はや)” の例文
汝は汝の信ずるごとく今地上にあるにあらず、げに己が處を出でゝする電光いなづまはやしといへども汝のこれに歸るに及ばじ。 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
またうしてられる……じつ一刻いつこくはやく、娑婆しやば連出つれだすために、おまへかほたらばとき! だんりるなぞは間弛まだるツこい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また〈王者の恩耆老に加わりまた事に応ずるはやければすなわちあらわる〉とあって、赤兎は〈王者の徳盛んなればすなわち至る〉とづ。
又もや大騒ぎになって追いかけたが、すっぽんは非常に足がはやいので遂に捉えることが出来ず、近所の川へ逃げ込ませてしまった。
耳を聾する銃声、もう一発! 同時に観測室でばたんとドアの開く音、それよりはやく、宗方博士は脱兎の如く其処そこへ踏込んで行った。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
男は障子のすき間から覗いたとき、起き上った女が真青になって、男の忍びよったことをはやくに感知し待ちうけているような声で言った。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
是等の馬は、西風の神の胎をうけた牝馬が生んだと云ふ西班牙馬スペインうまに相違ない。何故と云へば彼等は風のやうにはやいからである。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
長次郎と源次郎が先に立って登り出す、見たところでは格別はやいとも思われないが、足がすくむようで容易に跟いて行かれない。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
いずれも大きに驚き、長二の身の上を案じ、大抵にしておけと云わぬばかりに、源八がそっと長二の袖を引くを、奉行ははやくも認められまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
勾配こうばいの急な町にははやい小川の流れなどが音を立てて、石高な狭い道の両側に、幾十かの人家が窮屈そうに軒を並べ合っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おまえはだれかとおもったらからすか、よくおれあしはやいことをっているな。ほんとうにかけしたら、どんなものでもいつけるものでない。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
はやくも、同じ人々の間におりながら、まるで自分が別人のようになってしまい、顔にはもう別な影がさしているのだ……。
切りたるぞはやとらへ給はれと云ふ間あらせず重四郎は心得たりと一たうひらりと拔より早く練馬ねりま藤兵衞を後背うしろよりばつさり袈裟掛けさがけに切放しければ是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あられの音か。否々いやいや。馬のひづめの音だ。何という高い蹄の音であろう。何というはやい馬であろう。あれ、王宮の周囲まわりを街伝いに、もう一度廻ってしまった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
はやい怪物のやうな想像しきれぬ形の雲をひつきりなく走らせて、おれはまだ完全に通り抜けてはゐないぞ、気をつけろ、と知らせてゐるやうに見えた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
その足音を聞きつけてか、奥の間で「文さんはやないと遅くなるヨ」トいうお政の声に圭角かどはないが、文三の胸にはぎっくりこたえて返答にも迷惑まごつく。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
中にははやくに足を洗うて里人に同化し、所謂オオミタカラになってしまっているものが多数にあるには相違ない。
その室を窺えどもることなし、蠅営狗苟ようえいくこう羊狠狼貪ようこんろうたんはやきこと飃風ひょうふうの如く、烈しきこと猛火のごとし。喬家の子生きて猶お悟らず、死すとも何ぞうれえん。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして前の伊藤先生の場合を回想すると先生の長寿はこの上も無く芽出度いが、そのはやく放棄せられた研究心はその長寿に比べては一向に御芽出度く無い。
お前はわたしの知ってる中じゃ一番足のはやい使いだから、わたしよりはずっと前にテムプル関門バーに著くだろう。
此樣なことといふものは、妙にはやく夫から夫へとパツとするものだ、それと聞いて、此の解剖を見るクラスの生徒のすべては、何んといふことは無く若い血を躍らせた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
今は心もそぞろに足をはやむれば、土蔵のかども間近になりて其処そこをだに無事に過ぎなば、としきりに急がるる折しも、人の影はとつとしてその角よりあらはれつ。宮はめくるめきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何をつとむといえどもすすことはやけれどもそのまま怠惰の気発す。これにより武士の風俗善といい難しとぞ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
後声しりごえはげしく云い捨てて格子戸こうしどがらり明けっ放し、草履ぞうりもはかず後も見ず風よりはやく駆け去れば、お吉今さら気遣きづかわしくつづいて追っかけ呼びとむる二声三声
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
左の膝をすこし折ったかと思うと、眼にもとまらぬはやさでくりだした一刀の柄、それを、つば元を握って顔の前に立てるが早いか、舌の先で、目釘をなめ湿しめしている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
汽車は流星のはやきに、二百里の春をつらぬいて、行くわれを七条しちじょうのプラットフォームの上に振り落す。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから信じられぬようなはやさで、曲りくねった人通りのない道をいくつも走り抜けて、もう一度私たちは、出発点のあの大通り——あのD——ホテルの街に現われた。
群集の人 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
全く動物は一つの器械でそのあしはやくするには走らせる、肥らせるには食べさせる、卵をとるにはつるませる、乳汁をとるには子を近くに置いて子に呑ませないようにする
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
渠水きよすゐを望めば、燈影長く垂れて、橋を負へる石弓せりもちの下に、「ゴンドラ」の舟のよりもはやはしるを見る。忽ち歌聲の耳に入るあり。諦聽すれば、是れ戀愛と接吻との曲なり。
雨戸あまどをさすもなく、いままでとほくのはやしなかきこえてゐたかぜおとは、巨人きよじんの一あふりのやうにわれにもないはやさでかけて、そのいきほひのなかやまゆきを一んでしまつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
その一列の丸太を載せて、流れは極めて単調である。はやきがごとく、遅きがごとく、流るべくして流れ、移るべくしてただ移る。いわゆる淡々たり寂々じゃくじゃくたり、虚にして無為だ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「右馬允貞盛でおざる。お名まえは、はやくに、太政官の省内でも、よく伺っておりました」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして朝ははやくから起きて勉強し、夕も遅くまで起きて居て勉強するやうになつた。
黒沙の土がぐられたように凹んでいる、黒沙を穿つと、その下にも結晶した白いのが、きらりと光る、山体が小さく尖って来るほど、風が附き添って攀じ上り、はやく吹きなぐるので
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
するとっていた馬の足がはやくなって下男はいていくことができなかった。馬は飛ぶようにいってやがて一本の樹の下に止った。そこには黄巾氅服の道士がたくさん往来していた。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
赤は、両の角を敵の横頸へ立てると、なんの猶予もなく、そのまま電撃のはやさをもって、押し立て押し立て、二百余貫の巨牛を土手の中腹まで押しあげてしまった。その力、その技術。
越後の闘牛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
男が全く作上った頃は、傘無しではとぼ出もできぬ中々の降となったが、その時の貞之進には雨風の見界いもなく、わだちに泥を衝いて春泉へ馳着けると、小歌ははやくから来て待って居た。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ふとまどより見おこせたるに、やゝ程とほくへだてて女人をみなひとり、着けたるきぬ白う花のひまに照り映ゆるさまなり。かゝる境にいかでとあやしけれど、趨り出でゝ見むとすれば、はやう遁れき。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「実在」に対する懐疑よりもはるかにはやく、はるかに切実に「善」に対する懐疑に陥ったのであった。迷い惑うるわれわれの前にいかに荘麗に、崇高に、厳然として哲学の門はそびえたりしよ。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
六時が鳴つて、すこしすると、遠くから響いてくるわだちの音が、馬車の近づいてるのを知らせた。私は入口のところへいつて、馬車のランプがはやく近づいてるのを暗闇を透して見守つてゐた。
其変をまたず人に致されずしてはやく其位を取るは当の一的なり。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ロレンツのごとき優れた老大家ははやくからこの問題に手を附けて、色々な矛盾の痛みを局部的の手術で治療しようとして骨折っている間に、この若い無名の学者はスイスの特許局の一隅にかくれて
アインシュタイン (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして服のどこかが引き千切れるほどはやく去って行ったのである。
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
速度のはやいいろんなおそろしい車が
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
僕の呼吸が少しはやくなる。
というがはやいか、段に片足を上げて両手をく、裾を引いて、ばったり俯向うつむけのめった綺麗な体は、ゆわえつけられたように階子に寝た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浪打際なみうちぎは——日は時として長くはやく進みて後、かの浪のかなたにて萬人よろづのひとの目にかくる——よりいと遠くはあらぬあたりに 四九—五一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いわく兎が亀に会うて自分の足はやきに誇り亀の歩遅きを嘲ると亀こたえてしからば汝と競争するとして里程は五里かけは五ポンドと定めよう
その飛ぶこといよいよはやければ、小児の苦しみあえぐ声がいよいよ急になる。小児の息が絶えれば、黒い鳥影も消えてしまうというのであった。
それらの馬は西風によって牝馬めすうまから生まれたスペインの麝香猫じゃこうねこにちがいないと思うくらいに、風のようにはやく走りました。