まった!——というように、栄三郎は顔をしかめて、思わず白い眼にとげを含ませて部屋じゅうをめまわした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と眼に涙をうかめてお竹と祖五郎が松蔭の顔をじろりと横目でめ上げるから、松蔭は気味悪くなり、下を向いている。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
部屋の中の火気に蒸されて、一層血色のあざやかになった初子が、ちょっとめる真似をしながら、こう弟をたしなめると、民雄はまだ俊助の手をつかまえたまま
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
落ちないようにあおのきつつジロリジロリと左右をめまわしながら女王気取りで、行きつ戻りつ致しておりますところはナカナカの奇観で御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もし昭青年がちょっとでも言葉にまったら、いたく打ちのめし、引きくくって女と一緒に寺門監督かんとくの上司へ突出つきだそうと、手ぐすね引いてめつけています。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鬱勃うつぼつたる野心と機智をもったこの男たちが、どんな気持ちで田舎侍の権官らの躍るにまかせる時代をめたか、一足飛びに平民の世界がくるように思えていて
伯父は気分でも悪かつたのか、始めから気むづかしい苦りきつた顔をして、太い銀の煙管で力強く吐月峰はひふきを叩きながら、時々私の顔をめつける様に見て居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ある題を得たならば、その題を箱でふせて自分はその箱の上に上り、天地乾坤けんこんめまわすがよい。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
他ならぬそれは紋十郎で、彼は上座かみざ胡座あぐらを掻き、さっきからいかにも不機嫌そうに、ジロジロ座中をめ廻わしていたが、とうとうこの時怒鳴り出したのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「よいかな、お立会」と、弁士はもう一ぺん言つて、射抜くやうな目つきで聴衆をめまはした。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
其時そのとき荒坊主あらばうず岸破がば起上おきあがり、へさき突立つゝたツて、はつたとけ、「いかに龍神りうじん不禮ぶれいをすな、このふねには文覺もんがく法華ほつけ行者ぎやうじやつてるぞ!」と大音だいおんしかけたとふ。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼れは汽車の中で自分のいい分を十分に考えようとした。しかし列車の中の沢山の人の顔はもう彼れの心を不安にした。彼れは敵意をふくんだ眼で一人一人めつけた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
カムポスが札を置くとスイと立ちあがって、諸君と、室中をめまわすように言ったのである。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
千柳せんりゅう松洛しょうらく小出雲こいずも合作『夏祭浪花鑑なつまつりなにわかがみ』義平治殺しの場に、三河屋義平治その婿団七九郎兵衛をののしことばに、おのれは親をめおるか、親を睨むと平目になるぞよ、とある。
嘉助はこつちをめ附けるやうにした。青年達は彼の興奮にすつかり驚いてしまつた。いつものやうに戲談で受けて、茶花して、わきへ逸らしてしまふことが出來なかつた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
中隊長は、軍刀のつばのところへ左手をやって、いかつい眼で、集って来る百姓達をめまわしていた。百姓達には少しも日本の兵タイを恐れるような様子が見えなかった。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
上手を見「やい若衆、そんなにめるな、人を睨めると手前比目魚ひらめになるぞ」といひ
「お前はな」と祖母は食べかけていた箸を下ろしてめつけるようにして私に言った。
宮なるよ! 姦婦かんぷなるよ! 銅臭の肉蒲団にくぶとんなるよ! とかつは驚き、かつは憤り、はたとめて動かざるまなこには見る見る涙をたたへて、唯一攫ひとつかみにもせまほしく肉のをどるを推怺おしこらへつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は折々突然に開き直って、いとも鹿爪しかつめらしくうなり出すと大業おおぎょう見得みえを切って斜めの虚空をめ尽したが、おそらくその様子は誰の眼にも空々しく「法螺忠」と映るに違いないのだ。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ぎょろりと周囲をめまわした。おのずから身構えが出来ていた。そして、砂の凹みに足を進めたとき、彼はその目の前にかがまっている若い女を発見した。一瞬眼をこらして見つめた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
はざらに」と卯平うへい凝然ぢつしかめつゝすここはれたかべの一ぱうめつゝいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
騒然と色めき立った周囲の黒い影をはったとめつけて、痛烈に言い叫びました。
馬鈴薯は『チョッ』と舌打して自分を一げいしたが、矢張一言もなく、すぐ又石本をめ据ゑる。恐らく餘程石本の異彩ある態度に辟易してるのであらう。石本も亦敢て頭を下げなんだ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
泡鳴氏はたゞ単純な、えらがり屋であります。何時でも具足に身をかためて真向から人をめつけてゐます。処が具足をとれば何でもないたゞの人よりは余程よはい木つ葉武者なのです。
妾の会つた男の人人 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
独語ひとりごとのように云って、お杉は矗然すっくあがったかと見るうちに、左右の人々を一々め廻しながら、彼女かれはふらふらと歩き出した。加之しかも今の騒動さわぎは忘れたように、諷然ひょうぜんと表へ出て行った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
主人は、口をことに結びて、みつけ居たりしが、今、江戸川にて自ら釣りしといひし鮒を、魚屋より取りしと披露されては、堪へきれず、其の説のおわるを待たず、怒気を含みて声荒々しく
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
めい、止めろ」と叫びざま、オォルを投げだすや、振返って、ぼくをめつけ、「貴様、一人で、バランスをこわしていやがる。そんなに女が気になるか」ぼくには一言もない怒罵どばでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
電車のただ乗りを発明する人と半農主義者とは同じ米を食っている。身のとろけるような艶な境地にすべての肉の欲を充たす人がうらやまれている時、道学先生はいやな眼つきで人をめ回す。
霊的本能主義 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「誰の許しであなたは人の家へなんか入って来ました。家宅侵入罪ですよ。」と、お増はこわい目をして、磯野を外へ連れ出すつもりで、独りで入り込んで行ったお庄をめつけながら呶鳴どなった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
招かれた庄太夫は身丈六尺三寸余、顔面手足まで針のような毛が生え、わしのごとき眼でぎろりぎろりと四辺をめつけながら、五尺一寸重さ三十斤の大鉄棒を右手に、踏みはだかって庭前へ現われた。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蝸牛かたつむりめがこたへてつた、『はやい、はやい!』と横目よこめめて——
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そういって、大きな目をいて、一座をめ回した。
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)